第35話
「落ちろ」
マーニのその一言でそれまでは見えていなかったレオポルドの頭上に魔法陣が出現し竜をかたどった稲妻がその牙をむき出しレオポルドを飲み込んだ。まさにレオポルドに雷竜が落ちたのだ。レオポルドの攻撃よりも衝撃は大きかった。
黒煙が立ち上りよろよろよと立ち上がるレオポルド。吹き飛ばされたシバの側へ駆け寄るマーニ。三人の間に沈黙が続いた。
沈黙を破ったのは夜間見回りをしていた魔法兵たちだった。爆発音を聞き飛んできたのだ。
「いったい何があったんだ!」
黒煙の中で姿が見えないレオポルドはこの隙にその場を離れるために傷を抑えながらも跳躍し物凄いスピードで逃亡を図った。
「シバ、大丈夫?」
「、はい、油断しました、とっさに身体強化しましたがたぶん折れてます、自己再生と治癒魔法してる時に魔弾を食らったので完璧に防御できませんでした。」
「怪我の方はどうなの?」
「あとは自己再生ですぐ治ると思います。僕は奴を追うんで後のことは任せますね。」
そう言うと一瞬でシバは自身の目の前に黒いサークルを出現させそこを通ってマーニの前から姿を消した。ゲートで転移したのだ。
「ちょ、私にこれ全部説明させる気なの、、」
壁は崩れ瓦礫の山、地面は抉れて焦げてしまっている。辺りを見渡し魔法兵隊がやってくるの横目にレオポルドの飛んで行った方に目を向けた。
「しょうがないわね、お姉さんが後はやってあげるわよ、お礼はたっぷりしてもらうけどね~」
ニヤッと笑いマーニは魔法兵たちに事の次第を若干変えて説明した。もちろんシバのことは話さないし地下でのことも話せない。無難に通り魔にあったが返り討ちにしたと説明した。
(どうせ亜人たちのこと言ってもレオポルドとギルド支部局長とつながってるだろうからこの兵士たちに言っても意味ないからね、それよりシバ大丈夫かしら、)
「くそ!あの女!間一髪で避けたが、邪魔しやがって!魔族の分際で!」
あと少しでシバを殺せたところをマーニに邪魔されレオポルドは毒づいていた。亜人の子供をもっといたぶって殺したかったのにあっさりと殺してしまった後に残る満たされない感覚、自分を尾行している人間を返り討ちにして欲求を満たそうとしたのに魔族の女による邪魔。
“殺す”という行為によって満たされてきた彼の欲求は満たされずにいた。普段の落ち着いた様子とはかけ離れている。むしろ今の彼の様子が本来のレオポルド・スラベという男で、あの妙に落ち着いた態度は本来の自分を隠すために演じていたにすぎなかったのかもしれない。
月夜が照らす真夜中に突如レオポルドの前方に黒いサークルが出現しレオポルドの行く手を阻む。月夜に照らされそのサークルを周りの風景に同化することなくはっきりとレオポルドは視覚することができた。
あるいはそ突如自分の前に出現した異様な魔力を感じ嫌な記憶がよみがえるからか、自分に殺されるはずだった少年が頭をよぎる。
「おいおい、ずいぶんキャラ変わってないか?お前、」
そのサークル、つまり“ゲート”から発せられた声でレオポルドは確信した。レオポルドに向かい合う形で現れたゲートは地面と平行になるように倒れるとゆっくりと上昇していく。そのゲートの上昇に合わせ足先から腰、胸、と声の主の姿が露になる。
「、、貴様、ガキの分際で私の前に立つなど生きて帰れると思うなよ、丁度いい、今日は私の欲がうまく満たされていないんだ、貴様を殺す、」
「俺は最初からお前を殺すつもりだったけどな、」
ゲートから姿を現したシバとレオポルドの間には不穏な空気が張り詰めた。
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