第18話 『せめてお前だけはっ』
**ビリー視点**
アニスさんが狙われてから一週間が経とうとしていた。
鳳亭の冒険者達も大勢街の巡回を始め、それから三日は妖精が襲われる事件は起きていないのだと言う。
大勢の冒険者が街の巡回を始めてしまっては犯人も動くに動けないのだろう。
しかし猟奇的な犯人なら三日も経てば犯行に及びたくてウズウズしてしまう頃合――。
私は物陰に隠れ、暗がりの雪が降り続ける中、寒さに耐えながら犯人を誘き出す為に少しだけ灯りのある道で本を読むアンゼさんを見つめた。
その時、奥の通りから一人のフードを深く被った男が歩み寄ってくるのが見えた。 身を隠しその様子を見つめていると、男はアンゼさんの前で止まり声を掛けた。
「一人?」
「ええ、ここで人を待っています」
「寒くない?」
「寒いですが、ここで待つよう指示を受けていますのでお気に為さらず」
そう答えるアンゼさんの声は寒さで震えているのか、男に震えているのかわからない。 しかし私が居る位置から男の顔を見る事は出来た。
――あの顔は何処かで……。
そう思ったが物音を立てる訳には行かない……気配を消しアンゼさんと男に集中した。
男はアンゼさんを品定めするように頭の先からつま先まで見つめ、顔を歪めるとアンゼさんの肩を掴んだ。
「何を為さるんです!」
「綺麗な妖精だなと思って……その白い首も細くて綺麗だ」
「離して下さい」
「気の強そうな目も良いね……」
アンゼさんは身の危険を感じたのか男の腕を振り払い、男はその様子に益々興奮した。
「探してたんだ……君みたいな妖精を」
「……探す?」
「気が強そうで、美しくて、小さくて……嗚呼、君を手に入れられたらどれだけ幸せだろう!」
「何を……仰っているんです?」
そうアンゼさんが口にすると、男はフードを取り去りその顔を見ることが出来た時、私は目を見開いた。
――あの顔はまさか!
「兄は人間の女が好みだったけど、僕は違う! 僕は妖精愛好家なんだ」
そう言ってアンゼさんに一歩近寄る男の顔は、見間違える事はない……あの男に似ている。
「僕は妖精の血が好きだ……細い首から血を流して死ぬ妖精は儚くて美しい」
「貴方はまさか……っ」
「でもそれも終わりだ。 君と言う玩具を見つけたのだからね! さぁ、僕の元で血を流しておくれ……何時も泣きながら命乞いをしてくれ! 出来る事なら君を組み敷いて毎日涙を流して欲しい! 嗚呼でも安心して……君の血は毎日見たいからね……ちゃんと生かしておくから! ……嗚呼でも、もう我慢できない!!」
「嫌! 離して!!」
そう言って男がアンゼさんの腕を掴んだその時、男はアンゼさんの首をナイフで突き刺した。
途端頭に蘇った光景は何なのか……誰かが私の手に何かを――。
「ビリーさん!」
その声にハッとすると物陰から飛び出し、血の着いたナイフを手にした男を突き飛ばしアンゼさんの無事を確認した。
首元には僅かに血の跡が残っているが、アンゼさんは震える手でひび割れたコインを見せてくれた。
それは私がお守りとして何時も持っているコインと同じひび割れたコイン……でも思い出す事は出来ない……ただ記憶に蘇った言葉だけは脳裏に蘇っている。
『せめてお前だけはっ』
その声は誰のものだったのか……瞳を強く閉じ立ち上がると、男は雪で足を取られ立ち上がれず地面に這い蹲っている。
「貴方が……一連の妖精殺しの犯人でしたか」
「お前はっ」
「貴方の兄も相当でしたが、血は争えませんねぇ。 アンゼさん、動けないのを承知でお願いしますが王室騎士団をお呼び下さいませんか。 私はこの男に……少々解らせねばなりませんので。 後は鳳亭にも是非犯人が見つかった事をお伝え下さい」
「はいっ!」
そう口にするとアンゼさんは縺れる足で何とか立ち上がり、まずは鳳亭の方へと走っていかれた。
残された男はアンゼさんに手を必死に伸ばしているが、その手を握り締めると骨が折れる音が聴こえた……どうやら手加減がきかない様だ。
痛みで悲鳴を上げ折れた手を握り悶える男――。
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安定の予約投稿です。
妖精狩りはもう少し続きますが、次回から少々グロテスクな表現が出てきます。
苦手な方はお気を付け下さいませ。
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