第19話サモナーの話

 サモナーの調子が、最近悪い。

 異世界人が竜に食べさせた戦いから、サモナーは調子が悪い。部屋の隅っこで、クッションを抱えてごろごろとしている。犬とか猫が、部屋でくつろいでいるような光景である。面白いので写真は撮ったが、こういうサモナーはあまり見たことがないので彼なりに調子が悪いのは間違いないのだろう。

 サモナーは、切り替えが下手だ。

何かがあるとへこんで、いつまでも復活しないのだ。最初に出会ったころも、なんだか落ち込んでサモナーのために用意した布団をかぶって出てこなくなってしまっていた。あの頃は、人見知りなんだと思っていた。

いや、人見知りなのは間違いないのだろうが、それ以前に自分に自信がないような雰囲気がある。魔法使いで魔術を開発した人間がどうして自信がないのかが理解できないのだが、おそらくは生来の性格なのだろう。

経験上、こういうのは治らない。

今回の落ち込みも、自然に回復してくれるのを待つしかない。

そんなときに、携帯が鳴った。

 そして、携帯を確認してため息をついた。

 仕事の依頼が来たのだ。

 倒してほしいと言われたのは、甲冑男だった。魔法を使う甲冑男の正体は未だに分からない。顔を見たが、ずいぶんと老いているようであった。サモナーはあの男と戦えるだろうか、と俺は考える。あの男は魔法を使っており、今までの相手とは違って一筋縄ではいかないかもしれない。とりあえず、今のサモナーには荷が重そうな相手だ。

 だが、ちょっと疑問もあった。

「なぁ、サモナー。甲冑男の側に魔力提供者はいなかっただろ。どうやって、存在しているんだ」

 異次元人は、現代人の魔力の提供を受けなければ消えてしまう。ただし、その消失までの時間には個人差がある。

「それは、甲冑男が魔法使いだからだと思います。この世界にやってきた異次元人は、そもそも自分の魔力が少ないんです。だから、魔力の補給ができないと一定時間で消えてしまうのかなと思います。甲冑男が消えないのは、自分の魔力で補充できない分を補えるほどで……」

「つまり、そもそもが魔力の補充がいらないほどに魔力を持っているってことか」

 サモナーは、起き上がる。

 まだ、クッションは抱いたままだったが。

「しかも、現代人のサポートがなくても魔法が使えるので……」

 かなり厄介である。

「次の敵は、彼ですか?」

 サモナーの言葉に、俺は頷いた。

 サモナーは、クッションを置いた。代わりに、俺が新しく作った杖を握る。

「少し休んでたほうがいいんじゃないのか?」

「いえ、大丈夫です。元気です」

 サモナーはそういうが、そのセリフはせめて着替えてから言ってほしい。彼は、いまだにパジャマだ。お気に入りの女性用のワンピースタイプのパジャマのままで杖を握っても、お面白いだけである。

「……前々から思ってましたが、このパジャマってどうして屋外で着てはいけないのですか?肌ざわりが柔らかくて好きなのですが」

 俺は、出ていくなよと注意する。

「この衣類も女性向けなんですよね。……どうして男性者って、肌触りが悪いんでしょうか」

 それは、男がそういうものに無頓着だからだろう。

 だが、サモナーは異世界で基本的に自然由来の素材だけを身に着けてきた。麻やコットンばかりを着ていた人間が、化学繊維を着る生活はなかなかにキツイらしい。だが、男性向けで素材にこだわっているものはなかなかない。少なくとも、俺はそれを売っている店は知らない。

 サモナーは、俺の方をじっと見つめていた。

「……ユキさんも麻とかコットンを着ればいいのに」

「それは俺に女物を着ろって言ってるのか?」

 俺は、サモナーにデコピンした。

 サモナーは額を抑えながら、俺を非難するような目で睨んでくる。

「なんで、着ないんですか。この世界の女性の衣類は素晴らしいですよ。肌触りが良くて、上質です。正直、衣類に関してはだけは死んでよかったと思いました」

「おまえ……自分の時代の女物の洋服が着れるか?」

 サモナーは、ちょっと考える。

 そして、無言で洋服に着替え始めた。

 おそらくは、自分でも無理だと思ったんだろう。サモナーがここまで女物の洋服が好きというか着ることに抵抗がないのは、自分のお気に入りの服が「女性の衣服」という認識が甘いせいなのだろう。

「これ……ごわごわする」

 小さく色々と言っていたが。

「サモナー、戦うとしたらエナと組んでもいいか?」

「はい。甲冑男と戦うとしたら、エナさんではないと色々と大変だと思います」

 たしかに、マリーは接近戦が苦手だ。

 戦力的に、エナが適任ではあるだろう。

 赤井はすでに回復していたはずだが、赤井とエナの関係は大丈夫だろうかと考えてしまう。

「大丈夫だと思いますよ」

 サモナーは、俺の考えを読んだように呟いた。

「エナさんもアカイさんの想いは分かっていると思いますよ。あの人は、基本的には紳士ですし」

 基本的に無視されているのに、よく相手を紳士と言えるものである。

 サモナーのこういうところには、脱帽するしかない。

「じゃあ、声をかけるな」

 俺は、赤井に電話をかけた。

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