第6話 「ええ、必要最低限でしか近寄らないで頂きたいですね」
その後、プリアの必死の説得の元、ワシは二人と一緒に住める事になった。
ビリーにとっては面白くない話だった様だが、プリアによる 「家族一緒が一番幸せなんだよ!?」 と言う両手を腰に置いて叱り付けると言う仕草にノックアウトされた様だ。
しかしワシとしてもこの好機を逃す訳にも行かない。
奇跡の妖精と呼ばれる真珠色の妖精を観察出来るのだから、こんな機会は今後一生訪れることは無いだろうと解っていたからだ。
しかし、一緒に住む以上ビリーはワシに条件を突き出してきた。
「一つ、プリアさんにあまりベタベタしない事。 二つ、興味本位でプリアさんに近寄らない事」
「待ちなさいビリー。 それは一言で言えば……」
「ええ、必要最低限でしか近寄らないで頂きたいですね」
バッサリと切り捨てる言い方にワシは頭を抱えた……。
何時の間にワシの孫はこんなにも独占欲を丸出しにするようになったのだろうか。
「三つ」
「まだあるのかね?」
「……プリアさんを何があっても守る事」
――その最後の言葉には、強い意思を感じた。
確かに真珠色の妖精と言う事を抜きにしてもプリアはあまりにも可愛すぎる。
危険は何処に潜んでいるかも解らない……。
キョトンとした表情でワシとビリーを見つめるプリアは、部屋に漂うこの空気を理解できないで居るようだ。
ワシはこう見えても王国騎士団隊長を打ち負かした実力がある。
年に一回、腕利きの猛者達が集まる大会での出来事だが、今の王室騎士団隊長ですらワシを倒すことは不可能だろう。
そんなワシに幼少時代から徹底的に鍛えられてきたビリーは、ワシよりも今では強いと確信している。
今にして思えば、そう言った大会で優勝もした事の無い者が勇者として旅に出たのだから、あの腑抜けた勇者も鍛錬したという事だろう……。
「解った、ワシもお前と一緒にプリアを守ろう。 約束する」
「ありがとう御座います」
「なぁに、心配はいらんよ。 妖精を診てくれる医者の知り合いもおるし、ワシはこれでも妖精研究家だぞ?」
「そう言えばそうでしたね。 それに妖精を診てくれるお医者の知り合いがいらっしゃる事は私としても安心できます。 無駄に顔が広いお爺様を持つと色々と助かりますね」
「はっはっは!」
皮肉たっぷりの言葉だろうが、昔はそんな事すら言わなかったのだから随分と丸くなったものだ。 勇者一行と共に魔王を倒したのだから精神的に余裕が出来たのかも知れない。
そう言えば凱旋パレード等は無いのだろうか? それとも終わった頃に着てしまったのだろうか? 街を直走る中そう言った話を一切聞かなかった為、不思議に思ったし勇者一行の一人だったのだからビリーの錬金術師としての腕前も国中、いや、世界中に知れ渡っていても可笑しくは無い筈なのだが……。
「所でビリー。 勇者一行による凱旋パレードは参加したのか?」
「凱旋パレードなんて行いませんでしたよ」
「そうか……世界中の空を覆っていた闇が晴れたのだからそれ位は王も国を挙げてやればいいものを」
「したくても出来ないのですよ」
「何でだね?」
不思議に思いそう問い掛けると、ビリーは微笑を称えたままこう口にする。
「魔王を倒したのは私だからです」
「まさかそんな事が……他の勇者達はどうしたのかね?」
「勇者と言う名のゲスとビッチ僧侶なら足手まといでしたので私が殺しました」
思いもよらぬ言葉にワシが目を見開くと、ビリーは優雅に茶を飲みプリアにお菓子を手渡した。
「ご安心下さい。 戦士は敵の魔法で弾け飛ぶように押し潰されて死亡。 魔法使いは麻薬中毒で事故死です」
「安心もなにも……王は? 重鎮達はそれで納得する筈が……」
「ええ、ですので彼らの首と魔王の首を持って帰ってお見せしましたし、事細かに思念映像込みでどう言う状況だったかもお見せしました。 皆さん納得されていましたよ」
微笑のまま淡々と語るビリーに、ワシですら恐怖を覚えた。
たった一人で魔王を倒し、その上勇者を殺したともなれば凱旋パレードのしようも無いか……王はある意味英断したのだと納得した。
「それで、報酬は何を貰ってきたのかね?」
「一生遊んで暮らせる金と何か起きた際の国への干渉、三回まで使える国への命令権とこのお屋敷。 そして……プリアさんです」
その言葉にプリアは元々王の所有物だったと言う事を知り、ワシは驚きを隠せなかった。 各国の王達は妖精を所有物として持ってはならないと言う決まりがあるからだ。 その事も公には出来ないともなれば凱旋パレードも何もあったものではないだろう。
