第13話 「ビリちゃんイモちゃん殺すつもり!?」
家の経理は今後増える妖精の事を思えば必要不可欠であり、イモの様に用心棒をしていたと言う立場なら、ビリーの錬金アイテム採取にも最適だと思ったからだ。
国から業者が来て素材を買う事は出来ても、やはりそれだけでは足りない所も出てくる。 となると――後数名妖精を雇いたい所だがどうしたものか。
その事についても家主であるビリーに相談しに行ったのだが――。
「イモさんですか?」
「うむ……良い派遣先があれば助かるんだが、それが見つからないと彼も安心出来まい? となると色々となぁ」
「でしたら、お爺様の護衛と言う事で妖精研究家として街を巡回する仕事を与えては如何です?」
確かにワシ一人だけでは数日掛かってしまう巡回を、イモと二人でやればかなり改善されるだろう。 イモは元々体力には自信があるし、妖精を助けるには最適かもしれない。 しかしだ、そこに留まるべき人材でないのは訓練をしていて明らかだった。
もっと勇ましく戦う事こそイモの適職の様な気もして困り果てていると――。
「お爺ちゃん、今月って確か王室が行う闘技大会あったよね? 大会に出場すれば今イモちゃんがどれくらい強いか解るんじゃない?」
「ん? ああ、そうか。 年に一回この時期に行われるな。 まずはそこでイモの実力を知る事も大事だな」
――確かにプリアの言う通りだ。
先ずは己の実力を知る、これこそが一番重要な事だと再確認出来た。 しかしそんな事を言える様になるとは……プリアも成長したものだと微笑ましく思う。
「悪い雇い主が現われるならビリちゃんが対応してくれるだろうし、イモちゃんなら大丈夫だよ! だって自分を律する心を持ってるもん!」
そう言って優しい微笑みを絶やさないプリアに 「そうだな」 と微笑み頭を撫でると、ビリーはベッドから起き上がりプリアの目の前で着替え始めた。
驚いたプリアは両手で目を隠したが、ビリーはその事すら気にせず近くに置いていた自分の普段着用の服を着て部屋を後にしてしまう。
「待ってビリちゃん!」
「どうしたんだ!」
後を追いかけるとビリーは一言だけ 「イモさんの実力が知りたくって」 と微笑んだ。
あの顔は手加減をしないでイモの実力を見たいと言う顔だ!!
「プリア止めろ!」
「ビリちゃんイモちゃん殺すつもり!?」
そう言ってビリーの足にしがみ付くプリアを抱き上げ、ニッコリと微笑むと首を横に振るビリー……。
「まさか殺しなどしませんよ。 王室が行う闘技大会には本気で妖精を殺しに来る輩が沢山いるので、私が合格ラインを出すまでは大会には出場させません」
「しかしだなぁ」
「お爺様もイモさんがまた戦えなくなる姿は見たくはないでしょう? 大丈夫です、魔王を殺した時の様な本気は見せませんし、最初に私の威圧に耐えれるだけの体力と精神力を養って貰うだけです」
……それがどれだけ苦痛であり、どれ程のレベルが必要なのかビリーは理解していないのだろうか。
とは言え、言い出したらきかないビリーの事だ。
最早溜息しか出てこないが、イモを呼ぶようアンゼに告げると、暫くしてイモが屋敷の玄関に現われた。 どうやら外で体術の訓練をしていたらしい。
「イモ、ビリーとちょっと外で戦ってくれんかな?」
「はい」
「無理だと思った場合は直ぐに……そうだな、その場に座り込めば良いだろう」
「宜しくお願いしますね、イモさん」
病み上がりのビリーがどれ程のものか余り想像はしたくはないが、とりあえずワシもイモを助けられる様にと庭に出て二人を見つめる。 プリアはハラハラしているようでワシの足にしがみ付いたままだ。
「両者、始め!」
そう叫んだ途端、ワシですら息をするのが苦しい程の威圧を感じる。 これはビリーが発しているモノだと言うのは直ぐに理解出来たが、イモは必死にその威圧に耐えている。
足は震え立っているのもやっとのイモに対し、ビリーは微笑のまま話しかける……。
「どうしました? この程度の威圧で立っているのがやっとですか?」
「くっ」
「炎の妖精としての威厳は何処に行ってしまったのです? あなた方炎の妖精はこの程度の威圧にすら足が震えて攻撃すら出来ないのですか?」
その言葉にイモは目を見開き、ジリジリとビリーに歩み寄っていく……とてつもない重力が掛かっているだろうに、イモは汗を噴出しながらも歩いていくのだ。
「……その調子です」
「炎の妖精を馬鹿にして貰っては困る! 俺はアルベルト様に命を救われたのだ! この程度の威圧など恐ろしくもなんともないわ!」
「素晴らしい!」
そう口にすると更なる威圧がイモに襲い掛かる。
必死に歯を喰いしばり耐えるイモホテップだったが……流石に五分耐える事が限界だったようだ。 いや、普通の人間なら五分も耐える事はまず無理だろう。 それだけの威圧を掛けても尚イモは耐え続けたのだ。
