七節 「ひどく情熱的な」
食事が終われば、教会堂でのお祈りの時間である。ウィ―ダム達は食事を終え、廊下を歩いていた。ウィ―ダムの右隣にはジョエルが、左には手を繋いだリトリーがいた。少し先ではハニーが手を後ろ手に組みながら歩いている。
ハニーはまだ未練タラタラだった。どうしてもウィ―ダムにおしゃれさせたいのだ。
「ねえ、やっぱりもったいないと思わない?」
ハニーはウィ―ダムに顔を寄せて言った。
「思いません」
ウィ―ダムはきっぱりと自分の意思を伝えた。見た目は女でも、中身は三十代の男であるのだ。女物の服など着せられたらたまったものではない。。
「ウィ―ダムきれいな白髪してるんだしさ、黒のスカートとかきっと似合うと思うよ」
ハニーは目力をこめてじっとウィ―ダムを見つめた。ウィ―ダムはのほほんとした視線で見つめ返した。
「おしゃれしたくない?」
「褒めてくれるのは嬉しいですが、遠慮しておきます」
即答であった。
「もったいなーい!」
大げさに両手を上げたハニーはその場で意味もなくぐるぐると回り始めた。体の中をウィ―ダムに女の子の服着せたい欲が駆け回っていて、じっとしていられないのである。
「絶対似合うのにー! ジョエル達もそう思うでしょ?」
ハニーはジョエル達に助けを求めた。彼らを説得できれば、ウィ―ダムも言いくるめられるかもしれない。
「うん、僕おしゃれとかわかんない」
ジョエルはいい笑顔で言った。彼は関心のあること以外はからっきしなのである。
「この前見せてあげた服あるでしょ。あんな感じだよ」
男所帯の孤児院にはおしゃれを共有する相手がいない。だからハニーは、同室のジョエルや隣の部屋のディーンなどを強制ファッションショーに招待し、毎日おしゃれの普及に努めているのだ。なお、その成果は未だ微々たるものである。皆なんだかんだ言ってハニーのファッションショーに付き合ってあげるのだが、それとおしゃれに関心を持つことは話が違うのだ。
ジョエルは指を顎に当てて、強制ファッションショーでの記憶を探った。確かハニーは、こう、ひらひらがいっぱい付いた服をたくさん作っていたはずである。そういうのをなんというのだったか、確か……、
「フリフリ?」
「そう! フリフリ。ちょうどウィ―ダムくらいの身長だとよく似合うはずだよ。ボクが保証してあげる」
ハニーは自分の審美眼には自信があった。なんてったって今のウィ―ダムかわいらしい顔をしているのである。多少装飾が多くなっても、きっと似合うはずだ。それを着て町に出ろとは言わないが、せめて一目見たいのだ。
「似合いませんよ、ああいうのは子供が着るものでしょう。私はもう三十歳を超えてるんですよ」
ウィ―ダムは首を横に振った。今でこそこの姿であるが、自分は元々いい年をした男なのだ。年甲斐もなくはしゃいだところで不格好なだけだろう。
「でも、ウィ―ダムもフリフリ好きでしょ? 見せたらいつもかわいいって褒めてくれたじゃん」
子供に甘いウィ―ダムなら、きっとハニーが何を着てもかわいいと褒めるだろう。そのため、彼の誉め言葉は大体なんの指標にもならない。
「それはハニーだからですよ。あなたはきれいですし、とても優しい子です。どんな格好でも似合うに決まっています」
ウィ―ダム本心からの言葉をハニーに伝えた。
ハニーは照れくさそうに下を向いて、頬をポリポリとかいた。嬉しくなってウィ―ダムに抱きつこうかと思ったが、ジョエルがガードしてきたので失敗した。
