11.アキラ、青空に出る。

 いよいよ、出発の時が来る。弓矢良し、ナガサ良し、保存食よし。テラもフライパンやナイフといった少しの調理道具を持ち、準備万端だ。


「よぉし、出発だ。」


そう僕達は意気揚々とハチを先頭に旅に出る。空は晴れ渡り、僕達の旅の出発を祝うかのようである。



∴ ∴ ∴ ∴ ∴



 ハチが獣道をどんどんと進んでいく。僕達はそれに従うように追いかける。鬱蒼と茂る草木をナガサで切り開いて、テラが安全に通れるように道を進んでいく。


疲れたら休憩しながら、歩く歩く歩いていく。山あり谷ありの道なき道を進んでいけば、この異世界は様々な景色を見せてくれる。


天を覆わんとするほどの巨木の森や、清らかな白水が流れていく滝、色とりどりに咲き誇る花々。


元の世界では、見ることはなかったであろう景色、手付かずの自然。


その絶景に深い感動を覚えながら、僕は自然がこんなにも美しく綺麗で荘厳なものなんだと実感する。


しかし、かなり長い事歩いてきたことにより、僕やテラの顔には疲れが見え始める。だが、ここは気を紛らすため歌おう。


そう考えて、あの曲を口ずさむ。


「モリモリゴ~~~、モリモリゴ~~~。」


その歌を聞いて、テラはにこやかに笑うと彼女も歌い出す。


「モリモリグォ~~~、モリモリグォ~~~。」


ちょっと違うけど、その愛くるしい音色に僕は萌えて、元気千倍になり彼女をおんぶして、道中歩く。


テラも最初はおんぶされることに戸惑いを表出していたが、疲れもあってか途中から身を任せ寝てしまう。


そんな彼女の様子に僕はかなり無理をさせてしまっていることを自覚しながら、ハチの後を追いかける。


 そうしながら、進んでいるうちに辺りはもうすっかり夕暮れになる。ちょうどいい雨風が凌げそうな場所を見つけて、今日はそこで野宿することとする。


テラもその頃にはすっかり元気になり、休ませてくれたお礼とばかりに張り切って、手料理を作ろうとする。


僕は、辺りの小枝を拾って焚火を用意した後、休憩をとらせてもらう。気が付けばおいしそうな匂いが鼻をくすぐる。どうやら、うたた寝をしていたようだ。


「いっけねーーー。寝てたわ・・・。」


そう呟くと、テラがそれに反応してクスクスと笑いながらも、白い手は、僕の分のスープをよそってくれる。


だが、その手には、何かで切った傷がある。料理に慣れてるテラでも、失敗することもあるのだなと思いながら、よそってくれたスープを飲む。


そのスープは干し鹿肉の入った簡単な料理であったが、疲れた体に染みわたりほっこりとする。


テラの手料理は相変わらずおいしい。簡単な道具と食材でここまでおいしい料理を作る彼女は神ですか。女神ですね・・・。その結論に至る。


腹いっぱいになったら、心地よい睡魔を感じて寝る準備を始める。野宿なんて初めてなので、どう寝ればいいのかわからないでいると、テラが僕に体をくっ付けてくる。


「えぇっ!! 」


驚いた僕は少し距離をとろうとするが、テラ大納言様はそれを許さず。


「アキラ! メッ! 」


と引き止められる。まぁ、テラがそうしたいならしょうがいなよね・・・。と僕の心はめっさウッキウッキで彼女に寄り添う。


それにテラも満足したのかニッコリと笑いながら、ハチもこっちにおいでと呼ぶ。


「ハチ! ココ、ココ。」


ハチも嬉しそうにそばに駆け寄ってくる。


あっ・・・なるほど。身を寄せ合って寒さを凌ぐためかと彼女の意図を理解して、舞い上がっていた自分を恥じる。


そうして、二人と一匹は身を寄せ合いながら、まだ冷える森の中で眠りに就くのである。



∴ ∴ ∴ ∴ ∴



 その夜は夢を見た。


それは幼少期の頃の思い出、あの忌々しく忘れ去りたい頃のことだ。


