第22話 「……真珠色の妖精を取り戻す手段?」

 翌日から、私は工房で王女から貰った写本を読み始めた。

 【奇跡の妖精の作り方】 と書かれた本には、想像を絶する内容が事細かに書かれていたのだ。


 奇跡の妖精、真珠色の妖精は――妖精の生みの親である木が死ぬ時に生み出される奇跡の妖精……その為には沢山の妖精が犠牲になったことが記されている。

 普通の妖精が生まれる際、妖精の木から生まれ出るものが殆どなのだが、それらは実のようになっていてそこから生れ落ちるのだと記されている。 だが実際は親である木は自分を守る為に子である妖精を堕胎し次の命を作ることを優先する。


 奇跡の妖精の作り方では、沢山の妖精が堕胎され死んだ事が書かれていた。

 無理やり辛い環境下に置き、失敗品の普通の妖精が生まれれば殺して直ぐに新しい命を産ませようとしていたヴァルキルト王国の王と研究者達……これらの実験と言う名目の元、何十年も前から行われてきたらしい。


 次第に妖精の木は枯れて行き、妖精が少なくなっていたとも記されていた。

 本来、各国の王達はその様な非人道的な事をしてはならないとされているにも関わらず、ヴァルキルト王国の王はそれを平然とやっていたのだ。


 ……妖精は光に包まれて死ぬ。 故に他国にばれる事は無い。


 その事をいい事に、妖精の数は激減して行ったらしい。



 怒れる世界樹は農作物に大きく影響し、一時期干ばつや疫病で作物が殆ど取れない時期もあったらしいが、王の命令の元、世界樹の木は切り落とされ、ヴァルキルト王国にたった一つしかなかった世界樹は失われたのだとも記されている。

 妖精の生まれる木は世界樹の麓に沢山あったそうだが、大本の親である世界樹の木が亡くなった事により更に妖精の木は絶滅の一途をたどり始めたのだとも……。

 そんな状態でも無事生まれた妖精達は、殺される前に本能的に逃げ出し、中には兵士に見つかり殺される妖精が後を立たなかった事も記されている。


 一部の妖精達は、親である妖精の木を守ろうと戦ったらしいが、それでも数の暴力の前では勝てるはずも無く、次々に妖精達は死んでいったそうだ。

 枯れた妖精の木を切り倒し、その木を燻ることで妖精の木に想像を絶する苦痛を与え続け、ヴァルキルト王国周辺の王が管轄する場所にはたった一本の木しか残らなかった。


 ――その木も枯れ果てようとした時に生まれたのが……プリアさんだった。


 本来ならば、世界樹の加護のもと生まれる真珠色の奇跡の妖精は、死ぬ時に母なる世界樹へと代わるのだと記されている。

 つまりプリアさんは――次の世界樹となるのだとその時初めて知ることが出来た。



「世界樹……」



 それは――国を加護する大樹。

 ヴァルキルト王はその加護すら本当に切り倒した事を知ると言葉を失った。

 世界には大きな王国に一本の世界樹が存在する。 

 それらが五つ存在することで世界中の生きる人間や妖精、そしてその土地に祝福を与えるとされている。

 邪気を払い、加護するその王国に祝福を与える世界樹の木……それらの調和が崩れた時魔王が復活すると言われている。


 つまり私が倒した魔王はヴァルキルト王が発端となり復活してしまったと言う事だ。

 ヴァルキルト王もその事をただの迷信と信じて疑わなかったようだが、実際世界樹の木を切り落としたことにより世界は闇に包まれ魔王が復活してしまったのだから、信じるしか他無かったのだろう。


 この事を知った各国の王達はヴァルキルト王を責め立て、国から勇者一行を送り出したと書かれていたが、王は別に勇者一行が魔王を倒そうが倒すまいがどうでも良かったのだとも記されている。


