第34話 恋人になりたい照れ屋メイドは、僕の膝に座りたい
「月奈ねぇ、お待たせ」
「久しぶりのその呼び方、嬉しいなぁ~」
「だって帰るタイミングなかなか合わなかったしさ」
久々の一緒の下校。いつの間にか手を繋ぐことは当たり前になっていて、常ににぎにぎされながら歩く。慣れてしまった僕は、手を繋いでることを指摘されない限り平気になってきた。
最近では時々握り返したりもする。まぁでもそうしたが最後、十中八九、恋人繋ぎに変えられてドキドキさせられるのだが……。
隣の月奈さんを横目で見ていると、先に彼女が口を開いた。
「ん~……ジュン君は彼女とか作らないの?」
「あ~彼女ね、彼女、彼女……カノジョ!?」
「そ、彼女。共学だし、告白された経験だってあるんじゃないの?」
「ないよ」
言った瞬間、繋いでない方の彼女の腕が、ガッツポーズの残像を残した気がした。
気のせいだろう。そのまま続ける。
「それにあったとしても――……なんでもない」
否定して、言葉を続けかけてからハッと気付いて飲み込み、福祉盆に返らず、と心の中で呟く。
言ってしまったが最後、とは僕が常に感じていることである。
月奈さんはおよよ? と、わざとらしく首を傾げて僕の顔を覗き込む。そしてニッコリ笑った。
「あったとしても、なにかな? 気になるなぁ~」
「いやっ、たいしたことじゃなくて……」
「そうは見えないけどぉ? さ、言って言って~」
「……こ、告白されたとしても、付き合わない。だ、だって、部屋呼んだら月奈ねぇがいるし気まずいじゃん……」
月奈さんと付き合いたいんだから受けるわけないじゃん、とは言えない。言ったら今度こそ、覆水盆に返らずだ。
前を向いて顔を逸らすと、繋いでいた手が強く握られる。
ドキッとして、赤くなった顔を隠すために顔をそらすと月奈さんがカラカラ笑いながら言った。
「じゃあ私が恋人になれば全てが一件落着だね」
「は?」
「え、だってそうじゃない? 部屋に呼んでも気まずいことなし、いつも一緒にいられてみんなハッピー、どう?」
極論と言えば極論だが、間違ってもいない。むしろ正しい。
月奈さんは繋いでいない方の手でVサインを作り、閉じて開いてニカリと笑う。
思わず頷いてしまうと、急に月奈さんは顔を赤く染めて歩調を速めた。
*
「ジュン君、今日はカーレースしましょう」
夜。ゲームの話である。
いつもは格闘ゲームをしているのだが、今日はなんの心境の変化か月奈さんそう言った。別段、格闘ゲームに深い執着もないので頷いてソフトを開く。
カーレースゲームなら月奈さんと僕の実力は五分五分だ。
ゲームの起動中に月奈さんが軽い声で言った。
「今日は勝敗で次の勝負にハンデを設けましょう」
「どんな?」
「簡単なことです。負けた方が勝った方の膝に座る。
これで勝った方は画面が見にくく、負けた方が画面が見やすく、勝負が均衡するのでは? って思ったんです」
「ふんふん、ま、いいんじゃない?」
話半分、あまり内容を理解せずに頷く。結局何の話だったか頭から抜けてしまったが別に問題ないだろう。
足を投げ出して座り、ベッドにもたれた。
ソフトのオープニングをAボタン連打でスキップして、設定を素早く弄り、ゲームをスタートする。
「まずは1戦目、ですね」
「うぉう!」
結果、僕の勝ち。そして僕が喜ぶ。月奈さんは悔しそうに顔をしかめる。
ここまではいつも通り、今まで通り。
隣の月奈さんが突然、コントローラーを片手に立ち上がる。
次の瞬間、投げ出された僕の足を割り、その間に体を埋めた。そしてそのまま体を僕に預ける。
月奈さんが
「っ!?」
戸月奈さんは僕の肩に頭を預け、首を捻ってイナバウアーするみたいにこちらを見上げて、小悪魔な笑みを浮かべた。
そして後手に僕のコントローラーを弄って2戦目のコース選択を始める。
「ちょっ、月奈さん!?」
「あれ? 言いましたよ私、負けた方が勝った方の膝に座るって。約束を違えるつもりですか?」
「そんなの言って――あっ……言ってたかも……」
話半分で了承した自分を思い出す。間抜けな自分が恨めしい。
あぁ恨めしい恨めしい! 最悪だ!
