第7話 「プリアには特別だぞ?」

 **プリア視点**


 ビリちゃんとお爺ちゃんと一緒に暮らし始めて季節は秋になった。

 庭のある木々も色鮮やかに紅葉して、お爺ちゃんが庭の掃除を手伝ってくれた時に枯葉で焼き芋を作ってくれた! 

 凄くホクホクしてて美味しくって、また食べたいねって言ったらお爺ちゃんは嬉しそうに笑って私の頭を撫でてくれた。 

 ビリちゃんも一緒に焼き芋を食べてたけど、皆で食べるご飯は凄く凄く美味しい!


 お城に住んでた頃は、こんなにも幸せになれるなんて思っても無かった……。

 薄暗い地下に連れて行かれて、幾つもの鎖で繋がれて、ご飯は一日一回……残り物の冷たいご飯だけが運ばれて来ていた……。

 鎖で重い両手で食べるボソボソとしたパンに、冷たいスープ……。

 何時も 「お外に出たいな……」 って口にしながら牢屋のお部屋で過ごした。

 王様が偶に会いにきたけれど 「お前は人形なのだから此処で不自由なく暮らすのだ」 と言われ、まるで飾られているだけの生活を送ってきた。


 あのお城に繋がれて何年目かの夏、魔王が世界の空を覆ったと言う話を聞いてからは王様は私に会いに来る事も無くなった。 運ばれてくるご飯もその内パンだけ、スープだけ、そんな生活を送ってきた……。

 毛布を沢山牢屋に持ち込んで、そこから見える外の景色に憧れた日々。

 寒くて悲しくて泣きたくて……少しでもお外に出れる日を夢見るくらいは自由だと思って過ごしてきた。

 でも声も涙も枯れ果てた頃、お空から雲がなくなって綺麗な青空を見ることが出来た。

 扉が開いて現われたのは王様じゃなくて別の男の人だった。


 一瞬怖かった。


 でも悲しそうな表情を浮かべて私の元へと歩み寄ると、私に繋がられていた鎖を一つずつ魔法で解いてくれた。

 ――コレはどういう事だろう?

 不思議に思って自由に、軽くなった手足を見つめてから男の人を見ると……大きな手を差し伸べてこう言った。



「さぁ、一緒に家に帰ろう?」



 その一言が何故か嬉しくて声も出さず飛びついて涙が止まらなかった……。

 抱き上げられる時も凄く優しくって、服を握り締めて離したくなかった……。

 王様に何かを言ってた気がするけど、そんな事なんかもうどうでも良かった。 でも今見てる光景は夢かもしれないと思うと悲しくなったし、現実だと解るのに少し時間が掛かった。

