第46話

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『良ければお友達になりませんか?』


『お、お友達?』


『そうです、私、同年代の女の子と初めて会ったんです。ずっとお姉さまと二人っきりでしたから、』


『で、でもフォニアはあなたみたいにきれいなお洋服じゃないし話し方も変だし、』


 フォニアは怖かった。かつて奴隷として粗末な食事、薄汚い服を着ていた自分と目の前の少女ではあまりにも合わないと。自分が着たこともないようなきれいな洋服、大人のような言葉遣いをする少女とは住んできた世界が違うのだと。


 かつては友達など作る暇もないほど厳しい労働生活だった。そんな自分とは言わば真逆の人生を送って来たであろう少女と友達になるなど許されていいのだろうか、いや許されるわけがない、彼女にも迷惑が掛かってしまう。こんな奴隷だった少女と仲良くしていたら周りに何と言われるのかと。


 自分よりも年上のシバやアイ、エイミー、マーニ、ベルカに対しては素直に受け入れられた。しかし、同年代でこんなにも自分とかけ離れた少女と相対して初めて感じたのは劣等感であった。


『それが何か問題ありますか?』


『え?』


『私もお友達はいたことありませんでしたけど多分お友達になるのに着ている服や言葉遣いなんて関係ないと思います。』


 少女は笑顔で続けて言った。


『大切なのは気持ちだと思います。』


 今のフォニアには奴隷を示す首輪はない。シバたちと過ごした時間はそう長くはない。しかし家族を失った自分を彼らは優しく迎え入れてくれた。安心して過ごせるようにしてくれた。おいしい食事、安心して眠れる部屋、そして自分を助けてくれたシバ、少し騒がしいアイ、エイミー、マーニの三人、優しいベルカ。彼らがいるおかげでフォニアは素の自分を出せてきた。しかし、それらすべては自分の手を伸ばして手に入れたものではない。すべて与えられたものだ。


『フォニアと仲良くしたらあなたが周りの人から悪いこと言われちゃうかもしれないの、』


『そんな人がいたら戦ってやっつけてしまえばいいんですよ、』


『やっつける?』


『はい!お姉さまがいつも口にしていることです、この世界は弱肉強食だって、』


『じゃくにくきょうしょく?』


『強い者が弱いものを制する、強ければ何も言われません、』


『フォニア、強くないの、』


『ならこれから強くなればいいんですよ、最初から強い者なんてそういませんよ、』


 そう言うと少女はフォニアに手を差し出した。


『一緒に強くなって何も文句を言われないくらいになりましょう、ねっ?』


 フォニアはゆっくりと手を伸ばした。誰かに背中を押されるのはこれまで、これからは自分に手を差し伸べてくれる友人と手を取り強くなる、そう決意した。フォニアは差し出された手を取った。


『よ、よろしくなの、』


『はい!私の名前はアデルフィー、よろしくお願いします、フォニアちゃん!』


ぐぅううーー


 二人の少女は顔を見合わせた。音の正体はアデルフィーのおなかの音のようだ。


『へへ、恥ずかしいです、』


『これ、一緒に食べるの!』


~~~~~~~~~~~


「フォニア、そろそろ帰るぞ、」

 

 日が傾き始めシバはフォニアにベルカの宿屋に戻ることを伝えた。だがフォニアはどこか不満そうだった。

 

「おい、フォニア帰るぞー、」


「、、、」


「おーい、フォニア、帰るぞー、」


「、、、」


「、、フォニアさんや、帰りますよ、」

 

 シバが呼び掛けてもプイっとそっぽを向いて頑なに帰ろうとしない。フォニアのしっぽがパタパタと小さく早く動いている。

 

(まったく、誰に似たんだか、)

 

 アイたち三人の影響を受けたのかどうか定かではないがシバの話を無視するという姿勢を貫き通している。


「黙ってたら何もわからないぞ、どうしたいんだ?」

 

 シバもフォニアの気持ちがわからないというわけではない。生まれて初めて同年代で友達ができたのだ、まだ遊びたいのだろうがあまり甘やかしすぎるのも良くないと思ったシバは敢えてフォニアに尋ねた。

 

「もっとアデちゃんと遊びたいの、」

 

「私もフォニアちゃんと遊びたいです、」


 アデルフィーもフォニアに同調するようにハキハキと言った。

 

「だがな、もうじき暗くなる、その子の家族が待ってるだろ?また今度遊べばいいだろ、」

 

「でも、、」

 

 しっぽをだらんと下げしょんぼりとした様子のフォニアを見てアデルフィーが言った。

 

「確かに私のお姉さまも心配してると思いますし、また明日遊びましょう、」

 

「アデちゃんがそう言うなら仕方ないの、」

 

 ようやくフォニアはあきらめたようだった。

 

(うーん、なんかすごく悪いことをしている感覚なんだが、親代わりっていうのも大変だな、)

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