第6話 耳かきしたい天邪鬼メイドは、僕にスカートをのぞかせる




 風呂上がり。

 最近はお風呂から帰ってきても、月奈さんが部屋にいることが多い。

 特に何かするわけでもなく、僕が寝るまで延々とおしゃべりをする。

 だが今日は違った。彼女は言った。


「さぁ、ジュン君。ここに来てください」

「……断る」


 僕は知っている。

 月奈さんがなぜそんなことを言ったのか。

 月奈さんがなぜ正座をしているのか。

 月奈さんの横に何故綿棒があるのか。

 僕は、知っている。


「耳かきなんてさせないっ! それぐらい自分でするからっ!」

「むぅ……」


 月奈さんがなにかを言う前にそう叫ぶと、彼女はぷくぅっと頬を膨らませた。そのほっぺをつつきたいと思ってしまった自分を諌める。

 月奈さんはむくれた声で駄々っ子のように言う。


「私は今、ものすごく耳かきをしたいんですっ!」

「自分のですればいいじゃんか! 人にしないでよ!」

ジュン君の耳かきをしたいんですっ!」

「……どうせ今朝みたいに耳の中に息入れるつもりでしょ……」

「……まぁ、耳垢を外に出すためには必要なことですから……」


 それまで威勢の良かった月奈さんはバツが悪そうに目を逸らした。

 こやつ、確信犯だ。

 手持ち無沙汰に膝の上で手をスリスリするする月奈さんを見て、心の中でそう呟く。

 沈黙が数秒、月奈さんはあきらめたように口を開いた。


「………そんなにされたくないのなら仕方がないです。弟様の耳かきをしてきます」

「え?」

「言いましたとおり、すっごく耳かきをしたいんです。私はジュン君の専属メイドですが、浮気してきます。弟様の耳かきをして参ります」


 目がマジだった

 彼女は床に広げていたホットタオルとか綿棒とかピンセットとかを集めて立ち上がる。


 胸の中を、モヤッとした感情が走った。

 弟が月奈さんに膝枕してもらってる、その絵を想像するだけでイヤだった。脊髄が脳からの「恥ずかしい」の信号をシャットアウトして、体を動かす。

 僕は、すれ違いかけた月奈さんの手首をつかんでいた。


「みっ……み、耳かきっ! してっ! 僕の!」


 彼女を見上げると、唇の端が悪魔のように吊り上がった。

 嵌められた、と気付いた。でも、それでもよかった。



 *



「ふ~」

「ひぅっ!……くっ……殺せ……」


 ぶぅぉぉぉと音を立てて耳の中に彼女の息が入ってくる。

 何度目かの、自分の声とは思えない悲鳴がして、気付けばそう言っていた。触手に辱めを受ける銀髪女エルフ騎士の気持ちが分かった。


「イイ反応しますねぇ~♪」


 やや楽しげに月奈さんが言う。くやしさに唇を噛み締める。

 悔しさ、敗北感が全て不満へと変わり蓄積してく。


 綿棒が優しく耳をこする。冷たい月奈さんの息が耳をくすぐる。

 否定しようがないほど、気持ちよかった。

 それが一層、僕の不満を募らせる。


 だけどその不満は全て、弄ばれてるのとは反対側の耳へと落ち、そのまま彼女の太ももに吸収されていく。

 いつもはロングスカートなのに、今日はミニスカートだった。

 いつもはストッキングをはいているはずなのに、今は素足だった。

 僕は彼女の太ももの上に直接、頭を乗せていた。


 スベスベでハリがあって柔らかくて、ハッキリ言って性的な興奮を催す感触だった。ドキドキした。愚息が大変なことになりかけていた。


「ん~ちょっとじっとしててくださいね~?」


 月奈さんの指が僕の頭を固定するべく顔を這う。視界が彼女の指で覆われる。その暖かい暗さに溺れてしまいそうになる。

 僕の耳の中を覗き込もうとしているのか、彼女の吐息や胸の柔らかな部分が頭を覆われる。その甘い柔らかさに溶けてしまいそうになる。

 溺れたくなる。溶かされたくなる。


 破れかけた理性を、自分の足に爪をたてる痛みでつぎはぎする。

