第44話 正義戦隊アンポンタン出陣

 ようやく、正義戦隊アンポンタンのブリーフィングも終わった。


 疲れたよ。もう無理よ。動きたくない。


 そんな否定的な思いを抱いている私に、メグフェリーゼ様は薄ら笑いを見せると口を開いて話し出す。


「それじゃあ、アンポコ、ポンポコ、タンポポ、そろそろ覚悟を決めなさい。これからが、貴女達の初舞台よ」


「正義戦隊アンポンタンの初めての作戦任務を開始するわ。みんな、気を引き締めなさい」


「はいポン」「はいポッポ」「はい」


 タンポポのお母さんは、話しの語尾にポッポかポポを付けることが、先程の女子会の中で決定していた。


 ポンポコのサラとタンポポのお母さんは、既にメグフェリーゼ様から渡された衣装に着替えていて、お互いにキャッキャと騒ぎ合いながら、ノリノリの返事をしていたから、私も嫌々なんだけど、聞こえないくらいの小さな声で返事しておいた。


 その私達の衣装なんだけど、ポンポコのサラは、神麦わらの三角帽子を被り、背中にポンポコと名前と狸がデザインされた茶色いマントを羽織り、身体には真紅の前掛けを下げていて、モフモフの両腕にはポンポコ専用の鋭い爪が装備された手甲を装備している。


 タンポポのお母さんは、私が乗れる程大きくなった丹頂孔雀の背中に、私専用の純白の鞍をつけていて、その鞍の後部には、神糸の帯が何本も長く垂れ下がっていて、その帯にはタンポポの刺繍が網の目のように施されている。頭には、シロバナタンポポをデザインされたティアラを装備していて、首にはタンポポの名前とお花をデザインされた刺繍が入った純白の透けたスカーフを結んでいる。


 因みに私は、スケスケの布地を何枚も重ね合わせた薄い水色の羽衣に着替えさせられて、顔が判別出来ないように白い無地の仮面もつけさせられ、髪の毛もお気に入りの青色の長髪が銀色の長髪に一瞬の間に染められちゃった。透けた羽衣の帯がふわふわと宙に浮かんでいて、ちょっと天女になった気分を体験してるけど、この姿で人前に出て演技するのは、流石に恥ずかしいんだけどな....。


 そんな私の心の声が、この場にいる人外の女神様や神獣には、すべてダダ漏れなはずなんだけど、みんな私の悲観的な心の声は、全てスルーして話を進めていくんだよ。


「この任務を成功させないと、大勢の民衆が亡くなる事態に繋がる....貴女達の肩には、この周辺に住む民衆の命がかかっているのよ」


「貴女達『正義戦隊アンポンタン』には、この地域にする民衆の未来が託されている....だからこそ、何が何でも任務を遂行しなければいけないわ」


 はー....どうやら私達が介入しないと、洞窟ダンジョンからどんどん魔物が溢れてくるらしいよ。


 しかも、この件には、この世界に存在する魔神の1柱が裏で糸を引いているってメグフェリーゼ様が話してた。


 なんでも、私はこの世界の創造神と直接契約を交わした神子なんだってさ。


 そんな私にちょっかいを掛けようと、この世界の魔神が乗り出してきたのが、事の真相らしい。


 魔神の思惑が絡み合う状況らしいから、その事態を収拾しようと洞窟ダンジョンの中に侵入した騎士団でも、当然力不足で抑えられないんだってさ。


 その騎士達も時間が経てば経つほどに、窮地に追い込まれていくらしいよ。


「みんな、準備はいーい!!」


 メグフェリーゼ様がいると凄く大人しくしているマリティカ様が、先頭に立ってこの言葉を発した。


「大丈夫ポン」

「いつでも行けますポッポ」


 ポンポコのサラとタンポポのお母さんは、まさに準備完了の趣で自分達の能力を発揮したくてウズウズした雰囲気を漂わせていて、そのノリで勢い良く返事を返す。


 その場の空気は、強制参加の雰囲気を漂わせ始める。


 しかし、そんな場の空気を少しでも変えたかったアンポコの私は、最後の抵抗を試みる。


「うー、お家に帰りたい」


 私は、心の中にある本音の言葉を漏らして、違う返事を返しちゃう。


 だって、お家のベッドで寝ちゃいたいんだもん。


 もう、何も考えずにね。深い眠りにつきたいの。


 そんな私の心の奥底を、常に神眼で見通している漆黒の翼をもつ女神様は、私に向かってこう告げる。


「アンポコ、それは出来ない相談だわ。もう貴女を中心にして、周りを巻き添いにするような状況に拡大していこうとしているわ。こうなったからには、貴女が責任を持って解決に導きなさい」


 責任って言われても、ついさっきまで全然この状況を、知らされていなかったんだけど....。


 それに、私ってば、ただ面白おかしく錬金術で色々実験出来てれば、それで良かっただけだったのに....。


 なんでそんな私が、ヒーローに転職しなきゃいけないんだろう。


 それってなんだか可笑しくない?


