第45話
シバの言う“お前”とはフォニアに続いてシバからパンを受け取り、今それを夢中に頬張っているきれいな銀髪が肩まで伸びた少女のことである。
その銀髪の少女は黒を基調とし白いレースやフリルで飾られたブラウスに黒いギャザーを数段重ねたティアードスカートに身を包んでいる。膝下丈の黒地のハイソックスにも白いレースがあしらわれていて編み上げのブーツ。どこかの貴族の雰囲気が醸し出されているが少女の洋服と美しい銀髪と相対して白のフリルの付いた黒いカチューシャが年相応の幼さを出している、いわゆるゴシックロリータファッションと呼ばれるものだ。
「おい、食うのをやめろ、」
シバはゴスロリ少女の首根っこをつまみ上げ自分の目線と合わさせた。彼女はモグモグと口いっぱいに入れたパンを咀嚼しゴクリと飲み込むと満面の笑みを浮かべた。
「はぁー、おいしかったですー、久しぶりにまともなものを食べられました。」
八重歯がチラリと光るゴスロリ少女はフォニアと同年代のように見えたが言葉遣いやその容姿から年齢よりも大人びている。食事に対する執着はとてつもないのだが。
「それより、離してくださいよー」
ゴスロリ少女はシバの手から降りようとジタバタと暴れた。
「おい、急に暴れるな、ったく、離すぞ、」
言われるままシバは少女を離したが当の本人は着地するわけでもなくそのまま地面に落下した。
「いきなり離すなんてひどいですよー、痛いじゃないですか、」
「いや、お前が離せって言ったんだろうが、」
ゴスロリ少女はお尻をさすりながら口をとがらせて言った。
「お兄ちゃんもっと優しくしてあげなきゃダメなの、」
そう言うとブツブツと何かを言いながらスカートをはたいて砂ぼこりを落としている少女にフォニアは駆け寄った。
「、、だ、大丈夫?でもお兄ちゃんは良い人なの、」
「そうですかー?今さっき私のこと乱暴に扱ったじゃないですか、」
「さっきはそうだったけど、ホントはすごく優しいの、」
「まあ、あなたがそう言うのであれば、、そ、れ、よ、り!」
シバに対して文句を言っていたゴスロリ少女は態度を一転させ何やら恥ずかしそうに言った。
「あなたと私同じくらいですよね、よ、よければお友達になりません?」
「お、お友達、、?」
(まったく、一体何なんだこいつ、ちょっと探ってみるか、)
シバはフォニアと話しているゴスロリ少女に注目した。体にぼんやりと薄黒い光が纏い右目に魔力を集中させた。
すると赤い魔法陣がシバの右目の瞳孔を囲む形で浮かび魔眼が発動された。魔眼で例の少女を見るとやはり隠蔽魔法とその奥に暗い靄がかかっていた。つまり鍵魔法がかけれているのだ。
鍵魔法キリドマを確認し解析魔法アナリスを使おうとしたその瞬間であった。
(なに!?)
解析魔法に取り掛かるのとほぼ同時に靄の奥から突然真一文字に大きく鋭利なものが振りかざされた。シバはとっさにそれに反応し魔眼を解いた。
「あ、危なかった、あのまま行ったら右目が死んでたな、マーニさんの言ってた通りだ、」
隠蔽魔法に鍵魔法をかけることができるのは限られたものだけだ。ましてやいくら大人びているとはいえあんなに幼い少女にそれほどの魔力があるとは到底思えない。シバは増々現在フォニアと仲良く話しながら買ってきた食べ物を食い漁っている少女に不信感を募らせるばかりだった。
「っておい!そんなに一人で食べるなよ、お前の金で買ったものじゃないだろうが!」
(ほんとはベルカさんのお金なんだけどな、マジで謝らないと、)
シバは今もなお手を止めずに食べ物に手を伸ばすゴスロリ少女を咎めようとしたがフォニアがシバの前にやってきてシバを遮った。
「勝手に食べてるわけじゃないの、フォニアが食べてって言ったの、おなかすいてるみたいだったから、」
フォニアは申し訳なさそうに目を伏せた。
「フォニア、、」
その様子にシバも怒りを抑えた。
「そ、それに初めての、お、お友達だから、お兄ちゃんもフォニアと初めて会ったのにご飯たくさん食べさせてくれたの、皆に優しくしてもらってすごくうれしかったの、だから、」
今にも泣きそうな勢いのフォニアの頭にポンと手を置き優しくシバはフォニアの頭を撫でた。フォニアは自分が困ったときにシバたちに助けてもらったので自分も目の前の少女の力になりたかったのだ。
「フォニアは優しいな、友達ができて良かったな、大切にするんだぞ、」
「うん!」
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