第24話 「だったら希望はまだあるよね!」

 その日からプリアは極力働くことをせず、身体を休めることを優先するようになった。

 これに関してはビリーも安堵した様子ではあったが、ワシは刻一刻と迫るプリアの寿命を感じ、妖精を診てくれる医者であり、プリアの兄であるプリポを家に呼び寄せた。

 無論ビリーが外出中に来て貰ったのだが――プリアの容態を見ると重いため息を吐き、首を横に振って肩を落とした……。



「プリア……」

「大丈夫だよお兄ちゃん、まだ時間はあるもの」



 ――時間とは、寿命の事だろうと言う事は直ぐに解った。

 それでも気丈に振舞うプリアは、ワシ達に心配をさせまいと微笑んでいる。



「プリアにもあの実があれば……助かるのにな」

「あの実とは、世界樹の実の事かな?」



 プリポが小さく呟いた言葉にワシが世界樹の実の事を告げると、彼は目を見開いてワシを見つめてきた。 詳しい事情は語る事は出来なかったが、世界樹の実が妖精の願いを何でも叶えてくれるアイテムだと言う事を語ると、プリポは小さく頷いた。



「何処でその事を?」

「そこは教える事は出来ないのだが……とあるツテで知ったのだよ」

「お爺ちゃん、私もその世界樹の実があれば助かるの?」

「確証は出来ない。 だが……プリポはその実を使って人間になったのだろう?」



 そう告げるとプリポは頷いた。 やはりプリポも世界樹の実を手に入れ人間になると言う願いを叶えたという事だろう。



「僕は運よく手に入れることが出来たんですが……今の世界に世界樹の実が残っている可能性は極めて低い可能性があります」

「それは何故?」

「世界樹の実は権力の象徴でもあります。 世界樹が実をつける国は豊かですが、それらの実の殆どは国庫に保管され流通すること自体が極めて異例なんです」



 その言葉にワシは眉を寄せ、それならばヴァルキルト王国の国庫の中にも可能性はあるという事だろうか?



「大昔は世界樹の実は妖精達が一人一個持つことが出来たそうなんですが、僕はそのツテで一つ譲り受けることが出来ました」

「ではその方に頼めば」

「いえ、私が貰ったのが最後の一つでした……」



 ここでも希望が潰えたか……そう思い目元を抑え溜息を吐いたその時――。



「でも、何処かにきっと世界樹の実は残ってるって事だよね?」

「プリア」

「だったら希望はまだあるよね!」



 プリアは諦めなどしなかった。

 生きたい、生きていたい、これからも笑っていたい。

 その思いが伝わる声色と表情に、プリポはプリアの頭を撫でて強く頷いた。



「……この国の前の王が、世界樹の実を一つ持っていたと言う情報はあります」

「では王女に聞けば……」

「恐らくは……ですが権力の象徴である世界樹の実を大人しく渡してくださるでしょうか? その世界樹の実を使えばこの国に世界樹が芽吹く可能性もあるのです。 そんな大事な世界樹の実を大人しく渡してくれるとは思えません」



 そう口にしたプリポに、ワシは首を横に振り 「ビリーがいれば何とかできる」 と口にした。 王女はビリーの後ろ盾を持ってこの国を守っているのだ、世界樹の実を渡してもらう事は可能なはず……。



「この国に世界樹が無くとも国として存在し続けることが出来るのは、魔王を倒したビリーのおかげ。 その事を無下にはできまい」

「……そうですね」

「少しでも縋れる情報をくれて助かる。 この事はビリーに話して明日にでもヴァルキルト城に向かおう。 プリアが助かるのなら、ワシとて戦おう。 プリアはワシにとっても大事な大事な家族なのだから」



 その言葉にプリポは涙を拭い、立ち上がるとワシに深々と頭を下げた。

 例え人間になったとしても、妹を思う気持ちは変らないのだろう……妖精とは家族をとても大事にするのだ。

 でも、その家族をある意味捨ててまで人間になる事を選んだ気持ちは、きっと身を切り裂かれるより辛かったことだろう。

 だからこそ――妖精を診る医者を志したのかもしれない。



「これから毎日プリアの診察を頼むことになるが、宜しいかな?」

「勿論です。 病院の方はティアが頑張ってくれると言ってくれましたから」

「じゃあお兄ちゃんとティアちゃんのお話も一杯聞かせてね!」

「ええ」



 少しはにかんで微笑んだプリポに、プリアは満面の笑みを浮かべて微笑んだ。

 そして帰りにビリーに作って欲しいと言う薬の配合などをワシに手渡すと、明日からプリポが毎日容態を見てくれる事もあり、帰宅したビリーにその事を告げるとホッと安堵したようだった。


 そして、プリポから聞いたヴァルキルト城に世界樹の実があるという情報を伝えると、明日にでも城に向かい、王女に話をつけてくると語った。

 しかし、本来ならヴァルキルト城に世界樹の実が保管されているのなら王女が教えてくれてもいいものを……やはりそこは国を優先したという事なのだろうか?

 聡明な王女の誕生を祝っていただけに、何とも残念な気分になる……。

 しかしワシのそんな気持ちなどビリーは気にもしていないようで 「目的を果たす為になら手段は選ばない」 と口にしてプリアの部屋に入っていってしまう。

 穏便に済めばいいが……。

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