 私なんかよりも、シフィ姉ちゃんをスカウトしたほうが、よっぽど本人もやる気を見せると思うし、その方が問題ないと思うんだけど....。


 でも、きっとメグフェリーゼ様的には、アンポンタンに面白可笑しく活躍して欲しいんだろうな。


 私に御力がもっとあれば、メグフェリーゼ様にもっと楯突いてやりたい。


 でも、メグフェリーゼ様に楯突いても、私の力だけじゃ、てんで敵わないのはやらなくてもわかっちゃう。


 は──あ、こうなったらもう、仕様がないから気持ちを入れ替えよう。


 超速攻でダンジョンを制圧して、傍迷惑な首謀者を獲っ捕まえて、超速攻で終わらしてやるんだから!!


 自重なんかもう知らないもん!!


 そんな、やや、自棄っぱちのような感情を心の奥底で荒ぶらせた私は、メグフェリーゼ様の発した言葉に私の言葉を返していく。


「流石に私の所為で、誰かが死ぬのはしのびないから、今回は参加しますけど....」


 そうそう、メグフェリーゼ様にもひと言、言っておかなきゃ、私の気が収まらないよ。


「あんまり私達を玩具にして遊ばないでください」


「それに、私のことを色々考えてくれるんなら、もっと私の心も想いやってください」


 どうせ、言霊に変えてメグフェリーゼ様に叩き込もうとしても、全然全く効果がなかったのは、さっきの状況で既にわかっているから、普通の私の言葉で話して聞かせた。


 そんな言葉を黙って聞いていたメグフェリーゼ様は、微笑ましい表情を私に向けると、その後少し間をおいて私に向かって話し出す。


「はいはい、やっぱりマリと同じ魂ね。小うるさい感じの話口調が本当にそっくりだわ」


「怒った表情も小さい頃のマリを思い起こすわ」


 そう話しながら、目元を細めて笑うメグフェリーゼ様。その漆黒の翼もゆらゆらと楽しげに舞っている。


「貴女達は、お互いに啀み合っているようだけど、性格も本当に一緒なんだから、そろそろお互いに折れて仲直りしたらどーお??」


 メグフェリーゼ様のお言葉は、きっと親切心から出た言葉だろうけど、偏屈者の私には、そのお言葉を額面通りには受け取れない。


 何よ??....それじゃあ、マリティカ様がこの場で全くメグフェリーゼ様に口答えしたりしなかったし、殆ど喋らなかったのは、メグフェリーゼ様に弄ばれてるのがマリティカ様自神じゃなくて、私だったからほっとかれたってこと!?


 それって、凄く穿うがった見方かな??そうじゃないよね。


 その話しぶりからは、マリティカ様も私を敵視して、私の心がボロボロに草臥くたびれて行くを承知の上で、いい気味だと思いつつ傍観ぼうかんしてたって、偏屈者の私には、そう読み取れるんだけど....それは、一体全体どういうことなのよ。


 マリティカ様は私と契約を結んだから、私の陣営に組みして味方になったはずじゃなかったの??


 その私の心の疑問点に、同じく神眼で私の心を見通していたマリティカ様が、神水で形作られている顔の表情を笑顔に変えると、私の心の質問に答えていく。


「アンポコ、貴女との契約は、サラ陣営に対抗する為の共同戦線の契約だったはずよ。その契約内容にはそもそも、メグフェリーゼ様自神によるアヴィ厚生計画に対抗する契約までは結ばれていないわ」


「えっ...厚生って何??」


 ──アヴィ厚生計画ってなんだか、凄い嫌な響きが漂う名称なんだけど....。


「自分の生活態度を振り返りなさい、アンポコ。貴女は暇さえあれば、ずっと引きこもって研究ばかりしていたはずよ」


 メグフェリーゼ様がマリティカ様の言葉を引き継いで私に教え諭すように語りかけてきた。


 私の額から汗が噴き出してくる。


 やばい!やばい!いつも、ラス姉さんから感じていた気配がここでも感じてしまう。


 これは緊急事態発生の予感がする。


「うっ....そっ...それは...」


 確かに、殆ど私はお家の工房に閉じこもっていた気がしないでもない。


 というか1日の時間帯で学校にいる時間帯と食事時間以外は、全て工房の中で暮らしていた気がしちゃう。


 でも、それは大切な実験の為に仕方なくしてたんだから。そうだよね。そうだとポンポコのサラには、私を擁護してほしい。頷いて欲しい。


 だけど、私の心を当然読んでいるであろうポンポコのサラを見ると、狸の笑顔を見せながら、首を真横に振られてしまう。


 ポンポコのサラに裏切らちゃった。ちくちくしょう。覚えてなさいよ。ポンポコのサラちゃん!!