後悔に明け暮れる僕を知ってか知らずか、月奈さんははにかみながらゲームを開始した。
「はい。じゃあ2戦目しましょうか」
月奈さんは満足そうに上機嫌に鼻歌を歌いながら、カウントが2になってからアクセルボタンを押し込む。
僕は深呼吸を一つ、心の中だけでつぶやく。
——まぁ、これも一興。
月奈さんの重みを感じながら僕もアクセルを踏む。
確かに拒否しなかったことを後悔している。こんなにも羞恥心で悶えそうになるとは思ってなかったし、こんなに密着するとは思わなかったし。
でも、密かにこの状況を喜んでいる僕もいた。と言っても——
ぐわぁぁぁっ、月奈さんが揺れるたびに髪の毛からいい匂いがぁぁぁっ! あと背中柔かぁぁぁいっ!
——理性と羞恥心は叫んでいたが。
「うぅ……また負けました……」
「はぁはぁはぁ……これ精神的にヤヴァイね……」
「ジュン君が私の背中側でコントローラー握るからダメなんですよっ、くすぐったくて集中できませんっ」
なんか理不尽なこと言い出したぞこのメイド……。
疲れ切って返事ができないでいると、勝手に腕を掴まれて、月奈さんのお腹に回される。
座ったまま月奈さんを後ろから抱きしめる形だ。
「これでやりましょう」
「えっ、でもこれじゃあっ!」
「しりませ〜んっだ」
僕が抗議するよりも先に、月奈さんがゲームを開始してしまう。今から腕を解いてもどうすることもできない、と結論付けてアクセルを踏んだ。
月奈さんはカーブのときに体ごとハンドルを切るから、腕に服のパッツリしたところの下側に触れる。腕が沈み込みそうなほど柔らかくて、気持ちがいい。
離れてしまうのが名残惜しくて勝手に腕が上がってしまう。
それに気づいて慌てて腕を下げるとまた、月奈さんがまたカーブを曲がる。
その繰り返しの中、よくやったと思う。最後は月奈さんをNPCが妨害してくれたおかげでなんとか勝った。
「あ……負けちゃいました……」
月奈さんは暗い声でそう言う。手加減したほうがいいのかな、と思いつつ後ろからこっそり横顔を覗くと、なぜか彼女は笑顔だった。それに少しだけ頬が赤い。
首を傾げつつ、胸の魅惑から逃れるために僕は口を開いた。
「す、座り方変えたいからどいてもらってもいい?」
「え〜……まぁ、いいですけど。はいどうぞ」
月奈さんが立ち上がると、目の高さでひらりとスカートが揺れる。ドキッとしながら足を組んであぐらをかく。と、今度は月奈さんは僕の太ももに座った。
背中が密着しない分、そして形的にぴったりフィットしてしまう分、彼女のおしりの感触を膝で敏感に感じてしまう。
「ん〜ここかな? ん、ここですね」
もぞもぞと腰を揺らして、ようやく気に召した位置を見つけたのか、月奈さんが本格的に座る。
足が、月奈さんの足に挟まれる。柔らかい足に、僕の足が飲み込まれていく。
ずっと前から高鳴っていた心臓がさらにその音を大きくした。
「じゃ、スタートです♪」
今度こそ、僕は負けてしまった。
*
「やったー、私の勝ちで~す♪」
「っ……」
「さ、位置交換です。はい、座ってください」
月奈さんが僕から降りて隣に座り、その足を開く。
固まっていると強く引っ張られて、木偶の坊みたいに操られるがまま僕は彼女の股の間に座っていた。
「っ——」
ずしっ
肩が重くなり、そちら側の耳をサラサラな髪の毛が撫でる。
横目に見れば、月奈さんが僕の肩に顎を乗せていた。
いつの間にかおなかに回されていた腕が僕をホールドして、後にリクライニングさせる。
背中に当たる柔らかいスイカが、ふにふにの二の腕が、圧倒的に僕の理性をそぐ。
「へへん、ちょっと今までドキドキさせられて、ぜんぜん負けた側のハンデになってなかったので仕返しです。
まぁ、負けても嬉しかったですけど。
さ、続きやりましょう」
耳たぶに彼女の唇を感じると同時、囁かれる。
恥じらうような、でもって小悪魔な声に心臓が果てしなくその鼓動を加速させる。
「ドキドキ、してるんですね。ふふっ」
絶対、勝てるわけがなかった。
それから寝るまで、ずっと同じ体勢だった。
PS:ちょっとぐちゃぐちゃかもです。ごめんなさい。
コメント返信はもちろん私、月奈が担当します♡
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます