第16話 オロ叔父ちゃんと和解

 私は、自分の周囲に展開していた『次元氷ディメイション槍散弾アイス・ブラッド』が役目を終えたから、脳裏で展開している魔法陣を思考操作で解呪して、魔法を打ち消した。


 すると、50程の氷槍ひょうそうは、忽ち現実世界に存在できずに、幻影のように透明になり、やがては全ての氷槍ひょうそうが掻き消えた。


 私が解呪作業をし終わっても、オロ叔父ちゃんの口元は、まだパクパクしていた。


 よっぽど心に強い衝撃を受けたんだろうね。もう少しだけ様子を見ておこう。


 危ない人には、近づいたら駄目だからねと、口を酸っぱくしてオロ叔父ちゃんから言われてたからね。


 私の判断基準では、オロ叔父ちゃんも充分危ない人の範疇はんちゅうに入るから、勿論もちろん絶対に近づかないよ。


 だからね、オロ叔父ちゃん、そろそろ正気に戻って、そこから、退いてくれないかな?


 私は、もうしばらくだけ、オロ叔父ちゃんが正気に戻るのを、警戒けいかいしながら待つことにした。


 すると、今回の功労者こうろうしゃ、ベロリのサラちゃんが、愛らしいタヌキの笑顔を浮かべながら、ペッタンペッタンと足音を鳴らして、私の隣に立つように近づいてきた。


 そのサラの10本のもふもふ尻尾は、それぞれ空中に浮かぶように長く伸びて、先端部分がからまりあって、球状の淡くきらめく神毛玉のようになっていた。


 その神毛玉は、空中にふわふわと浮かび、ふらふらと左右に揺れ動いている。


 中では今のシフィ姉ちゃんが至福の時を未だ過ごしていた。


 シフィ姉ちゃんは、暫く何を言われても、出てきそうにない雰囲気だ。


「最高」..もふもふ..もふもふ..もふもふ

 もふもふ..「壮観」..もふもふ..もふもふ

「至高」..もふもふ..「素敵」..もふもふ

 もふもふ..もふもふ..もふもふ..「絶景」

 もふもふ..「幸福」..もふもふ..もふもふ

 もふもふ..もふもふ..「至福」..もふもふ


 シフィ姉ちゃんのパ─ティ─の危機もどこえやら、我を忘れたシフィ姉ちゃんは、至福の表情を浮かべつつ、もふもふを堪能していた。


 ああなったシフィ姉ちゃんをあの神毛玉から引き離したら、また違うパトルが始まりそうだから、簡単に解放して、引き離したくないな。


 もふもふ馬鹿だから、仕方が無いのかな?


 でもな─、本当に、私に泣いて頼らなきゃいけないほどの危機があるのかな?


 この光景を見た後では、正直信じられないし、ますます疑問に感じちゃうよ。


 色々試したい実験があるから、出来れば早く簡単に終わってくれると、助かるんだけど。本当にね。


 そうした中で、凄くご機嫌な表情を浮かべたサラは、私に声を掛けようとしてきた。


「アヴィちゃん、私の勇姿をちゃんとみたかポン!」


 どうも、私に褒めて欲しそうに喋りかけてきたので、サラの頭をなでなでと撫でてやり、彼女にお褒めの言葉をプレゼントする。


「凄かったよ─、流石はサラ」

「もう、満点で最高の活躍だったよ」

「思わず、うっとり眺めちゃった」


 私に頭を撫でられているタヌキ神獣のサラは、お顔を赤くして嬉しそうに微笑んでいる。


 私は自分の喋る言葉に合わせて、自分の思考も同時に働かせていった。


「でもさ─尻尾の使い方、練習してないのに、良くあんなに上手く使えたね」


 そうなんだよね。どうしてあんなに完璧にできたか、ちょっと疑問に思ったんだよ。


「魔導リュックの中でしっかり練習してたポン!」


 サラが答えを教えてくれたけど、さらに疑問は深まってしまう。


 あれっ練習する時間、そんな暇は、ほとんどなかったはず


 幾ら、魔導リュックの中が時間遅延効果があっても、そこまでの時間はなかったと思うけどな─。


 それなのに、なんであんなに素早く的確に尻尾を扱えるようになるんだろ?


 神獣にバ─ジョンUPしたから?神脳にパ─ジョンUPしたから?


 何かそういう能力が最初から、付いてたとか?


 2神の女神様達が気を利かせて、何か凄い能力つけてくれたのかな?


 私、2神の女神様からは、そういう話は全然聞いてないけどな。


 もう少しサラに詳しく聞いてみようかな?


 サラを褒め殺ししてみたら、ポロっと喋ってくれないかな?


「こんな短い時間で、よくあそこまで上手く操作出来るようになれたね」

「やっぱり本当にサラは、私が思った通りに、凄く賢くて、本当に頼りになる存在だよ」


 本当に凄い頼りになるよ。私さっき瞬時にサラなら、何とかしてくれるだろうって思ったもん。


「えへへ─ポン!そうかな─ポン!アヴィちゃんに褒められるの、凄く嬉しいんだポン!!」

「今のサラが、護衛役になってくれたら、もう、かなり安心して任せられる」

「毎日サラが付いてきてくれるなら、もう少し移動範囲を、広げてもいいかもね」


 そうね。サラだったら、お空も自由自在に飛び回れる姿に変身できるから、お空の散歩するのもいいかもね。


「えへへ─ポン!!嬉しいポン!!」

「今だから言えるけど、いきなり、こんな神体からだにしたアヴィちゃんを、最初は恨んだポン」


 私はその言葉を聞いて、ウヒャッヤバッドショッとしつつ、内心かなりビビっていたが、平常心を保ち、サラの言葉を真剣に聞く。


 うっそれを言われると、ちょっとへこむ。あの時は、気持ちが抑えられずにオロ叔父ちゃんに向けるべき怒りを、我慢しきれずに、サラに向けてしまったからね。ごめん、サラ。


「でも、この神体からだを動かして色々してみたポン」

「そしたら、人間の体とは段違いで、凄すぎて、信じられないくらいの高スペックなんだポン」

「もう本当にビックリしたポン」

「今は断然こちらの神体からだの方がいいポン」


 そう言ってもらえて、少しだけ安心したよ。


 ほんと、以後気を付けます。


 もう少し性格改善するように努力します。


「アヴィちゃんと素直に抱き合えるなら、こっちの神体からだのほうがいいポン」

「それに、この神体からだになったら、魔導リュックハイルンルンの中の時間操作も簡単に出来るんだポン」


 あ─、そういうことか─わかった─謎は全て解決よ!!


