第40話 女神と女子会 ②

 メグフェリーゼ様は、更なる局地に私を追いやろうと、恋の懐柔工作大作戦を仕掛けてきた。


 ウヒョー、なんて答えればいいのよ。


 この場には誰も味方がいないし、孤立無援なんだからね。


 このままじゃ、私が私じゃなくなって、メグフェリーゼ様に洗脳されちゃうよ。


 こうなったら、ぶつくさ言い訳してる場合じゃない。


 味方がいないなら、わらすがり付いてでも、味方を作るしかないじゃない。


 それが、例え私の因縁の相手であってもね──。


 そうよ。この場で、私達のやり取りを見守っている女神様──。


 私にとっては、まさに最後の糸──マリティカ様に掛けるしかない。


 メグフェリーゼ様の問いかけに、どう、答えていいかわからない私は、この世で分かたれた、もう1人の私であるマリティカ様に買収を持ちかけるべく、硬い決意をもって口を開く。


「おねがいします。マリティカ様、マリティカ神像50体を神殿に奉納します」

「それで、どうか、哀れな私を助けてください」


 マリティカ様に買収提案と超緊急救助要請を出した私は、絶対服従の姿勢──私の十八番の奥義である土下座をして、いつものように女神様の機嫌をとってみた。


「無理よ、諦めなさい」


「メグフェリーゼ様は一度こうと決めたら、それより面白い案を出さないと考えを改めてくれないわ」


「いくら休戦中だからって、そんな程度の報酬なら、やる気もおきないから、素直にメグフェリーゼ様の軍門に下って幸せになりなさい」


 私の救助要請に、つれない声を返したマリティカ様。


 机に肘を付いた左手で頭を支えた姿勢のマリティカ様は、メグフェリーゼ様と私のやり取りを他人事のように見守っている。


 マリティカ様は、私と分かたれた分神体で、もう一人の私じゃないの?


 困ってるんだから、助けてくれてもいいじゃない。


 私を見つめるメグフェリーゼ様のご満悦の笑みは、ますます深まっていくように感じてしまう。


 このまま、流れに身を任せていたら後戻りできなくなるのは、ほぼ確実で、私の脳裏には、運命に競り負けて、メグフェリーゼ様の思惑通りにサラと結婚して、沢山の神獣の子供達を2人で育てる未来の光景が思い浮かんできた。


 そんな未来は無理よ。無理よ。絶対無理よ。


 その光景は、私の思い描いた幸せとは全く違うから、到底受け入れられないんだから。


 でも、このまま中途半端で曖昧な答えを返してしまえば、間違いなくメグフェリーゼ様の玩具にされちゃって、いいようにコロコロ転がされて弄ばれるのが、ほぼ確定しちゃうのよね。