 真珠色の妖精を持っているだけで、世界樹の木が存在しているのと代わらないのだと。

 だが真珠色の妖精を所持していることを各国の王に知られるわけには行かず、それで城の地下に幽閉されていたのだと書かれていた。


 人のあるべき姿へと、妖精のあるべき姿へと……皆に祝福を与える貴重な真珠色の妖精は短命であり、所持しているだけで幸福を齎す存在。 その存在が他国にばれてしまった場合と、非人道的な事をしていたと言う事が知れてしまったら、戦争になりかねない。


 そもそも世界樹を持っていない国は、国として認める事が出来ないとも書かれている。


 故に魔王討伐と言う勇者一行を送り出し、一時しのぎをしていたのだと書かれていた時、本当ならヴァルキルト王国は他国から侵略されても仕方なかったのだと知ると、鳳亭の皆や街の住人達を思いゾッとした。

 しかし魔王は倒され世界の闇が晴れたことにより、ヴァルキルト王国はそのまま存在する事を許されたのだと記されていたが、そこから書かれている内容に私は眉を寄せた。



「……真珠色の妖精を取り戻す手段?」



 ヴァルキルト王は、プリアさんの事を諦めていなかったのだ。

 しかしそこから先は真っ白なままで、どうやって取り戻せばいいのか考え付かなかったのだろう。

 もしくは――考えている最中に王女の手によって王が幽閉されたか、研究者や加担した者達を王女が一網打尽にして幽閉したのだと予測できる。


 これらの事を整理すると、ヴァルキルト王国周辺の妖精の木は全て枯れ果てている事。 そして世界樹の木が無い以上、他国から一国として認めてもらえる確立は極めて低いことになる。 故にヴァルキルト王女は世界を救った英雄としての私を後ろ盾にしたかったことが解った。

 そしてプリアさんの事……彼女が死ぬ時、光に包まれて死ぬだけではなく次の世界樹の木になる事が解ってしまった。

 しかし私としても彼女が世界樹の木になるとは言え手放す気は一切無い。 

 もう一つの写本である 【世界樹の実】 と言う本を手にすると私は中を読み始めた。

 この中にこそプリアさんが死ぬ事無く生き残れる道が書かれているかも知れないからだ。


 ――世界樹の実。

 それは、世界樹が生み出す母なる妖精の木の命。


 世界樹は稀にその実をつけ、この世界に沢山の妖精を生み出すのだが、その実はとても大事に世界樹が育むのだと言う。

 命の詰まった祝福されし実は、妖精の間ではその実に祈ればどんな願いすらも届くとされていて貴重品らしい。 プリポが使ったのもきっとこの世界樹の実だろう。 でなければ妖精は人間になる事は出来ないのだ。


 だが今では入手困難な実となっているのも、このヴァルキルト王が世界樹を切り落とした際に世界樹の実はとある実験に使われたからとしか記載されていない。

 一体どんな実験が行われたのかまでは記載されていなかったが、碌な使い方はされてはいないだろう……。

 しかしその世界樹の実が見つかればプリポとセレスティアに使い方を聞き、プリアさんを人間に生まれ変わらせる事は可能だろうと言う事は理解できた。


 ――プリアさんが人間に。


 そう思った時、成長するプリアさんの隣で同じく年を取って行ける自分の姿を想像し、そんな現実を手にする為にも頑張らねばならないと拳を握り締めた。

 残るはヴァルキルト王女がその世界樹の実を探し出してくれる事……他国にも声を掛けてくれるのかもしれない。

 しかし世界樹の実はとても貴重品だと記載されている以上、早々手に入る事は難しいだろうが、それでも――プリアさんを失う事だけは絶対に避けたい。

 私の隣で一緒に老いて行けるプリアさんを、必ず……そう願わずにはいられなかった。





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安定の予約投稿。


この辺りは、小説家になろうとは違う書き方になっております。

ちょいちょい違うんですが、今回の部分は大幅にカットされた場所です(;´Д`)


カクヨムの方にて、原本そのままを上げていますので、なろうも読んでいた読者様がいらっしゃたら、ラッキーくらいに思ってもらえれば幸いです。

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