第7話サモナーの話
異世界人に重要なのは魔力だ。
それさえ補充できれば死なないが、それが補充できなければ死につながる。エナはひどい火傷を負ったが、すぐにエナが魔力を補充してくれたので事なきを得たらしい。それはよかったが、俺たちが遭遇した老剣士は誰だったのかという問題に突き当たる。
もしかしたら、彼こそが首狩り事件の犯人かもしれない。
「サモナー、あいつはいつ頃の死者だと思う?」
焼き菓子の会計を済ませた後に、俺はサモナーに尋ねた。
今からエナの見舞いに行く予定なのだが、手ぶらで行くのも何なので焼き菓子を買っていくことにしたのだ。ケーキ屋に飾られたケース内のケーキに、サモナーは首をかしげていた。サモナーの時代には生クリームを使った菓子というか生クリーム自体がなかったので、生菓子的なものにサモナーは未だに慣れない。食べ物だと認識できないらしい。白くて、ほわほわしていて、手芸用品のように見えるそうだ。
「魔法を使ったことから、かなり僕と近い時代の死者だと思います」
サモナーは「もしかしたら、同時代かも」と言った。
「でも、同時代ならばかなりの強敵だと思います」
その言葉を、俺はちょっと意外に思った。
「強敵って言葉を使うのか……。意外だな」
サモナーは、自分自身を強い異次元人だとは思っていない。身体能力が低いことが起因しているのだと思う。ただし、場に見合った召喚術を使えることは第三者から見ればかなりのアドバンテージである。
そんなサモナーだが、強敵という言葉はあまり使わない。エナと違って生前に戦っていないサモナーは 敵が強いかどうかを見極めるのが非常に難しいのが理由だ。
「はい。前にも説明しようとしましたけど魔法と魔術はそもそも違うものです」
「ああ、聞いた」
俺は頷く。
魔法は才能ある人間が使えるもので、魔術は誰でも使えるものと言う説明だったと思う。
「それで、魔法のほうが歴史が古いんです」
「そうなのか」
そうなんです、とサモナーは言う。
「魔法を使える人間を魔法使い、と言います。それで魔法使いは、少数民族の……えっとこっちでいう宗教的指導者みたいな立場だったんです。これは僕が生まれるよりずっと前の話なんですが」
つまりは、巫女みたいな存在だったというとことか。
だが、サモナーが生まれた時にはすでにその風習はすたれていた。
「それで……なぜすたれていたかというと……宗教をできるほど民族が残っていなかった状況でして」
「でも、サモナーも魔法使いなんだよな?」
俺は、サモナーに確認をとる。
彼は、頷いた。
「はい。おそらくは、僕が最後の魔法使いだと思います。僕も一応は弟子を持ちましたが、彼に教えたのはほとんどが魔術です」
かなり遠回りの説明になっているのは、サモナーがあまり話したくないと思っている話題だからだろう。
「魔法使いは、他の民族から差別的な扱いを受けていました。というのも、かなり大昔から魔法はあって……魔法を使える民族を排除することで他の民族が一致団結していた側面があったんです。魔法使いは、当時の共通の敵という認識でした」
そのため、魔法が使える民族が非常に少なくなった。
サモナーの話によれば、生前の彼でも自分と同じ民族は三十人もいなかったという。そのなかで魔法を使える技量があったのは、サモナーの師とサモナー自身だけだったようだ。そして、弟子の世代になったらしい。
「師匠には、魔法を後世に伝えたいという強い願いがありました。ですが、魔法は間口がとても狭いんです。才能ある人間にしか使えない。僕は、その間口を広げるために魔法をかなり使いやすくし、体系立てて学問としました。それが魔術です。あっ……むろん、それ以外にも色々と違いはありますよ」
サモナーの言葉に、俺は驚いた。
「じゃあ、お前は魔術師第一号なのか?」
「おそらくは。師匠には反対されましたが、すでに彼は高齢でしたので……」
そして、サモナーが死んだことで魔法の歴史はついえたかもしれないという話だった。サモナーも生前は弟子をとったそうだが、彼の享年よりさらに幼い弟子がどうなったかを知ることはできない。ただ、魔術が伝わっていることを考えるに、長生きはしたのかもしれない。
どうりで、サモナーが甲冑男を自分よりも前の世代だと判断するはずだ。
「あれ……でも、魔法使いって巫女的な役割なんだよな。あいつ甲冑来てたぞ?」
宗教的指導者が甲冑を切るイメージはあまりない。
というか、個人的には魔法を使えたら着る必要はないように思える。
「それは、僕もちょっと不思議には思ってました」
サモナーもいうので、俺の違和感は訂正するようなものではないのだろう。
「ただ、僕が知らないだけかもと思ったんです。僕も、自分の民族の歴史全てを知っているわけではありませんから」
まぁ、人の役割なんて時代と共に変容していくものである。
サモナーは、はっとした。
「あと、今の話はできるだけ内緒でお願いします」
「どうしてだ。できれば、エナ達と情報を共有したいのに」
相手が魔法使いであり、サモナーよりも前の時代の人間。
この情報は戦う上で、かなり意味がある。
「その……魔法使いを輩出していた民族が、世界共通の敵だったことは話ましたよね?エナたちは、どうやらその残党と戦っていた世代らしくて」
「えっ」
俺は二の句を告げられなかった。
サモナーが説明してくれたのだが、彼の時代に魔法使いを輩出していた民族はかなり少なくなっていた。だが、サモナーの死後に差別的な扱いを受けていた他の民族と合流し、エナの時代には血で血を洗うような争いを行っていたらしい。
エナは元は強国に使える騎士で、民族との戦争も強国側が勝ったらしい。だが、争いが完全に鎮静化したわけでもなくて、マリーの時代には魔法使いを輩出していた民族はテロのような活動を行っていたという話だ。ただし、やはり魔法使いと存在はサモナーの世代で消えてしまっている。
「なるほど、エナにしてみれば魔法使いなんて敵の元凶みたいな話なのか……」
「僕にとっては、未来の話なので……こんなことでこれ以上関係が悪化しても困るんです」
俺は、苦笑いするしかなかった。
だが、サモナーがエナに魔法使いの話をしたがらない理由が分かった。
「お前も複雑だろ?」
俺がそう尋ねると「別に……」とサモナーは答える。
「自分が死んだ後のことですからね、実感がないんですよ」
その言葉に、俺は苦笑いする。
俺も死んで、死後の世界から未来をみたらそんな感想を抱くのだろうか。
俺たちがケーキ屋からでようとすると親子とすれ違った。中学生ぐらいの女の子が父親の手を引いていて、あれぐらいの年齢の娘でも父親と一緒にケーキを買いに来るほど仲なのかと俺は感心した。
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