第2話

【バーチャルプロジェクト】ましゅまろ配信【黒乃†翼】

2.350人が視聴中

 

 マシュマロって何? お菓子のこと? と疑問を持ったそこの君っ説明しよう! 

 マシュマロとは、特定の相手に匿名でメッセージや質問を送る事が出来るTwitterユーザーにのみ許された機能なのである! 

 ことVライバーに於いてマシュマロ配信を行う事は恒例行事。どれくらい恒例かというと、森進一がおふくろさんを歌うくらい分かりきった事である。

 そして新人ライバーたる俺もマシュマロからは逃げられなかった。

 

「あー次のマシュマロはだな……」

 

翼くんオススメのアニメはありますか? 堕天使界隈で流行っているアニメが知りたいです

 

「ッスゥー……これはプリキュア……だな」

 

<?! 

<まさかの女児向けアニメで草

<堕天使もプリキュア見るのか

<翼……おまえ……

<堕天使も大きなお友達だったか

 

「ほーん、そこまでプリキュアの魅力を聞きたいというか……いいだろう! 俺語ってやんよ!」

 

<俺らの誰も語って欲しいって言ってないんだよなぁ……

<それな

<禿同

<わかるマン

<ワイトもそう思います

 

「彼女達をみてるとね心が浄化される。なんていうんかな、まっすぐなんだよな彼女達は。困ってる人を助けたいとか、自分達の夢に向かってひたむきに突き進んでいく姿勢とか、とにかく真っ直ぐなのが素晴らしい。なかなか出来る事ではない。そこに痺れる憧れる。これがな、薄汚れてしまった心にばちこり刺さる。しかも、敵もこれがまた男前なのだ。敵サイドにも自分が戦う理由がしっかりあって、どっちの主張もある意味で正しいから物語に厚みが生まれるっていうな。まだまだあるぞ! (ry……」

 

<うわぁ

<オタク特有の早口たすかる

<あ……ありのまま今、起こった事を話すぜ! 俺は堕天使のマシュマロ配信を見に来たと思ったら、いつの間にかプリキュアについて永遠と語るきっしょいオタクくんの配信を見ていた 何をいってるかわからねーと思うが、俺も何をされたのかわからなかった……

<職人、ここの切り抜き頼むな! 

<ま  か  せ  ろ

 

「諸君等もプリキュア絶対見るべきだぞ。オシャレな人はみんな見てるし、見ると楽しいキモチになれる! 痩せてキレイになれるし、集中力もアップすること間違いなしだ! 堕天使はみんなプリキュア見ている! 最高の気分が味わえるな! 一度だけ見てみるべきだ! 辞めようと思ったらすぐ辞められるから、マジで!!!」

 

<迫真杉内俊哉

<なんやこの堕天使、クスリやってるんか? 

<オススメの仕方が完全に売人のソレ

<これは堕天しますわ

<職人ニキ、ここもよろしくやで

<おk

 

【切り抜き】一見、売人に見えるが、ただプリキュアを勧めているだけの堕天使【黒乃†翼】

Vの沼にハマる者 5.5万回再生 6時間前

ばーちゃるぷろじぇくとの新人ライバーで初の男性ライバーの黒乃翼くんの配信を切り抜き

翼くんのチャンネル↓

https://youtub___g____gg_

 

◇◆ ◇◆ ◇◆

 

隙アラバ自 語リレ 分

 

 故事とは大昔にあった出来事や、遠い過去から今日まで伝わる由緒ある事柄を指す。

 三千年の歴史を持つ中国の古典に記されている特に有名は逸話は、現在でも故事成語として我々の生活の中に定着している。一石二鳥とかね。

 中国古典の中に記されている逸話の中にはきっしょいオタクくんについて語られたものがあり、オタクくんが聞かれてもいないのに自らの生い立ちや年齢しょっぼい武勇伝などを語る様から転じて、聞かれてもいない事を語る愚かな行為を隙自語分というようになった。うそである。

 

 隙自語分は非常に愚かな行為であり、オタク三大禁忌として忌み嫌われている。あと二つは無意味かつ執拗にオタク用語を会話に混ぜる事と、漢字の読み間違いや単語の誤用などの間違いに対して常軌を逸するレベルで指摘するところだ。あながちうそではない。

 

「……うわぁ」

 

 スマホの液晶画面に映し出されている、プリキュアについて異様に語る黒い翼の生えた堕天使の切り抜き動画に俺は思わず声が出てしまった。

 誰だよこのきっしょいオタクくん、と思ったが俺自身だった。

 十数回くらい配信の数をこなしてきたので、配信の数に比例してこのような切り抜き動画が増えていく。

 初配信から一ヶ月と数日が経つ。切り抜き動画の宣伝効果も相まって、黒乃翼というVtuberは爆速で伸びていった。サラマンダーより、ずっとはやーい! 

