第21話 どうしても着替えを見たいあざといメイドは、僕の足を支えたい
「僕ことジュン、復活!」
「……微妙に厨二病患者にも健常者にもなりきれてなくて違和感が渋滞してます」
「ごめん。途中から厨二病のフリをするのが恥ずかしくなった」
「……ホントにフリですかねぇ、疑わしいですけど。
まぁ回復おめでとうございます。それとおはようございます。
私としてはもう少しジュン君の看病とか看病とか看病とかしたかったので、もう少し風邪を引くてくださっても良かったんですが……」
「……聞かなかったことにしとく。ってことでおはよ。さ、着替えるから出てった出てった~」
誰も好き好んで風邪を引いたわけではない。
まぁあんな看病をされたら誰でも風邪を引きたくなるかもしれないけど……って、別に僕はそう思ってないけど!
心の中で自分にツッコんで顔をあげる。けど、月奈さんはその場を動いていなかった。
ただ僕を見る。僕のおへそあたりをじっと見る。思わず服の上からおへそを抑えて、自分の幼稚な動作に恥ずかしくなる。
それでも、月奈さんは微動だにしない。
「どうしたの?」
「私はジュン君のお世話係なので。今日こそはお着替えのお手伝いをっ、と思いまして」
お手伝いをっ、の瞬間にガッツポーズしたように見えたのは気のせいだろうか。残像がうっすら見えた気もする。
「って、この間と同じ要求をしてこないで!」
「看病をしたら人は心を開く、と聞いたことがあるのですが」
「なにそれ。嘘じゃないの?」
「もしかして着替えを手伝われるんじゃなくて手伝いたいんですか!? わ、私はっ、ジュン君がどうしてもっ、と言うのなら……やぶさかではありませんが……」
「はぁ……疲れる……」
わざとらしすぎる焦り方に返す言葉もない。
なんで言葉が通じないんだと疲労困憊、ため息をこぼす。
「ふふっ、お疲れ様です」
月奈さんはどこ吹く風で僕を労って、くすりと柔らかい笑い声を残して頭を下げて、部屋を出て行った。
その背中を見て、思う。後悔する。
昨日、着替え見ておけば良かったかも……。
後悔で頭を抱えながら、クローゼットを開いた。
*
「月奈さんはなんでそんなに僕に構うの?」
「ん? どういうことですか?」
帰宅後。
勉強をしながら、あたりまえのように僕のベッドに腰掛けて本を読む月奈さんに聞く。
月奈さんはコテンと首を傾げて聞き返した。
「どうして業務の範疇を超えたレベルで接してくるのかなぁって。優しい人、ってくくりにしても……言い方悪いけど過剰、っていうか?」
「……イヤですか?」
「イヤなわけじゃないよ。でも不思議で」
「ほっ……安心です」
心の底からの安堵の息に、なんか背中がむずがゆくなる。
月奈さんは長い沈黙を作って、口を開いた。
「私はジュン君のことが好きだからです」
「っ——へ、変なことを突然に言わないで!」
「変でもないです。私はジュン君のことが好きで、好きで好きでたまらないだけです。だから、こうやって――」
「っ、どうせ人としてとかそういうことでしょ!? 知ってるからっ、僕のことからかってるだけなんでしょ!?
