【Caro laccio】―いとしい絆―

udonlevel2

第一章 真珠色の妖精

第1話 すべての始まりはここからだった

 魔王が倒され、空の雲が世界中から消え去り美しい空が戻った。

 勇者一行が魔王を倒したのだと世界中の人々が歓喜に沸く中、勇者を送り出した王都 【ヴァルキルト】 の玉座は恐怖で震え上がっている。

 そこには勇者一行であった一人の男だけが戻ってきたのだ。



「おお! 確かお前は勇者一行に居た……何だったかな? 魔導師だったか?」



 そう引き攣る表情で彼を見る国王は、血まみれの彼を見て何とか言葉を口にした。



「魔王討伐ご苦労であった! 他の勇者達の姿が見えぬがどうしたのだ?」



 そう国王が彼に問いかけると、彼は無表情のまま魔法の袋である鞄からナニカを玉座へと放り投げた。

 ……ゴロリと落ちたソレは、勇者の首だったのだ。

 玉座に響き渡る他の者達の悲鳴、だが彼は顔色一つ変えずに他の勇者の仲間であった僧侶、魔法使いの首もゴミの様に投げ捨てた。



「あなた方が言っていた勇者と言うのはこのゴミ共の事ですか。 この方々でしたら魔王と戦う前に死にましたよ。 一応首でも持ち帰らないと納得して貰え無さそうだったので腐らないように魔法を掛けて持ち帰ってきましたが」



 ざわめく玉座、しかし彼は顔色一つ変えずまずは魔法使いの首の前に立つと足でコツっと首を蹴った。



「まず魔法使い、コレは使い物になりませんでしたね。 麻薬に手を出して中毒症状を起こし、崖から落ちてお亡くなりになりました」

「そんな馬鹿な話があるか!!」



 そう叫んだのは勇者を予言し、魔法使いの血縁である賢者だったが――。



「では彼女の記憶でも見ればお解り頂けますか?」



 そう言うと彼は思念を呼び出す魔法を使い、魔法使いの生首から浮かび上がる映像には確かに彼女が麻薬に溺れている姿が映し出される。

 勇者一行の魔法使いとしての責任の重さに逃げる様に麻薬を使う魔法使い……次第に壊れていく姿。 目を逸らしたくなる最後の光景に数名が嘔吐した。



「彼女の死に様は中々無様でしたね。 敵も味方も分からなくなって最後は崖から落ちて死亡。 まぁそれで楽になったのですから幸せな最後だった事でしょう」



 そう言うと映像を映すのを止め、次は僧侶の前に立つと魔法使いの首を蹴るよりも少し強めに蹴り飛ばし、生首はコロコロと転がった。



「そして名ばかりの僧侶。 彼女は見事なビッチでしたね。 行く先々の町や村や他の王国で男とやりたい放題。 何人子供が死んだかお教えしましょうか?」

「子供が死んだ?」



 その言葉にざわめく玉座で彼が取り出したのはメモ帳だった。



「堕胎薬の使いすぎによる副作用で彼女も使い物になりませんでしたね。 合計すると六人の自分の子供を堕胎薬で殺しています。 僧侶が聞いて呆れる」



 そう言うと先程の魔法使いに掛けた魔法を使い、僧侶の思念から映し出されるのは男と快楽に溺れる姿だった。

 堕胎薬を使う度に動く事も出来ず、ずっと宿屋で寝たきりの僧侶……それでも快楽を求めることを止めようとはせず、身体は傷つきボロボロになって行く姿を見た国王は目を逸らした。

 その様を見た彼は映像を止め、次に勇者の首の元に行くと強く蹴り飛ばし、壁にぶつかるとグシャリ……と顔の半分が潰れ中身が溢れ出た。



「最後にコレですが」

「もう良い、見せなくて良い!!」

「何を仰います? 皆さんには証人になって貰う為にも事実を見せなくてはなりません。 私が彼等を楽にして差し上げたと言う事実をね?」



 そう言って薄っすらと微笑む彼に、玉座は震え上がった。



「まぁ、まずは見て御覧なさい……。 勇者と言う名を語っただけのゲスの行いを」



 そう言うと彼は勇者であったであろう男の思念を映像化すると、王達ですら一体何が起きているのか分からないでいる様だ。



「街や村、王国に着けば勇者と言うだけで女達から羨望の眼差しで見られます。 それを良い事にレベル上げもせず女共を組み敷いて抱き捲くり、人々から依頼を受けようものなら依頼を私に押し付け女と寝続ける。 

 ……とある村では依頼者の娘を無理やり襲って傷物に。 結婚を目前にしていたのに哀れですねぇ。 勇者の目の前で自害したその村娘に対し、勇者に抱かれて死んだのだから幸福だと家族を言い包めた」