 

 平日の昼下がり。いつもなら所属している通信制高校の課題をこなしたり、配信のためのサムネイルを作ったりしている時間帯に、俺は埼玉から電車に揺られて東京は渋谷に訪れている。

 マネージャーさんから連絡を受け、俺の所属する V.P.バーチャルプロジェクト の事務所に呼び出されたのだ。

 高層ビルをエレベーターで上り10Fで降りると、シンプルかつクールな雰囲気のオフィスに到着する。面接の時に一度来たことがあったが、未だにこの会社的な雰囲気には慣れない。

 入り口付近で辺りを見回していると、見知った顔が此方に近づきてきた。

 

「おはようございます、翼さん」

「マネージャーさん、おはようっす」

「事前にお伝えしました通り、本日は三期生の顔合わせとコラボ企画の会議です……他の二人はもう到着していらっしゃいますので、会議室までご案内しますね」

 

 そう、本日は我らがV.P.三期生の初顔合わせ。

 マネージャーさんに連れられ、会議室に繋がる廊下を歩く。

 

「翼さんチャンネル登録者数11万人突破おめでとうございます。今後はメディアへの露出なども増えていくと思いますが、我々も誠心誠意サポートしていきますので、一緒に頑張って行きましょう」

「今後もばっこり頑張ります」

「はい。あともう一つお伝えする事がございまして、翼さんのアバターに3Dモデル化のお話が来ています、3Dモデルに関して何かご希望などございますか?」

 

 マネージャーさんの言うとうり、俺の配信を切り抜いてまとめた動画がSNSでバズりにバズった影響か俺のチャンネルは爆速で10万人を突破し、先日11万人突破を達成。

 新人Vtuberにしてはかなり名前の知られる知名度になった。

 そして10万人を達成したライバーには、アバターが3Dモデルにバージョンアップするのが慣例らしい。

 3Dモデルになることにより、アバターに多彩な動きをさせる事が出来るようになる。要するにアバターの性能が良くなるのだ。

 

「あっ、じゃあフタナリでメスガキのサキュバスにキャラ変更したいっす!」

「……ハハッ、検討します」

 

 なんていうか既視感が凄い。

 俺のIQは53万くらいあるので、またもや要望が通らなかった事を瞬時に理解する。これからも諦めずに言っていこうと思う。

 こちらになりますというマネージャーの声と共に会議室の扉が開かれた。

 

 

「あ……お疲れ様です、マネージャーさん」

「時間どおりね、マネージャーそちらの彼が黒乃翼くん?」

「ええそうですよアリサさん……とりあえず座りましょうか翼さん」

 

 白を基調とした会議室。同系色の円卓を囲むように俺たちライバー三名とマネージャーさんが席についた。

 今日は俺たち三期生の顔合わせであるため、互いに自己紹介をしあう。俺よりも先に入室していた二名。

 色素の薄い亜麻色のショートカット。身体のラインが出ない緩いカーディガンにスキニーパンツといった装いが灰崎歩。

 アッシュピンクに染まった髪を鎖骨より下の辺りでカールさせ、顔に病みメイクを施したのが白峰アリサ。アリサはシングルのライダースジャケットに同系色のホットパンツ。ぱっと見メンヘラっぽい。

 ちなみに俺は黒のパンツに白無地のロンT。無難である。

 歩もアリサも本名ではなく、Vtuberの名前である。俺を含め黒白灰色と実に分かりやすい。

 

「えーと、俺以外全員女性ってちょっと肩身せまいっすね」

「……あー、翼さん」

「……はぁ、翼くんさぁ」

「あのっ……僕、オトコです……」

「え?」

 

 俺の何気ない一言に、マネージャーさんもアリサもため息をつく。

 そして灰崎歩ちゃん、もとい歩くんの衝撃の性別CO。

 まじかよ。

 この日のために事前知識として俺は、二人の配信のアーカイブや切り抜きをいくつか見てきたし、二人のキャラ設定なども把握してきた。

 白峰アリサ。

 バーチャルバンドガール。

 アバターは真っ白なウルフカットの少女で、V系チックな服装にギターを持ってたり持ってなかったりする。

 歌や楽器の演奏が得意で弾き語り配信を主として、美容やダイエットなどのトークなどもする事が多い。

 そして灰崎歩はバーチャル男の娘。

 ユニセックスな服装に中性的な見た目。

 ほんわかした雰囲気だが得意なゲームはFPSでその腕前はかなりの物である。

 俺はライバーをやる前からゲームが好きで特にポエモンは対戦ガチ勢なのだが、ポエモンの配信よりも雑談やアニメ批評などの企画の方がリスナーのウケが良く、最近はもっぱらそっちの方面に舵を切ってしまっている。

