アキルと狂気の夢と秋刀魚と

今回は人工サンマ様の作品「人界魔討伝〜三魔〜」とのコラボです。

「人界魔討伝〜三魔〜」は小説家になろうにて連載されていますので気になった方は是非一読ください











 意識がぼやけている。

 何故私はここにいるのか自問自答を繰り返している。

 そもそもここはどこだ?

「アキル?」

 不意にケイトが呼びかける、その一声で私の意識ははっきりと覚醒した。

「ん、ケイトか、どうした?」

「どうした?じゃないわよ。今日は一緒にゲームしに行こうって約束だったでしょ?だからわざわざショッピングモールまで来たんじゃない。なのにアキルったらボーッとしちゃってさ」

 そうケイトが言う。

 あぁ、そうだ……?いや、本当にそうか?覚えがないが?

「もう、難しい顔しちゃってさ、ほら三魔ライジングの筐体が見えてきたわよ!」

 そう言ってケイトははしゃぎながら三魔ライジングなるゲームを指差す。

 聞いたことのないゲームだ。

「どう言うゲームなんだ?」

「え、アキル三魔ライジング知らないの?100円で一回遊べるカードダスよ、私のお勧めはサンマリスよ!」

「ふーん、この日魔星カードってのは何なの?」

「あー、それはクソよ、とんでもないクソ、そんなのよりサン魔カードの方が良いわ!」

 そう言ってケイトが私の手に触れようとする。

 が、私はその手を振り払う。

「ちょっと!何するのよアキル!」

「何するよ、ねぇ……お前こそ私の親友の姿なんかとりやがって!」

「……」

 ケイト……いや、目の前の何かは沈黙する。

 少ししてその口が歪に開く。

「何故わかった?」

「ケイトはね、ゲームに関しては絶対悪く言わないのよ。あの子、ゲームは全て楽しむってのが信条らしいから、だからアンタがカードを悪く言った時点でわかったのよ。真似るのならもっと上手にやることね!」

「チィ!」

 そう言うと目の前の何かはその姿を変貌させる。

 強靭な後ろ足とカギ爪の付いた凶悪な前足、そして妖しく銀色に光る胴体は間違いなく秋刀魚だった……秋刀魚⁉︎

「このサンマッドネスドリーム様の変身を見破るとは!小娘のくせに!」

 目の前の秋刀魚……サンマッドネスドリームはそう応える。

 え?秋刀魚が喋ってる?と言うか秋刀魚に手足がついてる⁉︎

「ええい、だがこのサンマッドネスドリームが見つけた穴場は絶対に渡さん!」

 そうサンマッドネスドリームが言い放つと世界が崩れ始める。

三魔四天王サンマイスターすら見つけられなかった別世界の人界!夢の中を自在に行き来できるこのサンマッドネスドリーム様だからこそ見つけられたこの穴場は独り占めするに限る!まずは手始めに小娘!貴様の精神を殺しその体を奪ってやる!」

 なるほど、どうやら目の前の怪物は私を殺したいらしい。

「よくわからないけど、抵抗ぐらいはするわよ?」

「ハッ!無駄無駄ァ!ここは夢の世界、このサンマッドネスドリーム様の独壇場!夢の世界ではその者の今までの経験の強さで全てが叶う!故にぃ!」

 怪物はそのカギ爪を軽く振るう。

 瞬間、私の右手が宙を舞い激痛が走る。

「ぐぅ⁉︎」

「はっはっは!痛かろうよ小娘!だが安心しろ、すぐには殺さん散々にいたぶってからじっくりと殺してやる!」

 下衆な笑みを浮かべながら目の前の怪物は高笑いをする。

 実際、状況はすごく悪い。

 さっきから〈ヨグ=ソトースのこぶし〉を唱えているのに発動しない。

 どうやら夢の中では魔術が使えないらしい。

 これは……不味いな?

「貴様を殺した後はその体を乗っ取って、貴様の家族を殺してやる!ああ、楽しみだ!大切な家族に殺される奴らの顔が!」

 ……その言葉は聞き捨てならない。

 私の家族を殺す。

 目の前の化け物は確かにそう言った。

 それは許さない。

 私の大切なものを傷つける奴は何であっても絶対に許さない。

 だけど、魔術が使えないんじゃ……

 ん?夢……今までの経験……なるほど、どうにかできるかもしれない。

 右手を切り裂かれた体はまだ激痛が走っているがまだ動く、なら……

「んん?まだ立つか小娘ェ!それとも命乞いかァ?」

「違うわよ。これはね、勝利宣言ってやつよ」

「——神格、再現接続!」

 一言そう唱える。

 奴は夢の世界では経験の強さで全てが叶うと言った。

 ならの力だって再現できるはずだ!

 漆黒と混沌の瘴気が私を包み込む。

 失われた右手は瘴気によって再現され問題なく動く。

 都合の良いことに前みたいな記憶の濁流はない。

 なら、私が負けることは決してない!

 暗黒の勝機が弾け飛びあの日の私が再現される。

 Azathothと同機した私が。

「な、何だその姿は⁉︎」

 怯えた声で怪物は叫ぶ。

 いや、今は私の方が怪物か?

「く、姿が変わったところで!」

 怪物はカギ爪を振るうがそれもそうだ、私がそれを認めないのだから。

「何故だァ!」

 狂ったように怪物はカギ爪を振るうが全て無意味だ。

「サンマッドネスドリーム、とか言ったっけ?無駄よ、もうこの世界はあなたの領域じゃない。私がこの世界の支配者よ!」

 そう言って指を鳴らす。

 世界は暗転し暗黒と混沌の星海へとその姿を変貌させる。

「さあ、お仕置きの時間よ」

「ひぃ……」

 怪物は絶望に満ちた表情を浮かべる。

 同時にその四肢が粉微塵に消え失せる。

「ギャぁぁぁぁぁぁ!」

 醜い声を上げながら怪物は涙を流す。

 いや、手足がなくなったのだしこれじゃ普通の秋刀魚ね。

「頼む助けてくれ!もうこっちの世界には手を出さない、だから……」

 許しを乞うように秋刀魚は平伏する。

「ダメよ、よくわからないけど貴方は元の世界?とかでも人に害をなしているのでしょう?思考が丸見えよ。その恐怖も何もかもね」

「ひぃぃぃぃ、化け物めェ!」

 狂ったかのように秋刀魚が叫ぶ。

「ええ、だって今の私は魔王だもの♡」

 そう言って目の前の秋刀魚を原子の一欠片に至るまで粉砕する。

 絶叫の断末魔を上げながら化け物は消え去った。


 それと同時に目が覚める。

 右手には痛みこそあったがそれ以外は至って普通だ。

「サン魔ねぇ、別の世界ってのも気になるけどもう会うことはないと良いのだけど……」

 そう思いながら食堂に向かう。

「おはようございます。お嬢様」

 料理を並べながらクリスが挨拶する。

「おはよう、クリス」

 それに応えながら食卓につく。

 醤油の香ばしい匂いがするが今朝は和食かな?

「こちら失礼しますね。いやぁ、旬はすぎたんですがたまにはこう言うのも良いですね!」

 そう言ってクリスが食卓に置いたのは秋刀魚だった。

「……」

「どうしました?顔色が優れないようですが、体調が悪いんですか?」

 心配そうにクリスが顔を覗き込む。

「いえ、ちょっとね……」

「?」

 はぁ……秋刀魚はこりごりよ……

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