第19話 「待ってくれ! 俺は人を殺してない!」

「ゲス勇者の血族とは本当に性質が悪い」

「待ってくれ! 俺は人を殺してない!」

「ですが妖精を殺しましたね?」

「妖精は玩具だ! 壊れれば新しいのを用意すればいいだろう!? お前だってそうだろ? な? 俺を見逃してくれ!」



 その言葉にカッとなって男の顔面を蹴りつけた。

 歯は飛び散り顎の骨が折れたようだが最早そんな事はどうでも良い事だ。

 壁に飛び散った血も月明かりが照らしている……男は諤々と振るえ私を見つめて、言葉にならない声で 「助けてくれ」 と何度も口にした。

 失禁し震える男を見つめたまま一歩、また一歩と歩み寄ると、降り積もった雪の上に幾つもの血が落ちては溶けていく。



「妖精が玩具……? では貴方も私にとっては玩具に過ぎない。 どんな死に様をお望みです? 指を一本ずつ引き千切って差し上げましょうか? それとも目を抉り取りましょうか? 嗚呼そうです、素晴らしい拷問アイテムも鞄に入っているのでした。 失念する所でしたね」



 そう言うと鞄から三つの小ビンを取り出し男の目の前に突き出す。



「此方の赤い小ビンには、飲めば口から心臓が飛び出すお薬です。 素晴らしい拷問アイテムでしょう? 安心してください、口から心臓が飛び出すだけで死にはしません」

「ヒッ」

「そして此方の緑の小ビンは目玉が飛び出す薬です。 まぁ目は使い物にならなくなりますが、死ぬよりも辛い痛みの中のた打ち回れますよ?」



 そう語りながら一本、また一本と蓋を開けていくと男は涙を流しながら私から逃げよとしている。 その首を掴み最後の小ビンを見せると――。



「此方の黒い小ビンは私オススメの逸品です。 飲めば穴と言う穴から脳みそがジワジワと溶け出してくれますよ……さぁ、貴方はどのお薬が飲みたいですか?」

「やめれくれ……なんれもするっ」

「助けてくれ、止めてくれ。 そう命乞いする妖精を沢山殺しておいて貴方だけ助かりたいなんて……許される訳無いじゃないですか」



 そう微笑むと男は口から泡を吹き始めた。

 目元、耳からは血が流れ、自分がどれ程の威圧を出しているのかその時気づくことが出来たが、もう手遅れだ。



「貴方の兄のように首を刎ねて殺すだけなんて真似致しませんよ……貴方は私を本気で怒らせた。 どうです? いっそこの三つのお薬をお飲みになるのは。 貴方が口から心臓を吐き出し、目を飛び散らせ、脳が溶け出す様を私に見せてください。 きっと素晴らしい人生の終わり方が出来ますよ……」



 そう言って口元に薬を持って行こうとした時、男は鼻から血を流し、目は白目を向いて口からは泡が吹き出して気絶した。

 気絶していることをいい事に、私は瓶の中身を捨て男の両手両足の骨を粉砕。 

 此れでもう二度と歩くこと、両腕を使う事すら出来できない。 

 どんな回復魔法を使ったとしても使い物にならないくらいに骨を粉砕した。



「芋虫の様に生き地獄を味わうと良い。 貴様には死ぬよりも地獄がお似合いだ」



 吐き捨てるように口にすると、置くからアンゼさんが冒険者と王室騎士団を引き連れ走ってくるのが見えた。 丁度良い頃合に来てもらえて助かる。



「ビリーさん!」

「先程犯人を自白させ終った所です。 ご無事で何よりです。 少々暴れられたので手荒な真似になってしまいましたが申し訳ありません」



 にこやかに口にして立ち上がると、冒険者も王室騎士団も男の状態を見て恐怖したようだが、私にとってはその様な事は些細な事だ。



「この犯人はゲス勇者の血縁者の様です。 ゲス勇者は沢山の女性を襲い、何人もの女性が無理やり犯されたことを苦に自殺しましたが、この男は妖精を玩具だからと言って妖精を殺しまわっていたようですよ」

