第64話

「なんかこのメンバーで攻城戦戦うと、感慨深いものがあるね」

「確かに。俺たちの攻城戦はここの五人から始まったからな」


 私とセシルはそんな軽口を叩きながら、相手の拠点を進んでいく。


「ちょっと。楽しそうな所申し訳ないけど、敵さんだよ」


 進む先の罠を外しながら先頭を歩くカインから、警告が出る。

 恐らく外にいたメンバーから、拠点に入ったことを知らされたのだろう。


「後からも来てるよ! 挟み撃ちにしようって魂胆だね!!」


 殿しんがりを勤めているアンナがそう叫ぶ。

 振り向くと、先ほど広場に居た相手がこちら向かって走ってくるのが見えた。


「ま、そうなるよな。みんなやるぞ!」

「もう、用意はとっくに済んでますよ」


 セシルの合図に、ハドラーはいち早く詠唱を終えていた魔法を、背後から迫る相手の先頭に向かって放った。

 高威力の対個人用魔法が炸裂し、相手の出鼻を挫く。


 怯んだ隙に、同時に飛び出していたアンナが追い討ちをかける。

 こちらも威力の高い一撃をお見舞いし、私たちのクランの最大火力の攻撃を連続で受けた相手は、そのまま倒れ込んだ。


 更に私は倒れた後ろに居る相手に向かって、麻痺を与える毒薬を投げつけた。

 運よく効果が発生した相手は、その場で動きを止める。


 そこまで広くない拠点の通路では、味方でも障害物になり得る。

 麻痺のため動けない相手が通路に居るため、後続は進路を妨害される形になりうまくこちらに攻撃ができないでいるようだ。


「やるなー。こっちも負けてらんないね!」

「カイン、突っ走るなよ!!」


 振り向くと、進行方向からも相手クランのメンバーが姿を現していた。

 既に私の近くからカインの隣へと移動したセシルと共に、カインが相手の攻撃を避けては一方的に攻撃を当てている。


 セシルも負けじと、相手の攻撃を時に受け、時に躱し、建物の中とは思えない槍捌きで相手を翻弄していた。

 一緒に支援職としてついてきているティファは、いつも通り守りより攻めに集中するアンナの回復を担う。


「私も頑張らないと!」


 今回はいつもよりも毒薬も多く用意してきた。

 直接攻撃を与えることは困難でも、様々な状態異常は、それだけで相手に戦いにくさを与え、戦況を有利にするには十分だ。


 対象が絞られているため、私は迷うことなく、目の前にいる相手にどんどん毒薬を投げていく。

 状態異常の付与は確率のため、必ず効果が出るわけではないけれど、数を打てばその分確率は上がる。


 相手によっては状態異常の抵抗値を大きく上げている人も多いけれど、大体の場合は全ての抵抗値を上げることは難しい。

 効果が出ないのがたまたまなのか、抵抗値が高いためなのかは分からない。


 そのため私はなるべく色々な種類の毒薬を順番に投げつけ、運よく効いたら次の相手に選ぶという手法を取っていた。

 その方法が功を奏したのか、気が付けば、その場に立っている相手で状態異常が付与されていない人はゼロになっていた。


「さすがサラちゃん! こりゃあ楽だね!!」

「ほんと。その内、薬師は攻城戦に必須とかになっちゃうんじゃないの?」


 そう言いながら、アンナとカインは最後の相手を斬り伏せる。

 これで障害は無くなった。


 再びコアがあるはずの広間へと進む。


「結局、道中で出会ったのはあれっきりだったね」

「広場でだってまだ戦闘を続けていますからね。こっちにばっかり人を割くわけにもいかないでしょう」


 ハドラーの言う通り、広場ではまだ戦いが続いているようだ。

 ただ、ギルバードたちは既に拠点に来た相手メンバーを倒し、広場に居る【蒼天】のメンバーと合流しているらしい。


 その連絡が来てから、私たちのポイントが増える速度が上がった。

 恐らく接戦だったのが、増援のおかげで有利になったのだろう。


「さて。そろそろコアだよ。一気に行く。準備はいい?」

「もちろんだ」


 もう後ろからの攻撃は無いだろうと、私とティファは一番後ろに移動し、カイン、アンナ、セシル、ハドラーの順に前へと進む。

 開けた所、コアがある広間に出ると、流石に待ち構えていたのか、そこに居た相手が一斉攻撃を仕掛けて来た。


 一方、こちらもハドラーの魔法を皮切りに、前衛の三人が前へと詰める。

 守っていたのは五人、先ほど出撃して来たメンバーと一緒に来ていればと今頃後悔しているのだろうか。


 相手のメンバーは守り主体の職業で、こちらを倒し切るには火力が乏しそうだ。

 広間に来た私たちを迎え撃つというよりは、時間切れまでコアを守ることに重きを置いているのだろう。


「そのくらいの硬さじゃ、ちょっと物足りないね!!」


 そう言いながらアンナは一番前に立っていた【重騎士】を斬り伏せる。

 既にハドラーからの援護射撃を受けているとはいえ、守りの要が崩れ、相手は浮き足立つ。


 そんな相手の隙を突くように、カインが一番後ろに居た、回復職を集中的に攻撃する。

 まさに目にも止まらぬ速さの斬撃を受けて、持久力を担う大切な役目も倒れた。


「くそ!! なんなんだ! お前らのその強さは!!」

「勝利の女神がついてるおかげさ。悪いけど、時間切れなんて待たずに勝たせてもらう!!」


 悲鳴に似た言葉を発した相手をセシルが倒し、その間に倒されていた残りの二人も含めてその場に居た全員が倒れた。


「よし、さっさとコアを壊そうか。昔みたいに誰がラストを取るか、勝負しようよ」

「その勝負、乗った!!」


 カインの提案に、アンナが叫んだその瞬間、勝利の合図が流れた。


「一足遅かったようだな。今、ギルバートから、広間の相手を全滅させたって連絡が来たよ」

「あ、じゃあ、コア破壊じゃなくて、敵殲滅で勝利ってこと?」


 私の質問に、セシルが一度頷く。

 思いの外上手くいった新しい戦法に、私は一度だけ小さく飛び跳ねた。

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