第12話 「いっそビリーに雇って貰おうか……」
**祖父視点**
ビリーが無茶をしてまで賢者の聖水を作り、プリアは妖精インフルエンザから完全に治った頃には、我が家には数名の妖精達が住むようになった。
最初に訪れたのは、風の妖精だと言うワシのサポートを頼んだ 【アンゼリカ】 と言う若い女性だ。 彼女は雇い主に暴行を受けている所を助けてから傷を治す為に保護し、プリポの病院に連れて行った妖精だった。
まさかこんな爺をずっと想ってくれているとは知らなかったが、アンゼリカは表情が孫のビリーの様に読み難い。 しかし長年ビリーを見てきたワシにとってアンゼリカはまだ表情が読みやすい部類に入る為、サポート役にはピッタリだった。
そして、用心棒として常に前線で戦っていたと言う炎の妖精 【イモホテップ】 に関しては、殆ど何も喋らない無口な相手ではあったが、礼儀を重んじる彼は何故かワシへの忠誠を誓ってしまう。
ワシはその様なものは必要ない、家族なのだからと言うと驚いた様子ではあったが、本当に嬉しそうに、それで居て不器用な彼らしく微笑んだのを今でも覚えている。
彼は怪我が酷かったらしく、武器を持って戦う事が出来なくなっていたが――。
「男には拳で戦うと言う事も出来るのだ!」
と、熱く語りイモホテップもその事に感動して今は素手で戦う技術をワシから叩き込まれている最中だ。
また、魔王を倒した勇者への憧れが強く、たった一人で魔王を倒したのが孫のビリーだと知ればどうなる事やら……。
更に花の妖精が二人ワシ達の元へとやってきた。
一人は 【アニス】 と言い、料理に生き甲斐を感じる明るく元気な女の子で、プリアともその日の内に仲良くなった。
アニスも元は愛玩として飼われていた様だが、元の持ち主のストレスの捌け口になっていた様で、屋敷を抜け出し保護された妖精だった。
プリポとセレスティアが言うには、アニスの顔にある火傷の跡はその持ち主から受けた傷跡なのだという。 今でこそビリーの薬で火傷の跡は薄くなっているが、それでも見ていて胸が苦しくなる思いだ。
だがそんなアニスは料理好きと言う事もあり、我が家に来てから厨房はアニスに任せている。 季節の野菜タップリのスープレシピはビリーから受け継いだもので、我が家には毎日美味しいスープが食卓に出てくる幸せな日々だ。
もう一人は 【キッド】 と言うヤンチャ坊主だ。
キッドも同じ様に愛玩として飼われていたが、虐待を耐え切れず屋敷を抜け出したのだと言う。 得意な事と言えば計算と言う何とも経理担当には適任な人材ではあったが、細かい作業が好きな様で良く家でアニスが料理をする隣で野菜の皮むき等をこなしている。 本人曰く 「したいんじゃない、やらされてるんだ!」 と文句を言っていたが、アニスにフライパンで頭を叩かれ泣いていた……。
キッドに幸あれ!
だがそんなキッドだが、この家の経理を任せるには本当に適任だった。
一生遊んで暮らせるだけの金額を見た時のキッドの目は正に飛び出さんばかりだったが、それでも――。
「食費に関してはもう少し金額を入れ込んで良いし、お爺ちゃんはもうちょっと馬車を使うなりして移動速度を速めて街への周回の回数は増やすべき! 後はこっちの――」
と、意外と口煩く細かい指示を出してくれたりもする。
全く持って頼もしい限りだった。
そして肝心のビリーはと言うと、本来なら一ヶ月掛けて作る賢者の聖水をたったの五日で作ったのだからその反動はとても大きく、今も動けないで居る。
いや、動く事は出来るし既に完治もしているのだが……。
「プリアさん、そろそろ普通に生活しても問題はありません!」
「ダ――メ!」
ビリーが無理して劇薬まで使った事を知ってしまった以上、プリアは暫く絶対安静だと言ってワシの説得すら聞いてくれなかった。
それでも季節はもう十二月、そろそろクリスマスシーズンだ。
ビリーなりにプリアへのプレゼントも選びたいだろうが、プリアの許可が下りなければベッドから出る事も許されないだろう。
しかし二人の距離は前よりもずっと縮まったように思える。
見た目的に年の差こそあれ、プリアは良き妻になれるだろうと思うし、ビリーもプリアの為に出来ることは色々やりたいようだ。
ワシにもそんな時期があったなぁ……と懐かしく思っていると背後からアンゼリカ、通称アンゼから声を掛けられた。
「お爺様、そろそろアニス様の就職先を探さねばなりません。 彼女は既に心の傷の方は完治しておりますし、良い職場をお探し下さい」
「おお、アニスの笑顔が増えてきたからそろそろ探さねばとは思っていたのだよ」
「プリアさんから貰った情報によると、ヴァルキルト王国にある鳳亭(おおとりてい)が宜しいかと思われます」
「鳳亭か……プリアの異常をいち早く察知してくれた上に冒険者や常連客もある一定以上の礼儀礼節を重んじる。 アニスには丁度良い場所かも知れんな」
「ええ、プリアさんとビリーさんがお世話になっていたと言う事もありますし、一番有力候補なのは鳳亭です」
そう言って的確に我が家に居る妖精達の派遣先を調べてくれるアンゼには頭が上がらない。
「世話を掛けるな」
「この位のお役には立たせて下さい。 貴方様は私の命を救って下さった恩人なのですから」
そう言ってワシの元から離れていくアンゼ……今のは恥ずかしくて去って行ったのだろうと思うと、年頃の娘らしい反応をするものだと笑みが零れる。
残るはイモホテップ、通称イモと……キッドだ。 彼らの派遣先も出来るだけ早く決めてやらねばならない。
「いっそビリーに雇って貰おうか……」
家の経理は今後増える妖精の事を思えば必要不可欠であり、イモの様に用心棒をしていたと言う立場なら、ビリーの錬金アイテム採取にも最適だと思ったからだ。
国から業者が来て素材を買う事は出来ても、やはりそれだけでは足りない所も出てくる。 となると――後数名妖精を雇いたい所だがどうしたものか。
その事についても家主であるビリーに相談しに行ったのだが――。
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此処まで読んで頂き、有難うございます!
まだまだ第一部なんですが、楽しんで(?)おられるでしょうか(;'∀')
谷中の初期作品ですので、至らない点などあるでしょうが、楽しんで頂けたら幸いです。
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