第25話サモナーの話
「どうしたらいいんだと思う?」
俺は、ため息をつきながら木戸に話しかけていた。
隣には、お菓子を食べているマリーがいた。
俺は二人にメールをして、下校途中のマンバーガーショップに誘った。そして、サモナーとうまく意思疎通ができないことを話した。
正確にいえは、愚痴をいってしまったというべきか。
木戸は、なんだか申し訳なさそうな顔をして俺をおごったハンバーガーを半分も残してしまった。食べ盛りなのに、申し訳ない。なお、木戸が残したハンバーガーはマリーが美味しくいただいた。マリーは、自分の分を食べたはずなのに食欲が衰えていない。
「意思疎通ができないなんて……俺たちはあんまり経験したことないし」
木戸は、そういっているがマリーはもしゃもしゃとハンバーガーを食べ続けていた。なんだろう、意思の疎通ができている関係性だとは思えない。
「ユキ。あなたは、理解できてます」
マリーは、ハンバーガーを食べながらそう言った。
「相手を見てなくて、都合のいい真実だけを掴んでいる人間は、まずそういう悩みを持たないものです。そして、そこから少しだけ進んだ人間は全部が相手のせいだと考えてただ怒るのです」
マリーは、俺を見た。
「あなたは、そこから先に進んでます。怒るのでもなく、誰かに話してみて、リハーサルをしようとしてる」
それってすごい、とマリーは呟く。
「サモナーのことをすごく考えていて、すごい。あなたは、大人です。すごい。だから、そのままでいいと思います」
その言葉に、背中を押されたように俺は立ち上がる。
「えっと……どういう話だった?」
と木戸は、マリーに尋ねていた。
「おごってもらったから、ハンバーガー分だけ元気つけたの」とマリーは答えた。せめて、俺がいなくなるまでその言葉はしまっていて欲しかった。それでも、俺は急いで家に帰る。家には、置いてきたサモナーがいる。俺は、置いてきたサモナーと話すために家路を急いだ。
「ただいま……って、サモナー!」
帰った、俺の家は荒らされていた。
本棚に入れてあったものがひっくり返されていたので、本人はおそらくはサモナーだろう。彼は、俺が家を出た後に本棚をひっくり返したらしい。その証拠にサモナーは一冊の本を持って、俺のパソコンに齧りついている。ちなみに、持っている本は大昔にパソコン検定を取得するために使った本。
「が……頑張ったんだな」
部屋の荒れように、俺はそう呟くしかなかった。
俺の部屋でパソコンに関する本は、サモナーが持っているものかしかない。頑張って見つけ出したのだろう。
「ユキさん……分かりました」
サモナーは、疲れた顔で笑う。
「重力というものが、理解できました!」
ああ、そうか。
重力を勉強するために、まずはパソコンの勉強をしたわけか。それでもって、頑張って検索していたに違いない。
「重力と言うのは――ええっと丸いこの星に働いている落ちないための力なんですよね!」
サモナーは、重力を理解していた。
そして「これって、どうやれば克服できるものなのでしょうか?」と途方にもくれていた。
「星に住んでいる限り重力は働いていて……これから逃れる術がないって……どんなに利便性の高い魔術なんですか……」
俺は、とりあえずサモナーの頭をなでていた。
よく一人で、そこまでの答えに行きついたと思う。昨日まで、パソコンも使えなかったのに。
「とりあず、休むか?」
「いいえ。まだ、考えたいことがあるんです。セシルの魔術は、この星に働いている重力を増幅させるものです。ですから、それを無効化するのは難しいので……なんとか弱めないといけなくて……」
サモナーは、頭を抱える。
「もういっそ、色々と魔力を出しつく方向性の作戦でいきましょうか?これは、これで危険なんですけど」
ぼそぼそ、とサモナーは呟く。
ああ、ダメだ。
こんなふうになってしまったサモナーは手が付けられない。たぶん、生前からこんな感じだったのだろう、自分の気になることに一生懸命なのだ。
「サモナー、すこし休もう。ジュースを出すから」
俺は、サモナーに声をかけた。
さすがに疲れたのか、サモナーは俺の言葉に従う。
俺は冷蔵庫から、リンゴジュースを取り出した。それを注いで、サモナーに渡してやる。疲れた頭に当分が心地いいのか、サモナーは美味そうにリンゴジュースを飲んでいた。
「それで重力なんですけど」
サモナーは、いきなり俺に話をふる。
ぜんぜん、休めていない。
「サモナー、ちょっと休め」
「嫌です」
サモナーは断言した。
「少し休んで、いい考えが浮かばなくなるのが怖いんです」
俺は少し呆れてしまう。
けれども、その気持ちも分かるのだ。
「あのな、サモナー。そんなふうに考えこんでもいい考えは浮かばないんだよ。ほら、少し休めって」
サモナーは、唸っている。
だが、いい考えが浮かばないのは本当だったので大人しくリンゴジュースを飲んでいる。
「悔しいです」
サモナーは、ぽつりと漏らす。
「僕が思いつかなかった魔術が、後世で発明されるなんて悔しいです」
それは、なんというか。
「随分と自信あるんだな。いつもは気弱なのに」
自分が思いつかないことが、のちの世に発見されることなんて普通だと思う。だが、サモナーは頬を膨らませる。
「実際に体感するのは、想像していたのとは違います。まさか、自分の死後に自分より優れたものに出会うとは思いませんし」
サモナーの言いたいことにも納得できる。
「ユキさん、現代では重力を無力化するようなものってありますか?」
「たぶん、ない。飛行機で高いところまでいって急降下すれば無重力を体感できるとは聞いたことがあるんだけど……」
そんなところにセシルを放り込むのは現実的ではないだろう。
「今のところ、一番現実的なのは上なんでしょうね」
サモナーは、呟く。
俺は、首を傾げた。
上とは、どういう意味なのだろうか。
「ユキさん、マリーさんとエナさんたちに協力を依頼できますか?」
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