 その言葉通り、勇者の目の前で首を刃物で斬って自害する村娘……映し出される涙は何を語っているのだろうか。



「まぁ、沢山の女性を泣かせたようですが、最後には勇者自信が泣く羽目に。 彼は最終的に梅毒に掛かってもう手遅れでしたからね。 僧侶の回復魔法でも効かない位の末期でした。 彼らでは魔王を倒す事など出来ないと悟った私は彼らを哀れに思い、魔王城に行く前に楽にして差し上げたんですよ」



 そう言って最後に映し出された映像には――助けを求める勇者の横で首を刎ねられる僧侶が映し出され、最後に勇者の首を刎ねる彼の姿が映し出された。

 映像がそこまでで途切れると、王は震える手を押えきれないように彼を見つめている。

 しかし、もう一人……勇者一行に着いて行った戦士の姿も首も無かった。


 その事を問い掛けられると、彼は 「ああ、申し訳ありません失念しておりました」 と口にすると、業務連絡の様に口にする。



「戦士はとある戦いの際、敵の魔法で押し潰されてしまいまして……体の一部だけでも持ち帰ろうとしたんですがねぇ……いやぁ、見事に潰れていて持ち帰ることが出来なかったんですよ。 骨すら砕け散っていたので、申し訳ありません」



 そう無表情のまま口にする彼に、玉座には沈黙が流れた。 

 それもそうだろう、勇者は国の賢者が予言したとある家の公爵家の嫡男で、僧侶は国一番の伯爵家のご令嬢だった。 

 そして魔法使いはその賢者の孫だった上に、戦士に至ってはこの国の長年王室騎士団隊長を務める家系の一人息子だったのだ。

 それなのに、映し出された思念の映像は余りにも表沙汰に出来る物では無く、誰もが口を閉じ彼を見つめるしか出来なかった。


 しかし空は晴れたのだ。

 つまり、魔王が倒されたという事。



「ご安心下さい。 魔王は私が始末しておきました。 証拠が必要でしょうか?」

「証拠だと……? 証拠など空を見れば解るであろう」



 そう力無く口にした国王に、彼は鞄からナニカを放り出すと、そこには見た事もない化け物の首が転がっていた。



「此方が魔王の首です。 一応血抜きはしてきましたが、切り取ったばかりですので新鮮ですよ?」



 その言葉に最早国の重鎮達は彼を恐怖の対象としてしか見ていなかった。

 目の前に居るのは勇者一行に着いて行った青年なのに、彼一人だけで魔王を倒し世界から闇を晴らしたのだからもっと称えても良いだろうに……。

 それなのに、微笑を浮かべたままの彼に、国王ですら震え上がり言葉を出すことが出来ない。 玉座に集まっている重鎮達の半数は腰を抜かしたのか座り込み、ある者は失禁している様だ。



「どうなされました? 王様ともあろうお方が……何を恐れているのです? 魔王は倒されたのですよ?」



 そう静かに口にした彼に、国王は何とか力を振り絞ったが声が擦れて出てこないでいる。

 その様子に彼は小さく溜息を吐くと、もう一度 「王様」 と口にし、まるでそれが最後の警告だと言わんばかりの警告に聞こえた様だ。



「そ……そなたの働き見事であった! この者達の死は残念ではあったが……無事魔王を倒し世界に平和を齎してくれた事を……誇りに思う!」

「ありがたきお言葉です」

「よって褒美を渡そう! 本来ならば勇者にこのヴァルキルト王国のたった一人の姫を娶らせる予定であったがそなたに姫を授けよう!」



 そう王が震えた声で口にすると、彼は首を横に振り 「その様な者はいりません」 と口にした。

 王に取ってはそれが不幸中の幸いか否か。 もし姫を娶らせていればこのヴァルキルト王国の次の王は彼になっていたのだから、王は静かに安堵した息を吐いた。



「では一生遊んで暮らせるだけの金を渡そう!」

「それだけでは釣り合いが取れませんねぇ……私は世界の闇を晴らしたのですよ? 一生遊んで暮らせるだけの金を貰うのは当たり前の報酬かと思いますが? ですが、たったそれだけですか?」



