第3話『森の秘密』

「ご、ごめんなさいね。と、取り乱しちゃったわ。」


あせあせしながらティリア様は部屋に入られた。


「いえ…。」


「主様は見惚れちゃっただけですもんね!」


チュチュさんの笑顔が可愛いからかティリア様のお顔が真っ赤に。


「う……………悪いかしら!」


「いえいえそんな訳ありません!ただユムル様が不安がっていらしたので確認ですよ!」


「え。な、何で…?」


驚きと不安の顔で私を見るティリア様。


「そりゃあ自分を見て何も喋らず扉閉めたら嫌な思いするに決まってますよ!主様なら乙女心分かると思っていました!!」


それって乙女心ですかね…?

しかしティリア様は驚いた表情でした。


「!?そ、そうなのユムル?ご、ごめんなさい。あの…えーと…貴女が思った以上に可愛かったから…ね、そのぉ………胸が苦しくて…。」


胸が苦しい…?ハッ!


「ティリア様、それってご病気では…!?」


「こ、このアタシが…病気!?」


「うーんと…(この2人ちょっと大変だなぁ。)

主様は病気を患ってはいませんよ。ご安心下さい!…いや、不治の病を患ってるかもしれませんね。」


「言ってることが真反対じゃない!何なのよ不治の病って!」


「それは勿論、恋の病ですよ!!」


手でハートを作るチュチュさんを見てティリア様から爆発音がする。ティリア様のお顔が真っ白から真っ赤に変わった。


「ティリア様!!」


「ちょっと風に当たって来るわっ!!?」


「え、主様は何か御用があったのでは無いですか?」


「え?………あ、そうだったわ!いけないいけない。んんっユムル、ご飯の事なんだけど嫌いな物ってあるかしら。」


「嫌いな物…ですか?」


普通好きな物を聞くものでは…


「好きな物も勿論聞くわよ。でもユムルが嫌いな物を好きな物と出すのは嫌だから。どうせなら全部好きな物にしてあげたいの。だから教えて?」


と私の前で膝をつき微笑んでくれるティリア様。ですが私は…


「………すみません…自分の嫌いな物も、好きな物も分からないです…。」


「「え?」」


「いつも料理は…家族の好きな物しか出さなくて…昔、1度自分の好きな物を出した時…確かすごく怒られて…それ以来自分を殺し続けたら…忘れてしまいました。」


「何て酷い…。」


小さく呟いてくれたチュチュさんの頭を撫でたティリア様は、私の手を握ってくれた。


「ユムル、その1回の好きな物も覚えてないの?」


「…すみません…。」


忘れないと辛かったから…。


「忘れないと食べられない辛さと怒られる恐怖がユムル様を追い詰めてしまったのでしょうね。…チュチュの胸で泣いてください!!是非!!」


分かって下さる人が居る、と言うのは本当に嬉しい事ですね…。迷惑を掛けたくない。


「お、お気持ちだけで十分です…!」


「えーー。」


何故そんなガッカリなさるのでしょう…。

でも1つ、思ったことが。


「あ、あのティリア様、チュチュさん。私は…お2人や、他の皆様が好きな物を……知りたいです。」


「アタシの…?」

「チュチュの…?」


ハッ!私、何て図々しいのでしょう!


「す、すみませんっ!」


「何で謝るのよ。いいわ、貴女がそう望むなら。」


微笑んでくれたティリア様はその場で手を2回叩く。


「ベル!」


「は、此処に。」


「ひっ!!」


きゅ、急に白い人が何も無いところから現れて…!

白い人は輝くの薄紫の髪、黒のワイシャツを着て胸元が白いフリフリと大きな宝石で飾られている…確かアレは…ジャボ、という名前のアイテムだったような?そして蜘蛛の巣のような模様がある白いコート。これは給仕さんではなくティリア様のようなお偉い方の…。

ベルと呼ばれたその人は私を訝しげに見る。


「坊ちゃん、あの方は一体…」


「ふっふっふ…今日からウチの子になるユムルよ!人間だけどアタシと対等!仲良くしてちょうだいね!アタシの命令です!」


「人間…?」


眉間にシワが寄って凄く嫌そうなお顔…。彼は少し沈黙した後、溜息を吐いた。


「…はぁ。それが坊ちゃんのご命令ならば。

初めましてお嬢様。

私はバアル=アラクネリア。坊ちゃんの…ティリア=イヴ=ヴィランローズ様の側近でございます。愛称はベル。ご自由にお呼びくださいませ。」


口角を上げて下さいましたが正直怖いです…。


「ゆ、ユムルです…。宜しく、お願い…致します。バアルさん…。」


「えぇ、ユムル嬢。」


ユムル嬢…。


「ベル、今日はユムル歓迎パーティーよ!全員の好物を聞いて作って欲しいとシェフに伝えなさい!今夜は無礼講よ!」


「……はぁ…分かりましたよ。…ですが。」


「な、何よ…。文句あるのかしら。」


ゆっくりと首を横に振るバアルさんは再び私を見た。


「坊ちゃんの…というか我々魔族の好物は魔物を使います。それは人間も食べて宜しいのでしょうか。」


「アッ」


「生憎人間をを作ったことが無い故、私には分かりかねます。

で、まさか気付かずにユムル嬢に食べさせようとしたのではありませんよね…?」


「そ、そんな初歩的なミスをアタシがするわけないじゃない!あは、あははっ!」


ティリア様、汗びっしょりです…!