 そんなの、嫌よ。嫌よ。絶対嫌よ。


 やっぱり、ここは何としてでもマリティカ様を口説き落とすしか、私の生き残る道はないっぽい。


 よーし、こうなったら、もう、とことん抵抗してやるもんね。


 諦めの悪い私は、マリティカ様に更なる提案をして、説得するために話しかけていく。


「そんな釣れないことを言わないで、助けてください」


「今度の神像には、今までにない、斬新な新機能もつけちゃいます」


「──なんと、両目から聖水が流れ出る新機能をつけちゃいます」


「この追加装備を付ければ、マリティカ様を慕う民衆が、きっと大勢現れることでしょう」


 マリティカ様が興味を引きそうな提案を餌に、私は取引しようと呼びかけた。


「まだ、駄目ね」


「全然弱いわ」


「その程度の提案じゃ、全然やる気が出ないから....」


「うむむ....」


「ねえ、これで、アヴィの提案が全てなの?」


「この際だから、アヴィの計画を全て説明してくれないかしら」


「その中で、私が興味を引く計画があれば、メグフェリーゼ様に口添えしてあげてもいいわよ」


 全然興味を示さない声で返事をしたマリティカ様だけど、その両眼のまぶたは、面白そうな物をみるように細められている。


 なんだか、メグフェリーゼ様に弄ばれる前に、マリティカ様に弄ばれそうな雰囲気なんだけど、未知の世界に旅立つよりは断然マシで増し増しよ。


「よーし、それなら、神像から常に後光が出続けるように、魔導投影機器を取り付けましょう」


「そうすれば、慈愛に満ちたマリティカ様の素敵な表情が、更に素敵に見えて、信心深い信者の獲得間違い無し!!」


「これは、今だけの超お値打ち商品なんですよ」


 私は、売り込みをする商人の販売員のように、軽快な口調で追加装備する魔導具の解説をした。


「ふーん、そう。わかったわ」


「有りきたりね」


「まだ、全然私の気を引く提案じゃないわ」


「じゃあ、次の説明をお願い」


 神水で形作られた身体で顕現されているマリティカ様は、気難しそうなお貴族様の奥様風の態度を見せつつ、メグフェリーゼ様の用意した飲み物を味わうように、ゆっくり口に含ませて飲み干すと、またもや駄目出しの発言をして、私の心をえぐってきた。


「よーし、そんな可憐な女神様には、とっておきの追加装備オプションもつけちゃいます」


「みんながマリティカ様を崇めたくなるような、最高の演出も付けましょう」


「神像の周りの空中に、天使が舞う演出映像が投影されるように、神像の台座に魔導投影機器を組み込みますから、それでお願いします」


 ここで諦めたら、未知の世界に旅立つ未来が確定しちゃう私は、新たな魔導具の説明をして、マリティカ様の関心を引こうと、必死に譲歩して次々に自分の手持ちのカードを晒していく。


「ふーん、なんだか、いつもとあんまり代わり映えしないわね」


「もっと私が驚くような提案は、無いのかしら」


 またまた駄目出しをくらって、純粋な心に何度目かの傷を負う私。でもね、そう簡単には諦めないからね。


 なんせ、私の未来がかかっているんだから。


 この、私とのやり取りが面白くなったのか、私の手持ちのカードをもっと見たいのか、私の困った顔が見たいのか、必死な説得を続ける私には、そこまで考える余裕がないのを見抜いていいるように、マリティカ様は、私に微笑ましい笑みを見せていた。


「うむむ....んじゃー、今まで神殿に奉納した、全てのマリティカ神像にも、同じ追加装備オプションをつけましょう」

「この辺で、助けて下さいませんか?マリティカ様」


「アヴィ──私は、そんなに軽い女神に見える?」


「もっと私がアヴィを助けたいと思わせる提案をしてくれないかしら」


 普段ならしない挑発行為をして、どんどん、気難しい女神の役柄の演技にのめり込んでいって、ノリノリになっていくマリティカ様。


 こうなったら、仕方がないと、何かあった際の取って置きの秘策を繰り出していく。


「それじゃー、本日最後の大特価の大目玉」

「今日は特別に、密かに私の胸の奥に秘めていた、マリティカ神殿を建造する計画を推し進めます」

「これで、どうでしょうか?」


 マリティカ神殿を建造した際の神殿長には、私の中では、既に内定者がいるんだけど、その事は今は考えないし喋らないようにする。


 だって、バレたら間違いなく妨害してくるからね。


 そこは、絶対確実だから、私は脳裏の奥を見られてもいいように、攪乱かくらん戦術を開始した。


 具体的な戦術なんだけど、それは、神殿の設計や場所や建築素材や工期なんかの情報デコイで、頭の中を埋め尽くして脳裏内で偽装工作をしていくんだよ。


 それで、上手く誤魔化せるはず....。


「ようやく、吹っ切れたようね」


 よし、うまく誤魔化せたようだ。うっしっし。


「なかなか、いい線、攻めてきたわよ」


「その案は、今回採用したげるわ」


 ようやく、待ち望んだ手札を私が晒したことで、マリティカ様は、満面の笑顔を見せた。


「じゃあ、次の提案をお願いね」


 そして、とても女神様とは思えない、意地汚くて浅ましい心をされけ出してきた。


 どうやら、この絶好の機会を逃さずに、私の骨までむさぼるつもりらしい。


 き─っ悔しい──!!うっきっき──!!


