第5話  おやおや……これはお爺ちゃん死んじゃうかな?

 **祖父視点**

 孫であるビリーが魔王討伐の勇者一行に着いて行く事を知った時、ワシもたった一人の肉親と言う事もあり勇者一行と会うことが出来た当時。


 如何にも女遊びが激しそうで軽そうな勇者と、見た目は麗しいが僧侶としては半人前とはお世辞にも言えない僧侶、そして自信満々の戦士に、精神的に弱そうな魔法使いと言う面子を見た時から分かっていた事だが――絶対に孫であるビリーに合わないと思った。


 元々昔からビリーは表情が読み取れない子供だった。

 何事も淡々とこなし、ワシが無理難題を突きつけても意地でそれをクリアしてしまう。 その為、挫折を知って欲しくって本当に無茶な難題も突きつけたのは懐かしい記憶と言うべきだろうか?

 しかしそれらすら幾ら怪我をしようと、死に掛けようとクリアして来てしまい、痛みで顔を歪む姿すら見せた事が無かったビリー。

 そのビリーがあの面子を見た時、本当に嫌そうな表情をしたのを今でも鮮明に覚えている。

 ワシとしてもこの面子で魔王を倒せるとは到底思えなかったが……。



『お爺様は私の事などお気になさらず。 好きな事をしながら待っていて下さればいいです。 そうですね、土の妖精の事でも調べに旅に出たらどうです?』



 そう口にしたビリー。 ワシには、もう戻ってくることが無いのだから自分の事は存在しなかったのだと思えと言われている様に感じた……。

 それから数ヶ月……もう肉親は居ないのだと言う喪失感と戦いながらも土の妖精について調べる為に各地を巡ったある日、空を覆っていた雲が晴れた。



 ――魔王が倒されたと言う証!