 でも――。



「これからはお外にでれる?」

 お外に出て初めて男の人に話しかけた。 すると男の人はとても優しい表情で……。

「ええ、お外に出られますよ」



 その返事に私の表情は輝いた。

 余りにも嬉しくって男の人は苦笑いしてたけど、私を地面に降ろしてくれて、嬉しくってとクルクルと回りながら久しぶりの土の感触を楽しんだ。



「明日からは別の家で一緒に過ごします。 お買い物も出来ますし屋台で食べ物を買って差し上げましょう」

「本当!?」

「私の下で……と言う契約はありますが、貴女はこの城に居る時よりも自由に生きられる筈です。 お外への散歩も出来ますし、お使いを貴女に頼むこともあるでしょうね」



 その言葉が嬉しくって飛び跳ねて喜んでいると、男の人は月明かりを浴びながら自己紹介をしてくれた。



「自己紹介がまだでしたね。 私の名はビリー・エレゼン。 貴女のお名前は?」

「プリア!!」



 元気良くお返事を返すと、ビリちゃんは跪き目線を私に合わせてくれた。



「これからの一緒の生活は、貴女にとっても私にとっても幸せな生活である事を望みます。 気苦労も多いかもしれませんが、何時も笑っていて下さると嬉しいですよ」

「はい!」

「良いお返事ですね」



 優しい声、優しい表情、胸がキュッてなって泣きそうになる。

 でもそれ以上に抱っこされて一緒の目線になってくれるビリちゃん。 

 そして自由をくれたビリちゃんへの感謝の気持ちで溢れた。


 きっとこの空を覆っていた雲を追い払ったのはビリちゃんなんだ。

 だってあんなにも月が祝福してくれてる……。

 自分の手を精一杯伸ばして月に手を伸ばせば、きっと月すら手に届くような気がした。

 それは心の底から、自分があるべき場所に帰った気持ちになったからだと思うと、寝静まった部屋の隣で寝るビリちゃんの腕にしがみつき、やっと温かい気持ちのまま眠りに付く事が出来た……。



 それからの生活は本当に色々な事が沢山あって、初めてヴァルキルト王国の街を歩いた時は本当に驚いた。


 沢山の物が溢れていて、沢山の人間や妖精達が働いていて、ビリちゃんも錬金術師として生活している事を知ってからは、少しずつ初歩錬金の本を読みながらお手伝いをしてる。

 本当にちょこっとした初歩しか作れないけど、ビリちゃんは 「品質がどんどん良くなっていますね」 って褒めてくれるのも凄く嬉しい!


 けど、初めて一人でお使いを頼まれた時、道が覚えきれてなくて迷子のなってしまった。

 ビリちゃんの所に帰りたくても帰り道が解らなくって、泣きながら歩いてると一人のおじちゃんが私を見つけて声を掛けてくれた。 でも――ビリちゃん以外の男性は怖い。 そう思ったけどその人に助けてもらう事しか出来なくってずっとずっと泣き続けた。


 目の前に出されたご飯も食べれなかった。

 だって私が食べたいのはビリちゃんのご飯だったから……。


 困り果てた周りの人達、でもそれ以上に帰れなかったらどうしようと言う恐怖の方が強くって泣き続けてると、酒場のドアが開いてビリちゃんが駆け込んできてくれた!

 駆け寄りしがみつく私を抱きとめてくれて、ビリちゃんも心配して探してくれたのが嬉しくって一杯声を上げて泣いてしまった。


 それからの日々は、何時も街に行く時はビリちゃんと一緒。

 屋台でオヤツを買って貰ったり、お洋服だって色々買ってくれる。

 一番のお気に入りは大きな赤いリボンの髪飾り!