 でもさ、でもさ、決して、自ら望んで、楽しんで、助手志望のサラと一緒に意気揚々と遊んでいた訳じゃないと思うよ....多分..きっと..恐くは....。


「このまま大人になったらと思うと、心配で仕方がないから、私達2神共同で貴女を厚生させる計画を立てて、それに沿って貴女をしっかり教育していくことにしたわ....だから、アンポコ、今までみたいな自由気ままな生活を送れるとは、思わないほうがいいわよ」


 そんなメグフェリーゼ様の話す言葉は、私の心にクリティカルヒットを喰らってしまう。


 うひょひょのひょーでおっふっふー!!


 しょんぼりへにょんでふりゃりんこ!!


 そんなの駄目よ!止めてよ!無理だから!!勝手に私の楽しみを奪わないで!!


 折角お母さんと再開出来て、これからバラ色の人生が始まるはずだったのに....。


 お母さんとこれから仲良く研究生活を送る人生設計が、夢や幻のように霞んで消えていっちゃうよ。


「そんなー、お母...タンポポー、助けてよー!!」


 私の人生設計を台無しにしようとする2神の女神様に対抗しようとお母さん──タンポポに救いの手を求めていく。


「大丈夫ポッポ。アンポコちゃんは私がしっかり見守ってあげるから、安心しなさいポッポ」


 とってもやさしい声を掛けてくれて、私を落ち着かせてくれようとしてくれるタンポポ──お母さん。


 そのやさしい語り口にすっかりメロメロに甘えてしまいそうになってしまう。


「本当に約束を守ってくれる??」


 私は、すっかり甘えた口調になって、トロンとなった眼を向けてタンポポのお母さんに再度確認してみた。


「ええ、しっかりアンポコちゃんの未来を私がちゃんと見守ってあげるわポポ」


 ほっ良かった。良かった。これでなんとか、一安心だよ。こっちはいつもこれから一緒にいられるお母さんが味方だから、例え女神様でもどうしようもないよ。


 女神様だから、私ばかりにかまけているのも出来ないはずだし、そう何度も顕現してくるはずないでしょ。


 今日がたまたまなだけだよ。今日を乗り切ればなんとかなる!!


 そんな安易な思考をしていたアヴィだったが、それは既に、根本的に大間違いをしていた。そのアヴィ厚生計画は、2神の女神主導で考えられた計画でもあるのだが、その計画には、実はセラフィシアも加わっていたのだ。今までのメグフェリーゼの話しぶりから、セラフィシアの復活は今日行われたように説明されていたが、実は1ヶ月前に既に復活を遂げていた。そんなセラフィシアは、大気に溶け込みつつ、アヴィの生活習慣を見て嘆く。


『こんな怠惰な生活をしているなんて、私の娘としてありえない』


 そこで、2神とセラフィシアとでアヴィ厚生計画が練られていく。アヴィにはその事実を告げられず、知るよしもなかった。


「さあさあ、アンポコちゃん、早く私の背中のくらまたがってしまわないと、向こうについてからじゃ、私の鞍に跨る暇が無いかもしれないわポポ。だから、今の内に鞍に跨って私にしがみついてなさいポッポ」


 タンポポのお母さんは、話しを変えて私にも早く準備体勢につくように促してくれた。


 よーし、流石は私のお母さん。メグフェリーゼ様の神託攻撃を回避してくれるなんて、なんて私のお母さんは優秀なの!!


 本当に最高!!素敵!!見蕩れちゃう!!


