第35話 ラスレちゃんの告白タイム②

「まさか、ここまでの力があるとは──」


 コスタおじちゃんの小さな呟き声は、私だけに伝わった。


 そのコスタおじちゃんは、何を思ったのか、かなり真面目な顔をしたまま、グランさんに目線と手先の動作ハンドサインを駆使して、グランさんに交渉を引き継ぐように指示をだしたように見えた。


 グランさんは、特に何の表情も見せずにコスタおじちゃんに視線を合わせ、頷いて返事を返してた。


 もしかしたら、ラスレちゃんの力をまざまざと見せつけられ、このままでは、大きな魚の機嫌を損ねてしまう可能性を、今のこの段階になって、ようやく初めて考慮したのかもしれない。


 あーあ、今まで頑張ったと言うべきか、邪魔ばかりしたと言うべきか、判断は分かれると思うけど、そんなコスタおじちゃんが無念の交代リタイアになるみたい。


 私としては、勿論後者の判断を指示してるから、ようやくほっとした。


 グランさんは、更にやり取りしてくるコスタおじちゃんの目線や身振りや手振りジェスチャーから、正しく理解した命令を受け取ると、カッコイイ表情の頬を少し緩めつつ、ラスレちゃんにも、選手交代を伝える為の、キュンとしそうな強い眼差しと見とれそうな身振りや手振りジェスチャーで合図を送ってる。


 選手交代を誰よりも待ち望んでいそうなラスレちゃんだけど、その合図を受け取っても、表情には決して見せないようにして、幸福絶頂の天使の微笑を浮かべた仮面を身につけたまま、聖水晶製の椅子に座るように促す動作をして、目線を聖水晶製の机と椅子に移して、声を掛けようとしてる。


「長い間、立ったままでしたから、お疲れになったと思います」

「こちらに落ち着ける場所を用意しましたので、腰と足の疲れを落ち着けてから、じっくりとこれからのお話をしましょう」


 そう話し終えるとラスレちゃんは、行き成りこの場に現れた聖水晶の机や椅子の説明をすっとばし、率先して自分からその場所に足を向けて歩き出す。


 多分、他の面々も付いてくるように促す意図もあるんだろうけど、アルテちゃんの力を見せつけた後だから、2人が戸惑う間に自分が優位に立つ手段として、色々利用してるんだろうね。


 コスタおじちゃんとグランさんの2人は、特に難癖をつけることなく、目線を合わせてお互いの細かい手先の動作を駆使して、即席の緊急秘密会議を開きながら、ラスレちゃんの後ろから、付き従う様に歩き出していた。


 後ろから付いてくるセルディさんは、ひたいを手で抱えてまま、もう何度も頭を振り続け、深いため息を吐いて、ラスレちゃんの独走に諦めの局地に達したのか、無言のまま黙って後ろからついて行き、コスタおじちゃんとグランさんが座るのを見計らい、セルディさんもゆっくりと腰をおろした。


 コスタおじちゃんは、私がビックリ仰天してるんじゃないかと疑うおじちゃんの内心を、包み隠し通そうとしてるみたいに装ってるけど、優雅さだけが取り柄のお貴族には全く見られない、ソワソワして落ち着きのない動作が所々で垣間見えてるから、全然隠し通していないと思うよ。


 そんなコスタおじちゃんは、目線はラスレちゃんに向けてるけど、何かと貴族の振る舞いを気を配りつつ、座った椅子や机をさり気なく触って感触を確かめたり、その触った手を口元に近づけ匂いを確かめたりして、周辺の様子も注意深く観察してるね。


 グランさんは、近くにある恋草をちぎり、軽く手で感触を確かめ、興味深く目元に近づけて観察していたけど、一端席に座ると、そんな今までの興味深そうな表情を改めて、ラスレちゃんに向かってカッコイイ微笑みを投げ掛けた。


