第42話 女神と女子会 ④ なごみの会
私は一杯一杯に詰まった心を抱きながら、もう少し抱き合っていたい気持ちを心の奥に追いやると、私は抱き合っていたお母さんから、離れていこうとする。
でもお母さんは、まだ私を触り足りなくて、もうちょっこ、微睡んでいたかったらしく物欲しそうな表情をすると、私と手を繋ごうと腕を絡ませてきた。
私もお母さんと本当は手を繋ぎたかったから、大賛成の勢いでお母さんと手を繋いでいく。
お母さんの手の指の間に、私の手の指を絡ませ合うようにして、お互いの手を繋ぎ合わせていく。
――暖かい。お母さんのお手々はスベスベで最高。幸せな思いに包まれるよう。
お母さんが手をにぎにぎと少し手の指に力を入れてきたから、私もにぎにぎと手の指に力を入れると、お母さんが微笑んでくれた。
額にある赤い文様の印も今のお母さんの印象にマッチしてるね。
私も満面の笑顔でお母さんに微笑み返す。
――至福の時間だよ。こんな時が私にも訪れるなんて、今まで全然夢にも思わなかった。
この手の繋ぎ方が、学校の女友達が教えてくれた恋人つなぎなんだね。
初めて恋人繋ぎしたのが、お母さんだったと言う衝撃の事実は、取り敢えず今は横にそっと置いておいて、この幸福の気持ちに浸っていよう。
薄汚れた心の内がどんどん洗い流されて漂白されて真白になっていくような感じがして気持ちいい。
正直、お母さんがずっと私の傍にいてくれるのは凄く嬉しいけど....なんだか、凄くお父さんに悪いような気がするんだよな。
「アヴィは小さいんだから、エディに気兼ねする必要はないわ。大丈夫よ。安心しなさい」
「エディとは、たっぷり夜の営みで頑張ってもらうから問題ないわ」
「それに、今日は久しぶりに羽目を外して、クリスと3人で楽しむことにするから――」
「クリスと2人で押し倒してから責め立ててあげるから、間違いなくエディを至福の世界に誘ってあげられるわ」
「そうすれば、きっと、エディは文句を言えなくなるから大丈夫よ」
「そうだわ。私が化けて出るように演出して、エディとクリスをしっかり怖がらせてあげるのを忘れるところだったわ」
「アヴィも私のお芝居に付き合ってちょうだいね」
またまた、私の心を呼んで答えを直ぐに返してくれたお母さんだけど、10歳の子供には早すぎる話題をさらりと混ぜこんできた。
私はおませさんだから、それの意味する所を当然理解しちゃってるけど、お母さんの口からその発言を聞いてしまうと、なんだか急に気恥ずかしくなってしまい、ちょっとお顔が火照ってしまう。
「お母さん、私は純粋無垢な乙女なんだから、そう言う話題は止めてよね」
「それに、エディお父さんとクリスお母さんを怖がらせるのは反対だから、私は手伝わないよ」
気恥ずかしくなったので反論してから、頬を膨らませてみた。
エディお父さんから聞いてたお母さん像では、お淑やかで優しくて面倒見がよいとか、エディお父さんから聞かされたお母さん像は、本物の聖女より清らかな女神みたいな偶像だったのに、いきなりその偶像を叩き壊そうとするのはやめてほしい。
貴族の家に生まれると子孫繁栄の為に、その家独自の性教育をうけなきゃならないと聞いていて、貴族の女性の集まる夜会やら舞踏会では夜の営みや下世話な話題なんかを、色々比喩して自慢しあってると学校の貴族の女友達から教えを受けた記憶があるんだけど....。
だからでもないけど、貴族の家系に生まれてきたセラお母さんも、性教育に関しては色々自慢したい気持ちがあるのも、なんとなくわからないわけでもないよ。
でもね....それを幼い家族の娘の私に話しするのは違うと思うし、それに、お母さんからそんな赤裸々な話を聞くと、とっても気恥ずかしいし、私の中のお母さん像が早くも瓦解して壊れちゃうから、他でやってくれないかな。
因みにクリス母さんからは、セラお母さんが住んでた貴族家からの付き合いがあるお世話係であり同い年の親友だったと聞かされていたよ。
廃嫡された時もセラお母さんに付き従ってついてきたそうだから、セラお母さんとは、馬が合うみたいで大の仲よし子よしだったと聞いてたけど、2人でエディお父さんを押し倒す程の仲よし子よしだったとは流石に知らなかったから、ちょっとビックリ!!