 その事実がワシをヴァルキルト王国に戻る切っ掛けを作ってくれた。

 孫は無事か否か……その事を只管願いながら王国に戻ると、とある酒場前で錬金術師が真珠色の妖精を連れている噂を耳にした。



「真珠色の妖精!? どんな錬金術師が持っていたのだね!」



 思わず酒場の扉を開けて叫ぶと、店主からは包丁を投げつけられたが、華麗に避けて店主の下へと駆け寄った。

 すると、ビリーと言う名の錬金術師がプリアと言う名の可愛らしい真珠色の妖精を連れている事を教えて貰う事が出来た上に、今住んでいる場所すら教えて貰えたのだ。

 お礼を言うとワシはその足で直走った。


 孫が生きていると言う喜び、そして余りにも希少価値が高い真珠色の妖精。


 二人が住んでいると言う大きな屋敷の前に辿り着くと、兎に角階段を駆け上がり玄関の扉を大きな音を立てて開いてしまった。



「ビリ――!!」



 最早叫び声に近かった。

 だが本当に孫のビリーであるのかどうかさえも分からない……息を切らし屋敷を見渡すと、玄関から近いドアが開いた。 

 そしてそこには間違いなく孫であるビリーが立っていたのだ。



「お帰りなさいませ、お爺様」



 淡々とした、まるで業務連絡をしているかのような口調。

 金色の髪は後ろで一つに結ばれ、切れ長の濃い緑色の目……孫が無事に帰ってきたと言う事をやっと此処で確認することが出来た。



「帰ったと言う噂を聞いてね! 無事で何よりだ!」

「ご心配ありがとう御座います」

「時に面白い噂を聞いてね。 真珠色の妖精をお前が持っていると」



 その言葉にビリーは眉を寄せると腰に掛けていた剣を取り出しワシに向けてきた。

 どうやら怒らせてしまった様だが、今までワシに対し剣を向ける事など無かった為、物珍しくもあった。



「持っている等と言う言い方は止めて頂きたいです。 彼女は私の大切な方です」



 ――彼女は大切な方。

 その言葉に思わず表情が綻んでしまうのは許して欲しい。



「おお……それは悪い言い方をしたな。 済まなかった」



 そう言って深々と頭を下げたその時だった。



「ビリちゃんどうしたの?」



 幼い子供の声……だが透き通るような鈴の音の様な声に、声の主を探すと五歳位の少女が目に飛び込んできた。

 それは正に真珠色の髪をした漆黒の大きな瞳の可愛らしい少女。

 彼女こそが真珠色の妖精だと脳に伝わるまで少しの時間が掛かるほどだった。



「お……お客様に剣を向けちゃダメだよ!!」

「お客ではありません。 私の祖父です」

「これが噂に聞く真珠色の妖精……」



 生きている間に会えるとは思っても居なかった、奇跡の妖精……。



「お爺様、プリアさんには余り近寄らないで下さい」

「何を言う! 真珠色の妖精が如何に貴重かお前は知らないのだ!!」

「お爺ちゃんはビリちゃんのお爺ちゃんなの? 初めまして! プリアです!!」



 その言葉と余りにも愛らしい表情の伸ばしかけた手が止まった。

 花の妖精は愛らしい見た目で愛玩として好まれる妖精ではあったが、此処まで愛らしい花の妖精を見るのは初めてだった。

 真珠色の髪はフワフワとしていて、首元でクルンとカールしている上に、漆黒の大きな瞳は穢れを知らない純真無垢な眼をしている。

 柔らそうな頬は触ればやみ付きになるであろうと言うのは容易に想像できたし、小さな手足も保護欲を掻き立てるには十分過ぎた。



「ビリちゃんお茶を用意しないと!」

「ああ、そうですね」

「客間に案内します!」



 そう言ってワシに頭を下げるプリアに、ワシは自分の中で時が止まっていた事を知る。 そして孫をジッと見つめると、あんなにも表情が分からなかったビリーが嫌そうな表情でワシを見ていたのだ。



「何です?」

「いや? お前も人の子だったのだなと思って」

「当たり前でしょう? 私は人間ですよ」



 呆れた様に口にして去っていくビリーに声を出して笑うと、プリアはワシの服を引っ張り客間へと案内してくれた。

 まるで機械的だった孫があんなにも人間味溢れる表情をするとは……このプリアと言う真珠色の妖精の力がなせる業なのか否か。

 客間に案内されると、ワシはプリアを抱っこして膝の上に乗せた。

 キョトンとした表情も可愛らしいが、何より服装だ。 きっとビリーが選んでいるのだろうが可愛らしいフリルの服にヒラヒラのエプロンをつけている。

 髪留めは後ろで止まるようになっているようで、大きな赤いリボンがまた似合っている。



「お爺ちゃんはずっと旅をしてきたの?」

「そうだよ?」

「立派なお髭!」



 そう言って小さな手で触られるのは何とも心地がいいものだ。

 花の妖精はそもそも個体数も少なく、愛玩として飼われるにしても相当な金持ちしか手に入れることが出来ない妖精だ。 

 しかもこんなにも愛らしい上に真珠色の妖精ともなれば、元の持ち主はどれ程の金額を出して手に入れたのか想像すら出来ないし、プリアを手に入れる為にビリーはどれ程の無茶をしたと言うのか興味が沸いてくる。



 昔は一人だけ……我が家にも花の妖精が住んでいた。

 ビリーはその事を今も忘れずに居たのだろうかと思うと胸が苦しくなるが、今はプリアが傍にいてくれる。 それで心の傷を癒しているのかもしれない。



「お爺ちゃんもこれから一緒に住むの?」

「どうだろうなぁ……ビリーが許してくれれば良いんだがなぁ」

「じゃあ私からもお願いしてみる!」



 本当に純真無垢と言うか何と言うべきか……プリアはとても素直な心を持った花の妖精のようだ。

 その時、客間の扉が開きビリーがお茶と茶菓子を持ってきたが、ワシがプリアを膝の上に乗せているのを見た途端、眼の色は怒りを含んだ色をし、片手を上げると上級魔法の炎の玉が出来上がっている。


 おやおや……これはお爺ちゃん死んじゃうかな?

 儚い人生だった……だが満足だ。

 と、思った次の瞬間――。



「ビリちゃん、人肉はこんがり焼いても美味しくないと思うよ?」

「……そうですね」



 ――その一言でワシは命拾いをした。



 ===========

 一話一話が長いですが、区切ろうとしたけど区切りが難しかった(;´Д`)

 こちらも予約投稿になっております。

 暫くは予約投稿が続くと思いますのでご了承ください。


「妻は悪役令嬢(?)で押しかけ女房です!」から来てくださっている読者様も

 応援ありがとうございます!


 明日の続きをお待ちくださいませ。

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