第66話
「やあ。サラ。呼び出して悪かったね」
「アーサー!」
アーサーから指定された場所にセシルと向かうと、既にアーサーが待っていた。
場所は街の中心から離れた所にあるカフェのテラス席だ。
座っていたアーサー、いや、ペンドラゴンは立ち上がり、私たちを迎える。
セシルは初めて会う目標としているクランのクラマスにあって緊張しているのか、黙っている。
「君が、セシル君だね? よろしく。【理想郷】のクラマスをやってるアーサーだ」
そう言いながら、アーサーは右手を差し出す。
しかしセシルはすぐにその手を取らずに質問で返した。
「サラさんを疑うわけじゃないですが、本当にあなたが【理想郷】のクラマスなんですか? 名前も違うし、所属しているクランは【DYSTPIA】。これも違う」
「ん? ああ。すまなかったね。サラとはこっちでしか友録してないから。そうだな。そっちをわざわざ呼び出しておいて、サブキャラで会うというのも失礼か。ちょっと待っててくれるかな? メインを持ってくるから」
そう言うと、アーサーは私たちの返事を待たずに姿を消した。
おそらく一度ログアウトして、メインキャラでログインし直して来るのだろう。
しかし、なんだかセシルの対応が、いつもと比べるとトゲがあるように感じる。
来てくれたものの、内心はいきなり呼び出されたことに怒っているのだろうか。
「ねぇ。ちょっと、失礼だよ? あったばかりの人の事、あんな風に言うなんて」
「あ、ああ。そうだね。サラさんの言う通り。でも、つい」
何故か今度はセシルは申し訳なさそうな顔をしている。
どうやら怒っているわけではなさそうだ。
だとしたら、どうしたというのだろう。
「なんか、俺が出会うずっと前から、この人はサラさんを知っていて。しかも、この人のおかげで今のサラさんがいるって思ったら。男の嫉妬なんて格好悪いな……」
「え? そんなこと考えてたの? そんなこと言ったら、今の私がいるおかげの一番は、間違いなくセシルだよ! あの時セシルと会わなかったら……」
あの時セシルと会うことがなかったら、私は今頃どうしてただろうか。
いきなりクランを強制脱退させられた時は怒りが勝っていたものの、きっと長くは持たなかっただろう。
間違いなく今頃はこのゲームをやっていなかった。
そして、二度とオンラインゲームに手を出すこともなかったと思う。
もしかしたらマリナと現実で絡むことも出来なかったかもしれない。
絡んでくれたのはマリナからだけれど、セシルと出会う前の私は殻に閉じこもってマリナと話すことすらままならなかったとまで思う。
「だからね。私はもちろんアーサーにも感謝しているけど、セシルにはもっと感謝してるんだよ!」
「サラさん……なんかごめん」
「感謝してるの受け答えは、ごめんじゃなく、ありがとうでいいんじゃないかな?」
突然聞こえた声に、私とセシルは振り向く。
そこには先ほど居たペンドラゴンと色違いのキャラ、アーサーが立っていた。
「盗み聞きするつもりは無かったんだけど、たまたま最後だけ聞こえてきたからさ」
「もう。アーサー。いきなりびっくりしたじゃない」
「あっはっは。ごめんごめん。それで、セシル君。これで信じてもらえるかな?」
アーサーの名前の横には、しっかりと所属クラン【理想郷】の名前と、クランマスターを示すマークが付いていた。
バツが悪そうにセシルは小さく頷くと、自分から右手を差し出し謝罪の言葉を述べた。
「すいません。疑ってたんじゃないんです。そして、ありがとうございます。【龍の宿り木】のクラマスやってるセシルです。よろしく」
「ああ。なんだか、俺がキャラチェンしている間に何かあったらしいね。さっきとは見違える顔付きだ。実は、さっきまでの顔で対応されたらどうしようと内心困っていたんだよ」
アーサーはセシルの手をしっかりと握り返し、笑顔でそんなこと言った。
一瞬私に向けて、ウインクを投げてきたのはどういう意味だろうか。
「もう大丈夫です。それで、俺に会いたいって聞きましたけど。どんな用ですか?」
「ああ。別にかしこまらないでくれ。カインから聞いたけど、セシル君が高校生だと言うのは知っている。でも、ゲームなんだ。歳なんて関係ないだろう?」
「それはタメ口で話せってことですか? じゃあ、アーサーも、その君付けやめてもらえますか? そうしたら俺もやめます」
「ん? ああ。あっはっは。これは失礼。自分で言っておいて、確かにな。じゃあセシル。これでいいかな?」
アーサーはずっと笑顔のまま、目線はずっとセシルを見つめている。
つい、何も考えずにセシルを連れてきたけれど、大丈夫だったのだろうか。
今になって、アーサーの目的が気になって仕方がない。
「ああ。じゃあ、俺も敬語はやめる。それでなんの目的なんだ?」
「目的? サラに言った通りだよ。セシル。君に一度会っておきたいと思ってね。出来れば戦う前に」
「俺に会うのが目的だと?」
「ああ。こう言っちゃなんだが、君に興味がある。カインとサラ。その二人が居るクランのクラマスにね」
ずっと隣で見ていて先ほどから感じていた違和感に気が付く。
笑顔を絶やさないアーサーの目だけが少しも笑っていないのだ。
先ほどからセシルを見つめる目は、まるで相手を観察する様な目付きだった。
セシルという人物を見定めるかのように。
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