「そもそも凱旋パレードなんて物は必要ないんですよ。 もし仮に勇者一行と力を合わせて魔王を倒したとしても、私は参加する気はありませんしね」
吐き捨てる様に口にした言葉に、ビリーが一緒に行った勇者一行がどれ程の酷さだったのか伝わってくる。 それでも平常心を保てていたのは鋼の精神力があったからだろう。
だが、どこでプリアの存在を知ったのか気になり問い掛けてみると、意外な言葉が返ってきたのだ。
「そうですね……とある村でのお婆様との会話で。 御伽噺のように語られるその方から真珠色の妖精が稀に生まれてくる事があるのだと教えて貰いました。 ヴァルキルト王が所持している事もその方からお聞きしましたよ」
「ふむ」
「希少価値が高いと言う事は私にとって興味は無かったのですが、何故かお婆様から聞いた時に欲しいと思いまして。 それで邪魔な二人を殺してから一人で旅をして魔王と戦いました。 その話を聞かなければゲス共を捨ててどこかの村でひっそりと生活する事も考えたのですけれどね」
それだけの理由で魔王を一人で倒すビリーも凄いが、目的を果たした今は静かに暮らしたいのだと語った。 確かに荒んだ面子と一緒に居たのだから静かに暮らしたいと願うのも致し方の無い事だ。
「今は平和に暮らせていますし満足していますよ。 プリアさんのお陰ですね」
「私もお城に居る時はいっぱい鎖で繋がれてて悲しかったけど、今は色んな所にビリちゃんと行けるから幸せ!」
「そうかそうか……辛かったなぁ」
そう語るプリアにワシも目を細めて微笑むと――。
「お空が青いのも大好き! お日様が優しいのも! でも一番好きなのはビリちゃんなの! 綺麗な金髪も好き! 優しい緑の目も好き! 美味しいご飯を作ってくれるのも大好き!」
その言葉にビリーを見つめると、両手で耳まで真っ赤になった顔を隠して俯いてしまっている。
そう言う所はまだまだ青二才と言ったところか、まだまだ若い証拠だとにやけてしまう。
例え魔王を倒したとしても、そう言う可愛げは失っていないのは、やはりプリアのお陰なのだろうと思い頭を撫でるとプリアは嬉しそうに微笑んだ。
「これからはお爺ちゃんも一緒に住むが、宜しく頼むぞ」
「お任せあれ!」
「もう! プリアは本当に可愛いなぁ!」
小さな手を伸ばして返事をしたプリアを抱きしめようとしたが、そこは流石ビリー……ワシの伸ばした手よりも先にプリアを抱き上げてしまった。
「セクハラですよ」
冷たい一言……冷たい視線……そしてきっと本人は気づいていないであろうこの威圧は人間が発せられるモノではない。
魔王の返り血でも浴びてしまい、うっかり呪いでも貰ってしまったのだろう。
だがその威圧はプリアには効いていないようで、キョトンとした表情でビリーに抱かかえられている。
これも真珠色の妖精の力だろうか?
「それよりお部屋へと案内します。 お風呂にも入って頂かねば困りますよ」
「おお、それもそうだな」
「服は私が洗いましょう。 吸水紙と言う錬金アイテムを作ってからは雨の日でも洗濯が出来るので楽で助かりますね」
「あっと言う間に服が乾くのは助かるね~」
そんな会話をしながら歩くビリーの表情は何処か明るい。
世界は平和のなったのだから、これからはゆっくりと錬金術に没頭できるのも大きいだろうし、何よりプリアが傍に居てくれるのだからそれだけで人生薔薇色だろうと思うと、ワシは後ろで孫の成長を静かに見守ろうと決めたその時――。
「それでお爺様のお部屋ですが」
「おお、何処になるのかね?」
「地下牢なんかお似合いかと思いますがどうします?」
目が笑ってない。
ワシは 「出来れば普通の部屋がいいかな」 と苦笑いすると、ビリーは小さく舌打ちしちゃんとした一室を貰う事が出来た……。
きっと今のはアレだ。
夜プリアの部屋に忍び込むなよと言う脅しも入っているのだろう。
何とも解り難いようで伝わりやすい独占欲。
「安心しなさい。 プリアの部屋には有事の際にしか入らないから」
「ええ、是非そうして下さい」
孫の恋も応援したいが前途多難……それでもゆっくりと見守っていこうと決めた。
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こちらも予約投稿となっております。
アルベルトさんは最後まで書いていて楽しいキャラでした。
カロラッチョは既に書き終わっている小説なので、お暇つぶしにでも読んで頂ければ幸いです。
そして、★やハートがあると、少しだけ作者が喜びます。
応援よろしくお願いします/)`;ω;´)
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