 これで、少しは、事態の進展が早くなると喜ぶ私の考えが採用されたのか、グランさんは、カッコイイ表情をキリッとしたマジメさんの表情で、ラスレちゃんの向かい合うように目線を合わせて話を切り出す。


「ラスレシア様、大変恐縮ではありますが、これからは、父上に変わり私が直接交渉したいのですが、よろしいですか?」


 机に両腕を置き両手を組んだ姿勢をとるグランさんは、ラスレちゃんに優しく話しかけた。


「はい、グラン様。有意義でお互いが幸せになれる、そんな素晴らしい充実した中身のある交渉になるように一緒に話し合いましょう」


 対するラスレちゃんは、HEART♡HEART♡に染まり切り半分閉じかけた両目を、グランさんに差し出すように、ゆったりとふわふわとした感じで答えていた。


「私もそうなるように、心から願います」

「さて、それでは、交渉に入る前に、ラスレシア様に是非お聞きしたい点があります」

「ラスレシア様、貴女は私が何を考えているか、既におわかりでしょう」

「私がお聞きしたいのは、この変わり果てたこの空間に関してです」

「今の私は、見た目は普通に見えるように取り繕っていますが、目の前で起こった全ての現象が、全て夢やまぼろしではないかと疑う感情が渦巻いていまして、かなり感情が揺れ動いています」

「空中にいくつも浮かぶ、聖なる光を放つあの神秘的な水晶も──」

「地面を覆い尽くす桃色の光を放つ草原も──」

「天井から落ちてきそうな、光を放つ花の洪水と──」

「その間から見える光の洪水が見える幻想的な景色も──」

「光を放ち空を舞踊る、見たことも無い形をした集団の景色も──」

「私には、夢や幻としか思えない現象について、まずは貴女の口から、お話して貰えませんか?」


 グランさんは、ラスレちゃんの勇気を振り絞った告白よりも、まずは、自分の最も知りたい質問を問いかけたけど、その話す声に少し怒りの感情が混じっているように感じるけど、なんでかな?


 ここの椅子に座る前に側に生えてる恋色の草をちぎり、感触を確かめてたけど、今の話しぶりだと、自分の手の感触も全く信用できてない口振なんだけど、そこまで信じられない現象なのかな?


 私のお付き合いしてるアヴィちゃん特戦工房隊の中には、この風景を創れる仲間もいるから、そこまで信じられない現象でもないんだよね。


 でも、多分もしかしたら、私の方がおかしいのかもしれない。


「そう言われましても、どう説明すれば納得していただけるか、私としても上手く説明出来るかわかりませんが、そうですね、まず、ここに今映っている物は全て実体化していますし、この机と椅子も全て本物の聖水晶の原石になりますし、向こうで浮いている聖水晶の岩石も全て実物になります」


 両目をHEART♡HEART♡に染めて、グランさんを愛しげに見つめるラスレちゃんは、恋の吐息と一緒に、真実の言葉を淡々と語っていたけど、グランさんが答えて欲しそうな回答は、敢えてはぐらかして答えているね。


 そして、何かを考えついたような演技をして、可愛らしく両手を合わせて笑みを浮かべる。


「疑問に思われるのでしたら、ゆっくりと2人で手を繋ぎながら、園内を散歩してみませんか?」

「2人だけの方が、この風景に溶け込んで、いい雰囲気になると思いませんか?」


 可愛らしい笑みを浮かべたまま、この場から2人だけで、抜け出してイチャイチャしようと提案しちゃう、この場の緊張も全て関係なく振舞う小悪魔ラスレちゃん。


「いーえ、結構です」


 だけど、全然釣れない言葉を返す、真面目な表情をしたグランさん。


「今はラスレシア様からしっかり話を聞くべきと私の心が訴えて掛けていますので、その疑問に全てお答えいただき、時間が余りましたら、2人で手を繋いで園内を散歩しましょう」