「――クソッ」
「これだけの威圧を耐えれたのはお爺様以外では貴方が初めてですよ」
「だが負けた! 負けは負けだ! だがそれ以上に悔しくもあり戦いたくもなる!」
「その意気です。 勇者ですら辿り着けなかったであろう威圧に耐えれたのですから貴方は相当見込みがありますよ?」
その言葉にイモは立ち上がり、ワシの元に来ると足元に置いてあったタオルで乱暴に汗を拭い、大きく深呼吸してからまたビリーの元へと戻っていく。
一体何を言うつもりかと見守っていると――。
「俺は魔王を倒した勇者に憧れている! 勇者を知っているのか!」
――ああ、地雷だ。
思わず片手で顔を覆うと、アンゼはいつの間にか隣に来ていた様で 「あらまぁ」 と呑気に口にした。
「勇者は魔王を倒した! お前はその勇者くらい強いのか!」
「そうですね……此処は何とお答えしたほうが良いでしょう?」
「正直に話せ!」
「ではお話しましょう。 魔王を倒したのは私です。 勇者は私が殺しました。 これで満足ですか?」
その一言に長い沈黙が流れた……。
イモは武者震いの様に身体を震わせているし、アンゼは口に手を当てて驚いている。
確かに世界中の人々は勇者が刺し違いてでも魔王を倒したと思っているだろうが、まさかこのビリーが勇者と僧侶を殺し、魔王を一人で倒したと言う事実はワシとプリア、そして妖精を診てくれる医者達以外知らない事実なのだ。
「……勇者に憧れますか?」
その問いに、イモは小さく首を横に振った――しかし!!
「魔王を倒したのはお前で間違いはないな!!」
「ええ、勿論です」
「ではお前は俺を強くしてくれようとしているのだな!」
「でなければ貴方を鍛えようとは思いません。 王室が行う闘技大会では本気で妖精を殺しに掛かる輩は大勢居ます。 貴方がもし命を落としてしまった場合、悲しむ方が居るからこそ鍛えようと思ったまで」
「誰が悲しむ!」
「この屋敷に居る家族がです」
その言葉にイモホテップは目を見開きワシ達を見つめた。
息荒くワシ達を見たイモは、次第に呼吸を整えるように冷静さを取り戻し始めたようだ。
そして――。
「私はあなた方を迎える際、一つの約束事を自分に課しました。 それは、家族として受け入れると言う事です。 家族が怪我をすれば悲しみますし心配もします。 家族が死ねばそれは苦痛です。 貴方にとって私達は家族ではないのですか?」
その一言にイモは地面に座り込み、力無く息を吐いた……。
次第に聞こえ始めたのは……イモのすすり泣く声。
まさかそんな風に思って貰えているとは思わなかったのだろう、イモは何度も涙を拭い 「ありがとう」 と繰り返した。
「もし炎の妖精として誇りがあるのなら、先ずは精神の鍛錬を為さい。 貴方は必ず強くなる」
「……本当に?」
「勿論です。 魔王を倒した私が保証します」
ビリーの言葉にイモは涙を拭うのを止め立ち上がると、ビリーに深々と頭を下げて 「今後も訓練お願いします!」 と大声で叫んだ。 その返事は勿論 「覚悟して下さいね」 と言う言葉で、イモは本当の意味での笑顔を取り戻したようだ。
――炎の妖精は自分に誇りを持っている者が多い。
そこを上手にビリーは使い、イモへ自信を、そして炎の妖精としての誇りを取り戻させた。
「ビリーさんって凄い方でしたのね」
「ああ、アンゼには教えて無かったね。 ビリーこそが魔王を一人で倒した男だよ」
「ふふっ 素晴らしい方の下にお遣い出来て光栄です。 私も今後もっと頑張って皆さんのサポートをしなくてはなりませんね」
「お手柔らかに頼むよ」
そう苦笑いしたその時、プリアの方からお腹の鳴る音が聴こえ、その音でイモも更に笑顔を取り戻したようだ。
今後イモの鍛錬はビリーがしてくれると言うし、これ以上無い特訓相手だろう。 それにイモも自分への自信を無くしていた所があったが、此れで大丈夫だろうと思うとホッと安堵できた。
すると――。
「あ! 雪!!」
「まぁ……」
「今年初めての初雪ですね」
十二月、雪が空から降り始めた頃――屋敷の中の雰囲気は更に良いものとなった。
今年のクリスマスはきっと賑やかなクリスマスになりそうだ。
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此処まで読んで頂き、有難うございます。
なろうに上げているカロラッチョとは、
若干変わっているところがチラホラあったりします。
気が付いた方がいらっしゃったら凄い(笑)
こちらは全て書き終わっているので、最後まで更新していきます。
是非、暇つぶしにでもどうぞ!
そして、ビリーやプリアへの応援がありましたら、ハートでも送って下ると幸せです。
よろしくお願いします/)`;ω;´)
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