 その言葉に王は目を見開き驚いている。

 一生遊んで暮らせるだけの金では足りないと彼は言うのだ。



「それでは望むもの何でも渡そう! 何なりと申すが言い! 何でもだぞ!」

「そう来なくては」



 その言葉に満足した彼は少しだけ微笑むと、まず王国に対し何か起きた際の国への干渉の許可。 三回まで使える国への命令権をまずは要求した。 

 そして 【勇者殺し】 等と言う不名誉な事を言い触らそうものなら国を滅ぼす事もありえるのだと言う事を伝えた。

 この要求に重鎮達や国王は恐怖しながらも了承し、彼は次の要求を口にする。



「後は立地の良い場所に家が欲しいですね。 無論魔王を倒したのですからそれ相応の家か屋敷で良いのですが」

「直ぐに手配しよう」

「それともう一つ」



 その強い意思を感じる声に玉座にいた皆が震え上がった……。



「旅の途中、面白い話を聞きましてねぇ……王様のコレクションの中に妖精がいる筈です」

「妖精?」

「ええ、真珠色をした美しい妖精が」



 その言葉に周りの重鎮達はざわめいた。 それもそうだろう……真珠色の妖精は希少価値がとても高く高額で取引されているのだ。



「その妖精を渡して欲しいのですが宜しいですか?」

「それは……」

「この中で言えば……王様だけしか所持しておられませんよね?」



 まさか自分だけが所持して居る事を知られて居るとは思っていなかったのだろう。 彼は的確に王にその事を告げ、王は恐怖に震えながら静かに頷く事しか出来なかった。


 ――真珠色の妖精。


 その妖精の話をとある村で老婆から聞いた時、何故か欲しいと思ってしまった彼は、コレだけは譲れないとばかりに王を見つめ微笑んだ。

 魔王を一人で倒したのもその妖精の話を聞いたからだ。 

 そうでなければ面倒な魔王等一人で倒そうとは思わない。 

 勇者や僧侶を見捨ててどこかの村に隠れ住むことも出来たのだから。



「報酬は一生遊んで暮らせる金と国への干渉と三回まで使える決定権、そしてそれなりに良い家と真珠色の妖精。 宜しいですね?」



 その言葉に王は汗を噴出しながら頷く事しか出来なかった。

 そして彼自信も――何故国の重鎮や王がこんなにも自分に恐れを抱く事に疑問を持たなかった。





 その後、王に案内され向かった先は城の地下だった。

 やはり真珠色の妖精は希少価値が高い為か、何十もの鍵が付いた扉の中に居る様で、その扉の前には一人の兵士が薄明かりの中見張っているようだ。



「鍵を開けたまえ」



 そう王が口にすると兵士は幾つもの鍵を一つずつ開けていく。

 ――この先に真珠色の妖精がいる。

 そう思うだけで彼の表情は無表情なのに口角が上がっていく。

 そして最後の鍵を開けきり扉を開くとそこには――広い室内が用意されていた。


 まるで小さな子供の為に用意されたかの様な、そんな印象を受ける部屋だ。 

 窓もついているが高い場所についていて空しか見ることは出来ない。

 その時、隣の部屋からジャリッと言う音が聴こえ、彼は王の制止を無視して扉を開くと、そこには小さな五歳くらいの少女が鎖で繋がれた状態で彼を見ていた。


 薄汚れた服、しかし決して失われる事の無い真珠色のフワッとした髪……漆黒の瞳は大きく彼を見つめている。

 しかし……首や腕、そして足枷は余程この妖精を逃がすまいとして着けられたものだろうと言う事は容易に想像が出来たが、彼は少女に歩み寄ると解錠魔法を使いそれらを一つずつ外して行く。


 その時、彼の瞳に映ったのは真珠色の妖精が居た部屋の様子だった。

 まるで檻の中に閉じ込められているかの様に、外の景色は見えるようになっていたのだ。

 真冬では辛かっただろう……それを物語るかの様に沢山の毛布が巣の様になっている。

 最後の鎖を解き放つと、真珠色の妖精は自由に動く小さな手足を見つめ、何も語らず彼を見つめた。 

 そして彼は妖精に手を伸ばしこう呟く……。



「さぁ、一緒に家に帰ろう?」



 ――たった一言。

 その一言を口にした彼に、少女は大きな瞳を見開いたまま大粒の涙を零し彼にしがみついた。

 王は手に入れた真珠色の妖精を最早諦めきっている様だったが、彼を見つめ眉を顰めた。



「時にその方……勇者に着いて行った者として記憶にはあるが職は?」



 そんな事も記憶に無いのか……と彼は思ったが、真珠色の妖精を抱かかえ静かに微笑むと――。



「勇者からはアイテム係りと罵倒されてきましたが……只の錬金術師ですよ」



 その言葉に王は驚き腰を抜かし、彼は真珠色の妖精を手に王の横をすり抜けて行った。





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小説家になろうにもUPしている作品ですが、そちらとは若干異なる感じで書かれています。(途中途中ですが)

そして、こちらの作品は既に完結している作品なので、毎日更新していきます。


楽しかったよ。

気に入ったよ。


と言う読者様がいらっしゃったら、ハートなど送ってくださると幸せになります!

ほぼ初期作品ですので、至らない点などありましたら申し訳ありません。

こちらも、予約投稿となっております。

応援よろしくお願いします(`・ω・´)ゞ

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