 こんちくしょ──!!どっこいしょ──!!


 でも、そんなマリティカ様にたよらなければ、私の未来は、サラと一緒に未知の世界に旅立つ道しか残されていない。


 それだけは勘弁してほしい私は、超悔しいけど、笑顔の仮面を装備してマリティカ様に追加の提案を繰り出していく。


「よーし、それじゃあ、近々アヴィちゃん特戦工房隊のみんなと慰安旅行に行くことにして、パルタニア神聖教国の聖都で、マリティカ女神様の布教活動をしてくるっていうのは、どうですか?」


 パルタニア神聖教国は、さまざまな宗教が乱立する自由宗教国家。


 そこで、認知された宗教は、他の国にも布教しやすい利点があるんだよ。


 この世界の民衆の信仰心が欲しいマリティカ様には、良さげな良案のはず。


「それも、面白そうね」


「その案も、採用よ」


「じゃあ、次の提案をお願いね」


 私が頭を抱える問題に直面しているのを承知の上で、次の要求をしてくる図太くて性根の腐った女神様は、神水で形作られた神体をくねらせて、私を更なる提案を要求してきた。


「ぐぬぬ....エロエロ女神めー、調子に乗りおってー.....」


 情け容赦ない女神のしたたかさに、思わず口から恨みの篭った本音が漏れ出てしまう。


「アヴィ、何か言ったかしら」


「いえいえ、何も言ってませんよ。じゃあ、次の提案なんですけど....」


「マリティカ女神を象徴する、青く澄んだ聖水で出来た聖獣を、新たに、この世界に誕生させるなんていうのは、どうでしょう」


「それも、なかなか面白そうな案ね」


「でも、その案は、続きがあるんでしょ」


 その両眼の神眼でもって、私の心を全て見通している女神様は、この計画の続きがあることも、当然見抜いていて、先んじて私にその事実を明かした。


「その案を、最後まで話してもらえないかしら──」


 マリティカ様は、私にその計画の詳細な説明を要求してきた。


 どうやら、マリティカ様の本命はこの案みたいだと、私は予想を立ててみた。


 その予想をたてた根拠なんだけど、それは、女神の神眼で私の心を見透かしているはずなのに、わざわざ話を詳しく説明するように誘導するのが変だから。


 なんだか、少し前のめりな姿勢に自然になってるし、最初からこの計画を話すように、私をけしかけていたのかもしれないね。


 この案は、私の空想の中の物語を思い描いたもので、計画とは言えないんだけどな。


 まあ、いいや。その計画で味方になってくれるなら、取り敢えず話してみる価値はあるよ。


「は~、わかりました」


「これは、提案というか、私の空想の中の物語と私の願望が入り混じった案なので、今のままじゃ、到底実現不可能な夢物語なんですからね」


「まずは、そこを理解しておいてくださいね」


「わかったわ」


「じゃあ、説明しますけど、この計画は『マリティカ神水教』を国教に認めさせたら、ちょっと面白そうだなと考えたが出発点なんですけど、王族に承認されて神水教の催し物の一大イベントとして、1年に1回、マリティカ女神の誕生祭をしたら盛り上がるんじゃないかなと、心の中で考えていた空想の夢物語なんですよ」


「その空想の物語を実現しようとしたら、まずは、この国の王族と掛け合ってマリティカ教を設立させなきゃいけないし、その段階になって、ようやく本格的に動き出す大規模な空想の計画だから、実現性は限りなく低いですからね」


「私の空想の中では、誕生祭の期間中に、聖水で出来た聖獣の一団が、王都の青空や湖の水面や国の平原を駆け巡らせたリ、夕日を背にして、神水で出来た巨大な鯨の神獣が天空を優雅に泳ぐ姿や、その鯨に付き従う神水で作られた魚のむれも大空を舞い踊っていたり、普通の人達の目に映らない精霊や妖精達が見えるようにしたり、とにかくメルヘンチックなお祭りが出来たらいいなーと叶わぬ夢として思い描いていました」