 さっきは釣れない言葉を返したグランさんだったけど、次はカッコイイ笑顔を見せつつ、妥協案を提示して、ラスレちゃんの言葉を引き出そうとしてる。


 始めに鞭で叩いて、次に優しい口調と飴で躾ようとする、恋の熟練達人のような恋技テクニックを駆使してラスレちゃんを手玉に取ろうとしてた。


「本当ですか?約束ですよ!!グラン様!!」


 グランさんに簡単に釣り上げられたラスレちゃん。


 そんなラスレちゃんは、弾ける笑顔と弾けんばかりの甲高い声で、約束を交わそうと持ち掛けた。


「はあ、ラスレシア様──貴女には、最初に話しかけられた瞬間から、驚きと驚愕の連続で、もう私の心は、当分休まりませんよ」


 そう話し終えるとグランさんは、頭を左右に振り、軽くため息を吐いてしまう。


 あーあ、ラスレちゃんは、初っ端から全力疾走の勢いで突進して、グランさんに体当たりするみないに突っ込んだみたい。


 まあ、ため息を吐くのも、仕様がないね。


 だって、今回のやり口は、あきらかにラスレちゃんの確信犯だもん。


 セルディさんは、過去の自分を見てるみたいで、ちょっと苦笑いをしてる。


「あのような魔法があるなど、全く聞いたこと無いですし、私の目の通した古文書にも、何も載っていませんでした」


 厳密に言うと、あれはもう、魔法じゃないから載ってないよ。


 だから、古文書にも載ってないでしょ。


 目を通すとしたら、神殿に収納されてる聖典や、神話のお話を纏めた神学書を見るといいよ。


「その力を振るわれても、ラスレシア様──貴女には、ふらつく様子も見られませんし、顔色にも何も変化は見られません──これは一体、どのような仕組みなのでしょうか?」


 だって、ラスレちゃんは、何もしてないもん。


 違う、間違えたよ。アルテちゃんと契約はしてるし、お願いはしてるかな?


 アルテちゃんは、ラスレちゃんのお役に立てて、きっと喜んでるよ。


「グラン様が疑問に思うのもは、当然のことだと思いますよ」


「先程の女性の騎士様──グラン様とリスタリアラ様のお2人と交渉していたときには、この件に敢えて触れませんでしたから....」


「今私がこの余興をしたのには、お二人に私の力を知って欲しかったという理由も含んでいましたから」


「この力を使えば、多少なりともダルタロイア男爵家のお力になれると思います」


 あー、やっぱりアルテちゃんの事は秘密にして、話を進めようとしてるみたい。


「これで私の願いは聞き届けてもらえるでしょうか?」


 まー、自分のカードを全て見せる必要はないもんね。


「ええ、私は貴女の願いを生涯叶える心構えは出来ています....」


 なんだー、コスタおじちゃんと話し合う前に、そこまで話しは進んでたんだ。


「──ですが、私はリスタと別れる気は全く考えていません」


 えっ..でも、リスタって誰?..どういうことだろう?何か可笑しくない??


 もしかして、グランさんには、既に恋人がいたのかもしんない。


 そこにラスレちゃんが、恋の特攻攻撃アタックを掛けたのかも?


 もしかして、恋人を押しのけての略奪愛?


「それに、私とリスタは18歳でラスレシア様──貴女は11歳で年の差の離れていますが、本当によろしいのですか?」


 違うっぽいよ、略奪愛じゃなさそう。


 え────っと、もしかして、2人の恋愛に一緒に混ぜてもらうつもり.....なの?


