第22話 僕の保護者のえろえろメイドは、僕と走って狂いだす
「私はふと思ったことがあるのです」
「……文語的な口調はなに? あとその入りって大体お世話と称しての悪巧みだよね? もうパターン入ってるよ?」
「……続けますね?」
一瞬の沈黙が恨めしい。
月奈さんは正座したまま、ただ一点……紅茶のティーカップの中の、揺れる水面を見つめて口を開いた。
「ジュン君とかけっこをしたことがないと」
「……警察って110だよね?」
僕は迷わず、スマホの防犯ブザーアプリをタップした。
*
「びっくりしましたよ、全く……」
「僕の方がびっくりだよ! なんで保護者が月奈さん設定になってるのさ! あとけっこう音量高かったしっ」
一応僕はボンボンの坊ちゃまなので、スマホにはGPS機能とか遠隔式録音・録画機能とか、それ以外にも僕の知らない機能がたくさん盛り込まれている。
プライバシーのヘッタクレもないことは既に諦めているとここに記そう。
で、僕が先ほど使った防犯ブザー機能はスマホの保護者・管理者の元にメールが自動で届くようになっているのだけれど……。
ブザーを鳴らした瞬間、月奈さんにメールがいったのだ。
完全防音とはいえ、さすがにうるさいのでブザーを切り、無言でかけっこの準備を始めたわけだが……。
「まぁ、私がジュン君のお世話係なので。さ、それより準備運動してください。怪我されたら困るので。
ん~……久しぶりの体育着もいいですね~」
月奈さんはどこ吹く風、ストレッチをしながら喋り続ける。
屋敷の――と言うより少し小さめ校庭並の――うん、校庭。
トラックの中にテニスコートとかもあって、小さめの体育祭なら開けるレベルだ。別に開くメリットはないけど。
ちなみに実際、毎年メイド達が運動会を開いてたりする。
で、本筋に戻ろう。僕は徒競走をするハメになっていた。
まぁ、それはいい。まだ納得できる。
ただ一つ、許せないことがある。
月奈さんが長袖、長ズボンのジャージを身にまとっていることだ。僕はてっきり半袖半ズボンでやるのかと思っていた。
期待させやがって、と心の中で大きく舌打ちをすると、月奈さんが首を傾げたので、なんでもないと
足も腕もダボダボしてるジャージなものの、出るところは出てる月奈さんなので、相変わらずそこはパッツリしている。
各部位のギャップのエロさで我慢することにした。
「ジュン君って50m走って何秒台ですか?」
準備運動に軽く縄跳びをしながら言う。ちなみに二重跳びを素面でこなしているので相当運動はできるのだろう。手強いかもしれない。
捲れるジャージから覗く白いシャツを注視しつつ、答える。
「まぁ7秒後半ぐらいかな?結構遅いよ?」
ウソだ。実は七秒前半だったりする。ちなみに10m走なら誰にも負けない自信がある。
おい、加速力だけが自慢の小動物って言ったヤツ。今すぐ出てこい。ひねり潰してやる。
脳内のツッコミ役に殺害予告を出しておいた。
月奈さんは聞いておきながら興味なさげに鼻を鳴らして、縄跳びをやめてその場に放る。
「それじゃ、やりましょうか。ハンデでジュン君がスタート合図していいですよ。なんなら一秒待ちましょうか?」
「なっ――ソコまで貧弱じゃないし!」
「そうですかぁ? 私、足には結構自信あるんで」
煽り気味に、ジャージの上から足をなで上げた月奈さんはズボンに手をかけて……下ろした。
意思とは真逆に開こうとするまぶた。重い腕に命令して、目を手で覆って見ないようにする。
指の隙間が微妙に開いてしまっているが、不問だ。
見ないように目をそらしつつ叫ぶ。
「ちょっ、何をッ!?」
「なにって……ズボン、脱いでるだけですけど」
「だ、ダメでしょ!いくらなんでもっ――」
我慢できなくなって彼女に目を移すと……。
