第8話 「お爺様、その方をやはり殺して森に捨てましょう」
無駄に顔が広い祖父のお陰で、最近では屋敷に錬金術の依頼を頼みに来る客も増えてきた。
元々有名な冒険者であった祖父の噂は今でも健在のようで、祖父目当てに依頼を申し込む人々も多数屋敷に訪れる。 それだけならまだしも、私が一番気に入らないのはプリアさん目当てでやってくる客が居ると言う事……。
依頼の品を手渡す時、私の手が離せない事をいい事にプリアさんに依頼品を持ってこさせる客は多いが、その時の彼らの表情と言ったら……思い出すだけでも腸が煮えくり返りそうだ。
今日もまた数名の客が訪れては錬金術の依頼をしたり依頼品を取りにきたり、あの酒場に行く回数も最近ではめっきり少なくなってしまった。
何時も行掛けや帰りに屋台でオヤツを買っていたのに、それすらも出来なくなり私としてはストレスが少しずつ蓄積されていくのが解る。
――が、それを解っているのだろう。
祖父は外に出かけると必ずプリアさんの為にドーナッツや果物と言ったお土産を買ってくる日々を送っている。
「プリア! 今日はシュークリームだぞぅ!」
「わぁ!!」
来客中であっても祖父は相変わらずプリアさんを優先して客を押しのけてでもお土産を手渡してくれる。 その様子は孫に甘いお爺ちゃんと言うイメージそのままだ。 客もその様子を見るのが楽しみな様で文句一つ言わない。
そんな様子を良く見る客の中には、偶にプリアさんへとお土産を買ってくる客もいる。 それもこれもプリアさんが可愛いからに他ならず、此処最近では――。
「玄関に棚を置いて依頼品をすぐ受け取れるようにしてくれないか?」
「依頼するならプリアちゃんにお願いしたいんだが良いかな?」
だの、客も言いたい放題だ。
接客が苦ではないプリアさんは、その言葉に対し首を傾げながらも 「お店をしてるのはビリちゃんだよ?」 と天然で返す為、客は少しだけ残念そうに 「でもなぁ」 と口にしている。 しかしだ……。
「それに、私も錬金アイテムのお手伝いもしてるんだよ! そのお薬はね、私が作ったの!」
眩しい笑顔で言われれば、最早客もそれだけで満足して帰っていく。 「プリアちゃんが作ってくれたお薬は効果抜群だ!」 と喜ぶ客も多い。
そんなある日、屋敷の玄関を蹴り飛ばすようにして入ってきた客がいた。
もうその時点で依頼を受けることは無いだろうと思ったのだが、客はズカズカと工房に入ってくると、対応しようとしたプリアさんを蹴り飛ばしたのだ。
「邪魔なんだよ、ウロウロすんなや」
その言葉を、行動を目にした時……私は錬金用に使っている刃物を男の顔面頬を掠る程度に投げつけた。 あまりの速さに驚いている様子だったが、プリアさんを抱かかえると一歩前に出る。
「うちに何の御用でしょう?」
祖父から言われて初めて知ったが、魔王の返り血を浴びて 【威圧】 と言う呪いを受けている事を良い事に、これでもかと言わんばかりに相手を威圧した。
「礼儀礼節の出来ていないお客様のご依頼は受けないようにしております。 今すぐお帰りくださいませ」
そう言って工房のドアを開けて微笑むものの、男は振るえ汗を流しながらも帰ろうとはしない。
「お客様」
――最後の警告。
これが解るように威圧したが、男はその場で泡を吹いて倒れてしまった。
この威圧スキルは遣い様によってはとても便利だが、レベルの高い祖父の様な人物には効果は薄い所か、その異変を感じ取って祖父が工房へと駆け込んできてしまった。
「一体どうしたのだね!」
「そのゴミを屋敷の外へ投げ捨てて置いて下さると助かります。 プリアさん大丈夫ですか? 怪我は?」
「ん……平気」
そうは言ったものの歪んだ表情は見逃さない。 「ちょっと失礼しますね」 と言ってスカートを少しあげると、膝は擦り剥き血が流れているではないか。
それにギュッと握り締めている手もゆっくり解くと、そこからも血が流れている……。
「お爺様、その方をやはり殺して森に捨てましょう」
「そうしよう」
「待って! 何か事情があったんだよ! 殺したりしたらダメだよ!」
「ですがプリアさんにこんなに痛々しい傷を付ける相手ですよ!?」
「ビリー落ち着きなさい」
普段から冷静さを失わない様にしてきたのに、プリアさんの血を見た途端激高してしまった……兎に角一旦深呼吸してから立ち上がると最高品質の傷薬を手にし、プリアさんの傷口を丁寧に塗って行く。
元々依頼品ではあったが、そんな事はどうでもいい。