 魔導リュックハイルンルンは、時間遅延効果のある魔導空間だから、高密度の魔素が充満している。


 神獣になると、魔素や魔法には、ほとんど力を使わないで、軽く念じるだけで魔力干渉できるんだ。


 今回は、魔導リュックハイルンルンの時間遅延効果を、さらに効果を高めた空間をするように、軽く念じて、新たに効果を上書きしたということだろう。


 そして、サラは、時間遅延効果が、さらに効果を高めた空間で、いろいろ実験したり、神体をつかう練習をしていたんだろう。


 念じただけで魔力干渉操作が簡単にできるなんて、神獣という巨大の御力を持つ存在は、本当にかなりの高スペックなんだということが、改めて実体験の中で実証できたよ。


 凄いね、まったくさ─。後先考えずに、なんて物を世に解き放つ真似を仕出かしたんだろうね。


 そうだよね。後先考えずに遊び心でやっちゃった私のお馬鹿さん。


 もう、まったく─、本当にごめんなさい。


 だから、寛大な心で許してちょうだい。


 反省します。以後気をつけます。申し訳ありませんでした。つづく。


 だって、女神様達があんなにノリノリになるなんて思ってもいなかったんだよ。


 これは、サラには、謝る意味合いも含めて、ちゃんとした償いのご褒美をあげなきゃね。


 なにか、今度サラ用に、何か身につけられる物でも作って、プレゼントしようかな。


 今は、何も用意できてないから、ハグして感謝を伝えよう。


 まあ、今のサラの姿なら、私も恐怖を覚えないし、別にいいでしょ。


 私は、サラを改めてしっかり正面から見据みすえて、微笑みながら、サラに話しかける。


「サラ、本当に大活躍したから、ご褒美として、抱きしめてあげる」

「さ─こっちにきて!」

「やった─うれし─!!」

「やっぱりアヴィちゃんは、私のことを良くわかってるよ」


 サラは勢いよく私に飛び込んできた。


 そして、私とサラは、お互いにしばらくの間、もふもふしながら、ハグをし合った。


 私達がお互いに幸せ空間の中でたわむれていると階段上層から、声が掛かる。


「その神獣が本当にサラなのかい?」


 オロ叔父ちゃんの声が、私の耳に届いた。


「そうです、新しく私の護衛役として生まれ変わったサラです」


 私は、サラから離れて、オロ叔父ちゃんのほうに視線を向けて、オロ叔父ちゃんに問の答えを返した。


「は──、アヴィちゃんは、色々規格外だと思っていたけど、まさか、ここまで突き抜けて規格外だとは、思ってなかったよ」


「アヴィちゃんとサラがその部屋に入ってから、強力な結界が工房を覆い尽くしていたから、工房内の様子が全く分からなかったんだよ」


 あ─、どちらかの女神様が気を利かせて、結界を張ってくれたのね。


 私、全然気づかなかったよ。


「まさか、アヴィちゃんの工房内で、これほどの奇想天外な錬金をやるなんて、全く考えつきもしなかったよ」


人造人間ホムンクロスを神獣に生まれ変わらせるなんて、何処をどうしたら錬金術で、そんな神の御技を体現できるんだい」


 忍者衣装で全身をすっぽり黒く覆っているような格好をしたオロ叔父ちゃんは、表情が非常に分かりにくい。


 その表情が私に見えないことを意識してくれたのか、手を広げるような仕草や、頭を左右に振る動作、体全体を大きく使った表現方法で、本当に驚いた感情を表現しながら、熱意を込めて話しをしてくれた。


「それは、もう少し落ち着いたら、しっかりレポ─トと一緒に説明します」

「今はシフィ姉ちゃんのパ─ティ─を助けに行かなきゃいけないから、また、今度ゆっくり話し合いましょう」

「だから、オロ叔父ちゃん、そこをどいて、私達を通してもらえませんか?」


 私はオロ叔父ちゃんが、これからどういう行動を取ってくるか、全く想像できていないから、緊張しつつ言葉を選びながら、オロ叔父ちゃんに何とか引いてもらう様に頼んでみる。