そんなお母さんは、私を見ながら何やらニマニマしているんだけど....。
多分、私の心を覗いているんだろう。
「はいはい、アヴィは本当に純粋で可愛らしいわ」
お母さんは、私の心を覗けるから、当然私のおませさん具合も把握してるみたいだけど、そこにはあえて触れないでそっとしてくれたみたい。
ありがとう――お母さん。
「だから....お母さんにもう一度だけアヴィをぎゅーっと抱きしめさせてほしいな」
「もう、お母さん。みんなを待たせてるから駄目だよ」
「もう、仕方がないわね。じゃあ、後で思いっきりギューッて抱きしめてあげる」
お母さんは、もっと、お互いのスキンシップを取りたいみたいだけど、メグフェリーゼ様とマリティカ様と神獣サラちゃんの人外集団を待たせてるから、無理だからと諦めさせて愚図るお母さんと手を繋いだまま、私達は隣り合って椅子に腰掛ける。
勿論お母さんとは、恋人繋ぎでだよ。漸く出会えたお母さんだから、この繋ぎ方が一番落ち着くように感じるんだ。
「アヴィちゃん、さっきはとっても心配したポン」
草原の丘にある白いテーブルクロスが敷かれた大きな机の席に、私達が腰掛けると、隣りに座っている神獣サラちゃんが心配したように声を掛けてきた。
「元気になって良かったポンポン」
「サラ、心配かけて御免ね」
「いいポン。いいポン。私が勝手に心配してただけポン。それよりなんだけどポン....(もじもじ)」
私と話しながらも、サラの目線が私達の繋いだ手を見ている。
どうせサラのことだから、自分も真似して恋人繋ぎをしたくなったってことじゃないかな。
なんだか、両手をもじもじさせてるのが、とっても可愛いんだけど...。
嫌々、騙されちゃ駄目!!とっても可愛い狸の神獣だけど、中身は、ベロリのサラちゃんなんだから。
少し甘くしただけで、どれだけの私の仲間達がサラの毒牙に犯されてきたことか。
未知の世界に旅立った仲間達は、もうこちら側の世界には、帰ってこられないのよ。
学校でもそうなると、学校中の全校生徒公認の、サラと愉快な仲間達の認定証が、いつの間にか学校中の掲示板に貼りだされちゃうんだもん。
張り出すのは、きっとサラ自身の手によって張り出されているんじゃないかと、そう私は睨んでいる。
私は絶対に、他の仲間達みたいな失敗は犯さないから!!
「サラは、セラフィシア様との恋人繋ぎが、とっても羨ましいポン」
やっぱり私の当初の予想は的中してしまったけど、そのまま直ぐに聞き入れる程、私はサラを甘く見てないからね。
そう思っていると、新たな刺客が前のめりの姿勢になって、私の横から口をだそうとしてくる。
「あらあら、サラちゃんはアヴィの事が大好きなのね。いいわねー、初々しいわ。そうだ!!お母さんもサラちゃんを応援しようかしら」
「セラフィシアも応援してくれるのね。これでもう、こちらの攻撃陣営は鉄壁になったわね」
敵側の総大将が、また余計な口出しをしてきたんだけど....もう本当に、私達を玩具にするのはやめてほしい。
こちら側の仮の総大将であるマリティカ様は、我関せずといった様子で、大空で繰り広げられている天女達の舞に見入っているけど....ついさっき私と契約したんだから、それなりの仕事をしなさいよ。
このままじゃ、お母さんまで、敵側に与することになるかもしれないじゃない。
絶対にそんなの....。
「イヤ――、そんなの駄目――」
「お母さんは、その件に関しては絶対に口出ししないでよ。いーい、お母さんはさっき、私を守ってくれるって味方宣言してくれたでしょ。だから、絶対に敵陣営のサラの応援しちゃ駄目だからね。絶対駄目だよ」
「はいはい、わかったわ。もう、アヴィもサラちゃんのこと実は色々気にしてるんでしょ。少しぐらいスキンシップしてあげても、いいんじゃないかしら」
お母さんの持つ神眼で読み取った私の心の奥の心情を、わざわざ口に出して私に言い聞かせてきた。
「――サラもアヴィちゃんと恋人繋ぎがしたいポン」
「今のサラならお手々を握ってもいいけど、恋人繋ぎは無理だよ」
「なんで、やってもいないのにわかるポン」
「だって、サラのお手々は指が小さくて肉球があるお手々だから、私の指が入らないよ」
「でも、したいポン。したいポン。一度試してみるポン」
パタパタ手足を上下させた神獣サラちゃんは、喋り終わるとサラは、私と恋人繋ぎをしようとする。
私の手と神獣サラちゃんの手をコネコネしてたけど、指が短くて上手くいかなかった。
「ショポンだポン」
崩れ落ちるように机に項垂れちゃった神獣サラちゃん。
私は、神獣サラちゃんの肉球が気になって摘んだり押したりして遊んでみた。
「やっぱり無理だよ。でもこのままなら握っていてもいいよ」
ちょっと、これは新たな発見かもしれない。
「サラの肉球も気持ちいいし」
ほんとにプニプニして気持ちいい。
これは、一度やり始めたら、やめられないし止まらないよ。
「わかったポン。今日はこれで我慢するポン」
ちょっと不満そうな表情を浮かべていたけど、すぐに満面の狸の笑顔を見せると、サラは、机に置いてあるティーカップを器用に持ち上げて中に入れてある飲み物をチョビチョビ飲み始める。
そのサラの仕草を見て超可愛いと思ってしまったけど、これもサラの計画だと思うをブルっと震えがきてしまう。
私は震えがきた身体を落ち着かせるために、サラと繋いでる方の手を緩めてとくと、その手でティーカップを口まで運び、中に入っている飲み物を飲んでみた。
あっ美味しい。すーっと鼻に清涼感が通り過ぎて、後から甘味が口の中に広がっていくの。
飲み干していくと、とっても気持ちいい清涼感と喉越しがしたし、お腹の中が少しずつポカポカしだして、とっても不思議な飲み物で飲んだことのない味。
家で飲んでる紅茶とも違う新感覚の飲み物だよ。私この味好きかも。
その飲み物を全て飲み干してしまった私は、至福の思いでティーカップを机に置いた。
「そろそろ、アヴィの次の課題に向けて話し合いたいけど、いいかしら」
頃合を見計らって話しを進めようとしたメグフェリーゼ様は、話を切り出してきた。
でも私は、メグフェリーゼ様に聞きたい質問があったので、この機会に尋ねてみようと口を開く。
「メグフェリーゼ様、その前に、どうしても聞かせてもらいたい点があるのですがよろしいですか?」
「まー、そうよね。聞きたいのは、セラフィシアの魂の在り処についてでしょ」
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