12.アキラ、選ぶ。
「えっ・・・。」
水しぶきは僕を飲みこまんと襲ってくることに、僕は反応できず固まってしまう。だが、視線は引っ張られるように急に動く。
気が付けば、寸前でその水しぶきが通り過ぎる。ハチが咄嗟に僕を掴んで押しのけてくれたことにより、なんとか僕は避ける。
だが、僕に降りかかるはずだった水しぶきは、的を変えて後ろにいたテラに向かっていく。
僕は叫ぶ。
「テラ!! 」
その声に反応して、彼女は横に大きく避ける。彼女の身体は音を立てて、地面に倒れ込む。水しぶきはそのまま壁にぶつかり、弾ける。
テラもなんとか避けたかと胸を撫で下ろす。
しかし、次の瞬間、戦慄の悲鳴が洞窟内に響き渡る。
「キャッーーーー!! 」
テラから発せられた悲鳴に、僕は急ぎ彼女に駆け寄る。
何があったのかと彼女を見れば、左手の指の傷にスライムらしきものが入り込んでいる。
テラはそれを必死に取り出そうとスライムを掴もうとするが、触った部分は水に変わりうまく掴めない。刻々と状況はさらに悪化し、スライムは彼女の手にどんどん入り込んでいく。
僕はパニックになり、頭が真っ白になる。
その間も、テラは泣き叫び痛がり続ける。彼女の手の血管は尋常ではないほど膨れ上がる。指、掌、手首とどんどんとスライムは入る込んでいく。
その光景を見て、僕は何かしなくてはと咄嗟にテラの腕をぎゅっと握りしめる。これ以上入らせないためと考えて必死に握る。
そうすれば、握った箇所から身体側へのスライムの侵出を防ぐことができたが、今度はテラの指先がどんどん解け始めていく。
解けだした血肉の隙間から白い骨が見える。その激痛にテラは絶叫できないほどの苦悶表情を浮かべ、目は虚ろになる。
このままでは、いずれ腕全体が溶けてしまって、テラが死んでしまう。
それだけはなんとしても避けなければ、でもどうすればいいのかと迷っている間にもテラは痛みに苛まれている。
「助けなきゃ。」
僕は選択する。
そして、自分の服の袖をビリビリと破く。その間、圧迫をやめていたため、スライムが前腕の血管に入り込み膨張しはじめる。
すぐに引き裂いた布をテラの上腕部分にぎゅっときつく巻きつける。
そして、自分の腰につけていたナガサの山刀を取り出し、彼女の腕を伸ばしてそれを肘部分に振り下ろす。
「キャッァァァァァァァァァ!!! 」
彼女の悲痛な悲鳴が聞こえる。だが、ナガサは腕を一撃では切れず骨で止まる。テラの赤い血が勢いよく溢れ出てる。
僕を優しく包み込んでくれた腕を切る。僕を何度も癒してくれた手を切る。彼女の赤い血が自分の顔についても切る。
僕は歯をくいしばりながらも何度も振り下ろしていく。テラの悲鳴がより大きくなっていく。
「あああああああああああああああああ!!! 」
僕は悲鳴を打ち消すかのようにいつの間にか、叫んでいた。いや、叫ばなければ正気を保っていられない。
もはや、どっちが叫んでいるのかすらわからない狂気の中で、ナガサを大きく振りかざし
ついに浸食された前腕を切り落とす。
その時には、テラの意識はもう無くなって気絶する。
切り落した腕の中からスライムが出てきて、体内に腕を取り込もうと蠢く。
その不気味なバケモノから、テラを抱えてこの場から逃げる。
∴ ∴ ∴ ∴ ∴
激しい豪雨の中を僕はテラを抱えて走る。あのバケモノからちょっとでも遠くに離れなくてはそう思い懸命に走り、そして彼女を雨風から凌げる別の場所を探す。
そうして、雨宿りできそうな岩陰を見つける。そこで、すぐにテラの左腕の応急処置をする。
不完全だった布を止血できるほど、きつく縛り上げ、彼女の左腕を高く上げる。そして、彼女をこれ以上冷やしてはならないと思い、自分の着ていた服をさらに着せる。
出来ることはした。後は彼女の意識が戻ることを願うしかない。
彼女の右手を握り、必死に願う。生きてくれと・・・。
その祈りも束の間、突如として森に大きな地響きが鳴り響く。
『ドォオオオオン!! ドォオオオオオン!! 』
何事かと驚く。その音は段々と大きくなっていく。
「どんどん近付いている気がする・・・。一旦、見てくる。ハチ、その間テラを頼む。」
彼女とハチを隠し、僕はその音の様子を確かめに行く。
音に近づくにつれ、振動は大きくなっていく。僕は大きな木に登り、その音の方向を見る。
すると、そこには先ほどの洞窟にいたウサギの様な形をした巨大なスライムが、木々をなぎ倒しながらこちらの方向へと近づいてくる。
「なんだこいつ、なんなんだこいつ・・・。」
森から頭ひとつ飛び抜けた大きさが段々と大きくなっていく。近づいているか、どんどんと大きくなっていってるのか、わからないが一つだけ理解できる事がある。
自分の後方には、瀕死のテラが隠れている。このまま行けば、彼女ごとウサギに押しつぶされてしまう。
それだけは絶対にさせてはならない。自分の命を守るか、彼女の無事を守るか・・・。
答えは決まっている・・・、彼女を守るため僕はその巨体を引きつけるために自分の命を投げ出す。
∴ ∴ ∴ ∴ ∴
震える手がうまく矢を掴めない。肩の力が思うように入らない。この一矢を撃てば確実にあの巨体はこちらに気付くかもしれない。
「ハハハ・・・。」
その恐怖で笑いが出てくる。
怖いな・・・。今すぐにここから、逃げ出したいなぁ・・・。自分の弱い心が囁く。
だけど振り払う。逃げるわけにはいかないんだ。テラを見捨てることなんてできない。僕を助けてくれた人を置いて、逃がすことなんてできるわけがない。
「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!! 」
吠える、自分の存在をバケモノに教えるかのように大声で。そして、放つ、自分の敵意を示すかのように。
何発も何発も射る。矢は雷雨吹き荒れる中を進み、大きな的の巨体に突き刺さり続ける。
残り矢が最後の一本になった時、巨体がこちらを向く。
その時、大きすぎる殺気を感じる。早くここからできるだけ遠くに逃げなければ、そう思い森を必死に駆ける。
『ドォオオオオオオオオオオオン!! ドォオオオオオオオオオオオン!!』
大きな足音が後ろから響き渡り、その間隔は次第に短くなっていく。その恐怖に顔を歪めながら、走る走る。
『バキバキバキ!! バキバキバキ!! 』
ついに、尋常ではないほどの気配を背中に感じ、後ろを振り向けば巨体はもうすぐそこまで来ている。
そして、その体から何本もの触手がこちらに向かって伸びてくる。咄嗟に、ナガサを振りそれを切り落とす。
だが、そのうちの一本が僕の胸に突き刺さり、そのまま大きな巨体へと引きづり込まれる。
胸に激痛が走り、もがき苦しみながら、目の前が暗くなっていくのであった。
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