無力だった僕は、いつもあの男に怯えていたことを思い出す。そうすれば、目の前にそいつが現れる。


嗚呼、あの男はいつも躾だとかほざいて、小さかった僕にスタンガンを向けて黙らせてたっけ・・・。


「痛い! 痛いよ! やめて! やめて! 」


何度も何度も、泣いても泣いても、涙が枯れても奴は僕を痛めつける。


その男の顔は、悦に浸る。母親はそんな僕を見ても何も言わなかった。その目は僕が痛めつけられている間は、自分は安全だと安心しきった目だった。


幼かった僕には、それが信じられなかった・・・。誰も守ってくれない。誰も助けてくれない。僕は誰にも愛されていないのだと。


夢も希望も抱けなかった悪夢のような日々。その思い出から逃げるかのように僕は、走って走って逃げて逃げて・・・。


そこで、僕は目が覚める。


「ハァハァハァ・・・。夢か・・・。嫌な夢だった・・・。」


気が付けば、嫌な汗が全身から噴き出していた。電気・・・、嫌なことを思い出した。


思いだしたくもない思い出。忘れ去りたい過去。嫌な記憶が蘇っていく。


それに呼応するかのように空も暗い雲が支配していく。朝から不吉で最悪だなと思いながら、また眠ってしまえば、再び同じ夢を見そうな気がして、僕はテラ達が起きるのを待つことにする。



∴ ∴ ∴ ∴ ∴



 昨日とは打って違い、空は曇天で森の雰囲気どんどん奥へ進むごとに殺気立ってくる。


嫌な空模様だ・・・、雨が降るかもな・・・。テラもその空に怖がった様子で僕の服の端を掴んで歩く。


今朝見た夢が気にかかる。良くない事が起きなければいいが・・・。そう切に願いながら、暗く不気味な森の中を歩いていく。


 しばらく後、遠くの山に鎮座する巨大な石にハチが吠える。そして、ハチの足取りが早くなって始める。


だが、周りの雲行きはどんどんと暗くなっていき、辺りの様相も不自然なくらい静かになっていく・・・。


そう思いながらも先を急ぐハチを止めることができず、人を寄せ付けないその山の頂きを目指し進んでいく。


山を登っていくほどに、霧が立ち込め始め見通しが悪くなり始める。異様に曲がりくねった木々、何かに切り裂かれた跡の幹、無数の引っかき傷が残る巨木。



 そして、予想通り雨が降り始め、それは次第に強くなっていく。


どこかで雨風を凌ごうと考えたが、ハチは僕達を先にどんどん進んでいくため、それもできず、その中を急ぎ足で進んでいく。


ぬかるんで歩きにくい山道に足をとられそうになりながらも登っていく。


そうして、巨石がある場所まで辿りつく。


遠くから見ても大きいと思っていたが、近くで見ると予想をはるかに超えるほど大きいものである。


下を見れば、ハチがその岩に出来た大きな洞窟の前で待っている。僕はその洞窟の発見に喜び、急ぎ中へ入っていくのである。


∴ ∴ ∴ ∴ ∴



 中は獣臭い匂いが立ち込め、だが、雨風を凌がなくては僕の身体が持たない。


そして、黒色に変色した血痕があり、至る所に動物の骨が散乱しており、それを目撃し、僕達に緊張が走る。


洞窟の奥は安全なのか・・・。恐れる気持ちがどんどんと増していく。


だが、暗闇の中から現れたのは、白い骸。大きな巨体の骨が横たわっている。


 稲妻の光が、洞窟内を一瞬照らす。


その光で気付く、その傍らには場違いなほど小さな体の小動物がいる。


その小動物の身体は、水を思わせるかのように液状態で、ウサギのような形を保っている。


「スライム・・・。」


想像していた光景との落差に僕は呆気に取られる。その可愛らしい姿の水兎と目が合い、警戒心が薄れて気が緩む。


その時、水兎が跳ねる。


次の瞬間、眼前に突如として水しぶきが出現するのであった。

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