第65話
「え!? 私たちの順位が!?」
新しい戦法にしてからしばらく経ったある日のこと、インした私にセシルが興奮した様子でそれを告げた。
攻城戦、Sランク第二位。これが今私たちのクランの戦績だった。
「じゃあ、目標の一位まで、あと少しってこと!?」
「そうだね。まさか、こんな短期間でここまで来れるなんてね」
攻城戦の順位は、その順位にいるクランに勝てば上がるものでは無い。
勝った際に得られるレーティングの多さで順位が決まっている。
対戦する相手は、レーティングの似たような位置に居るクランがランダムに当たる。
運が良いと言って良いのか分からないけれど、今まで私たちは頂点に君臨し続ける最強のクラン【理想郷】とは一度も当たったことがない。
セシルに言われて私もランキングを開き、確かに私たちのクラン【龍の宿り木】が【理想郷】のすぐ下に表示されているの確認した。
このクランを設立した時の目標、攻城戦で一位になるまであと一歩まで来たということだ。
「ただ、【理想郷】のレーティング見てよ。二位の俺らが一位に上がるためには、直接勝負でもしないと難しいかもね」
「ほんとだ。こっちが運よく勝ち続けて、あっちが負け続けるっていうのも可能性がないわけじゃないけど、難しいだろうなぁ」
レーティングは勝つとポイントが増え、負けるとポイントが減る。
ただし、自分より上のランクに勝った方が大きく増える仕組みで、私たちの上にはもう【理想郷】しか残されていない。
ちょうど、一回【理想郷】に直接対決で勝つことができれば、その差が逆転するようなポイントの差だった。
いずれにしろ、このまま攻城戦をやり続ければ、そう遠くない未来に【理想郷】と当たることがあるだろう。
その時、勝つことが出来れば目標の達成。
逆に負けてしまえば、目標から大きく遠ざかると言える。
「いつ当たっても良いように、これからは入念に準備しておかないとね」
「ああ。ようやくメンバーも50人に達したことだし。だいぶ慣れたみたいだけど、これからも定期的に練習もしないとなぁ」
流石にランキングの上位になってからは、私たちのクランに参加したいという人たちも増えた。
ティファみたいに初心者の人や、逆に他のクランから移りたいと言ってくるような人たちもいる。
しばらくの間は誰を加入させるかや、入れた人にこのクランに慣れてもらうためにいろいろと忙しい日々を過ごしていた。
その甲斐あって、新しく入った人たちもなじんでくれ、それが新たな勝利に繋がったとも言える。
「そうだね。あ、ちょっと待って。誰かからメッセージ来てる」
通知に気付き、私はメッセージを開く。
すると、未読のマークがついたメッセージが一通だけ表示されていた。
差出人の相手はペンドラゴン。
私たちが打倒を目指す最強クラン【理想郷】のクランマスター、アーサーのサブキャラクターだ。
アーサーは私がこのゲームを続けるきっかけを作った、個人的には思い出深い相手でもある。
「アーサーからだ。なんだろう。暇な時でいいから連絡くれって」
「アーサーって【理想郷】のクラマスの? そういえば、サラさん、知り合いなんだっけ」
私の言葉にセシルは一度顔をしかめた後、思い出したように言う。
アーサーに昔お世話になったことは、セシルには既に伝えていた。
一度アーサーと出会っていた所をカインにたまたま見られた際に、今後同じようなことがあった時に、変な思いをして欲しくなかったためだ。
「うん。そう。なんだろう。ちょっと連絡とってみる。ごめんね」
「いいよ。気にしないで。むしろ、俺もそっちの方が気になるな」
友達登録をしているペンドラゴンが今インしていることは表示で分かるため、試しに私は通話連絡を取ってみることにした。
メッセージよりもそっちの方が色々と手取り早い。
『やぁ。サラ。久しぶり! 元気?』
『久しぶりだね。アーサー。私に用って何?』
『ランキング見たよ! おめでとう!!』
『あ、うん。私もさっき知ったの。ありがとう』
どうやらアーサーもランキングで私たちのクランが二位になったことは既に知っているらしい。
倒すべき相手ではあるものの、こうやって素直に祝ってもらえると、嬉しくなる。
きっとアーサーにとっては本当に喜ばしい事だと思ってくれているのだろう。
一位を取ることも、ゲームを楽しむ一つの手段だと思っているような人だ。
私たちに負けたとしても、今度は挑戦者になれたと喜ぶに違いない。
『運悪くまだ一度も対戦してないけどさ。その内当たるだろうし。よろしく!』
『うん! きっと勝って、私たちの目標を達成してみせるわ!』
『はっはっは。そりゃ頼もしいな。それでさ。実はサラに頼みたいことがあるんだよ。カインに頼んだら、断られちゃってさ』
『頼みたいこと? 何?』
アーサーがわざわざ私に頼みたいこと。
しかも元々【理想郷】のメンバーで、今は私たちのクランのメンバーであるカインにも頼んだことなど想像もつかなかった。
『うん。サラの所のクラマス。セシル君だっけ? 彼と一度会ってみたいなぁと思ってね』
『セシルと?』
『ああ。深い意味は無いんだ。単なる興味さ。せっかくこれから一位を争う相手なんだから、挨拶がてら、ね』
『うん。分かった。ちょっと待ってね。今ちょうど隣にいるから聞いてみる』
アーサーの声は聞こえないものの、私の口から発せられた自分の名前に、セシルは少し訝し気な顔をしていた。
そんなセシルに、アーサーからの希望を伝える。
すると、セシルは少し悩んだ後、こう答えた。
「ああ。俺は構わないよ。ただ、サラさんも同席お願いできるかな?」
「うん。さすがに紹介して後は知らない。はしないよ」
セシルから了承を得たことをアーサーに伝える。
本当にただの興味かどうかは分からないけれど、変なことをする人じゃないという信頼感はある。
『ありがとう。じゃあ、もし良かったら、早速会えないかな? こっちの都合で申し訳ないけど、今なら空いてるんだけど』
再びアーサーの要求をセシルに伝える。
セシルは私の言葉に、一度頷いた。
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