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相変わらずの牢屋暮らしのレインちゃんです。
ただ、最近はバーレント公爵家から色々と援助されていて、牢屋の中が令嬢の部屋ぐらいに立派になりました。
さすがに工房にはしてくれなかったから暇なのは変わらず。仕方ないので普段はあまり使わない種類の魔法を練習したりして時間潰しをしているんだけど……。
「……なぁ、なんかこの牢屋、鼠が増えた気がするんだが?」
「そう、掃除がいきとどいてないんじゃない?」
最近、気軽に声をかけてくるようになった牢番にそっけなく答える。牢番おっちゃんがなにを考えているのか知らないけど、仲良くする気はないので。
ちなみに、増えている鼠は全て私の使い魔だ。
ゲームだと偵察だとか、ダンジョンの自分で取りにいけないところのアイテムを取らせたりだとか、ちょっとしたミニゲームぐらいしか出番がなかった使い魔だけれど、使ってみれば色々と便利だ。
前からアンリシアをストーキング……いやさ監視……いやいや護衛させていたけれど、いまはちょっと趣向を変えて一人でどれぐらい使い魔を増やせて情報収集できるかを試している。
アンリシアを常時見守らせているのは採取旅行中に見つけた偉そうなオオコウモリだけど、ここで増やしているのは捕まえやすい鼠。そしてその鼠を狩った猫や鷹や梟。
使い魔越しに魔法を使えることがわかったので狩られた鼠が死ぬ前に支配の魔法をかけて使い魔にしてしまうのだ。
そんな風に増やし続けて、いまは城の周囲には私の使い魔が百ほどいる。
内訳は猫が六、犬が十、鷹が二、梟が一、馬が一。残りは鼠だ。
さすがに全ての使い魔と常時意識を繋げておくなんてできないけれど、それぞれに大まかな命令を与えておくとそれに従ってこちらに報せをくれる。そのタイミングで意識を繋げばさらに細かく動かせたりするのだ。
でも、さすがにこの状態を常に維持しておくのはしんどいから、牢から出たらほとんどは解放しようそうしよう。
無事に牢から出られるのかな?
出られないなら勝手に出るだけだし、使い魔増殖はそのための下準備も兼ねているんだけど、できるならしたくないものだね。
アンリシアは表面上、いままでと同じように生活している。
つまり学園に通って勉学に励み、王太后のいる離宮に通って王太子妃、王妃としての教育を受けるという生活だ。
公爵令嬢としてあの奥さんから厳しい教育を受けていただけあって、王妃教育への順応も早いらしく王太后はすっかりアンリシアを気に入っている。
とはいえうまくいってもあの王子と結婚するのかと考えると微妙。超微妙。
やはりアンリシアを独占すべきではなかろうか?
しかし彼女の意思を考えると……むむむ。
はぁ、切ない。
「アンリは私のことをどう思っているのかな?」
いまの私の状況をアンリシアはどう思っているのかな?
人前にいる時はいつもの彼女を崩さない。他人に隙を見せてはいけないというのは令嬢教育でも王妃教育でも言われていることだから、彼女は変わらない。
だけど、部屋で一人いるときは不安そうな表情を見せる。
その表情を見れば、少しは自分が心配されているのかなと安心する。
とはいえこちらから連絡することもできないし、さすがにバーレント公爵家も物資の援助はできても直接赴くことはできないのか、あるいはしないのか、その様子はない。
アンリシアが何度か公爵にお願いしたけれど、全て却下されていた。
そんなわけで、彼女の心理面も心配だけれど、それはもちろん私もだった。
「はぁ~あ、暇、暇、暇~~~~」
つまりはこういうこと。
アンリシアには会えないし、薬は作れないし、装備も作れないし、アンリシアには会えないし、アンリシアには会えないし……。
「とにかく、暇~~~~!」
使い魔を増やすのもそろそろ限界だし、再びやることがなくなってきた。
王城のあちこちで繰り広げられる様々な人間ドラマを眺めるのも面白いし、いくつか気になる場所もできたけど、アンリシア分を補充できないのがやはり大きい。退屈が退屈して退屈しているのだ!