 超レベル高いんですけど....。


「ええ、それくらいの年の差など何も問題ありませんし、私は先月の誕生日で12歳になりました」


 やっぱ、かなりレベル高いんですけど....。


 恋愛レベル1の私じゃ、とてもついて行けない世界だよ。


「このエルベリア王国では、15歳になれば結婚できるので、後3年で結婚できますし、それに...。」


「先程の話し合いの通り、将来第1夫人の地位がいただけるのでしたら、そのような些細な問題など、全く気になりません」


 ラスレちゃんは全く動じず、自分の恋を実らせる為に、全ての障害をどんどん叩き折ってるよ。


 そして私には、貴族様の世界は、やっぱり苦が重いと痛感しちゃった。


「ですから、グラン様は、リスタリアラ様と愛した分だけ、私も愛するようにして下さい」


 ラスレちゃんは、自分の切り札のカードを残してまま、家の力を使い、自分の力を証明して、グイグイ責め立ててるよ。


「その条件でしたら、私は十分に飲めますよ」


 そのラスレちゃんの軍門に下り、あっさり降伏の旗を上げたグランさん。


 ウヒョッ鬼畜条件を飲み干しちゃった。


 グランさん、ハーレムルート確定だよ。


「後は、グラン様とリスタリアラ様は、私の守護騎士にして、いつも側にいてもらうようにお願いしたいのですけど、そちらの方も叶えてもらえますか?」


 ラスレちゃんの問いかけに、グランさんは、隣で大人しく聞いているコスタおじちゃんに視線を移す。


 コスタおじちゃんは、そんなグランさんを見つめ返して頷いた。


 その動作を見届けたグランさんは、再びラスレちゃんに目線を合わせた。


「ええ、父上の了承も今もらいましたから、こちらとしては、問題ありません」


 これで、ラスレちゃんの現状の野望は、殆ど叶ったみたい。


「ラスラシア様、逆に今度は私の方から少し質問させてもらえないでしょうか?」


「ええ、いずれ夫婦になる関係ですから、今の内に色々お互いの距離を縮めていきましょう」


 そこからは、もうかなり早い速度でお互いの主義主張をし合う両者。


 その色々交わされる話し合いの中で、私が一番驚いたのは、やっぱりまだ残してあった、ラスレちゃんの言葉の切り札。


 ラスレちゃんは、なんと、もう既に、アルスレグス伯爵家次期当主に内定してるのを、ここで暴露しちゃう。


 まだ家の事情があって大々的に報じてはいないそうだけど、ジェマス婆ちゃんのお墨付きが書かれた覚書おぼえがきを見せてたし、どうも本当みたい。


 話を聞いた感じだと、どうも私が魔導神水晶杖アルテリアロッドのアルテちゃんを渡した時期とそう変わらない、つい最近内定を貰えたように話してた。


 その話を聞いた私は、もしかしてと思っちゃう。


 どうか、この件には、私が関わってたり関与していませんように!!


 お願いします!神様!メグフェリーゼ様!!


 でも、そんな私の願いも、この場では全く無視されてしまう。


 まだまだ、ラスレちゃんのアルスレグス伯爵家の暴露話は続いてる。


 ラスレちゃんの話を纏めると、アルスレグス伯爵家は、一番力のある人物が上に立つみたいな風習がある家らしくて、兄達や姉達と次期当主を掛けて、今も骨肉の争いの真最中らしくて、一番下のラスレちゃんを追い落とそうと、兄達と姉達が協力して、ラスレちゃんと色々やり合っているそう。


 ラスレちゃんの味方は、いるにはいるけど、一癖も二癖も腹に一物を抱えた、沢山いる貴族の婚約者候補ばかりで、内情は殆ど孤立無援みたいだから、ラスレちゃん的にも、ダルタロイア男爵家の後ろ盾がどうしても欲しいみたい。


 そこら辺の話し合いになると、両者の溝も大分打ち解けてきたみたい。


 そして、なんやかんやと話は進んで、今のこの場では、2人のお見合いが、コスタおじちゃんとセルディさん立ち会いのもとおこなわれてるよ。


 この幻想的な雰囲気になった洞窟大広間内では、静やかに穏やかに、そして愛しげにラスレちゃんが歌うように語ってる。


 なんでこんな状況になったかと言えば、グランさんから「どうして始めて合う自分に、ここまでの恋心を抱くのか、何か理由があるなら教えてください」と問いかけたからなんだ。


