第2話 真珠色の妖精 プリア

 その夜、国中……いや、世界中の人間が魔王討伐のお祝いがなされている中、彼だけは華美な宴等必要が無いと言って出席もせず、明日用意が済むと言う家を待ちながら城で一泊する事になった。

 その傍らには真珠色の妖精。

 城の風呂で妖精を綺麗にすると、真珠色の髪はますます輝きを増し、可愛らしくも美しい姿へと変った。

 まだまだ五歳くらいの少女だというのに、年頃の妖精になればさぞかし美しい女性の姿になることだろう。

 一緒に居る時間はさほど多くは無いが、少女は一言も口にしない。

 声を失うほど辛い思いをしてきたのだろうか……彼は優しく妖精を抱き上げると、部屋のドアを開け中庭へと出向いた。

 城の中でも宴が行われているようで、そんな喧騒を聞きながら中庭で一緒に月を眺めていると、妖精は辺りを見渡し自分が自由になった事を初めて知ったようだった。

 そして――。



「これからはお外にでれる?」



 初めて聞いたその声は鈴の音色の様に可愛らしくも綺麗な声だった。



「ええ、お外に出られますよ」



 その返事に妖精は輝いた笑顔を向けた。

 余りにも無防備に喜ぶその表情に彼は苦笑いしか出なかったが、妖精を地面に下ろすと彼の周りをクルクルと回りながら外の開放感を味わっているようだ。



「明日からは別の家で一緒に過ごします。 お買い物も出来ますし屋台で食べ物を買って差し上げましょう」

「本当!?」

「私の下で……と言う契約はありますが、貴女はこの城に居る時よりも自由に生きられる筈です。 お外への散歩も出来ますし、お使いを貴女に頼むこともあるでしょうね」



 そう彼が口にすると妖精は更に輝いた笑顔で彼に駆け寄った。

 本来妖精とはそう言う役割が主なのだが、この少女はそれすら出来ないで暮らして来たのだから憧れの夢が叶った様な気分だろう。 

 彼の前で小さく飛び跳ねながら 「嬉しい」 と何度も口にした。


 この姿を見る為に魔王を討伐して良かったと心底思いながらも、彼は子供らしく喜ぶ妖精を見つめ微笑んだ。 

 それは本当に自然と出た微笑みだった。



「自己紹介がまだでしたね。 私の名はビリー・エレゼン。 貴女のお名前は?」

「プリア!!」



 そう元気良く名を口にした妖精に、ビリーは跪き目線をプリアに合わせた。



「これからの一緒の生活は、貴女にとっても私にとっても幸せな生活である事を望みます。 気苦労も多いかもしれませんが、何時も笑っていて下さると嬉しいですよ」

「はい!」

「良いお返事ですね」



 そう言うとビリーはプリアのフワフワの真珠色の髪を撫で微笑み、抱き上げると一緒にまた月を見上げた。

 魔王が倒される前までは月を見る事すら叶わなかったが、今では綺麗に見ることが出来る。 月明かりに照らされた真珠色の髪はとても美しく、ビリーは空に小さな手を伸ばして月を仰ぐプリアを見つめていた……。




 そして翌朝、新しい屋敷へと早速赴き、必要な物が全て整った屋敷を見て回る最中プリアは嬉しそうに家の中を走り回っていた。

 この屋敷にはビリーとプリアしか住まないようになっている。 ビリーが錬金術師と言う事もあり、それらの設備は完璧に整えられていたし、錬金術に関する書物は貴重な物まで揃えられ、一室は大きな図書室の様になっている。

 それだけではなく、台所も物が充実している。 

 これに関してビリーは大満足したようだ。

 意外かもしれないが、ビリーは家事が得意だ。


 その中でも料理をしている時は錬金術でアイテムを作るよりもストレス発散になるらしく、ストレス発散したい時こそ料理に走ってしまうのがビリーだった。

 屋敷はやはり英雄として扱っているのだろう、かなりの部屋数と庭に噴水すらある大きな屋敷だった。

 こんな広い屋敷に一人と妖精一人……傍から見れば寂しい生活のように見えるかもしれないが、ビリーにとってはそれだけで十分だった。



「ビリちゃんビリちゃん!」



 そう声を掛けてきたのは屋敷を一通り散策してきたプリアだった。

 城で着ていた薄汚れた服を着ているプリアを見た時、早く服を用意せねばとビリーは思ったが、プリアはそんな事は気にしていない様で小さな手でビリーの指を握ると、とある部屋の前で止まった。



「このお部屋欲しいな! ダメ?」



 そう言ってドアを開けたその部屋は、庭を一望出来るが屋敷の中では小さな部屋だった。



「プリアさんはもう少し大きなお部屋で宜しいのですよ?」

「でもこのお部屋とっても暖かいの! お空も見れるしベランダもあるんだよ!」



 そう強く訴えるプリアにビリーは苦笑いを零したが、これからは幾らでもお庭に出てもいいし、屋敷の中は自由に歩き回っていいのだと再度伝えると、プリアは大きな瞳を見開いて再度感動している。



「そうですね、後は一緒に街にも行きましょう。 貴女にはお使いを頼む事もあると思いますのである程度の範囲を覚えて貰わねば困りますし」

「お使い!? 頑張るよ!」

「ええ、その為にもお外に出る練習を一緒にして行きましょうね」

「はぁい!」



 そう言って元気良く返事を返したプリアの頭を撫でると、ビリーはプリアの隣の部屋を自分の部屋にする事にした。

 緑で統一された落ち着いた部屋だ。 

 一日で全てを用意した王には多少なりとも感謝せねばならないだろう。

 だがまずはやらねばならない事がある。

 そうビリーが思った時、隣から大きな音が聴こえた。



「……お腹すいちゃった」



 そう言って申し訳なさそうにビリーを上目遣いで見つめるプリアにビリーは微笑むと、昼食は軽めのものしか用意できなかったが、その日の夕飯は野菜たっぷりのポトフに柔らかいパンを用意し、二人で広い食卓で食事をとった。



 これからは二人でこの屋敷で生活していける。

 喉から手が出るほど欲しいと願った、真珠色の妖精と共に――。

 それだけでビリーの心は満たされていた……。




=====

ビリーとプリアとの生活がスタートしました。

幼い見た目の可愛い女の子のプリアですが、ビリーはロリコンじゃないです。

きっとロリコンではないはずです(滝汗)


此処までが一応、序章となりますが、楽しんで頂けたら幸いです。

ちょっとグロテスクな内容も書かれているので、何時カクヨムさんに消されるかと、ドキドキしてますけどね!!


なろうに上げているもう一つの作品は絶対上げられない……即消されちゃう(汗


谷中の作品の中では、結構グロテスクな部類には入りますが、どうぞ応援よろしくお願いします。

また、既に書き終わっている作品なので毎日投稿していきますが、暇つぶしにでもなれば幸いです。

(応援があると作者が喜びます)


よろしくお願いします/)`;ω;´)

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