「そろそろ暴れようかなぁ」
王子との約束はどうしたという話だけど、そんなこと知ったことかと言いたくなりそう。
だけど、そんなことになったらアンリシアがなにかされそうだし……。
そうなったらアンリシアをかっさらって西の国にでも行けばいいかとか思ったり……。
アンリシアをお姫様抱っこして攫う私……ぐふふふ……いいかも。
そうなると隠し工房で一回引きこもって、死蔵状態の山盛りレア鉱石でゴーレム作りまくってそれ引き連れて西の国に行くのもいいかな、工房内の材料も全部持っていけるだろうし……。ああ、傭兵の同性キャラと仲良くできてたらよかったんだけどな。最終戦装備で固めさせて脱出を手伝わせてたのに。ギルドの利用が十五歳からだったのが辛い。仲良くなるどころか知り合う暇もなかったよ。
「……うん?」
と、ベッドでバタバタしながら三十回目ぐらいの亡命計画を練っていると、地下牢の入り口を見張らせていた鼠たちが異変を報せてきた。
鼠の視界になってもよくわからない。
見たことない大きなものが地下牢への階段を下っているみたいだ。
「おじさん、外がなんか変だよ」
「はっ? 変?」
「見といた方がいいんじゃない?」
いや、もう無理かな?
だって牢番おじさん、あそこ以外の逃げ道を知らないしね。
鼠を使っている私は、隠し通路があることを知っているけど、おじさんは知らないだろうし。
さらばおじさん。
「ぎゃっ、な、なん……ぎゃあああっ!!」
おそるおそると階段を覗きに行ったおじさんはなにかを見て悲鳴を上げ、そしてそのまま倒れてしまった。
ここからでは死角になって、倒れたおじさんしか見えない。
だけどすぐにそれが現れた。
「うひぇ」
改めてそれを見ると、気持ち悪さしかない。
そう、私はそれを以前に見たことがある。
私(レイン)が主人公だったゲームの時に。
「夢魔」
王子の不調の原因だったモンスターだ。
「なんでいまさら出てくるかなぁ」
くらげのような半透明の体が伸び縮みしながら進んでくる。
宙に浮いているわけではなく人間の手のような細い足が幾つも生えて芋虫のように長い体躯を支えている。
一際大きな頭部の中央には大きな目玉が一つあって、それが私をじっと見つめている。
その大きな瞳の奥からモンスターとは別の視線を感じる。
なにかがこのモンスターを操っているのだ。
「そこにいるのは、誰?」
意味ありげに問いかけてみると夢魔が目を大きく見開き、長い体を震わせた。
おお、ばればれだ。
ゲーム中はこのイベントに裏があるなんて雰囲気はなかったんだけど、よく考えてみたら一国の王子に手を出しておいて裏がないなんてあるわけないよね。
しかも城の中にモンスターが潜伏していたんだから誰かの手引きがあったのも確実。
……で、サリアと王子の接近の裏側を考えれば、このモンスターを操っているのが誰かと言えば……。
サンドラ?
かなぁとは思うけど、違った時が恥ずかしいのでとりあえず名前は出さないでおく。
「こんなことに意味があるの?」
ただ、『私は知っているんだぞ?』的な態度はどうも効いているみたいで、夢魔から放たれる気配に殺気が強く宿った。
巨大な目が光り、攻撃が放たれる。
なんだったっけ? 滅夢光線だったかな? 夢魔ビームでいいよね?
【防式兵召喚】
隠し持っていた鉄の球をぽいと投げれば、盾を構えた防御特化ゴーレムに変化して夢魔ビームを受け止める。
アンリシアに付けた塔盾の守護者ほどじゃないけど、夢魔ビーム程度でどうにかなるほど弱いゴーレムでもない。ビカビカ光が弾ける中で、私はわざとらしくあくびをした。
序盤ボスなんて、最終戦どころかクリア後のお楽しみな隠しダンジョンすら楽勝になっている私には雑魚なのですよ。
【真実を悼む鏡】
その上で攻撃反射の魔法をゴーレムに付与すれば夢魔は自分のビームに撃たれて悶絶する始末。
おお弱い弱い。
さてさて、あまり派手な魔法を使って周りを壊すと私が悪いみたいになるかもしれないから静かに倒しましょ。
【泡沫の夢】
瞬間、私の牢の前でみっちりとなっていた夢魔の周囲が光の届かない闇に覆われる。
泡状の闇は張り付いた相手に強力な継続ダメージを与えるのだけど、序盤ボスのHPが最高位魔法の威力に耐えられるわけもなく、すぐに悲鳴を上げて泡闇に喰われて消えてしまった。
「……あれって使い魔の応用なのかな?」
サンドラに聞いたら教えてくれるかな?
そんなことを考えつつ、私は動けない牢屋の中から牢番おじさんに声をかけた。
さすがに死なれると後味が悪いぞ。
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