第11話
「これでよしっと! だいぶお金使っちゃったけれど、こればっかりはしょうがないよねー」
購入した新しい装備一式を試しに装備して、私は姿見の前に立つ。
今居る場所はクラン【龍の宿り木】の専用スペース。
初めは何も無かった空間も、セシルたちがクラン団体戦を勝ち進んでくれたおかげで色々な備品が揃えられた。
まずは机と椅子、他にソファも。
ハドラーの要望で、今後の作戦などを書き込めるボード、そして少し余ったクランギラで買ったのがこの姿見だ。
昔から欲しいと思っていたが、どんなに言ってもユースケは買ってくれなかった。
今思うとなぜあんな男が良いと思っていたのだろうか。
恋は盲目ってよく聞くけれど、まさか自分の身に降りかかるなんて誰も思っていないんだろうな。
そんなこんなで私は上機嫌で新装備の見た目を楽しんでいる。
今回の装備は戦闘特化、ステータスは変えられないからあくまで以前よりは、が付くけれど。
防具は白に銀色のラインが入ったドレスアーマー。
ブーツと手袋も色を合わせるために、白にカスタマイズした。
見た目は性能と関係ないけれど、やっぱり気になってしまう。
だからかかった金額はそれなりだけれど、気にしない。
頭のティアラも今は白金色のものに変わっている。
中央に一つだけ赤い大きな宝石が付いている。
ただ、武器はスリング……こればっかりはしょうがなかった。
実益で考えるならこれ一択。
もちろん性能に見合った強そうな見た目だけれど、いかんせんゴツい。
これは今度武器の装備アバターを買おうか悩み中。
可愛らしい杖とかからポーションが現れるような見た目になるけれど……。
ま、いっか!
「うん! 可愛い!」
「うん。そうだね。可愛いと思うよ」
「きゃあっ!?」
一人で品評会をしていたつもりが、いつの間にかセシルとハドラーも来ていたみたいだ。
これに驚いて、声を上げて勢いよく振り向いたら思った以上に近くに居た。
「ええ。私もなかなか素敵だと思いますよ。【戦女神の鎧】ですか……よく手に入りましたね」
「え? あ、うん。ちょうど露店で売ってたから買っちゃった」
ハドラーにも褒められて私はわるい気がしない。
はてさて、この装備の試運転をしてみたいところ。
「ねぇ。セシルかハドラー、これからちょっと狩りに行かない? 装備の性能を確認したいんだ。いきなり新装備で団体戦はキツイだろうと思ってね」
「ああ。いいよ。俺は行ける。ハドラーは? どうする?」
セシルはすぐに返事くれた。
そしてハドラーのことをじっと見つめたまま返事を待っている。
ん?
なんでこんなに見つめて続けているんだろう?
するとハドラーは両肩を上に一度だけ竦めてから、小さくため息をつく。
そしてこう答えた。
「はぁ。そんな目で見ないで下さいよ。分かりました。すいません、サラさん。今日は用事があるので、私は行けません」
「だとさ。サラさん。しょうがないね。二人で行こうか」
「え? あ、うん。ハドラーももし用事が終わったら後からでもいいから来てね」
「あー、いや。今日はしばらく戻れませんからね。お気になさらず二人だけでどうぞ」
そういうとハドラーはそそくさと去っていってしまった。
なんだろ、急な用事っぽいな。
「なんだろうね? でもしょうがないか。じゃあ、行こうか!」
「うん! えーと、どこに行くつもり?」
「亜人が多いところがいいな。見た目がプレイヤーっぽいし。当てる練習もしなきゃだしね!」
「当てる練習?」
「うん! まっ、行けば分かるよ!」
「あ、ああ。じゃあ行こうか」
そうして私とセシルは、セシルのレベル上げも兼ねて【アンシャンテ遺跡】に行くことにした。
遺跡の中はまだセシルのレベルには早いけれど、適齢レベルの遺跡周辺にもオークジェネラルやゴブリンキングなどの亜人型のモンスターが出てくる。
オークジェネラルと言うのは、豚の顔をした亜人型のモンスターのジェネラル、つまり将軍。
将軍っていう割にわんさか出てくるけれど、普通のオークとは桁外れの強さを持っている。
ゴブリンキングは、その名の通りゴブリンの王。
こっちもそんなに居て良いのかってくらい、わんさか出てくる。
「それじゃあ行くよ! えいっ!」
「え?」
私はかなり離れた位置から基本スキル【ポーションスリング】を使って、オークジェネラルに薬を投げた。
もちろん投げたのは強化薬や回復薬ではなく、【ヒュドラの毒薬】という猛毒付与の効果のある毒薬。
この毒薬を作るのは私の基本職の【調合師】のスキルだけれど、もちろん上級職の【薬師】でも使える。
更に【薬師】のパッシブスキル【薬の知識】のおかげで、付与確率は二倍だ。
しかし、セシルの声が示すとおり、投げた毒薬は全く予期せぬところに飛んでいってしまった。
やっぱり最初からこんな距離は無理か……。
「えーん。せっかく命中補正付いたスリング買ったのに。可愛くないのに買ったのにー」
「ま、まぁまぁ……練習すればきっと……そのうち上手くいくよ」
「今、きっとから、そのうちにわざと言い直したでしょ?」
「え? あ、いや! きっと! きっと上手くいくってば!」
必死な顔のセシルを見て、私は思わず笑ってしまった。
それを見たセシルも釣られて笑う。いつものドッグスマイルだ。
その後も楽しみながら装備の性能や、戦闘に使えそうなスキルの確認をしていたら、突然斬撃が飛んできた。
危うく私に当たるところだったけれど、セシルが気付いて受け止めてくれる。
だけどかなり強力な一撃だったらしく、受け止めた腕を弾かれダメージを食らってしまったようだ。
私は慌てて回復薬をセシルに投げた。
「もう少しでサラさんに当たるところだったぞ。気を付けろ!」
「あ? なんだお前? 俺のサラに何してんの? おい、サラ。迎えに来てやったぞ。この俺がわざわざ。ありがたいだろう?」
「ゆ、ユースケ!? なんでこんな所に!?」
斬撃を放った相手、今にも襲いかかって来そうに剣を構えた男は、まさかのユースケだった。
その顔は怒りなのか、嫉妬なのか見たことがないほどに歪んでいた。
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