「──わかったよ、お母さん」


 まだ、少しメグフェリーゼ様の言葉に動揺していた私は、タンポポと言わなきゃいけないのに、うっかり言い間違えてしまう。


「アンポコちゃん、その言い方は間違いポン。もう一度言い直したほうがいいポン」


 そして、その言い間違いは、ポンポコのサラから注意を指摘されてしまった。


「御免、言い直すよ....了解、タンポポちゃん」


 私がそう答えると満面の笑みを見せてくれたタンポポちゃんとポンポコちゃん。


「あっと、そうだ、タンポポちゃん。オロ叔父ちゃんは、そのままにしてていいんだよね」


 さっきの女子会で話してたと思うけど、終盤にはすっかり放心状態だった私は、疑問に思った点を聞いてみた。


 その答えには、タンポポのお母さんが答えを返す。


「本当はオロちゃんにも、しっかり挨拶してあげたいけど、アヴィがアンポコだと悟られないように、彼には、ここでアヴィが篭っている証言者になってもらわなきゃいけないのよポポ。オロちゃんには、そのままこの部屋の前で、見張っていてもらいましょポポ」


 その答えを聞きながら、私はタンポポのお母さんの鞍に跨る。


 タンポポのお母さんは、腰を下ろしていたから鞍に跨った時には怖くなかったけど、腰を上げて立ち上がると視界が随分上から見下ろすようになってしまった。


 ちょっと怖いな。まあ、夢世界の中で上空から見下ろしてる感じよりは怖くないけど、少し不安だな。


「大丈夫ポッポ。その鞍に跨ってると絶対に落ちないように固定されるから安心しなさいポッポ」


 私が声を出さずに抱いた不安を、タンポポのお母さんは、すぐに声を掛けて私を安心させてくれた。


「はいはい、そろそろみんなの準備も出来たみたいね。みんな、今から洞窟ダンジョンの上層付近に空間転移させるから、環境の変化に備えて準備しておきなさい。あと、ダンジョン内ではお互いの名称の言い間違いには、十分気を付けなさい」


 メグフェリーゼ様が最後の最終確認の言葉を話しだした。


「みんながダンジョンをだいたい掌握したのを見計らって、私は顕現するのは先程説明した通りよ。それまでは、しっかりみんなで力を合わせて頑張るのよ」


「はい」「はいポン」「はいポッポ」


 もう、みんなの言葉に流されてばかりいる私は、破れかぶれの勢いで返事をすると、その後に続いてポンポコとタンポポも返事をしていた。


「それじゃあ、正義戦隊アンポンタン!!出撃よ!!」


「アイアイサー」「アイアイサーポン」「アイアイサーポッポ」


 その掛け声と同時に私達の身体が次第に透き通っていき、マリティカ様を形作っていた神水の神体は霧となって霧散していく。


 そして、すぐにメグフェリーゼ様の創造した空間から私達が消えてしまった。


 正義戦隊アンポンタンの面々は、洞窟ダンジョンに転移してしまったようだ。


 この空間には、透き通った神霊体で顕現した女神メグフェリーゼだけが残された。


 その、とり残されたメグフェリーゼは、漆黒の翼を大きく羽ばたかせ、草原の丘の空間に佇むと、虚空に向かって話し出す。


「リュオーラ、聞いていた通りよ」


 リュオーラ──正式な名称は、コバルトリス=リュオ─ラ。


 その名の神がこの世界の創造神である。


「アヴィの邪魔になるから、消してしまいたいのだけど駄目かしら」


 女神メグフェリーゼの言葉が途切れるとこの空間に更なる変化を起きてしまう。


 メグフェリーゼの創造した世界の天空が瞬く間に夜空に変わりゆく。


 そして、この空間の天空に光が舞い降りる。その光はオーロラのように揺れていた。


『そう簡単に言ってくれるな』


 天空から神の言葉が降りてくる。オーロラも神の言葉に合わせて揺れ動いていく。


 本来はお互いに神の1柱として、頂上の御力を持っている2神であるから、会話よりも【神念話】の御力でやり取りしたほうが、より早くスムーズに事が運ぶのだが、その【神念話】の御力でお互いやり取りする様子は見られない。


 おそらく、2神共に、アヴィを面白可笑しく見て楽しんだ余韻に浸りながら、後の会話を楽しみたかったのかもしれない。


『魔神ダムディクトも元々儂が生み出した神じゃから、簡単に消して欲しくはないのじゃが....』


 この世界には、8柱の魔神が存在しており、魔神ダムディクトはその内の1柱にあたる。


「まあ、そうね。自神が創造して生み出した神に愛着が湧いてしまうのは、気持ち的にわからないわけではないわ」


「そうね。それなら、一度力の差を思い知らせて上げるだけにして、今回はそれで留めておきましょうか」


 女神メグフェリーゼが妥協案を指し示した。


『それは、ことらとしても助かるのう。だが、くれぐれも儂の統治する世界に傷を付けないように頼むぞ』


 神の言葉に反応して、オーロラが大きく光りだし、オーオラ爆発のように天空が明るく染まる。


「わかったわ。今回は向こうが攻撃したのを、全て消滅させるだけに留めてあげるわ」

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