「もし、そんなお祭りが出来たら、マリティカ様の知名度や信仰も、きっと爆発的に伸びていくんじやないかなーと思っていたんですけど、もし仮に、この計画を進行するとしても、計画が大規模過ぎるのと、どれだけの予算がかかるのかも検討もつかないから、まだまだ当分先の話しになりますからね」


「まあ、大雑把に説明しましたけど、所詮私の空想の中の物語なんですから、あんまり本気にしないようにしてくださいよ」


「だけど、マリティカ様の全面協力が得られるようなら、もしかしたら、実現する可能性も出てくるかもしれませんけど....どうします?やっちゃいます?」


 どうせ、私の心を読んでいるんだから、わざわざ私が詳しく説明しなくてもいいと思うけど、マリティカ様なりに体裁を整えたいみたい。


 だから、私が説明している間は、一切の言葉を挟まないで静かに聞き入っていた。


 そんな風に大人しくしてたマリティカだけど、私の説明が終わると両眼の神眼をキラキラさせながら、勢い良く立ち上がり口を開く。


「その案は、最高の案だと思うわ。アヴィ、私が全面的に協力してあげる。面白そうだから、その夢を一緒に叶えて見ましょうか」


 ちくしょー、やっぱりこの提案が本命だったのね。


 私が少し目立ったりすると、張り合うように目立つ行為をしようとする....そんな、私以上の目立ちたがり屋のマリティカ様らしいって言えば、そうなんだけど....。


 この提案を実現しようとしたら、錬金術で遊んで暮らす計画に支障がでちゃいそうけど、そこは、もう仕方がないのか。


 いやいや、やっぱり、それも諦めらきれないから、2方面作戦でなんとかするっきゃないよ。


 そうだ。イエラちゃんを、マリティカ様の聖女に仕立て上げて、この難局を乗り切るのも、いいかもしんない。


 どうせ、もう少ししたら、エロエロ神官にジョブチェンジするはずだから、エロエロ女神を信仰するように説得しちゃおう。


 こうなったら、マリティカ様の加護を授かったイエラちゃんとギレン兄の2人供を、もう、骨の髄までとことん利用してやるもんね。


「一緒にやってもいいですけど、メグフェリーゼ様とサラの毒牙から、私を守ってくれますか?」


 メグフェリーゼ様の盾になれる女神様は、同じ女神様のマリティカ様しかいないから、こうなったからには、一蓮托生でいくっきゃないんだ。


「いいわよ。じゃあ契約成立ね」


 そう言い終わると、マリティカ様は、指先から神水の水球を創造し、それを私の胸に目掛けて飛ばす。


 その神水の水球は、私の胸の中心に当たり、そのまま吸い込まれてしまう。


 くそっ神水による【神契約】の御力を使われたっぽい。


 あーあ、やることが抜け目ないし、情け容赦無いし、契約で縛るなんて最低なんだけど、それだけ私が信用されてないのかもしれない。


 シフィ姉ちゃんを見習って、ついこないだマリティカ様との口約束をした契約内容を、そのまま寝かせて行動しないようにしてたから、それを根にもったのかも。


 もう、女神なんだから、少さなことぐらいで根に持たないでよね。


 これで、この場だけの口約束じゃなくなった訳なんだけど、エロエロ女神のやることだもん。


 きっと何処かに、抜け道があるはずだよ。


「メグフェリーゼ様、こちらの契約も完了しました」


「そう、ようやくアヴィも折れてくれたようね」


「じゃあ、私はサラミリアを手助けするから、貴女はアヴィの手助けをしながら、早くお互いのギクシャクした関係を何とかしなさい」


 ほえっもしかして、私を追い込むようなやり取りも、全部仕組まれてたの?


 これまでのやりとりも、2神の女神様が主導した仲直り工作だったみたいなんだけど....。


 何が何やら訳がわかんないけど、どうやら、またまた2神の女神様に手玉に取られたみたいなんだけど....。


 あーあ、またまた、上手く誘導されちゃった。


 も─っ残念、無念、超悔しい──!!


