第43話
「さて、エイミーちゃん明日の話し合いのことだけど、、」
今朝シバとエイミーに大きなダメージを与えた張本人のマーニが朝食をとりながらおもむろに話を切り出した。
「私が知り合った人間がここにやって来るわけだけど一応会う前にどんな人間か紹介はしておこうかなと思ったけど、あれ?」
エイミーは食事の手を止めマーニの話に耳を傾けた。しかしその朝食の席にシバの姿はない。
「ところで、少年はまだ部屋なのかな?」
「はい、相当疲れてたみたいで部屋に戻るなりすぐ寝ちゃいました。」
「、、、それだけではない。エイミーが魔法でシバに攻撃したから。」
「なるほどねー、確かにあれはひどかったね、」
今朝のマーニの爆弾発言の後、恥ずかしさや憤りが溜まりに溜まってシバにぶつけてしまったのだ。わざわざ紫炎竜まで使って。シバはすでに精神的に動揺し防御に至らなかったため今度は物理的にダメージを受けたのだ。その衝撃で宿屋に泊まっていた冒険者たちも起きてきてしまいベルカからきついお叱りを受けたのは明々白々であった。
「いや!あれはマーニさんもマーニさんですよ!」
マーニが変にからかわなければあんなことにはならなかったとエイミーは抗議する。
「二人共です!ちゃんと壁の修理費として滞在費も払ってもらいますからね!」
ガチャンと運んできた食事を机に置きベルカが強い口調で言った。
「、、、話し合いまでに修理しないと。頑張って。」
「ちょっと、あんたも手伝いなさいよ!」
「、、、なぜ?」
アイはエイミーの言っていることがわからないと言わんばかりに首を傾けた。
「私の横から魔法放ってたの見えてたんだから!マーニさんと三人でやるに決まってんでしょ!」
「えー、私もー?」
「あたりまえですっ!」
そうこうしている内にようやくシバが部屋から降りてきた。その傍らにはフォニアもいる。シバの気怠そうな様子からフォニアに強引に起こされたのだろう。ふぁ~と大きく欠伸をしながらアイたちの席へと向かった。
「シバさん、フォニアちゃんおはようございます。今朝食をお持ちしますね。」
「おはようございます、ベルカさん、」
「おはようなの、」
ベルカが朝食を運びシバとフォニアが朝食を食べている間アイたち三人はずっと誰が一番悪かったのか言い争っていた。ほとんどエイミーがマーニに言い負かされ追い打ちをかけるようにアイの一言がエイミーに刺さる。
(まったく、仲が良いんだか、悪いんだか、)
「大体ね、マーニさんがからかわなきゃいいんですよ!」
「だって、エイミーちゃん面白いし、」
「、、、でも結局エイミーの自滅。」
「そうだよー、今朝だって魔法使ったのエイミーちゃんじゃない、」
「、、、使う必要なかった。」
「そうそう、そもそもなんで少年が私の胸触ってエイミーちゃんが怒るの?」
「、、、赤髪勘違い女。」
「だってホントのことでしょ?私と少年が“そういうこと”したって勘違いしてたみたいだし、」
「、、、赤髪変態。」
「ぐっ、そ、それは、、」
「それに少年はエイミーちゃんの恋人じゃないんでしょ?それなのに他の女性の胸を触って怒るのはなんか違うよね、あ、もしかして、」
「、、、私は認めない。こんな女、」
次から次へと言葉が飛び交いエイミーは押しつぶされていく。それが事実なのだから何も言い返せないということもあるのだろう。だがエイミーは何かを思い出したようだった。
「ちょっと待って、そうよ!魔法使ったの私だけじゃないわ!アイもよ!」
「えー、アイちゃんも?」
「、、、あれはシバの姉代わりとしての教育的指導。」
「はぁ!?何言ってんの?」
「さすがにそれは姉としてはひどくない?」
「、、、チッ、」
「ほら、なんか言い返してみなさいよぉ、」
エイミーは先ほどから一変して自信に満ちた表情である。
「、、、マーニもシバと一晩一緒にいて手を出されないなんて女として魅力が足りないんじゃないかしら。」
今度はマーニに矛先が向いた。
「、、その胸でよく言えるね~、」
「でも、確かにそうですよね、自分で押し付けておいてその後何もされなかったって女として、」
「、、、たまにはいいこと言うのね。」
「少年は疲れてただけだから、別に私に魅力がないこととは関係ないわよ、」
「どうですかねー、」
「「「ぐぬぬぬ、」」」
「三人ともなんのお話ししてるの?」
フォニアが三人の様子をシバに尋ねた。
「あれは、まだフォニアには早いな、もう少し大きくなったら教えるよ、見ちゃだめだ、」
「シバさん食後のコーヒ―です。」
ベルカはシバが朝食を食べたのを確認し食後の飲み物を運んできた。
「ありがとうございます、あの三人まだ言い合ってますよ、」
「日中は彼女たちに壁の修理をしてもらう予定なのでフォニアちゃんと都市をブラブラしてみてはどうですか?」
ベルカがシバに提案した。
「フォニアもお兄ちゃんとお出かけしたいの、」
しっぽをくねくねと動かしワクワクしているようだ。そんなフォニアの様子にシバは断れるはずもなくベルカの提案に応じた。
「よし、じゃあ、おいしいもの食べに行こうな、」
フォニアの頭を撫でながらシバは言ったが一つ問題があるのを思い出した。
「金がない、、」
シバたちがここに一泊できたのはマーニから受け取った金のみで残りはほんのわずかで都市の屋台出やすいものを買う程度しか残っていない。
(仕方ない、フォニアだけでもいいか、)
シバのお金事情を察したのかベルカが受付から硬貨の入った小さな袋を持ってきた。そしてその袋をシバに渡す際に耳打ちした。
「少しですが持って行ってください、でも全部使ってはダメですよ。」
ニコッと優しく微笑むベルカにシバはここまでしてもらうのは流石にまずいと思ったが今回はベルカに甘えることにした。
「すみません、なるべく使わないようにします、」
シバとベルカが話していると早く行こうと言わんばかりにフォニアがシバの手を引っ張る。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
シバとベルカの様子を見て何かを感じたのかフォニアがシバを見つめて言った。
「いや、何でもないよ、行こうか、」
「うん!」
フォニアはシバの手を取り宿屋を飛び出していった。
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