「……ユムル嬢、胃袋は丈夫ですか?」


「い、いえ…普段からあまり物を食べていないのでどちらかというと弱いです…。」


「はぁ…。仕方ありませんね。では人間が家畜としている動物の肉を代わりに買ってまいります。それ以外にも魔物代わりになりそうなとりあえずそれっぽいモノを使いましょう。」


「さっすがベル!頼りになるわ!」


「まったく…普段人間の元で働く彼らを讃えることですね。」


「えぇ!ありがとうベル!」


「はぁ…私はつくづく坊ちゃんに甘い…。」


眉間に手を添えてその場から一瞬で消えるバアルさん。人間の元で働く彼ら…?


「ティリア様、人間の元で誰かが働かれているのですか?」


「ん?あぁ、実はね。アタシの家臣たちは元人間も居るのよ。全員アタシやパパを殺しに来た者よ。」


「えっ!?」


「パパは残酷だから殺しちゃったけどアタシは争いが嫌いだから殺すことはしなかった。でもやられっぱで痛くて身体に傷が残るのは嫌じゃない?だから剣を振るってきた子の攻撃を避けて1発ビンタしたわけ。」


ビンタ…。


「そしたら皆、美しいアタシの下に就きたい!って懇願して来たのよ。だから魔族に変えて働いてもらってるわ。」


「魔族に…?」


人間を辞めるということ…ですよね。


「魔族は寿命がとても長いのよ。それに比べ人間はちっぽけな命だからね。別に無理矢理じゃないわよ!彼らがお願いしたのを聞いただけだからね!?ユムルが望まない限りやらないわよ!」


「は、はい!大丈夫です!」


「……でもアタシの隣に居てもいいと思うのなら…」


ティリア様が何か仰った?声が聞こえなかった。


「え?」


聞き返すとティリア様はパッと笑顔になった。


「何でもない!チュチュ、ユムルの部屋を準備しておいたわ。アタシの部屋の右隣!案内してあげて!またアタシも向かうから。」


「畏まりました!ユムル様、こちらです!」


チュチュさんに手を引かれそのまま退出した。



「……アタシ、ちょっと嫌な奴?」


 …


 長い廊下をチュチュさんと一緒に歩く。

けれど不思議な事にあまり人とすれ違わない。


「…チュチュさん、このお城?にはどれだけの方が働いてみえるのですか?」


「えーと…ベルさん何人って言ってたっけな〜…あ、ベルさんはバトラーって言われる立場でもあってチュチュ達使用人のトップなのです!確か500人くらいしか居ないって言ってました!」


しか居ない…?だいぶなのでは…。


「その半分より少し多めなのが人間から魔族になった方達で元人間としてほぼ全員あちらで働いて、お金を稼いでくれています。」


「その稼いだお金は…?」


「ティリア様が人間の元へ出歩く時や今回みたいにベルさんが人間の所へ買い物へ行ったりなどに使用しているとか!稼いできてくれた人達には魔族が住む魔界の通貨を払っているみたいですよ!」


 ま、魔界…!?


「ま、魔界って…?」


興味本位と恐怖でチュチュさんに聞くと、彼女は両手を広げて


「勿論、このお城から外ですよ!」


と言った。え…でも私家から飛び出して森に入っただけで魔界?に行くようなこと…


「ユムル様は霧の森に入られたんですよね。」


「は、はい…。」


「その森、変だと思いませんでしたか?」


「えっと…霧が濃くて辺りが暗くて…草が生い茂ってて…あ、転けた時に地面が並行だったはずなのに下り坂になりました。」


「それです!あの霧の森…実は人間界と魔界を繋ぐ森なのですよ!」


「え!?」


至って普通の森に…は見えませんでしたが…。


「人間達が作った正規の道を通ると魔界には入らず、森を抜けられるらしいですが…ユムル様はどうやらちゃんとした道を通っていなかったようですね!だからこそティリア様と出会えたのです!これぞ運命ですよ!」


そうだ私、家を飛び出して…森に入ったら道に迷って木々を掻き分けていたのでした。成程、正規の道…ん?


「どうされました?」


「あ、あの…バアルさんやティリア様、働きに出ている人はどうやって魔界から人間界に?」


「あぁそれは」


「チュチュ!」


ティリア様の声です。振り向くとティリア様の手に1本の金でできたような鍵が握られていた。


「主様!」


「これ鍵よ!ユムルに渡してちょうだい!」


豪華な鍵がティリア様の手を離れチュチュさんの手元に。


「はいどうぞ、ユムル様!」


「あ、ありがとうございます…。」


「じゃあチュチュ宜しくね!」


「はいです!行きましょう、ユムル様!」


「は、はい…。」


聞ける雰囲気では無くなってしまいました…。

ただの興味本位でしたし…またの機会に聞きましょう。




「はぁあ………。」


「何してんですか若様。階段前でしゃがみこんで。」


「あずぅ…アタシ独占欲強いのかしら…。」


「えぇ今更っ!?」


「悪いっ!?」


「い、いえ…別にいつもの若様らしくすれば良くないですか?ユムル様でしたっけ。彼女に嘘吐くとその後が困りますよ。それに、若様のそれは直せるとは思いません。」


「う…(直せる自信無し)」


「それで良いじゃないですか、魔王様は。あの子が若様の物になるって自分から言ってくれたのなら逃げようなどと考えるようには見えませんよ。…と言うか



 人間はどうせ逃げられないんですから。」



「……それもそうね。…アタシとした事が取り乱したわ。ありがとうアズ。」


「いえいえ、若様の為ならば俺は何だってしますよ!」


「そう。ねぇアズ?ユムルと会う前にベルが怒ってたんだけど何かしたのかしら。」


「……エットォ………身に覚えがありません!では失礼します!」


「何かあるからこその沈黙でしょう。まったく…ベルの苦労は底知れないわね。アタシもアズの事言えないか。さて、パーティー会場作らないとね!チュチュ以外の使用人全員で急いで飾り付けないと!」

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