第三章 奇跡の妖精の作り方

第21話 「もう……貴女は本当に愛らしい方だ」

 ――クリスマス。 その日は朝から私はケーキを焼き、そのケーキを手に鳳亭に家族皆で向かった。 妖精殺しの犯人も見つけたことにより、半年は鳳亭での食事は食べ放題だったのと、プリアさんがどうしても鳳亭のキノコの串焼きが食べたいとお願いしてきたからだ。

 前もって予約したが鳳亭は既に賑わっていて、店に入ると主人や女将さん、それだけではなく冒険者や常連客からも歓迎を受けた。


 あの事件から数日、私は世界を救った英雄としてヴァルキルト王国に名を轟かせることになった。 そしてこの国の象徴としてある意味崇められている所もある様だ。

 幸い私目当ての女性とは出会ってないのは、ある意味幸運と言っていいだろう。 と言うのも、店に来る客であからさまに私目手当てだと解る女性客が居ると、アンゼさんによる撃退が炸裂するからだ。


 今ではアンゼさんは家の守り神のように君臨していて、稀に工房の外から女性の喚き声が聞こえたりもしたがアンゼさんを論破できる女性は居なかったようで、退散しているのが現状でもある。


 プリアさんは私を心配そうに見つめる事はあったが 「私が心に決めている相手は既に居ますから安心して下さいね」 と微笑むと、何処か寂しそうに微笑んでいた。

 どうやら私の心はプリアさんには伝わっていないようだ……。

 その気持ちをクリスマスの今日、プリアさんに告白しようと決めた私は、家の貴重品入れに厳重にプレゼントを用意している。

 皆は私がプリアさんを好きだと言う事は知っている様で、先にプレゼントを渡してあった。


 アンゼさんには何時でもメモが取れるように、インクが切れない万年筆を。 

 キッドさんには最新の計算機をプレゼント済みだし、イモさんには防御力も高い胴着を既にプレゼント、アニスさんには最高品質の火傷跡に効く塗り薬をプレゼントした。


 ――そしてプリアさんには今日の夜、私は覚悟を決める。

 それは魔王を倒した時の様な緊張感とは違い、今後の人生を賭けた戦いの様にも感じられた。

 それでも隣で夢中でキノコの串焼きを食べるプリアさんは愛らしくて愛しくて堪らない。

 その表情だけでお腹一杯になりそうな程、幸せそうにキノコを食べるプリアさんは天使の様に見えた。



「プリアさん、頬に鰹節がついてますよ」

「あう……勿体無い」

「沢山食べて良いのですから、慌てずゆっくり食べましょうね」



 そう言って頬についた鰹節を取って自分の口に運ぶと、プリアさんは顔を真っ赤に染めて私から目線を逸らすとキノコに噛り付いた。


 ――もしプリアさんに告白して嫌だと言われたら。


 その時は彼女を監禁してでも私を愛してくれるように、私だけしか見えないようにしようと言う気持ちもある。 危険な行為だと解った上でだが、プリアさんを手放す気は一切無かった。 見た目的な年齢差など大した問題ではない。 

 私の人生にとってプリアさんが存在する事が全てになっているのだから。


 そんな事を思いつつも自作したケーキを取り出し、皆で食べる時間は何故か懐かしくもあった。 記憶には無いが……小さい頃、こうやって誰かと一緒にクリスマスを過ごした様な僅かな記憶だけが残っている。



