第20話 「私からのご依頼、受けて下さいますね?」
今回の新聞を手に玉座に座る王女に私が首を傾げると、王女は笑みを浮かべこう口にする。
「素晴らしい記事を提供してくださった事、まことに感謝します」
「素晴らしい記事と言うのは妖精の事ですか? 勇者の事ですか?」
そう問い掛けると王女は 「両方です」 と微笑みを返した。
「私はこの記事が出るまで勇者一行は魔王を倒す為に刺し違えて皆さんお亡くなりになったのだと聞いておりました。 ですがこのゲスな勇者……この様な者を国王ともあろう者が隠し立てしている等、国の恥です」
淡々と語っているようだが怒りを含んでいる声色に、私は 「そうですね」 とだけ返事を返した。
「よって、父である国王を幽閉致しました事をご報告したく、この度御呼び致しました」
その言葉に一瞬目を見開くと、王女は微笑み更に言葉を続けた。
「ご安心下さい。 貴方を夫に等とは申しません」
「それは良かった」
「そして妖精殺しの犯人を捕まえてくださった事、感謝いたします。 私も心から愛する妖精が居るのです。 彼も妖精殺しの事を聞いて心を痛めておりました。 妹の無事をずっと願っていたようです。 確か真珠色の妖精を貴方は連れていらっしゃいますね?」
「ええ、国王が所持していたので報酬として頂きました。 今は一緒に暮らし幸せに過ごして頂いております」
そう口にすると王女はホッと安堵し、カーテンの向こうに手を差し伸べると一人の花の妖精が現われた。 その子は――プリアさんそっくりの男の子だった。
髪型や髪色等は違うにせよ、プリアさんと同じ顔の少年に驚くと私に一礼し王女の下へと歩み寄る。
「この子の名はヤマト。 プリアの兄です」
「ではプリポさんの弟でもあるのですね」
「話は戻しますが、父は禁を犯しすぎました。 よって、国の法の下で裁きを行い、私がヴァルキルトの女王となります。 その際貴方には私の手助けや助言もして欲しいのですが……私のような若輩者では他国に舐められてしまいますわよね?」
「つまり……魔王を一人で倒した英雄として私を使うと仰るのですね?」
そう口にすると王女はクスリと笑い、私を見つめて頷いた。
「話が早くて助かりますわ。 無論悪いようには致しません。 貴方には国の象徴となってもらい私の後ろ盾になってもらう代わりに……プリアさんの寿命を少しでも長くさせる方法を探させます。 ……プリアさんの寿命は持ってあと一年ですよ」
その言葉に目を見開き立ち上がると、ヤマトが私に歩み寄り何かの分厚い書類を手渡した。 そこには 【奇跡の妖精の作り方】 と書かれていて、中を読むと手が震えた……。
「そちらは写本ですが……此れも父の悪行の一つ。 私に出来る事はプリアさんを人間にする為のとある実を捜す事。 ヤマト、その写本もお渡しして」
王女がそう口にするとヤマトは無言のまま一つの写本を手渡してくれた……。
そこには 【世界樹の実】 と記されていて、それこそがプリアさんを人間にする為に必要なアイテムだと初めて知ったのだ。
「私からのご依頼、受けて下さいますね?」
此処で断ることなど……最早出来る筈もない。 私は二つ返事で了承し、王女もホッと安堵したように微笑んだ。
「必ず世界樹の実を探し出します。 その代わり、どうかこの国の英雄として新しき女王とヴァルキルトの民をお守り下さい」
「……解りました」
そう言って立ち上がろうとしたその時――ヤマトは私の袖に手を伸ばした。
何かを言いたそうにしていたが言葉が出ないようで、それでも顔を上げ私を見つめるとしっかりとした口調でこう口にする。
「プリアを頼む。 お前にしか頼めない事なんだ」
「ヤマトさん……」
「兄貴に手紙を書いて送っておく……俺達に黙って世界樹の実を使った兄貴は許せないけれど、妹の命には代えられない」
そう言って深々と頭を下げたヤマトさんの小さな肩は震えていた。
けれど、私にとってもプリアさんの命は自分の命よりも大事なものなのだ。 救える道があるのなら利用されようと構わなかった。
「プリアさんをお守りします。 ですから貴方はどうか願っていて下さいね」
「……ああ」
そう口にすると私は頭を下げ馬車で自宅へと急いだ。
手にした 【奇跡の妖精の作り方】 そして 【世界樹の実】 と言う写本……私はそれらを幾ら苦しくとも読まねばならない義務がある。
でもその前に三日だけ時間が欲しかった。
――三日後にはクリスマスだ。
プリアさんには想いを込めたプレゼントを贈りたい。
それまでは……そう思い二つの写本を鞄に入れ自宅に帰った。
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安定の予約投稿です。
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