「そ、そうかな。きれいかな。ありがと」
「また素敵な服を作ったら見せてくださいね。ハニーが楽しんでいるのを見るのは私も好きですから」
「うん!」
ウィ―ダムとハニーは笑いあった。
二人の話を聞いていたジョエルはハニーを羨ましく思った。ジョエルはウィ―ダムの前に身を乗り出して言った。
「だったら、僕もフリフリした方がウィ―ダムは嬉しい?」
おしゃれはよくわからないが、ウィ―ダムが喜んでくれるなら着てあげたい。ジョエルが聞くと、ウィ―ダムは優しく答えてくれた。
「ジョエルが着てみたいなら着るといいですよ」
ウィ―ダムの言葉を聞いたハニーは興奮して鼻息を荒くした。ハニーにとっては、ウィ―ダムだけでなくジョエルも逸材なのだ。女性顔負けの滑らかな長い髪に、幼さを残した輪郭と大きな瞳。きっと女装がよく似合うだろう。元々はウィ―ダムを着替えさせるために始めた説得だったが、まさかジョエルが引っかかるとは。
ハニーは片足立ちでジョエルをビシッと指差した後、ウィ―ダムに顔を向けた。
「いいね! ついでにウィ―ダムも一緒に」
おしゃれしない? という言葉は遮られて最後まで続かなかった。
「遠慮しておきます」
「じゃあリトリーが着る?」
ハニーは狙いをリトリーに変えた。ジョエルとリトリー、両脇の二人がおしゃれすると決めたなら、間にいるウィ―ダムもオセロみたいに意見がひっくり返っておしゃれしたくなるのではないか。
そんなことが起きるはずもないが、ハニーは期待してリトリーに詰め寄った。少し迷った素振りを見せた後、リトリーは俯きがちに答えた。
「一人で着るのは恥ずかしいかな……」
手応えありである。ハニーは畳みかけた。
「ボクが一緒に着てあげるよ! 一緒にファッションショーをしよう!」
「いいですね。それでハニーにお願いしたらどうですか?」
ウィ―ダムはハニーの意見に同意した。リトリーはとてもかわいらしいから、きっとおしゃれもよく似合う。どんな服を着せるのかは知らないが、リトリーのなら見てみたいと思った。
ウィ―ダムがリトリーに視線を向けると、リトリーもウィ―ダムを見返した。
「お父さんと一緒がいいな」
「えっ、私ですか」
「うん。……ダメ?」
一緒とは、おそらくおしゃれを一緒にしたいという意味だろう。だが、リトリーのお願いとはいえ女物の服を着るのはやはりはばかられた。
「ダメではありませんが……私も恥ずかしいですし……」
三十年間生きてきて、そのほとんどを神父服か安物シャツで過ごしてきたのだ。初体験……というと変な感じだが、初めてのおしゃれが息子が用意した女物の服を着ることだなんて。
「よーし、じゃあ決定!」
ハニーが嬉しそうに声を上げ、ウィ―ダム達に歩み寄った。ここは余計なことを考えられる前に押し切る場面だとハニーは判断した。押して押して、どうにかウィ―ダムにおしゃれをさせるのだ。
「リトリーとウィ―ダムは身長近いし、二人で同じ服着れるね! ジョエルはボクの貸してあげる。ちょっとサイズ小さいけど、楽しむ分には大丈夫だよね!」
「やった~。楽しみ」
ハニーの本意など知らずに、ジョエルはのんきに喜んでいた。
勢いに押されて皆で着る流れになってしまったが、ウィ―ダムはまだ不安だった。自分などが着ても周りに気を遣わせてしまうだけではないか?