 

「いいんです、いいんです……気にしないで下さい、慣れてますから。洋服とか買う時、店員さんにレディースの服勧められますから……本当いいんです、気にしないでください」

「ッスゥー……ごめんなさい!」

「プレミね」

「これはプレミですね」

 

 マネージャーさんとアリサからの非難の声が耳に痛い。

 全くもってその通り。

 ぐーの音も出ない。

 このあとめちゃくちゃ謝った。

 

◇◆ ◇◆ ◇◆

 

 話し合いの結果、コラボ企画の詳細はクトゥルフ神話TRPGのセッションという事で決まった。

 TRPGは俺が少しかじったことがある程度で、他二人は初心者なのだが俺がKPという進行役を務め二人にプレイヤーとして参加してもらうことで企画が成立するだろうという結論に至った。

 よって俺は来るべきセッションに備えてどういったシナリオにするかやモンスターの簡単な立ち絵などを作成しなければいけない。

 俺だけ仕事量多くない? 

 さてこんな感じで企画案はすっかり決まったが、予定していた解散時刻よりも一時間早く終わってしまった。

 せっかくなので三人で少し配信してはどうか? といったマネージャーさんの提案により事務所内から急遽オフコラボ配信が決まったのだった。

 Vtuberの事務所だけあって、設備は十分に整っている。自宅より配信しやすいのは間違いない。

 

【緊急オフコラボ】三期生、コラボ、密室、何も起きないはずがなく……【三期生】

5040人が視聴中

 

「諸君、ご機嫌よう! バーチャル堕天使の黒乃†翼だ」

「はーい、みんな元気かな? バーチャルバンドガールの白峰アリサだよっ!」

「えと、皆さんこんにちはっ! バーチャル男の娘、灰崎歩です」

 

<緊急コラボとかまじかよ

<突発コラボってマ? 今日パチンコで5Kスったけどいいことあったわ

<パチンカスニキは強く生きて(;_;)

<シンプルうれしい

<ワイトもそう思います

 

「今日はな、事務所で三期生のコラボ企画について話し合っていたのだがな」

「時間が余っちゃって、せっかくだから配信しちゃおっかって話になったんだよねっ?」

「そ、そうなんだ! 一時間くらいの雑談配信だけど、リスナーさん達みんな楽しんでいってくれると嬉しいな」

 

<コラボ企画……だと……

<コラボ企画だと?! kwsk

<詳細キボンヌ

<待ってたぜェ!! この瞬間をよぉ!! 

<ナンテコッタイ 詳細が気になりすぎて毎日8時間しか寝られないジヤマイカ!! 

 

「んーごめんね! 詳しいことはまだ伝えられないんだ……でも、翼君の頑張り次第では早く伝えられるかもだよ?」

「ちょ、おま」

「アリサちゃん、それは……」

 

<頑張れツバサァ! 

<働け働けツバサァ! 

<おまいら酷すぎ 翼君は毎日三時間たっぷり休んでそれ以外は馬車馬のように頑張ってほしい

<理不尽すぎて草

<次回 堕天使 死す 決闘スタンバイッ! 

 

「勝手に殺すな、てか我堕天使だから死なないが……まぁそれはいいとして三期生って括り味気なくないか?」

「わかりやすいけどちょっと寂しいよね、V.P.の先輩たちはユニット名みたいなのあるもん」

「あーっ、それあるかもっ! 翼君なんかいいのちょうだい!」

「俺かよ……そうだなぁ」

 

<一番いいのを頼む ( ー`дー´)キリッ

<てかアリサちゃん小悪魔すぎて生きるの辛い

<それな こんなかわいい子にからかわれたい人生だった……

<僕は歩キュンがいいゾッ! 

<わいも

<ぼくも

 

「神に抗う者たちとかどうだ?」

「うわぁださっ、それに翼くんだけじゃんwww 自己主張強すぎだよ!」

「はぁ!? じゃあアリサなんか出せよ」

「うーん、アリサちゃんバンドとか?」

「えぇ、俺と歩かんぜんに脇役じゃんサポートメンバーじゃん」

「や、どっちも自己主張強すぎだよ……」

 

 結果ユニット名が何になったかというと、歩が三人の名前から黒白灰色をとって【無彩色】と名付けた。妥当である。

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