 ただ、指の隙間から見えるカーペットを睨むだけだった。



 *



 でも、今、睨む先は――


「あれぇ?ジュン君、どうしたんですか、私のスカートそんなに睨んじゃって。もしかして……ナカ、みたいんですかぁ♡」

「ち、ちがっ!」

「暴れちゃダメです。鼓膜、破っちゃうかもしれませんので」


 暴れようとしてかけられた一瞬にして冷えた声に、その光景がリアルに想像できて肝が縮んで固まる。

 と、同時に、彼女のスカートが少し捲れてドキリとした。


 反対側の耳。

 必然的に月奈さんのスカートの方に顔を向けるわけで、見えそうで見えないそのスカートナカが、とてつもなくエロかった。

 影で見えないその奥に、影と思ってるところがすでに、彼女のパンツなんだと思うとドキドキする。


 少し顔の傾きを変えて、月奈さんをこっそり見上げる——と。

 その顔は真っ赤っかだった。頬も目の下も耳も、赤く染まっていた。

 その顔は、小悪魔的な行動と声とは全くの逆で、乙女チックで、照れ屋で、恥ずかしがってる少女で……。

 ドクドクと心臓が鼓動を速める。


「かわぃ……っ――」


 思わず、口から本心がこぼれ出た。


 言った瞬間、月奈さんの顔からぼふっと音を立てて火が吹き出た。ぷるぷると腕が震え出す。

 どこか一点を睨みながら、顔とは裏腹に小悪魔な声を出す。


「なんですかぁ? ジュン君っ、もしかして私のパンツ、見ちゃいましたぁ? 今日っ、お花の模様なんです♪ えっちですねぇ♡」


 だけどその言葉にドキドキする分の空き地はなかった。

 パンツの柄なんて想像する暇もなかった。


 月奈さんは赤い顔のまま続ける。


「何でだと思います?それは~、ジュン君に見せ――」


 そこでようやく、僕に目をむけた。

 僕と目が合って数秒、フリーズ。


 そして解凍。

 月奈さんは乱暴に僕の耳から綿棒を抜き、僕を突き飛ばす。

 メイドとしてあるまじき行為だ。

 素早く身を立てると、月奈さんは顔を真っ赤にして、綿棒を宙に放り投げて、僕より先に叫ぶ。


「なっ、見てッ! 見てたんですかっ!?」

「見えたんだよッ!」

「ジュン君のバカっ! バカですっ! 乙女になんてことをっ!」

「ひどっ……か、顔見られたくなかったんなら隠しとけばいいじゃん!

 僕の事からかおうとして自分が顔ッ、赤くするなんて月奈さんがバカじゃん! なに自爆してるのさッ!? スカートだってミニスカだしストッキングだって履いてないし! 何がしたいの!?」


 その瞬間、月奈さんの勢いが消える。

 僕から目を逸らし、顔を刷毛で塗ったように赤く染める。

 小さな声で、もごもごと言った。


「お、乙女は……きな人に膝枕したら……顔、赤くなっちゃうんです……。だって、うれしぃし……」

「あぁんっ!? 聞こえないッ!」

「なんでもないですっ! 失礼しました! おやすみなさいッ!」


 月奈さんはそう叫んで逃げるように僕とすれ違い、部屋を出て行った。

 扉が閉まってから、心臓が思い出したようにバクバクと跳ねる。


 扉に背を預けて座り込むと、なぜかその扉を挟んで、月奈さんがいるように思えた。

 実際そうだったりするのは、知らない。



 あと、頭と足の位置を180度回転させてから、背骨を軸として回転すれば、月奈さんのスカートを見る必要はなかったと、今更気づいた。

 でも、耳かきされてる最中に気づかなくて良かったと、安心している自分には気づかないことにした。








PS:膝枕……えへへ……できちゃいました……。

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 コメント返信は私が担当させていただきますっ

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