「楽しみだね、お父さん」
だが、嬉しそうなリトリーの顔をみてどうでもよくなった。皆が喜んでくれるなら、まぁ、いいだろう。見られるとしても孤児院の皆だけだろうし、よほど変わったものを着させられることもないだろう。
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木造の教会堂で、ウィ―ダムは祭壇の前で跪き祈りを捧げていた。子供達のほとんどはお祈りを終えて出て行ってしまい、まだ残っているのはウィ―ダムとジョエルだけだ。
(神よ、どうして私の姿は変わってしまったのでしょう)
問いかけても答えはない。古びた聖書に、灯りと果物が乗せられているだけの質素な祭壇は沈黙を保ったままだ。
(性転換が禁忌とはどういうことなのでしょうか。私の読んだ聖書は間違っていたのですか)
物心付いた頃から教会に関わり続けてきたウィ―ダムにとって、自身が禁忌を冒しているという事実は辛いものだった。どうして自分が、そう考え出すと悪いイメージが止まらない。
ウィ―ダムは祭壇から聖書を取り上げた。先代からの話によると300年以上前から受け継がれてきたらしいこの聖書は、少年時代のウィ―ダムに大きな影響を及ぼした。
ウィ―ダムには昔の記憶がない。彼の記憶は教会でシスターに抱きかかえられている場面から始まっている。とても暖かい場所にいるのだが、辺りは変に静かで誰もいない。ウィ―ダムじっとシスターの顔を見ると、彼女は優しく笑いかけてくれる。次の記憶では教会堂で掃除をしていて、シスターが忙しく内装を整えているところだ。
ふっと風が吹いたのを感じてウィ―ダムは後ろを振り返った。いつの間にか近づいてきていたジョエルがウィ―ダムの顔を覗き込んでいた。
「ジョエル」
「うん? なに」
ウィ―ダムに声をかけられ、ジョエルは首を傾げた。
「お祈りはもういいのですか? 今日は、とても真剣にしていたようですが」
さっきまでのジョエルは教会堂の長椅子に腰掛け、目をつむって熱心に祈りを捧げているように見えた。普段お祈りの時間は寝ているかぼうっとしているのがジョエルなので、ウィ―ダムは不思議に思っていたのだ。
「真剣っていうか、なんだか……どう言えばいいのかな。今日はいっぱいお祈りできる気がしたんだ」
ジョエルは自分でも何を感じたのかわからないようだった。だが、理由がどうであれ、熱心に祈りを捧げるのはよいことだろう。
ウィ―ダムはジョエルに笑いかけた。
「それはいいことですね。私はもう少しここにいますから、ジョエルは先に出ていてください」
自分のお祈りに付き合わせることはないだろう。ウィ―ダムはジョエルに外で遊んでくるように勧めた。
「うん……ねぇパパ。何考えてたの?」
戸惑った様子で言ったジョエルは、祭壇の前で跪くウィ―ダムの隣に腰を下ろした。
「困ってる?」
(私が?)
「困ってるように見えましたか?」
ウィ―ダムが尋ねると、ジョエルはこくりと頷き、自分の指で顔をぐにぐにとこねくり回し始めた。
「見えたよ、こう、ギュ―ってした顔だった」
指を使い、眉をしかめてジョエルは苦悩している顔を表した。しかし口が笑っていたので、ウィ―ダムからはジョエルがとてもまぬけな表情をしているように見えた。
ウィ―ダムの口から思わず笑いがこぼれた。
「ふふ、それでは困ってるようには見えませんよ」
「え、ホント? どうしたらいいのかな」
そう言ったジョエルは本当に困ったような表情をしていた。
「こうやって眉をよせてですね……怒ってるぞーって雰囲気を出すんです」
「わぁ、パパの顔迫力なーい」
ウィ―ダムの顔を見て、ジョエルは楽しそうにケラケラと笑った。
「むぅ、そうですか? では、こう」
ウィ―ダムは目元を指で引っぱって伸ばした。
「変な顔~」
またジョエルが笑った。つられてウィ―ダムも笑って、教会堂の中は一気に明るくなった。
ジョエルがウィ―ダムに抱きついてきた。ウィ―ダムは受け止めようとしたが、思った以上にジョエルが大きくて尻もちをついた。