僕一応思春期の高校男子なんだからそこんところ気にして欲しいんだけど!」
こうやって、の後を遮るように口を開いてしまう。
こうやって好き好きアピールをしてるんです、とか続いたのかな?と期待八割の妄想を胸に月奈さんを振り返ると、彼女は不満げな顔をして見せた後、ため息を一つ。
軽く両目をつむって肩をすくめた。
「さぁ?しりません。恋愛感情コミコミかもですね」
彼女はドキッとする僕を見て、小悪魔にチロリと舌を出した。
あざとすぎて、僕の性壁に『思わせぶり美少女』が追加された。それほど好きだ。
*
「ジュン君。何をしているんですか?」
「なにを、って……腹筋っ……だけどっ……」
心の中で回数を数えながら答える。
お風呂上がり。
お風呂の中で聞いたラジオによると、『そうは見えないけど実はシックスパック』な男はモテるそうだ。
それが月奈さんに通用するかはさておき。
だって月奈さんにモテたいわけじゃないし。
バカみたいなツンデレを脳内でかましていると月奈さんが先に口を開く。
「腹筋、ですか。そういえば先ほどのラジオで『実はシックスパック』はモテるって言ってましたね」
「っ――へ、へぇ~そうなんだ」
「あれ、ジュン君は聞いてなかったんですか?」
「う、うん」
月奈さんが同じラジオを聞いていたことに驚きつつ、ウソをつく。もし僕がラジオを聞いたのがきっかけで腹筋を始めた、と言えば、月奈さんに、誰にモテたいのかしつこく問い詰められるに決まってる。
「じゃあ別のチャンネル……? 周波数測定器壊れちゃった……?」
「ん? なんか言った?」
「いえ、なんでも」
口に手を当てて、ニッコリと笑った月奈さん。
目が笑ってないのを見ると、追求は許さないぞという意思だろう。怖いからやめて欲しい。
目を逸らして敵対の意思はないことを知らせると、月奈さんが表情を改めて笑顔にして僕の前に正座した。
「足、支えてあげましょうか?」
「こ、ことわる!」
「ちぇ……つまんないです」
月奈さんは小さく舌打ちをして、僕を軽く睨んだ。
可愛いけど、ダメなものはダメだ。
視線だけでそう訴えると、月奈さんは勘違いしたんだろう、にっこりと微笑んだ。
「今度、ジュン君が素直になった時にしてあげます」
「いや違うから!」
「もう確定事項なので」
僕は腹筋をやめてその場に寝転がる。
もう二度と腹筋なんてするもんか。そう心に誓った。
*
「月奈さん」
「何ですか? そんなに改まっちゃって」
「えと~……」
部屋の真ん中。
正座して月奈さんの方を向く。
そのまま床に三つ指を立てて、頭を下げた。
「いつも、ありがとうございます」
「なっ――な、なんですか、いきなりっ」
月奈さんが裏返って焦った声を出す。
どうやら不意打ちの作戦はとてもよく響いたようだ。と言っても、本心8割、残りの2割だけがドッキリ精神なんだけれども。
今の月奈さんの表情が気になるのを堪えて、床を見つめたまま続ける。
「いや、いつもお世話になってるし。最近お世話係ってよく言うようになったから、感謝を求めてるのかと思って。
ということで、感謝してます。いつもありがとう」
「そ、そういう意味で言ってたじゃないんですけど……ど、どういたしましてです」
「これからも、よろしくおねがいします」
「っ、は、はい……。ちょ、ちょっとタイムです」
我慢できず顔を上げると、月奈さんがほんのり赤い頬を両手で挟んで深呼吸していた。
その動きが小動物みたいで可愛く見える。
「すぅぅぅっ……はぁぁぁ……」
僕と目が合うと、慌てたように顔を背ける。でも耳が赤い。
荒い息を数秒続けた後、彼女は振り返える。その時にはもう、耳以外は普通に戻っていた。
そのまま、ぎこちない笑みを浮かべて明るく言った。
「じゃあこれからもいぃ~っぱいっ、お世話させていただきますね♪」
「っ……へ、変なことはしないでね?」
「善処しますっ♡」
ハートマークがつくほど甘い声で言った後、月奈さんが僕に抱きつこうとする。
それを躱すとギッと睨まれて、その目が捕食者の目で怖くて怯えると、今度はそれを受け入れるように柔らかく、軽く肩をホールドされた。
体を離すときにこちらに微笑みかけてきて……めっちゃ恥ずかしかった。
PS:(本日は作者である私が書かせていただきます)
昨日は更新、勝手にお休みしてごめんなさい。今後も、このようなことが起こりえるかもしれないので、先に謝罪いたします。
もうしわけありません。
その代わりと言ってはなんですが、『ぼくはな』(うしろの席の美少女が、僕をつかんで放さない)の第2部予告をいきあたりばったり、思いつきで投稿いたしました。
宜しくお願いします。
コメント返信は相変わらずです。
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