 その問いかけを心待ちにしていた恋の特攻隊の乙女戦士ラスレちゃんは、魔導駆動機器魔導エンジンが暴走したように、もう止まらない恋の告白の時間タイムになりそう。


 さーて、ラスレちゃんの恋の絨毯爆撃がはーじまーるよー。


「実は私は、素敵な夢を忘れた頃に見るんです」


「その夢は、かなり鮮明な夢で、その光景は私の心に刻まれたように、直ぐに頭に思い浮かびます」


「それは、素敵な花々の生い茂る庭園の中央に位置する吹抜け建造物ガゼボの中で、素敵な調度品に囲まれて、宝石のような煌めく机を通して、と向かい合うように座って、美味しいお茶とお菓子を頂きながら、色々お話をする夢なんです」


 私はラスレちゃんの話を聞く中で、超気になる言葉ワードに注目してしまう。


 黒い翼をつけた女神様は、この私のいる世界の神話には、全く登場しないし私のいる世界の神々にはいない。


 その事実は、ちゃんと私が近くの神殿まで出向いて、お布施も超沢山してあげて、しっかり意地汚い神官さんから、事情聴取して聞き出したから、その事実で間違い無いと思う。


 だけど、私は知っている。


 黒い翼をつけた女神様を──。


 漆黒の翼を身につけた女神様を──。


 その女神様の名はメグフェリーゼ様


「昨日、その素敵な夢を、また見てしまいました」


 あーあ、メグフェリーゼ様は、暇つぶしの為に、私の仲よし子よしのラスレちゃんとも、深夜に遊んでたのが判明しちゃった。


「その夢の中で女神様から、色々お告げをいただいたんです」


 私は、今日始めて生のメグフェリーゼ様に会えたのに、ラスレちゃんは、もしかしたら、私より先に仲よしになってたんじゃないのかな?


「女神様からは、今日運命の相手が現れるとお告げをいただき、夢の中で前もってグラン様の全身のお姿も見せてもらいましたし、グラン様とお付き合いしたら、どうなるかも事細かく説明してもらいました」


 話す口調はともかく、性格はかなり優しいだもんね。


「その夢が覚めてからは、そんな夢みたいな出会いがあればと、憧れを抱きました」


「ですが、私はアルスレグス伯爵家に生まれた貴族の娘ですから、憧れをいだいても、私の生きる貴族社会を生き延びていくには、何の役にも立ちません」


「今日という日を無事に乗り切る為に、その夢を綺麗さっぱり、忘れ去っていたのですが──そこにグラン様、貴方が私の目の前に現れました」


「夢の中のお話だったので、叶わぬ夢物語と夢想を断ち切っていたのですが、女神様のお告げの通りに運命の出会いが起こってしまいました」


「そして、私は出会った瞬間に、夢の中でお告げを受けた運命の出会いを、素直に受け入れました」


「それは、グラン様を見た瞬間、私の眼と頭とお腹の下も──私の全身全霊が『グランドエルト様こそが私の半身』と、そう叫んだように感じたからです」


「一瞬で私の心がグラン様に強烈に惹かれていくのが、目線を合わせただけでわかりました」


「私は、ダンジョンで話しかけてきた瞬間に、運命の出会いを受け入れ、グラン様を見た瞬間に本能に従い告白したのです」


「何故かそれが正解と思えてしまい、精一杯の気持ちを込めて、告白したんです」


「ここで、夢が敗れたら、魔物の餌になる決死の覚悟で、グラン様の胸に飛び込みました」


 あれっさっきは言葉のあやのつもりだったけど、ラスレちゃんは本当に飛び込んだみたい。


 ラスレちゃんタックルが成功したから、グランさん、さっきため息ついたのかもね。


「それからは、もう、必死になって、グランさんを口説き落とそうと、頑張ったんです」


「今まで貴族の娘として生きてきて、生まれてこの方、ここまで熱意を込めて事に望んだのは、始めてでした」


「でも、私には仲間の応援があったから、頑張ることが出来ました」


「そしたら、、聞いてください」


「安心してください。喜んでください」


「グラン様の婚約の了解も、実は既にもらえちゃってるんです」


「『君のその強烈すぎる熱意には、もう完全降伏するしかない。騎士が決死の戦いに負けたからには、当然君に忠誠を誓うことになる。生涯君の傍らで君を守ることを約束してもいいから、その辺で私を一端開放してくれないか』って告白プロポーズされたんです」