「ああ、本当に大きくなりましたねぇ。ジョエル。この前までもっと小さかったのに」
ウィ―ダムはジョエルの肩を抱こうとしたが、腕の長さが足りず逆にジョエルに抱えられる形になった。
ジョエルは自分の額とウィ―ダムの額をこつんとぶつけて引っつけた。ジョエルの顔がすぐ目の前に来て、ウィ―ダムはなんだかどぎまぎしてしまった。
「パパはすごくちっちゃくなったねぇ。前までは僕よりおっきかったのに」
「本当にそうです。ジョエルを抱いてるとよくわかります」
ジョエルは鼻でウィ―ダムの髪をかきあげた。バニラのような甘い香りがした。それがくすぐったかったのに加えて、引っついてきたジョエルがとてもかわいらしく感じたので、ウィ―ダムはくすくすと笑った。
「ねぇパパ、さっき何考えてたの?」
ジョエルが尋ねた。
「おや、ジョエル、お祈りの内容は誰にも言ってはいけないと教えたでしょう?」
「そうだけど気になっちゃって。ダメ? 言ったら神様に怒られる?」
困ったような声色のジョエルだった。
「そうですね、怒られるかもしれません。だから、今から言うことは私達だけの秘密ですよ」
「うん!」
そう言ってウィ―ダムから体を離したジョエルは、ウィ―ダムのすぐ前にちょこんと座った。ジョエルとウィ―ダムのつま先だけが触れ合っていた。
ウィ―ダムはゆっくりと話始めた。
「先代のことを考えていたんです。あの人、今はなにしてるんでしょうか」
「先代って、ウィ―ダムの前にここにいた人だよね」
「そうです。ずっと前に出て行ったきりですから、ジョエルは知りませんよね」
「僕らのおばあちゃんでしょ」
ウィ―ダムはジョエルの言葉に面食らった。ジョエルの口からおばあちゃんなんて言葉が出るなんて、思ってもみなかった。
「おばあちゃん?」
「うん! ウィ―ダムのお母さんだから、僕らのおばあちゃん!」
ああ、なるほど、ウィ―ダムは合点がいって頷いた。
「おばあちゃんですか……。あの人が聞いたらきっと怒りますね」
「怒られるの?」
「いえ、おばあちゃんなら怒らないかもですね。おばちゃんとかなら絶対怒ります」
「おばあちゃんもおばちゃんも一緒に聞こえるよ」
ウィ―ダムは微かに笑うと、ジョエルに向かって身を乗り出し彼の頭を撫でた。
「ジョエルはもう少し、女性について知らないといけませんね。でないと、将来恋人ができてもガッカリされちゃいますよ」
「うん。でも、僕はパパがいてくれたらそれでいいよ」
ジョエルはまっすぐウィ―ダムを見つめながらそう言った。
ウィ―ダムは膝立ちになってジョエルに言い聞かせた。
「私がいつでもいるわけじゃありませんよ。やりたいことができたら、ジョエルもそのうち町を出るでしょう……?」
自分で言いながらウィ―ダムは落ち込んでいった。将来ジョエルや他の子達がどこかの町に行ってここからいなくなると考えると、どうにも寂しくなる。
「出て行かないよ。行ってみたいところとかないし。あ、でも、お父さんが王都に行く時は一緒に行くよ」
「えっ、ダメですよ。何があるかわかりませんし」
ウィ―ダムが断ると、表情を険しくしたジョエルがぐぐと詰め寄ってきた。
「いや、僕も行く!」
「しかし、王都は危険ですから……」
言ってからウィ―ダムは慌てて口元を押さえた。王都では性転換が禁忌とされていて、ウィ―ダムにとっては危険な場所だと子供達には伝えてなかった。言えば、きっと心配させてしまうからだ。
「危ないの?」
ジョエルは強い口調になっていた。
ウィ―ダムはジョエルを心配させまいと早口で適当な話をまくし立てた。
「いえ、そんなことないですよ。ライアンもいてくれますし。ほら、なんというか、都会って危ない人が多いって聞くじゃないですか」
「それはパパの勝手な妄想でしょ。何か僕らに言ってない理由があるんでしょ」
普段はのんきなジョエルだが、こういう時ばかりは妙にするどい。ウィ―ダムは頭の中で必死に言い訳を探した。
「えーっと……」
