第2話 馬と鹿
入学式の行われる体育館では、在学中の生徒達に加え、新入生と参列する親御さん達が集まり、式の始まる時間まで周囲の人達と雑談をする声により、一面ざわめきで埋め尽くされていた。その光景をステージ横に参列している来賓の方々と挨拶を交わしながら眺めていたが、教頭先生はある一人の新入生の姿を探していた。
「今日はお越し下さりありがとうございます!会長さんには後程ご挨拶を頂戴致しますので、新入生達により良いお話しを聞かせてあげて下さい!」
(馬は居ないな?そう言えばここの処、行事が多く徹夜作業が続いていたから見間違いをしてしまったのかもしれないな。)
来賓の方々への挨拶を済ませ、式の進行を担う教頭先生はステージ脇のマイクスタンドに立ち入学式の開始時間と共に司会による進行を始めた。順調に式が進む中、来賓の方々のスピーチが行われていた。その時、教頭先生は新入生の中に二つの場に沿いてない光景を見つけてしまった。
新入生の中には、長いスピーチで眠そうにしているものや、新たな生活にソワソワしているものがいたが、そんな中に先程の馬の被り物をした者と、鹿の被り物をしたものが教頭先生の視界をジャックした。
(ふ、増えとるー!?馬に続いて鹿!?確かにこの場において馬鹿馬鹿しい格好ではあるけども!?私の人生においてアブノーマルな状況が1日に二度もくるものなのか?!別に無くてもいいこんな特殊経験が二度も同じ日にくるのか!?てか何故周囲の新入生無反応なの!?こんな状況に慣れる程の時間を費やしてはいないはずなのに何で無反応なの!?もしかして私が気付かなかっただけで最初からいたの!?そんな状況もはやホラーの域にたっしとるわ!!ま、まあ私が今しがた見つけて驚きを隠せずに居るだけで、来賓の方も実はずっと気づいていて見馴れてしまっているのか?)
教頭先生は、スピーチを変わりなく続けている来賓の方に視線向けた。其処には、淡々とスピーチを続けながらもある所をガン見している来賓の地区会長さんがいた。
(、、ガン見してますやん!?結構長い時間スピーチされてる60代の会長さんですら常に馬と鹿を見て少しキョドってらっしゃる!色々な時代を乗り越えられた先任の方ですら受け入れられて無い状況なんですか!?でも今私達が動く事で逆にこの面持ちある式典を台無しにしかねない!取り敢えず今は新入生達の新たな門出を邪魔しない為にも、無事に入学式が終わる事だけを考えよう!)
終始目が游いでいた来賓の方のスピーチが無事終わり、教頭先生は胸を撫で下ろしながら式の進行の為、次のプログラムを宣言した。
「続きまして、今年度のわが校の受験におきまして、最高得点を獲得した新入生による代表挨拶です【小鳥 日向さん】宜しくお願いします。」
「はい!」
教頭先生の進行により新入生の中から一人の生徒が返事と共に立ち上がった。その姿を見た教頭先生は先程の安堵感を忘れ、胸の内で悲痛な叫びを上げた。
(お前かい!!??)
そこには新入生の中から馬の被り物の新入生が立ち上がっていた。その生徒は静かに歩を進めステージを目指していたが、そんな中で教頭先生は内心で呟いた。
(はい、厳粛な式典終了~。)
馬の頭を見ながら教頭先生は何もかもがどうでもよくなっていた。
女子高の教頭先生は泣きたい アンドリュー @masatatu
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