『ほらビリー! 俺のイチゴやるよ!』



 そう言ってくれたのは誰だったのか……でもその声が何故か宝物の様に感じられた。

 食事も終わり、皆で家路に着く頃には空からボタン雪が降り注ぎ、明日には相当な雪が積もるだろうと語り合いながら帰った。



「今日は一番風呂に入りたいなぁ」

「まぁ、キッドさんダメですよ? 一番風呂はお爺様の特権です」

「女湯と男湯があればもう少しスムーズに風呂に入れるんだがな」



 そう語るキッドさんやアンゼさん、そしてイモさんに、確かに我が家には風呂が一箇所にしか無い事を考えると、女湯と男湯は必要だろうと再確認出来た。

 何時も最後に入るのはアンゼさんだが、お湯が冷えていないだろうかと言う心配もある。



「では来年にでも女湯と男湯を作りますか?」



 そう問い掛けたその時だ。



「ビリーとプリア専用の風呂もあって良いんじゃね~の?」



 キッドさんの言葉に私が目を丸くすると、プリアさんは顔から湯気が出そうなほど赤く染まり、キッドさんはアニスさんに頭を殴られ、祖父とアンゼさんとイモさんは微笑んでいた。

 居た堪れない……でもプリアさんとは一緒にお風呂に入ってみたい。

 私は自分の欲望に忠実に生きようと心に決めた。




 それから家に帰ると皆さん自室へと戻り、私はプリアさんの部屋を訪れた。

 ノックする腕が震えるほどの緊張……魔王の玉座を開ける時には感じられなかった緊張感の元、部屋の奥からはプリアさんの返事が聞こえ中に入ると、湯上りサッパリのプリアさんが可愛らしいパジャマで出迎えてくれた。



「どうしたの? ビリちゃん」

「いえ、プリアさんへのクリスマスプレゼントを渡していなかったので」



 そう口にするとプリアさんは 「キノコが沢山食べれたから満足だよ!」 と口にしたが、私はポケットから綺麗に舗装された箱を取り出すと、跪いてプリアさんの手に箱を手渡した。



「ビリちゃん?」

「貴女の為に自作した物です。 喜んで下さると良いのですが……」



 自分でも情けない程震えていたと思う。

 けれどプリアさんは頬を染め箱のリボンを取り、中を開けると目を輝かせてプレゼントを見つめた。



「これ……」

「淡い紫翡翠のネックレスです。 ただの紫翡翠では満足できませんでしたので私なりに細工はしましたが」



 言葉を無くし、震える小さな手で紫翡翠に手を当てるプリアさん……。

 その表情は今まで見た事が無いほど嬉しそうな表情をしていた。



「私から着けて差し上げても宜しいでしょうか?」

「……はい」



 頬を染め、箱を私に手渡すプリアさん。 私はネックレスを手にするとプリアさんの首にネックレスをつけた。 

 プリアさんはその姿を私にクルッと回って見せると、大事そうに小さな両手で紫翡翠に手を当てている。



「綺麗……」

「喜んで下さって何よりです。 そしてもう一つ貴女に伝えたいことがあります」



 そう口にするとプリアさんを抱きしめ、少し強く抱きしめると――。



「……私は貴女の事が好きです……愛しています。 どうか私の妻になって頂けないでしょうか」

「ビリちゃ……っ」



 プリアさんは顔を見せる事無く私に抱きついた。 

 それは私にとっては予想外の事だったが、プリアさんは大きな声で 「はい」 と返事をしてくれた。

 ――それは、未来への約束。

 その返事を聞けただけで涙が溢れて止まらない。



「一緒に生きていきましょうね……私は貴女無しでは生きていけないのですから」

「うん……うん!」

「約束ですよ?」



 そう口にするともう一度小さな頬に口付けし、プリアさんは頬を染め、一筋の涙を流しながら微笑み私の頬に口付けた。

 しかし――。



「でも結婚するまでエッチはしないからね!」



 思わぬ反応に私が目を見開くと、プリアさんの言葉を再度脳内で再生し噴出して笑ってしまった。 その反応がまた可愛くって抱きしめると、プリアさんの怒った声が聞こえたけれど、それは照れ隠しだというのは既に解りきっていることだ。



「もう……貴女は本当に愛らしい方だ」



 そう言ってもう一回頬にキスをすると、二人で微笑みあい……その日からは一緒のベッドで寝る事を決めた。 その感触はまるで天使を抱き締めて寝ているような幸福感があり、今までの疲れを全て消し去ってくれる様な心地だった……。




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安定の予約投稿です。

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次回から、世界樹についてのお話になっていきます。

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