痛々しい傷跡が残らなければ良いと切に願いながら傷口を治すと、私も祖父もホッと息が吐けた……。
事情を聞いた祖父は私と同じくらいに怒り、泡を吹いて倒れている依頼者を屋敷の外に投げ捨てると、大きな音を立てて屋敷の玄関を閉めた。
「さぁ! 今日はもう店は休業! 嫌な事があった時はどうするべきか解るかな?」
「温かいお茶を飲む!」
祖父の言葉にプリアさんが挙手してそう口にしたが、祖父は首を横に振り彼女の頭を撫でた。
「それも良いだろう。 しかし最近プリアも不満に思っている事がある筈だ」
祖父の言葉に目を見開くと、私は顔を伏してモジモジしているプリアさんを見つめた。 私が不甲斐ないばかりにプリアさんはストレスを抱えているのだと思うと胸が締め付けられる……。
プリアさんに歩み寄り跪いて顔を上げさせると、プリアさんは上目使いのまま言いにくそうにしている。
「プリアさん、何かして欲しい事があるのなら遠慮なく言って下さい」
「……迷惑になるかもしれないし」
「それは私が決める事です」
そう口にすると、プリアさんは大きく深呼吸した後、私の袖を掴んで小さく口にする。
「……街に行って一緒に屋台で何か食べたいなって……でもビリちゃん何時も忙しそうだから言えなくって……ごめんなさい」
そんな小さなお願いを申し訳なさそうに口にするプリアさんを抱きしめると、祖父は私の頭をコツンと叩き 「行って来い」 とだけ口にした。
確かにここ最近忙しかったのは事実だし、プリアさんも同じように忙しく働いていたので楽しいのだろうと思っていたのだが、やはり私と同じ様に一緒に出掛けたいと思っていてくれた事は嬉しかった。
「では、今日は何を食べましょうか」
「一緒に行ってくれるの!?」
「ええ、好きなものを買って差し上げます」
その一言に目は輝き本当に嬉しそうな表情を見せてくれるプリアさんに私も微笑むと、玄関の前でプリアさん用のポンチョと自分用のコートを羽織り出かけることにした。
祖父は家で留守番してくれることになり、本当に久しぶりに二人きりでのお出かけとなった。 これは祖父に感謝しなくてはならない。
秋晴れでも冬がもうそこまで来ているのが分かる肌寒さに、プリアさんの手は少しだけ何時もより熱い様な気がする。 気のせいかもしれないとは思ったが、プリアさんは鼻歌を歌いながら嬉しそうにしている為、家に帰ってから体調の事を聞こうと決めた。
久々の市場を見て回る時、プリアさんに声を掛けてくる人達は多かった。 と言うのも、たまに祖父と一緒に街へ出掛けているからだ。
納品まで日が無い時は特に工房から出ることも出来ず、祖父が料理を作ってくれているのだが、食材はプリアさんと祖父とで一緒に買いに行っているらしい。
「プリアちゃん今日はビリーと買い物かい?」
「そうだよ~!」
「プリアちゃん! 今日も美味しい果物が入ってるよ!」
「後で見に来るね!」
街の人々にも人気のプリアさん。 店の主人達も人が良さそうな方ばかりで安堵する。
これだけ愛らしい花の妖精は珍しいだろうし、何よりプリアさんの人柄によるものだと思うと少し誇らしくもある。
「さて、今日は何を食べましょうか」
「ん――っとね」
冬になりかけのこの時期は本当に秋の味覚が美味しい季節でもある。
夜はキノコたっぷりのスープでもいいかも知れない。
何よりプリアさんはキノコが大好物だ、きっと喜んで食べてくれるだろうと思っていると――。
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こちらも応援ありがとうございます!
谷中の完結済みではほぼ初期作なので、至らない点がありましたら申し訳ありません。
ビリーの過保護はまだまだ強くなっていくことでしょう。
そして、プリアちゃん、やっぱりかわいいかわいい……。
キノコにかぶりつくプリアを想像すると、娘もいいなぁ……と思ってしまいます(笑)
うん、よく食べる子はいいよ。
うちの子は食べ過ぎてる気がしなくもない。
こちらは既に書き終わっている作品ですので、ストレスなく最後まで読めると思いますので、お暇つぶしにでもどうぞ。
それでも、応援などありますと作者が喜びます!
育児疲れが吹き飛ぶんです(;'∀')
そして、ハートなど有難うございます!
拝ませていただきますね!!
予約投稿となりますが、次回もお楽しみに!
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