「きゃー恥ずかしいー」


 えっそれは、告白じゃなくて、一端どうしても逃げたかったから、口から出た言葉じゃないかなー?


「傍らでグラン様を後ろから支えていたリスタリアラ様とも、『2人でグラン様を支えていく』と、2人で誓い合いましたし、夜の営みも実戦形式で教えを請うことになりました」


 なる程、グラン様本人を攻めても、この場では落とせないと踏んで、婚約者を攻め落としたんだね。


 その時に家の名前を使って、婚約者を篭絡させたんじゃないかな?


「初めは優しくしてくれるって、グランさんもリスタリアラ様にも言われたから、もう夜の営みに関しては、二人の方が断然先輩ですから、全て2人に任せることが出来て、とっても安心しました」


 私はラスレちゃんが、メグフェリーゼ様の玩具にならないことを、心の底から祈るよ。


「もう、今からその事を考えるだけで、下腹部がジンジンしちゃいます」


「それに、グランさんが私とリスタリアラ様以外と浮気しないように、成人してからは、毎年子作りに励んでくれると約束してくれたんですよ」


「きゃー嬉しいー」


「私は、沢山の子供に囲まれて暮らすのが夢なので、夢を叶えてくれるグラン様は、大大大好き!!」


「これから、毎日イチャイチャできるかと思うと、もう、幸せで胸の鼓動が大きく聞こえて、身体も熱くなって、トキメキが止まらない。もうウキウキしっぱなしなんですよ」


「グラン様も今はもう、やる気満々まんじろうさんで、私の100人程いる許婚候補者達をバッサバッサと切り捨てる気満々万吉くんなので大丈夫です」


「3人で力を合わせてきっと幸せになりますから、安心して下さい」


 ラスレちゃんの口から取り留めなく飛び出してくる恋の歌詞ラブソングには、聞いてる私のほうが思わず赤面したくなる内容がてんこ盛りのモリモリさん。


 身に纏っていた心の貴族の仮面も心の貴族の衣服も脱ぎ捨てて、素のラスレちゃんの口調で甘くて激しい恋の言葉がうっとりした恋の歌詞ラブソングの歌声で洞窟ダンジョン大広間空間に流れてる。


 側で聞いてたコスタおじちゃんも、最初の頃の怖そうな雰囲気もどこえやら、ここまで話を聞いてたら、始めは真面目な表情だったけど、途中からはもう呆れ返ったように呆然として、いつ終わるかわからない恋の歌詞に聞き入るしかないみたい。


 これがグランさんのお父さんの、これからの役割なんだろうな。


 まだ、ラスレちゃんの恋の絨毯爆撃が続いてるよ。


 熱が冷めるまで、もう少しかかりそうだね。


 アルテちゃんもラスレちゃんの恋話こいばなを聞き入っていたようで、今ようやく思い出したように、さっきの『お父様』の言葉キーワードに反応して、ちょっと慌てている空気も感じ取れるけど、アルテちゃんが調子ギアを上げて、お仕事をやり遂げようとしてる空気が感じ取れる。


 洞窟大広間内では、更なる変化が起きちゃいそうな雰囲気が、急激に立ち込めてきたのが、何故がみえた。


 今度も天井部分から、何かが起きそうな気配がするよ。


 そんな私の感は、またしても正解したようで、天井部分に網の目のように張り巡らされた白桃色のつるが恋の螺旋を描くように絡み合いながら、垂直に地面に向けて、幾重にも重なり一直線に伸びてくる。


