第6話「急報」
少し太陽の日差しが鬱陶しく感じる朝。
瞼を照らす朝日は、否応なく俺を覚醒させていく。
「もう、朝か……」
毛布からゆっくりと上体を起こし、窓から覗く太陽に目を細める。
「もう、パーティから抜けて一週間か……」
セリナ、ジェスト、ベシア、フェイ……そしてロイ。
五人の顔が頭の中で浮かんでは、消えるを繰り返す。
彼らはもう、西にある精霊の洞窟に向かったのだろうか……? 最近ずっと頭にあるロイ達の行方に考えを巡らせる。
答えなんてここにいる限り出るわけがないのに、俺は何度も同じ事を考え続けた。
何だかんだ言って、俺は……あのパーティが心のどこかで気に入っていたのかもしれない。
そんな悶々とした朝を、弾き飛ばす様に客室の扉が開け放たれる。
「アルスさんっ!! 起きてっ!!」
「いや、起きてるが……?」
「いいから起きて――って起きるのはやっ! まだ六時だよ!?」
朝から高い声で元気よく叫ぶ少女、モモ。
フェイより少し高いその身長と、背丈に不釣り合いなその乳房を揺らす黒髪の少女。
半年前、偶然出会った女の子。
西の果てにある闇が支配する森。そこで一人孤独に生活していたモモは、当初はここまで元気の良い性格じゃなかった。
どちらかと言うと捻くれてて、穿った考えでこの世界を見ていた。
元々『暗闇の森』には魔物の討伐依頼で訪れた俺達だが、予想以上の数と強さに思いもよらない苦戦を強いられた。
そこで、何の気まぐれか協力してくれたのがモモだ。
彼女は人間でありながら、魔物だけが持つ特殊な闇属性の魔法をその身に宿した少女。
それに加え、ジェストにすら迫る魔法の素質を持ち、魔物の討伐を大いに助けてくれた。
そして、それからだ。
以降ずっと俺達の後を付いてくる様になったのは……。付いてくるうちに性格までもが変わって、今現在、パーティを抜けた俺にまで付いてくる始末。
色々な人間の嘘や機微を見抜く自信がある俺でも、モモの心の内までは測りかねている。
「で、そんな慌ててどうしたんだ?」
「そうそうそれだよ!! 実はさっきベルフォードの街中の様子を見に行ったんだけど――」
額には汗が滲み、長い黒髪は所々跳ねており、急いでここまで来たことを伺わせた。
「――『影の王』が出たみたいなの……!!」
「ッ!? 影の王だって!? そんな馬鹿な……ありえない」
モモの言葉に全身が栗立つ。
呼吸が少し荒くなり、頭の中が混乱していくのが分かる。
魔王と同じく様々な文献で語られる魔王の忠実な複製体――それが『影の王』
魔王が誕生した際に作られる魔物で、その実力は魔王とほぼ同等され、黒い体躯に無数の手が伸びるその姿は見た者を戦慄させ、恐怖を植え付けるとまで言われる。
しかし、今回の魔王はいつもと違う。
そう、あくまで傷が癒えて”復活した”魔王なのだ。
三十年前の魔王討伐の際に、先代の勇者御一行は影の王を討ち滅ぼし、魔王まで辿り着いた。
深手こそ負わせたものの完全に滅する事は出来ず、魔王は深い眠りにつき……そして長い年月と共に復活したのが今の魔王。
だから今の魔王が本来持つ複製体は既に先代の勇者達が討伐しているはずだ。なのに、何で……。
「モモ! 影の王はどこに出たんだ! やっぱりかつて討ち滅ぼした地、北の『エベル山脈』の方なのか!?」
「そ、それが、違うの……今回現れた場所は――精霊の洞窟なのっ!」
「――っな……」
言葉を失った。
だって、今、あの洞窟には、セリナやフェイ、ジェスト、ベシア……そしてロイがいるはず――……。
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