第9話 「あら? プリアちゃんちょっとお熱があるんじゃない?」
「ようビリー」
「酒場のおじちゃん!」
こんな時に限って現われたのはプリアさんを保護してくれた酒場の主人だった。
久々の外出、久々の屋台を堪能しようと思っていた矢先にあまり出会いたくは無かった人物トップに君臨するだろう。
「今日は二人で買い物か?」
「ええ、少々買出し等もありまして」
「ところでプリアちゃんは腹を空かせてないか?」
――やはり来たか。
この店主はプリアさんに兎に角料理を食べさせたがる。 理由は解らないが、祖父曰く酒場の店主はプリアさんの好物をリサーチしているのだと聞いた事があった。
「今日はね~」
「いや、別に食べに来て欲しいなんて言ってないぞ? 無論プリアちゃんがコレを見てもそう言えるのならだが?」
そう言って袋から取り出したるは……大きな新鮮シイタケ!!
バッとプリアさんを見ると、目は輝きシイタケにクギ付けになっている……!
「今からコイツに美味しい特性タレをつけてだな……炭火でジュッと焼いて鰹節を振りかけてぇ……更にはコイツだ! エリンギバターも作ってしまおうかなぁ!」
「くふぅ……っ」
最早その言葉だけで震えながら唾を飲み込んでいるプリアさん……こうなっては酒場に行くしかないだろう。
「解りました、それだけ美味しそうなキノコをプリアさんに見せられては屋台で何を食べても頭の中からキノコが消えてくれなさそうですし酒場に向かいます」
「そう来なくちゃな!」
「全く、酒場の主人も人が悪い」
「はっはっは! プリアちゃんの好物はある程度リサーチ済みよ!」
出来ればそう言う事はあまり知って欲しくないのだが、無類のキノコ好きなプリアさんはそんな会話よりも 「キノコキノコ」 と連呼している。
酒場に向かうと既に昼を過ぎたと言うのに、沢山の冒険者や常連客で溢れかえっている。
この酒場はヴァルキルト王国でも有数の酒場の一つであり、酒場の主人自体も客を選ぶと言う徹底振り、変な冒険者や常連客は居ない所が少しだけ安心できる要素だ。
酒場の主人が帰宅すると、奥の厨房から主人の奥さんも登場し、プリアさんを見ると目を輝かせてカウンターから出てくるとプリアさんを抱かかえて 「良く来たね~」 と抱きしめている。
その時――。
「あら? プリアちゃんちょっとお熱があるんじゃない?」
「熱ですか?」
「ほら、おでこも頬っぺたも何時もより熱い気がする」
その言葉に私も咄嗟にプリアさんの額と頬を触ると確かに若干熱い様な気がする……。
「身体はだるくは無いですか?」
「大丈夫だよ?」
「それなら良いのですが……」
「風邪は万病の元だよ? ちょっと待って為さい、身体が温まる生姜湯作ってきてあげるから」
そう言うと女将さんも厨房に走って行かれ、私とプリアさんは椅子に座るとメニューを開きながらどれを食べようか決めている。 プリアさんはキノコ料理中心で、私も同じ物を注文するとして別にサンドイッチを注文する事にした。
すると奥の厨房から何かを落とす音が聴こえ、その後バタバタとカウンターを飛び越えて走ってきたのは酒場の主人だ。
「プリアちゃん熱があるって!?」
「ええ、若干熱い感じですね。 早めに食べて帰ろうと思いますが」
「今おばちゃんが生姜湯作ってくれるって言ってたよ」
「風邪風邪……そうだ風邪にはビタミンを摂るのも忘れちゃならねぇ! 他にはええっと」
こんなにうろたえて如何したのだろうと思っていると、奥から女将さんの怒鳴り声が聞こえ、主人は 「兎に角身体にいい物を持ってきてやる!」 と叫ぶと厨房へと戻っていった。
嵐の様な夫婦だと思ったが、隣の席に座っていた常連客らしき老人が私の肩をポンポンと叩き首を横に振る。 一体どうしたのかと思うと……。
「あの夫婦にはな、二人子供が居たんだが下の娘さんが丁度プリアちゃんくらいの時に流行り病で亡くなってるんだよ」
「……そうでしたか」
「それはそれは可愛い子だったよぉ……店の手伝いもして何時も笑顔で。 風邪一つ引いたことが無いその子が熱を出してねぇ……流行り病だと知った時には手遅れで」
だからあんなにもプリアさんの事を大事にしてくれているのかと知ると、何とも酒場主人に申し訳ない気持ちになった。
しかし祖父の話では妖精は風邪を引かないと聞いた事がある。