「短パンです。変態ジュン君」
なんと、月奈さんはジャージのズボンの下に短パンをはいていた。さらに上のジャージも脱いで、半袖半ズボンになる。
怒りも驚きも我も忘れて、短パンから伸びるすらりとした白くて綺麗な足に見惚れる。相変わらずパッツリしてるそこをながめる。
予想以上に素晴らしい光景だった。
うん、綺麗だ。
「何見てるんですか?」
「っ、い、いや、なんでもないよ?」
「そうですか?とてもいやらしい視線を感じたのですが……」
「さぁ? なんのことやら……」
「ジュン君がさっきからジャージ脱ジャージ脱げって念仏唱えてましたけど? まぁ、見てくださって構いませんけど」
「なっ——く、口に出てた?」
その瞬間、月奈さんがきょとん、とした顔をして僕を見る。
そして体をくの字に折って笑い始めた。
「あはははっ、本当にそう思ってたんですか!? カマかけ半分で言ったんですけどっ……くくくくくっ……ジュン君面白いですねっ、そんなに私の体育着姿みたかったんですか!?」
……一人で先に走って、顔の火照りをごまかすことにした。
決して、遠くからでも彼女の生足を観察していたかったわけではない。
*
結果、僕の完全敗北。月奈さんがめちゃめちゃ速かった。
揺れるソレ、を見てる暇がなかったのが一番後悔してること。負けるとわかってたなら後ろからでも観察したのに……。
そんな変態的妄想を広げながら、空を見上げるように地面に寝転んで息を整える。
月奈さんが頭の上から顔を出した。
その顔は少し汗ばんでいて、火照っている。かかる息が、とてもいい匂いで、肺が満たされて、脳が焼けそうになる。
「んへへ、私の勝ちですっ」
「はぁはぁ……僕の……負け……」
「そうですね。じゃあ負けたほうが勝ったほうにお水を飲ませてもらうって罰ゲーム、しましょっか」
「っ……い、いつそんなっ——」
「今作りました。はい、どーぞ」
抵抗する間もなく、唇にペットボトルがあてがわれ、口の中に水が注がれていく。
拒否しようと口を閉じれば、鼻に水が入りそうだったので無抵抗で水を飲むことにした。
「ん〜……可愛いです、ジュン君」
「っ——! ごほっ、ごほっ……!」
「わわわっ——!」
むせて、咳き込んで、水が口から吹き出て、すぐに体を起こすと、月奈さんが珍しく焦った声を出した。
振り返ると、彼女の顔に僕のぶちまけた水が盛大にかかっていた。
「ごっ——! ごめんっ、何か拭くものを——」
「……いいです……。失言した私が悪いですし」
月奈さんはそう言いつつ、目を閉じて顔を拭う。
そして目を開けて、何か思いついたのかいたずらっ子な笑みを浮かべて、頬を垂れる水を指ですくって、口に運んだ。
入れる直前で止めて、にやっと目を細める。
「これ、のんだらどうなるんでしょうね」
「っ——」
「いっただっきまぁ〜す♡ んっ、んくっ……」
月奈さんが指を咥え、喉を鳴らす。
そして調子が乗ったのか、次々に水をすくって飲む。
頬者上気して赤く染まっていて、目は扇情的に潤んでいた。
彼女はにっこりと笑う。
「おいしぃですっ」
「ぅ……ぁ……あ。あ、あぁぁぁああ!」
たった今走ったトラックを、もう一度走ることにした。
同じことをやり返せばよかったと気づいて、でもそれしたら僕の心が持たないと気づいて、結局何もできなかった。
ただ、月奈さんがペットボトルを傾けて喉を鳴らすのを見るだけだった。
PS:東京の地価の話を持ち出したら刺します。
大金持ちすぎてあり得ないとか言ったら刺します。
だってっ、私たちの愛にお金なんて――ッ、な、なんでもないですっ……(また自爆しちゃった……)
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