「そうだね、叔父ちゃんは、アヴィちゃんに負けを口にしたから、ここを退いてあげてもいいよ」


「ただし、叔父ちゃんも一緒についていくのが条件だ」


 良かった─何とか平和的に終わりそう。


 これは、むしろ私からお願いしたかったから、好都合なんだよ。


 だって、なんか危ない場所にいくみたいだし、私そういうのあんまり気持ち的に得意じゃないから、頼りになる大人がいれば、それはもう嬉しいし、最高に心強いよ。


「これだけは、譲れないよ」


 オロ叔父ちゃんは、真面目な目を私に向けて、そう、私にはっきり告げた。


「そうしないと後でアヴィちゃんのお父さんにこってり叱られてしまうからね」


 そう言い終わると、オロ叔父ちゃんの目元が少し微笑んでいるように感じた。


 そうね、お父さんに心配は掛けたくないから、OKよ


「それに、そこの毛玉の中で遊んでいるあの馬鹿シフィ姉ちゃんに、アヴィちゃんを任せる訳にはいかないよ」

「アヴィちゃんの許可さえあれば、躊躇ためらわずに処分したい気分なんだからね」


 そう、話し終えるとオロ叔父ちゃんは、サラの後ろにある神毛玉のほうを、侮蔑ぶべつしたような眼差しでみつめた。


 確かに、私に非常識に襲撃をしておいて、誤りもせずに、さらに、涙を流してお願いをしたシフィ姉ちゃんは、今はもふもふ天国で至福の旅をしているからね。


 そう思う気持ちも、分からなくはないよ。


 私もあの涙が嘘だったんじゃないかと思えてしまい、正直もう工房に戻り、今日の研究に取り掛かりたいもの。


 は─、馬鹿の相手シフィ姉ちゃんをするのも、疲れるよね。わかるよ、オロ叔父ちゃん。


「いいよ、契約成立ね。じゃあ、一緒に行きましょうか」


 良かった──。和解成立──。良かった─余計な馬鹿シフィ姉ちゃんを包んで隠して置いて。


 もふもふ馬鹿シフィ姉ちゃんが、場を荒らさないように排除したのが、見事正解だったよ。


 サラ、本当に貴女最高よ!今夜は思いっきり、もふもふしてあげるね。


「ところで、アヴィちゃん、何処に向かうのか、そこの馬鹿シフィ姉ちゃんから聞いているのかい?」

「叔父ちゃんは、階段通路の影の中に潜んで聞いていたけど、あの馬鹿シフィ姉ちゃんは、具体的な内容を何も話してなかったように見受けられたけど、其の辺は大丈夫なのかな?」


 オロ叔父ちゃんは行き先を聞いていない私に対してどうするのかと問いを投げかけてきた。


 そうだ、本当なら、シフィ姉ちゃんに案内してもらうつもりだったのに、そのシフィ姉ちゃんは不思議の国に旅立ったんだ─。


「あ─、そうだった。具体的な話は全然してなかったよ」

「何処に向かえばいいのかな、シフィ姉ちゃんに聞かなきゃね」

「でも、もふもふお馬鹿シフィ姉ちゃんさんは、一旦もふもふに触れると人が変わったようにどんどん幼児化していくから、正直、かなり面倒臭いのよね」


 本当にシフィ姉ちゃんの取り扱いは、難しいよ。


 普段は私には、超攻撃的な感じだし、もふもふに触れさしたら、幼児化するし、どう接していいか、未だ模索中!!


 誰かに解決策を明示してほしいよ。


 今度、学校に通う女子のお仲間達にどうすればいいのか、聞いてみよう。そうしよう。


「オロ叔父ちゃんは、さっきのやり取りの中で聞いてないかな?」


「叔父ちゃんは、アヴォちゃんが全く知らない大掛かりなダンジョン攻略案件については多少知っているけど、あの馬鹿シフィ姉ちゃんのパ─ティ─メンバ─が何処にいるかは、知らないな」


 なんだ、なんだ!!そのダンジョン攻略案件ってなに??


 オロ叔父ちゃん、色々隠してないで、ちゃんと話してほしいな。


「仕様がないから、シフィ姉ちゃんに軽く聞いて確かめてみるよ」


「それなら、私がわかるポン!!」


 私達の話を聞いているだけだったサラが、私達の話に割り込んできた。


 その言葉だけでは、よくわからないから、サラに軽く質問してみる。


「えっサラ、どういうこと?」


「尻尾から、シフィお姉ちゃんの深層思考を読み取ったポン」


 すると、思いがけない、サラの高スペックがまた判明した。


 話しの内容から、魔法を使わなくても、深層思考が読み取れるようだ。


「さすが、神獣サラちゃん、接触するだけで、思考まで読み取ることができるなんて、本当凄いじゃない」


「神獣は人とは次元の違う存在だから、叔父ちゃん達では考えられないことも、神獣なら楽にできるんだね」


「説明したら、長くなりそうだから、アヴィちゃん、私の手を握るポン」


 そう言うとサラは、私に手を差し出してきた。


 私は、サラの言う通りに、差し出されたもふもふの手を握る。


 すると、そのもふもふの手を通して、シフィ姉ちゃんの深層思考が私の脳に流れ込んできた。

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