第18話復讐の話

エシャを失った俺は、彼と戦っていた人々に声をかけられた。どんな話をしたのかなんて覚えていないが、俺は彼らが呼んだらしい政府の人間に保護された。

そこで色々と聞かれた。

 俺は、なにを答えればいいのか分からなかった。政府の人間は俺の保護者と連絡を取ろうとしたが、そんなものはもういなくなっていた。周囲が父親と認識していたのは、サシャが魔術で周囲を惑わしていたからだ。政府の人間は、俺に殴られた跡があったことから日常的に俺はサシャから暴力を受けていたのではないかと思われているようだった。

 しばらくすれば、サシャが俺の父親を殺したこともバレるだろう。

 サシャは、悪人として扱われる。

 父親を殺して、子供の俺に暴力を振るっていた、悪人。

彼は、俺を救ってくれたというのに。

 けれども、俺は本当のことをいう勇気がなかった。今まで、誰もが俺を助けてはくれなかった。助けてくれたのは、サシャだけだった。

 なのに、サシャはいなくなってしまった。

 たぶん、もう俺を助けてくれるような人はいないだろう。

 俺は、俺とサシャが住んでいた家には帰ることができなかった。あそこには、保護者がいないからだ。だから、未成年の俺は帰ることができなかった。

そもそも返されたところで、一人で生活もできない。

俺は中学生だ。身の回りのことができても、仕事はできない。金がなければ生活もできない。こんな弱い人間など、殴られて当然だったのかもしれない。俺の父親は、実のところとても正しいことをしていたのかもしれない。

政府の人間に色々な質問をされて、しばらくすると質問は終わった。そして、紹介されたのは異世界人だった。

 俺の魔力と相性がいいらしい異世界人。

 かなり現代人に近い恰好をしている。現代で調達したのでなければ、彼はおそらくは近代の異世界人なのだろう。彼は、優男で研究者のような雰囲気があった。たぶん、眼鏡をかけているせいでそう感じるのだ。

「こんにちは」

 優男の異世界人は、俺にそう声をかけた。

「話は聞いているかもしれないが、君と魔力の相性がいい異世界人だ」

 にこにこと笑う、異世界人。

 その笑顔が、なんだか胡散臭いものに感じられた。

「俺は、お前に魔力を提供するつもりはない」

 はっきりと伝えたが、異世界人は笑顔を崩さない。

「それはダメだ。なにより、この国が許さない」

 何が言いたいのか分からなかった。強い異世界人は優遇される傾向があるとは聞いていたが、目の前の異世界人は強いとは思えなかった。少なくともサシャのほうが、ずっと強そうに見えた。

「俺は、最新で最強の死者だ」

「最新の……」

 異次元人が生きていた時代にバラつきがあるとは聞いていた。サシャは、たぶん中世ぐらいの住人だと思っていた。彼から聞いた話では教会がかなりの力を持っていたし、最初に出会ったときの服もなんとなく中世っぽいと思った理由だ。ゆったりとしていて、どこか浮世離れしていた。

「どうして、自分を最新だと言い切れるの?」

 最新ということは、自分より先の世代がやってこないと理解しているということだ。そんなことはありえない、と思う。

だって、普通に考えればそうであろう。

自分より先の世代が死なないなんて、ありえない。

「たしかに、俺より新しい時代の死者が来る可能性はある。だが、現時点では俺は最新。あっちの世界で過去になにがあったのかを一番よく把握している死者だ。だから、政府も手放したくないのさ」

 彼の言いたいことが、ようやく理解できた。

 異次元人たちが住んでいた世界については、分かっていないことも多い。大方、彼はその知識を取引材料に使って自分の魔力提供者である俺を従わせたいのだろう。

「俺は、誰の言うことも聞かない」

 政府なんて助けてくれない。

 俺は、それを知っている。

 だから、従わないことに恐怖心なんてない。

「なるほど。なら、俺自身と取引しよう」

 異世界人は身を乗り出して、俺に耳打ちした。

「お前が憎んでいる異世界人を殺してやるよ」

 その言葉に、俺は思わず喜んでいた。

 これで、サシャへの復讐ができると思ったのだ。 

「でも、どうしてそんなことを約束してくれるんだ?」

 この異世界人はサシャと違って、殺人に慣れているようには見えない。なのに、そんな約束をしてくるということは何かしらの企みを抱いているということだ。

「俺は、最古の魔術師を倒したい。そいつが、この現状を作り出した。お前は、それに協力してくれればいい」

「……その魔術師の名前は?」

 名無し、と異世界人は答えた。

「名無し?」

「そいつが生きてきた時代は、一人前の魔法使いは名前をはく奪された。だから、そいつの名前は記録されていない。だから、俺の時代にはそいつは名無しと呼ばれて研究されていた」

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