第42話

 ベルカの宿屋に到着しそーっと扉を開け中に入った二人は受付がまだ暗いのを確認した。

 

「まだ誰も起きてないようですね、これならさっと部屋に戻って夜遅くに帰ってきたことにできますね、」


「誰が起きてないですって?」


 シバが階段の方へ向かうと声が聞こえてきた。


「、、、げっ!」

 

「げっ!じゃないわよ!なんでこんな時間に帰って来たのか説明しなさいよ!」

 

 声の主はもちろんエイミーだった。明かりのついていない受付から腕を組みながらドスドスと近づいてきた。その後ろにはアイとベルカもいた。

 

「エイミーさんまだ朝早いですからあまり声を荒げないでくださいね。」

 

「、、善処します、」

 

「、、、シバだけではない、どうしてマーニも?」

 

「そうよ!それこそが本題よ!なんでシバとマーニさんがこんな遅くって言うか朝に帰ってくるのよ!」

 

 色々ややこしくなりそうな勢いだったのでシバが事の次第を伝えようと口を開こうとしたがそれよりも早くマーニが答えた。

 

「えーっと、デートかな、この都市を案内したかったし、」

 

(おい、、)

 

「な、なんでシバだけだったんですか、私たちだって、」

 

「だってエイミーちゃんとアイちゃんケンカしてたし、そんな二人がいても楽しくないでしょ?」

 

「う、、それはそうですが、こんなに遅くなったことと関係あるんですか?」

 

「大ありだよー、夜を共にしたって言うか、エイミーちゃんにはまだ早いかなー」


 マーニはエイミーを挑発するように不敵な笑みを浮かべながら言った。エイミーにはそう見えたがシバからしたらいつも自分をからかう時のマーニそのものだった。

 

「うーん、こんなに遅くに帰ってきてエイミーさんにはまだ早いことって何でしょうか?私にはさっぱりわかりません、」

 

 ベルカはお手上げのようだった。しかし、これもエイミーにだけはそう見えるのだろう。

 

「、、、ベルカ、何か楽しんでるような気がするのは気のせい?」

 

 アイがこそっとベルカに尋ねた。

 

「あれ、もしかして分かっちゃいましたか?でもマーニさんのあの顔見てたらまた始まったって思いましたし、見てて楽しいですから」

 

「、、、あなた、意外とそういうところマーニの影響」

 

「そうですかねー」

 

 二人がこんな会話をしているとは知らずエイミーは考えていた。


 シバとマーニは二人で出かける、そして朝帰り。あらゆる可能性を頭の中でシュミレーションした。ふとマーニの言葉がよぎる。


『エイミーちゃんにはまだ早いかなー』


『夜を共にした、』


 マーニのこの言葉、そしてあの表情。

 

「ま、まさかっ!」

 

 一気にエイミーの顔が真っ赤になった。

 

「な、な何やってんのよ!シバもマーニさんも!」

 

「あれ、分かっちゃった?昨日の夜のシバすごかったんだよ、激しすぎて私ビリビリきちゃった。」

 

「な、な、、」

 

「それにシバ眠って目が覚めたと思ったらまた激しかったんだよ~」

 

(おい、なんかこういう展開、前にもあったような、、)


 シバは頭を抱えた。このままいくと自分も恥ずかしい思いをしそうだった。

 

「あ、あのな、エイミーたぶんお前が思ってることとは違うと思うぞ、」

 

「へっ?」

 

「さっき奴隷商の男と戦ったんだよ、割と強くて俺も結構苦戦してさ、その戦いが激しかったってことだと思うぞ、たぶん、、」

 

「そうなんですか?」

 

「うん、実はそうなの。改めて少年はすごいってことを実感したよー、ん?あれ、それならエイミーちゃんは何と勘違いしてたの?」

 

 マーニがわざとらしくエイミーに尋ねた。見事な演技力だ。だが笑いをこらえるのに必死で体が小刻みに震えている。エイミー以外はそれに気が付いていたが当然エイミーは気づいていない。

 

「い、いやー、別に大したことじゃないですよー」

 

「えー、私気になるー、そういえばベルカも気になるって言ってたよね?」

 

 マーニはベルカに話を振った。エイミーはベルカを見ながら何かを訴えるような視線を送る。ベルカはニコッと微笑み言った。

 

「そうですねー、気になって夜も眠れなくなりそうです。」

 

「、、、フフッ」

 

「ベルカさん!?、アイあんたは何なのよ!」

 

 エイミーの期待は大きく裏切られてしまった。

 

「それでー?何と勘違いしてたのー?」

 

 エイミーの顔はどんどん真っ赤になっていく。耳まで赤くなっている。

 

「そ、その、夜を共にしたって言うのはシバと、そ、そういうことをしたってことなのかなって、、」


(無理に言わなくてもいいだろ)

 

 恥じらいながらエイミーは言った。その様子にエイミーは再びニヤッと笑みを浮かべた。

 

「ん?夜を共にしたってそのままだよ?眠っちゃった少年に膝枕してたら夜が明けたんだよ?」

 

「、、へっ?えぇぇぇ!?」

 

 マーニの言う“夜を共にした”というのは単純にシバの側で一晩過ごしたということだったのだがエイミーはもっと深い意味で捉えてしまっていたのだ。もちろんマーニがわざとそう言ったに過ぎないのだが。

 

(か、完全に嵌められてる、やはりマーニさんは侮れない、、)

 

「鳩が豆鉄砲を食ったような顔して、自分の思ってたのと違ったの?勘違いさせるようなこと言ったかな?夜を共にした、かな?ま、まさか、エイミーちゃん、もしかして“アレ”のことと勘違いしてたの?」


(、、、詰み)

 

(あらら~、詰んじゃいましたね)

 

(詰んだな)

 

「えっ、い、いや!え、Hなこととかじゃないですよ!、、あっ、」


 


「、、、赤髪変態」

 

「エイミーちゃん」

 

「エイミーさん」

 

「エイミー」


 それ以上4人は何も語らなかった。


「なんでいつもこうなるのよー!!」



 それから何か思い出したようにマーニはシバに言った。

 

「そういえば、少年、私のどうだった?」

 

「、、どうだったとは?」

 

 シバは片言で返答した。

 

「ちょっと、なによ、まだ何かあるの?」

 

「、、、私も気になる。」


 マーニは自身の胸元に手を当て何か照れたような、恥ずかしそうな態度をとった。もちろんこれはマーニの演技なのであるが。


「えっ、そっちのはホントなの!?」

 

「、、、シバ、不可抗力でもダメなものはダメ。」

 

 そしてとどめの一言。

 

「、、もうお嫁にいけない、」


 だらだらと冷や汗が止まらない。


「シバ、あんた、一回死ねぇー!」

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