言葉に出さずとも、忙しなく目を泳がしているウィ―ダムの態度で答えは出ていた。ジョエルは怒った表情でウィ―ダムから顔を逸らした。王都が危険であること以上に、ウィ―ダムが自分に隠し事をしていたことがショックだった。話してくれれば、きっと力になるのに。
「いいよ。ライアンが帰ってきたら聞くから」
「聞かないでください!」
ウィ―ダムは焦っていた。子供達にはなにも伝えるつもりはないのだ。
「じゃあパパが教えてよ」
ジョエルは頬を膨らませてウィ―ダムを見つめた。それでもウィ―ダムは言わなかった。ジョエルや子供達に心配をかけたくなかった。
「……誰にも言わないよ?」
「そこまで心配するようなことじゃないですから。気にしないでください。ね?」
ジョエルはしばらく黙っていたが、そのうち不満そうに息を吐いて口を開いた。
「わかった。大丈夫なんだよね」
「ええ」
(なんとか納得してくれたみたいだ)
このまま二人きりで教会堂にいると、また何か聞かれるかもしれない。ウィ―ダムは立ち上がると、ジョエルに出口のドアを指し示した。
「そろそろ出ましょう。皆が待ってますよ」
「うん」
ジョエルは立ち上がると、ウィ―ダムに体を寄せてその頬にキスをした。
「ね、久しぶりにキスしてよパパ」
「もうそんな歳じゃないでしょう」
昨晩の出来事が強く頭に残ってる今、深い意味はなくてもキスをするのは照れくさかった。
「いいから」
ジョエルは強引な態度でそう言った。
「……しょうがないですね。屈んでください」
キスくらいなら他の子にもするし、大丈夫だろう。ウィ―ダムはジョエルに顔を向けた。
ジョエルは膝を曲げると、唇をウィ―ダムに向けた。
「ほっぺたにですよ?」
「え、口にしてくれないの?」
ジョエルが驚いて言った。
「当たり前じゃないですか、そういうことは恋人同士でするものです」
「違うよ、昨日恋人同士になったよね?」
「あれは……あれはそういうことではないです。恋人関係のそれではなく……」
ウィ―ダムは言い訳するように目を伏せた。秘密にしようと言うだけでは足りなかったようだ。ジョエルは真剣にウィ―ダムと恋人関係になったのだと思っていた。
「そうなの……?」
悲しげな表情をしたジョエルに、ウィ―ダムはひどい罪悪感を抱いた。だからといって、ジョエルを受け入れるわけにはいかない。ウィ―ダムは親で、ジョエルはその息子なのだ。
「わかってくださいジョエル。私達は家族です。あの時のことは、ジョエルも私も混乱してたんですよ。私が女の体になってしまったから」
「でも、二人だけの秘密だって」
「私が元の体に戻れば、ジョエルの考えもきっと変わります」
ジョエルは今にも泣き出しそうだった。ジョエルは涙声で言った。
「パパは僕のこと嫌い?」
「そんなことはありません。大好きですよ。だから……」
「うん、わかった。ほっぺで我慢する」
目を閉じ、ジョエルはウィ―ダムに頬を差し出した。
「ジョエル……すいません……」
ウィ―ダムはジョエルの頬に顔を近づけ軽いキスをしようとした。しかし、頬と唇が触れる寸前ジョエルは目を開き、顔の向きを変えてウィ―ダムの唇を奪った。
「ん!?」
咄嗟に離れようとしたウィ―ダムの腰に腕を回し、ジョエルはキスを続けた。
しばらくして、ジョエルはウィ―ダムの瞳を覗き込みながらゆっくりと顔を離した。ウィ―ダムは何が何だかわからなくなって瞬きすることもできず、その場に立ち尽くしていた。
「……うん、やっぱり僕パパが好き」
ジョエルははっきりとした口調で言った。
「だから昨日のことも忘れない! 絶対パパと恋人同士になる! パパが嫌って言っても、嫌じゃないって言うまで頑張る!」
呆然とするウィ―ダムを置いて、ジョエルは軽い足取りで教会堂の出口に向かった。そして外への扉に手をかけると、振り返ってこう言った。
「行ってくるねパパ! 大好き!」
ウィ―ダムが何か言う間もなく、ジョエルは出て行った。一人残されたウィ―ダムは、まだ感触の残る唇に手を当ててぽつりと呟いた。
「あの子、こんなに情熱的だったのか……」
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