 恋の螺旋状に絡み合うつるは、そのまま地面に突き刺さり、天井から地面まで伸びる恋の螺旋柱になると、そこから少しずつ白桃色のつるが太くなり、丈夫な恋の螺旋柱が完成したように見えたんだけど、まだまだそこから更に進化は続いていくんだ。


 ようやく終わったと思ったら、今度は、恋の螺旋柱を覆うように葉を茂らせたつたが巻きつくように育っていき、その蔦から花になるのを飛ばして、恋の果実──恋葡萄が柱から次々に大粒の実を付けて吊り下がったんだよ。


 そんな恋葡萄を沢山実らせた恋蔓の螺旋柱が、この大広間内に10数本打ち立つように出来上がっちゃう。


 恋桃色の葡萄は、どんな味がするのか、食べてみたいな。


 あれっ私の視界に騎士の皆さんの姿が見えたよ。


 さっきまで、固まり合うようにしてた騎士小隊の皆さんは、それぞれ別れてこの周辺を探索してるよう。


 なんだか、全員開いた口が塞がらない程驚いているようで、目を何度もこすってる図体ずうたいがでかい騎士さんや、うっとりして天井部を見つめてる2人の女性騎士さん、聖水晶の光を浴びて至福の時を過ごしてる若い騎士さんや、恋色の草原に寝転んでる男女のカップルみたいな若い騎士の2人──。


 あれっ残りの2人の騎士が見当たらないね。


 確か小隊は10人小隊だったから、コスタおじちゃんとグランさんを入れても8人だから、やっぱり2人が見当たらない。


 何処に行ったんだろう?


 もう少し探してみると、今度は幻獣の守護者のギレン兄とイエラちゃんも、この大広間に姿が見当たらないのにも、気づいてしまう。


 あれっ可笑しいな?


 シフィ姉ちゃんは、まだモフモフ素材の山に埋もれてるのかな?


 シフィ姉ちゃんが埋もれてる、モフモフ素材の山を見ようと視界を移動させてみたら、さっき見たときは、モフモフ山がゴソゴソと蠢いてたんだけど、今はその様子が一切見られない。


 変なうめき声やあえぎ声も聞こえない。


 周辺を見渡してみると、何故がシフィ姉ちゃんの装備していた魔導鎧一式が辺り一帯に脱ぎ捨てられるように散らかってるし....。


 女性の最後の砦として、自分の意思が無いと決して外れないように、魔導処理を施し錬金作成した下着革鎧アーマーも、モフモフ山の側にビチャビチャに濡れた状態で、脱ぎ捨てられてるけど、一帯全体どういうこと??


 何だか凄く嫌な予感がしてきたよ。


 でも、可笑しくない??


 シフィ姉ちゃんがいないのに、シフィ姉ちゃんのいない場所の映像を見てるんだよ。


 どういう理屈なんだろう??


 ──アヴィちゃんが見てた記憶映像は、シフィお姉ちゃんの記憶をさかのぼって読んで作成した映像だけど、足りない部分は、時間も遡ってその場にいる、みんなの記憶も読んで作った記憶映像なんだポン。


 ──その場にいる迷宮核の記憶も読んで作った映像記憶だから、そうなるんだポン。


 あれっベロリンチョのサラの声が聞こえたよ。


 ──アヴィちゃん、その呼び方は酷いポン!!


 ──サラは、その2つ名を今日を持って返上するポン。


 ──今日からは、アヴィちゃんが心の中で考えてた、正義戦隊アンポンタンのポンポコのサラの2つ名を名乗るポン。


 あーあ、神獣になったから、もう私の心の声が、ダダ漏れなのね。


 ──正解だポン。実はもう目的地に着いたポン。だから呼びに来たポン。


 えー、もう付いちゃったの。早いよ。まだこっちは、肝心な情報を見てないよ。

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