第47話

「なんだ、お前お姉さんとはぐれたのに遊んでて大丈夫なのか?」

 

 アデルフィーとの別れ際に彼女の様子がやや気になったのかシバがアデルフィーに尋ねた。


「それが、気が付いたら知らない部屋にいて他にもフォニアちゃんと同じような方々がいました。」

 

 それからアデルフィーはシバたちと出会うまでのことを話した。


 彼女曰く、目が覚めたら大きな部屋にいくつものゲージがありそこに一人ずつ入っていたのだと言う。フォニアと同じような、つまり亜人も中にいて、自分には首輪は付けられていなかったが他の亜人たちには付けられていた。他にも様々な魔物もいたらしい。大きな部屋には人間が出入りしていてアデルフィーたちを数字で呼んでいた。


「私も自分ではよくわかりませんがゲージから抜け出して大きな部屋の窓から飛び出したんです。その後お兄さんたちを見つけたのです。」


 ”奴隷”、または”オークション”、シバの頭に浮かんだのはこの二つの単語だった。アデルフィーだけ首輪がつけられなかったことにはやや疑問ではあるが少なくとも目の前の銀髪幼女が何かの事件に絡んでいることに間違いはないようだった。


「このまま帰すのも危険だしなぁ、」

 

 さっきまでフォニアにアデルフィーと別れるように促していた分、手のひらを反すようで申し訳なく、示しが付かないと思いつつもシバは言った。


「今日はアデルフィー、お前も俺たちと一緒に宿屋に来い、」


「ほんと!?お兄ちゃん!」


 アデルフィーが答えるよりも早くフォニアが反応した。さっきまでだらんとしていたしっぽはピンと真上に向かって立っている。よほどうれしいのか。


「え、いいんですか?けれどお姉さまはどうしましょう、」


「まあ、そん時はそん時だ、それまで俺らといればとりあえずは安心だ。」

 

 結局アデルフィーをベルカの宿屋に連れていくこととなった。フォニアの機嫌も戻り三人は宿屋に向かった。


 途中フォニアとアデルフィーは終始楽しく話をしていた。


「お兄さんは人間ですか?それとも魔族ですか?」


  唐突にアデルフィーがシバに尋ねた。

 

「元々は人間だったけど訳あって魔族の血も流れてるってとこだな、」


「お兄ちゃんはとっても強くて優しいの~」


 フォニアは自分のことのように誇らしげに言った。


「へぇー、お兄さん強いんですかー、私のお姉さまもとっても強いんですよ!」


 今度はアデルフィーが誇らしげに言った。


「お兄ちゃんの方が強いの!」


「いいえ、お姉さまですよ!」


(おい、こいつら、)

 

 フォニアとアデルフィーはお互い面と向かって見つめ合った。いやそんなかわいらしいものではない、睨みあっていると言った方が正しいだろう。小さな体でいがみ合う幼女の図はシバにとって当然であるが生まれて初めてだった。彼女たちの間ではバチバチと火花が散っている。


「お兄ちゃんはお空飛べるの!」

 

 フォニアがシバの自慢をした。


「お姉さまもそれくらいできます、」


 アデルフィーも対抗した。


「お、お兄ちゃんはすっごくかっこいいの!」


「お姉さまだってすごくきれいでかっこいいです!」



「「むー!お兄ちゃん(お姉さま)の方がすごいの!(です!)」」


(まったく、アイとエイミーを見てるみたいだ、)

 

 シバがそう思いながら二人の言い合いは続いた。少しして言い合いが聞こえなくなったと気が付くと二人の会話が途切ていた。シバは後ろの彼女たちに目をやった。


「おい、うそだろ、こんなところでそりゃねーよ、」


 二人とも背中合わせで座り込んでしまっていた。疲れていたのかぐっすりと眠っている。アデルフィーに関してはよだれを垂らしている。先ほどまでの大人びたお嬢様のような面影はなく年相応と言ったところだ。


「はぁー、しょうがないな、」


 眠ってしまった二人を抱えてシバは歩き始めた。ほどなくしてベルカの宿屋に到着した。エイミーの破壊した壁はなんとか塞がれていた。


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