第20話復讐の話

 俺の異世界人は、セシルと名乗った。

生前は魔術を研究していたらしく、魔術の実験がもとで死んだとのことであった。彼には、私が睨んだ通り戦った経験はなかった。というのも、彼が来たのは現代と非常に似通った文明レベルまで発展した時代だったのだ。戦争やテロはあるが、セシルの日常からは程遠い出来事だったという。

 なのに、どうして、彼は俺の復讐に手を貸すのかが分からなかった。

 セシルは、この世界にやってきたことを恨んでいるのかと思った。それが原因となった最初の魔術師を倒したいといっていからだ。だが、セシルからはそんな強い恨みは感じなかった。不思議というよりは、違和感を感じた。不気味だったといっていい。

 俺はできる限り、セシルとは行動を共にしないようにした。

 一緒に住むという選択肢もあったが、俺が女だということを理由にして拒否をした。俺の復讐にセシルは必要だったが、セシルはまだ信用ができない。

「セシル、お前は強いのかよ」

 気になっていたことをセシルに尋ねた。

「当たり前だろ。俺は、あらゆる魔術の最新を学んできた存在だぞ」

 俺は、セシルと共に歩きながらそんなことを尋ねた。

 一応、仕事の依頼はきている。

 俺の方から熱心に頼んだたら、仕事をもらえた。仕事を受ける際に、自分が住んでいる地域に野良の異次元人が現れた際に仕事が割り振られるのだと聞いた。ということは、サシャを殺した異次元人たちは俺の周囲に住んでいるということだ。

 サシャが死んだのは隣町だが、最初に出会ったときはこの街だった。

 だから、俺が仕事を引き受けつづけていけば、いつかはサシャを殺した人間にたどり着くだろうと思っていた。

「あらゆる魔術か。どんなのが使えるんだ」

「それは後のお楽しみだ」

 セシルはそういうが、期待はできないと思った。

 異次元人は、たとえ生前に魔術を多く会得していても死後は制限されている。セシルもそれを知ってはいるだろうが、自覚をしているかどうかは不明である。

 俺たちが言い渡された仕事だが、野良の異世界人はかなりの小物だった。魔力を求めて現代人を殺そうとしたが、結局殺せずに逃げたような相手だった。その相手を探して、倒すのが俺たちの仕事だ。

「顔はもう警察のほうで調べられてる。けど、顔だけが分かってる状態でどうやって探すんだよ」

 異次元人は金を持っていないから、普通ならば逃走は狭い範囲に限定される。それでも、行く場所を特定できない相手の捜索は普通ならば難航する。

「だが、異次元人は何よりも魔力を欲する。そして、すでに別の異次元人を養っている現代人は絶対に魔力を持っていると保障されている存在だ」

 セシルの言葉を俺は意外に思った。

「現代人は全員が魔力を持っているんじゃないのか?」

「いいや、違うね。現代人にも、持っている魔力量の違いがある。異次元人たちは、できるだけ魔力量が多い奴を狙って殺しているのさ」

 ということは、魔力量が多い人間ほど狙われやすいということだ。

「魔力量が多い人間を探すのか……」

「いいや、違う。おまえが歩きまわればいい。それだけで、異次元人にはたまらない餌になる」

 他の人間もこうやって狩りをしていたのだろうか。

 そう考えていると、セシルは否定した。

「いいや。俺よし前の時代人間は、それを知らなかったはずだ。だから、本能的に魔力の多い人間を殺しているだけだ。ほら、さっそくだ」

 セシルは、前を見ていた。

 そこには、異次元人と思わしき人間がいた。それは、俺が想像したような人間ではなかった。痩せ細った、若い男だ。修道士のような服を着た若い男は、俺の目には学生のように見えた。

「大方、魔術を学んでいた学生か。まぁ、慣らしにはいいだろう」

 セシルは、前方に向かって手をかざす。

 その掌に魔法陣が浮かび上がる。

 そして、俺たちの前の前にいる学生は地面に這いつくばる。重力はどんどんと重くなっているらしく、学生はうめき声を漏らしていた。

その苦しみの声に、俺は耳をふさいだ。

こんな声は、サシャのときは聞いたことがなかった。それでも、その悲鳴はとても残酷なものに聞こえた。サシャと同じことをしているのに、セシルのほうがずっと残酷に思えてならなかった。

「重力を操ったのか?」

 俺は、セシルに尋ねた。

「ああ、見事だろ」

 セシルの言葉通り、学生はつぶれていった。車に引かれたカエルみたいな姿で、俺は吐き気がした。でも、懐かしい感覚だった。エシャと最初に出会ったときも、彼の強行に吐き気を覚えたものだ。異世界人の死体は、光になって消えていった。

「顔色が悪いぞ」

 セシルの言葉に、気分が悪いと俺は答えた。

 その言葉に、セシルはにやりと笑った。

「男勝りな言葉を使う割には、ずいぶんと可愛いことをいうな」

「別にやりたくてやっているわけじゃない。ただ弱くなりたくないだけだ」

 女は弱い、俺はそう言った。

「なら、もう強がらなくていいぜ。俺を手に入れたお前は、本当に強くなったんだからな」

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