 こんな幸せがずっとずっと続くと良いな……そんな事を何時も願いながらビリちゃんの大きな手を握り締めて街を歩いた。




 そんなビリちゃんが一度だけ泣いた事があった。

 何時も食卓にお花を一輪飾っている事にビリちゃんが気がついた時、急に抱きしめられて驚いたけれど、ビリちゃんは震えながら泣いていた……。

 理由は解らない、でも聴かない……。

 精一杯伸ばせるだけ両手を伸ばして、大きなビリちゃんを抱きしめた。

 でも同じ様な寂しさを、ふと思い出してしまう。


 ――お城でたった一人ご飯を食べていた時の寂しさ……独りと言う寂しさ、悲しさ。

 その寂しさは言葉に出来ないくらい辛い……悲しい。



「……独りじゃないよ」



 ビリちゃんの耳元で呟く。

 小さく、でも沢山の好きを込めてもう一度――。



「独りじゃないよ」

「……プリアさん」

「もう、大丈夫だよ」



 そう口にした時、押し潰されそうなくらい強く抱きしめられた。

 でもビリちゃんになら押し潰されても良かった……。




 その時から夕飯の時に出てくるスープにポトフが出る時は、必ずビリちゃんに良い事があった日だとわかる様になっていった。

 今日はどんな良い事があったのか知りたくて聞いた事もあったけど――。



「……ビリちゃん今日良い事あった?」

「え?」

「ポトフが出る時はね……何時もビリちゃんに良い事があった時だよ!」



 木製のスプーンを手にビリちゃんに聞くと、ビリちゃんは苦笑いをしながらも 「そうですね」 と口にする。



「プリアさんと一緒に食材を選べたからでしょうか? それとも何だとも思います?」

「ん~~何でだろう?」

「では、私の中の秘密……と言う事にしておきましょう」

「え――!!」



 何時も秘密。 何時も教えてくれない。

 だけどその笑顔だけは本当の嬉しい笑顔。

 ――だからそれだけで答えは十分だった。




 それから数日後、ビリちゃんのお爺ちゃんが旅から帰って来た。

 白髪のビリちゃんと同じ髪型に立派なお髭、妖精研究家とか言う職業だって聞いた時、凄く偉い学者さんなのかなって思った。

 初めてお爺ちゃんとビリちゃんが客まで話していた時、何を話しているのか理解は出来なかったけれど、私の為を思ってくれているのだけは何となく理解できた。

 それに話して見ると凄く優しいお爺ちゃんで、これで昔は厳しかったって言うのが信じられないくらい優しいお爺ちゃん。 私はお爺ちゃんの事がビリちゃんの次に大好きになった。

 お爺ちゃんは街に行くと必ずお菓子を買ってきてくれる。

 今日は美味しい果物を買って来たから、皆で食べようと持ってきてくれた。



「甘いものは脳に栄養が行き届いて、錬金術の効率もあがるのだよ」

「ほおお!」

「ビリーは最近仕事のし過ぎだからな! 甘いものでも食べさせて脳の疲労を回復させてやらねばならんからな!」



 そう言って豪快に笑うお爺ちゃん。

 厳しいって聞いたけど本当はとっても優しいお爺ちゃん。

 真っ赤なリンゴはとても美味しそうで、お爺ちゃんは台所に行くと、うさぎさんリンゴを作ってくれた。



「プリアには特別だぞ?」



 そう言ってお茶目に笑うお爺ちゃんにお礼を言って一緒にお皿を持ってビリちゃんのいる工房へと向かう。

 工房の掃除は偶にしてるけど、昔はもっと酷い状態だったってお爺ちゃんは教えてくれた。 今はきっとプリアの為に綺麗にしているのだと言ってくれた時、ちょこっとだけ恥ずかしくて照れちゃった。



「ビリちゃん休憩してリンゴ食べよ~!」

「ああ、もうそんな時間ですか。 プリアさんのお腹も空いているでしょうし休憩しましょう」



 沢山の依頼を受けてしまって忙しそうなビリちゃんだけど、私のお腹の空き具合は的確に当ててくるのが凄い……。

 それはお爺ちゃんもそうだけど、お爺ちゃんもその辺りを解っててオヤツや果物を買ってきてくれるのかなと思うと、二人の大きな手を握り締めて微笑んだ。


 うさぎさんリンゴは魔法の味。

 沢山の愛情たっぷりの、優しい甘い味がする。

 もう独りで牢屋の中で食べる冷たいご飯も忘れてしまえる位、何時も優しいが沢山溢れてる。


 ――嬉しい。

 ――嬉しい。

 ――欲しかった幸せが全身に染み渡る。



「リンゴ美味しいね!」

「秋は実りの秋だからな!」

「今度アップルパイでもお作りしましょうか?」

「やったぁ!!」



 ――今日も幸せな一日。

 明日はもっと幸せな日。

 ビリちゃんとお爺ちゃんと一緒にこれからも幸せな日々を送るのだと思うと、空にだって飛んでいけそうな気分になった。




=======

こちらは書き終わっている作品なので、毎日投稿は可能です。


今回はプリア視点となっています。

優しくてかわいい子ですよね……本当、娘に欲しい……。


あとがきまで読んでくださっている読者様、有難うございます。

子供に熱を移されてしまい、現在更新中の

『妻は悪役令嬢(?)で押しかけ女房です!』が更新出来ない可能性がありますが

両方ともに応援して頂けたら幸いです。


今後とも応援よろしくお願いします/)`;ω;´)

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