第44話

「お兄ちゃんなんか元気ないの?」

 

 宿屋を出てからしばらくしてフォニアがシバを心配そうに見つめ言った。

「ん?あー、元気は元気だ、」

 

(金がないんだ、ごめんなフォニア、なるべくベルカさんのお金は使いたくないからな、)

 

「よ、よし!ここら辺にたくさん屋台あるからどれか食べたいもの選んでいいよ、」

 

「ほんと!?やったぁー!どれにしようかなぁ、」

 

 フォニアはしっぽを左右にゆっくり大きく振り辺りを見渡していた。目を爛々と輝かせている幼女は本来ほほえましい光景のはずだが現在シバにはそんな余裕はない。安いもの安いもの、とただただ念じるのみである。

 

(見渡した限り一番危険なのはあの肉屋だな、まず匂いにつられる、ふと目を向けるとそこにの油でカラッと揚げた大ぶりの肉を串に刺した串焼きは要注意だ、)

 

「お兄ちゃん、決まったの、」

 

(きたっ!頼む串焼きだけはやめてくれ、俺はフォニアを悲しませたくない、)

 

「お兄ちゃんが食べたいの選んでいいの、」

 

「ん?え、遠慮しなくていいんだぞ、あ、あの肉とか食べたいんじゃないのか?」

 

「ほんとはあのお肉食べたいけどフォニアにはまだもったいないの、でも昨日も今日の朝も豪華なご飯食べさせてもらったから欲張りはよくないの、」

 

 奴隷として粗末な食事、強制労働、さらには目の前で母親と弟が殺され一時感情を失った少女が自分にはもったいないと言う。こんなに幼い少女がまだ自分の生い立ちに引け目を感じているのだ。シバはフォニアをそっと抱きしめた。自分がこの子を守らなければと。

 

「お兄ちゃん?どうしたの?」

 

「いや、何でもない、」

 

「それとね、お兄ちゃんとお出かけできてるからそれだけで楽しいの!」


「、、て、天使だ、」


 この天使のようなかわいい猫耳の女の子の笑顔を絶対に守ると改めて心に誓ったのだった。



 一方その頃、、、

 

「ちょっと!二人とも休まないでよ!」

 

 壁に空いた大きな穴を木材で塞ぐ作業をしていたエイミーが言った。

 

「だってぇー、結果的に壊したの私じゃないもん、そりゃ、私が壊したって言うなら率先して働くよ?でもこれやったのエイミーちゃんとアイちゃんじゃない、」

 

 宿屋のテーブルに腰掛け額の汗をぬぐいながらマーニは答えた。

 

「、、、壁を壊した割合はエイミーがほとんど。」


「はいはい、三人で直してください。冒険者の方々が出かけているうちに何とか終わらせてくださいね。」

 

 ベルカが三人を労うように飲み物を運んできたがその口調は決して優しくはない。


「「「はーい、、、」」」


 

 結局シバはフォニアには悪いと思いながらも所持金の範囲内で買えるごく普通のパンを二つ買うことにしたようだ。

 

「パン、二つ下さい。」

 

「なんだい、あんちゃん、二つだけかい、ちゃんと”後ろの嬢ちゃん”にも腹いっぱい食わせてやれよ、半分ずつなんて大きくならないぞ、三つだ、」

 

 そう言って親父は指を三本突き立てた。シバはフォニアに目をやった。相変わらずフォニアの体は同年代の人間と比べるとやはり細くお世辞にも健康的とは言えなかった。

 

(まあ、確かにもっと大きくならないとな、ベルカさん少しだけ借ります、)

 

 結果としてシバはパンを三つ購入した。そのまま切り上げようとしたがパン屋の親父が目をシバに向けた。

 

「あんちゃん、パンだけだと栄養に偏りが出る、この都市の出店ならバランスよくできるからちゃんと嬢ちゃん“たち”に食べさせてやれ、」

 

 そう言うとパン屋の親父はシバにパンの入った紙袋と一緒にこの都市で使える割引券をくれた。その後は結局匂いに惹かれシバたちはいろいろ買った。


「さっきのおじさんいい人なの?」

 

「うーん、まあ今の俺たちにとってはいい人ではあったな、」

 

 パンを買い人混みではぐれないようにしっかりとフォニアの手を握り都市を進んでいくと小さな広場に出た。そこは冒険者をはじめ様々な人の憩いの場となっていた。シバたちはそこで一休みすることにした。紙袋からパンを一つずつ渡していく。

 

「ほい、どうだ?おいしいか?」

 

「んー!おいしーの!」

 

「ほんとですね、おいしいですー!」

 

「ああ、そうだな、、」

 

 シバは一呼吸おいた。


「あのさ、お前さっきからついて来てたけど何か用か?」


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