ならこの微熱は一体……。
そんな事を考えていると、酒場の主人は大量のキノコ料理とアップルパイ、さらには絞りたてリンゴジュースまでつけてきた。 その上奥からは生姜湯を作ってくれた女将さんまで来るのだからテーブルの上は凄い状態だ。
「こんなに沢山食べ切れるでしょうか」
「私は一杯食べれるよ!」
「食べきれない分は持ち帰りさせてやるから兎に角プリアちゃんはシッカリ栄養を摂ること!!」
「そうだよ! 熱ほど恐ろしいものは無いんだからね!」
「申し訳ありません」
謝罪しながらも食べ始めるとやはり美味しい。
酒場の主人はある意味私にとっては料理に関してはライバルだと思わざる得ない瞬間でもある。 特にプリアさんは何時も以上に……いや、何時もなら残してしまう量の食事なのに沢山食べ過ぎている様な気がする。
やはり大好きなキノコだからだろうと思いながらも、プリアさんは私の分のキノコまで食べ尽くしてしまった。
流石にアップルパイまでは入らなかったようだが、そちらはお持ち帰りさせて貰える事になったし、リンゴジュースに関しては御代わりまでしてしまうのだから、やはり食欲の面で言えば何時もと違うようだ。
食事を終え、支払いを済ませはしたものの、アップルパイとリンゴジュース、生姜湯に関してお金は要らないと言って頑なに拒否する酒場主人。 しかし――。
「いいかビリー。 プリアちゃんの風邪が治ったら必ず報告に来てくれ。 それだけは守ってくれよ」
「解りました。 プリアさんの熱が下がったら一緒にまたキノコ料理を食べに来ますよ」
「ああ、沢山食べさせてやる」
そう約束をしている隣で、酒場の女将さんはプリアさんに木彫りの何かを手渡していた。
それは古くからヴァルキルト王国に伝わる厄除けのお守りだ。
「これはね? 娘の時に持っていたものなんだけど……プリアちゃんにお守りね」
そう言ってプリアさんの首に掛ける木彫りのネックレスは、大事にされてきたのだろうと言うのが解る程綺麗だった。
そんな大事なものをプリアさんにくれるのだから酒場夫婦がどれだけプリアさんを心配しているのか伝わってくる。
「祖父が妖精研究家ですので大丈夫ですよ。 それに祖父に頼んで帰ったら妖精を診てくださると言うお医者様をお呼びします」
「ああ、急いで診察して貰ってくれ」
「プリアちゃん、また元気になったら顔を見せに来てね」
「はぁい!」
余程心配なのだろう、常連客も数名の冒険者も私達が店を出る時、心配そうに見送ってくれた。 その為、私はプリアさんを抱かかえると急ぎ屋敷へと戻り、ソファーで眠る祖父を叩き起こした。
祖父はプリアさんに熱がある事を知ると、その足でコートを掴んだまま玄関を飛び出し、私はプリアさんの部屋に入るとパジャマに着替えさせベッドに眠らせた。
先程より熱が上がっている気がする……。
それにあの祖父の慌て様は早々見れるものではない。
顔面蒼白で飛び出して行ったのだ。
――何か悪い病気ではないだろうか……。
次第にプリアさんの目は虚ろになって行き、私としても氷嚢を用意して熱を下げさせるしか今は方法が無い。
すると、外から馬車が泊まる音が聴こえ、玄関を開けて入ってきたのは祖父と一組の男女だった。
「此方です」
「急ぐよプリポ」
「ええ」
バタバタと階段を駆け上がり、私を押しのけプリアさんの部屋に入る二人こそが妖精を診てくれるという医者だろう。
祖父も心配そうに見つめる私の肩に手を置き、何故か今にも泣き出しそうな表情で見つめてくる……。
その時だった。
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数日分を予約投稿しております。
朝10時に投稿なので、宜しければ今後も読んで頂けたら幸いです。
そして、あとがきまで読んでくださってる読者様、有難うございます!
プリアの風邪が何を意味するのか……それは次回明らかになります。
既に書き終わってる作品なので、最後までストレスなく更新されると思いますので、ハートなどの応援などありましたらよろしくお願いします!
(作者が飛びはねて喜びます(笑))
また、朝10時に約投稿を続けているので、お暇なときにでもどうぞ。
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