「勇者の血縁者!?」

「ゲス勇者って……」



 ざわめく王室騎士団と冒険者達、私はヴァルキルト王が必死に隠している勇者の所業、そして勇者一行の最後をお伝えすると、私を見つめたまま固まっている。

 何故そんな事を知っているのかと一人の冒険者に問い掛けられ、私は首を傾げると――。



「何故も何も、私は勇者一行に着いて行った錬金術師ですよ。 まぁ、魔王は私一人で倒す事になりましたが、今はどうでもいい事でしょう?」

「どうでも良いって……」

「ああ、冒険者の方々には是非お願いしたいことがあります。 またこの国の王がゲス勇者一行の所業をひた隠しする様に、今回の犯人が闇に葬られてしまう事もありますので、勇者の弟が妖精殺しの犯人だと言う事を街中に言い触らして置いてください。 逃げ場を塞いでおきましょう」



 そう口にすると冒険者達は驚きを隠せないまま頷き、私はゴミを捨てる様に犯人を王室騎士団の前に放り投げた。



「さぁ、あなた方のお仕事はこのゴミの処分でしょう? 連れて行ったらどうです? 早く処置しないと死んでしまいますよ?」

「は、はい!」



 そう言うと騎士団の方々は犯人を担ぎ急いで城に戻っていった。

 残されたのは私とアンゼさん……冒険者の方々は明日にでも今回の妖精殺しの犯人の事を街中にばら撒いてくれる筈。 やっとホッと息が吐けたが、それはアンゼさんも同じだった。



「首にナイフを刺された時はもうダメかと思いました」

「申し訳ありません、出て行くのが遅れてしまって」

「痛みはありませんでしたし、身代わりのコインが私を守って下さいました……さぁ、急いで家に帰りましょう。 私は早くアニスさんの淹れてくれる紅茶が飲みたいです」

「そうですね、アニスさんの淹れて下さる紅茶は美味しいですからね」



 そう言うと私達は雪が降りしきる中、出来るだけ急いで家路に着き、犯人を見つけた事、そして死ぬよりも恐ろしい状態にして差し上げたことを告げ、翌朝には新聞の一面に勇者達が行ったゲスな行為及び妖精殺しの犯人について大きく語られていた。


 こうなってしまっては、ヴァルキルト王もゲス勇者一行の事を隠しておく事は出来ないだろうし、近隣諸国の国々にもこの話は飛び火して広まるのに、そう時間は掛からないだろう。


 国への信頼、そしてヴァルキルト王への民衆達の信頼もガタ落ちだ。


 その新聞を読みながら薄く微笑み、珈琲を飲む時間はある意味至福の時間とも言えるだろう。



「妖精殺しも一件落着。 アニスさんも今日からイモさんと一緒に鳳亭にご出勤。 さて、そろそろクリスマスプレゼント製作に取り掛かりますかね」



 そう小さく口にして立ち上がると、部屋をノックする音が聞こえ工房にプリアさんが入ってきた。



「おはようビリちゃん!」

「おはよう御座いますプリアさん。 今日から二、三日ほど工房には入らなくて良いと言った筈ですが、如何なされました?」

「お城の使いの人が来てて、ビリちゃんに用があるんだって」



 その言葉に大きく溜息を吐くと、断ると後々面倒なので城に向かうことにした。 

 一体どんな事をアレコレ要求してくるかと思ったが――意外にも呼び出したのは王ではなく、ヴァルキルト王の一人娘である王女だった。





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安定の予約投稿です。


城に呼ばれたかと思えば王ではなく王女、さて、どうなっていくでしょう!

一応グロテスクな表現が今後もチラホラ出てくるのでご注意ください。


それでも楽しみにして下さっている読者様、有難うございます!

予約投稿となりますが、一応毎日更新できるように頑張ります!

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