 でも、今はこの場を乗り切ることに、全力を注ぐ時だもんね。


 この件の反省は、この2神の女神様が無事に、帰還されてからにしよう。そうしよう。


「うふふ、これはいい暇つぶしになるわ」


「やり方次第では、かなり面白くなりそうだわ」


「サラミリア、頑張って攻略対象を篭絡させるわよ」


「そうねえ、今から、もう少し具体的に攻略方法を伝授するから、しっかり聞きなさい」


 楽しい玩具を見つけて、とっても素敵な笑顔になったメグフェリーゼ様は、神獣サラちゃんをその気にさせるべく、唆してやろうと恋の大捜査大作戦の開始を宣言したみたいだけど....。


 どうやら、嘘や冗談ではなく、本気で私とサラをくっつける気、満々MAXみたい。


 絶対に組ませてはいけない最強のタッグが、私の目の前で新規結成しちゃったんだけど、どうすればいいのかな?


「よろしくお願いしますポン」


 神獣サラちゃんも、メグフェリーゼ様に触発されて、10本の尻尾を元気よくウネウネさせながら、満面の笑みを浮かべて返事をしたよ。


「ああ、そうそう、アヴィ──」

「貴女が、誰よりも会いたがっていた話し相手も、用意しといたから....」


 ここで、薄ら笑いをしたメグフェリーゼ様が、買い物から帰ってきて、頼まれた品物があったみたいな超軽い乗りで、またまた、突然の爆弾発言カミングアウト


 もう、私の頭は一杯一杯で、容量過剰リミットオーバーなんだから、もう少し優しくして欲しい。


「──へっ.....」


 思わず、素っ頓狂すっとんきょうな返事をしてしまう私。


 この件は、私にとっては、何を置いても叶えたい、超重要案件なんだけど....


 そんな何でもないかのように、言われても、全然心の準備が出来ていないよ。


「──セラフィシア、いつまでも隠れて見つめてないで、そろそろ、アヴィとお話してみたらどう?」


「──ほへっ.....」


 メグフェリーゼ様が話した言葉に、またもや素っ頓狂すっとんきょうな返事をしてしまう私。


 セラフィシア──その名前は、私を産んで直ぐに亡くなった私のお母さんの名前。


 私のお母さんは、10年前に亡くなったから、魂はどうやっても、今まで見つけられなかったのに、どうやったんだろう。


 私がいくら研究しても、お母さんの魂の再生は、出来なかったのに....。


 そんな、お母さんの名前を告げられても、未だに信じられない私だけど、メグフェリーゼ様の話しが終わり、暫らくすると、私の今いる丘の風景の側で、細かい光の粒子が地面から浮かびあがってくる不思議な現象が始まるのを観察していたら、感情がこれまでにないぐらい高まってくるのを感じてしまう。


 その様子を見つめていると、キラキラ輝く純粋無垢な私の両眼から、感情の制御が取り外されて、涙が止めなく流れ落ちてきた。


 光の粒子は、次第に一箇所に集まり光が繋がるように結集して、人間の体を形作っていく。


 その光景を見つめている私の表情は、鼻水も垂れてきて、可愛らしい私のお顔が酷くて見られないくらいクチャクチャになってると思うけど、そんなの、今はどうでもいいし、気にもしていられない。


 今の私は、溢れる涙を拭いつつ、感情の爆発を何とか抑えながら、目の前の現象に釘付けになっていた。


 眩い光がその人間の身体を包み込み徐々に光が弱まると....。


 その場には──私が逢いたくて──抱きつきたくて──謝りたくて堪らない──本宅の正面玄関に飾られたいる、お父さんと一緒に描かれた人物画でしか見たことが無いお母さん──


 ──セラフィシアお母さんが涙を流したお顔を私に晒して、両手で口元を抑えた姿で私の目の前に現れた。


 そのセラフィシアお母さんは、本宅の正面玄関に飾られた人物画よりも若々しく、純白のドレスを着ているけど、人物画と明確に違いがわかる箇所があるんだけど、それは何の意味があるんだろう。


 その違いは、セラフィシアお母さんの額の真ん中部分なんだけど、丸くて赤い太陽のような円が描かれているんだよ。

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