第34話

 ひんやりとした金属質の針がレオポルドの陽気な声とは裏腹に冷酷さを感じさせる。シバはそのまま両手を上げ答えた。


「モノクルとシルクハットが珍しく少し気になってね、」


 当たり障りなくシバは答えた。

 

「、、真面目に答えないと殺しますよぉ、」

 

 シバはうなじに当てられた針にグッと力が入るのを感じた。ごまかす必要もないなと思い正直に話す。

 

「、、お前の後をつけて殺しに来たって言ったらお前はどうするんだ?」

 

「面白いことを言いますねぇ、私を殺すんですか、それは無理ですよぉ、私は殺される側ではなく殺す側ですからぁ!」

 

 そう言うとレオポルドはシバのうなじに当てていた針を突き刺そうとした。


 だがそう簡単にシバに針が刺さるはずもなくシバは後方に宙返りしかわした。


 レオポルドの頭を左手で押さえつけホールドし指先をピンと揃え鋭いナイフのような右手を首元に突きつける。バチッと電気を帯びている。

 

「形勢逆転、だな、」

 

 レオポルドの耳元でシバはつぶやく。

 

「そのようですねぇ、しかし私を殺してしまったらあの亜人たちも一緒に死んでしまいますよ?私が売りつけた商品ですからぁ、」

 

 自分は殺されないという自信か亜人を人質にすることを最初から考えていたのかもしくはその両方なのかずいぶんと余裕な様子でレオポルドは答えた。

 

「いや、それは考えにくいと思うよ、」

 

 遅れてやって来たマーニが言った。シバの後ろからやって来たマーニはレオポルドの正面まで行くと続けて言った。

 

「確かにあんたは奴隷商だけど顧客に売りつけたら奴隷の所有権はあんたじゃなくその顧客に移るからエルゴドーティスが首輪の魔法陣を起動させない限り死ぬことはないわ。」

 

 レオポルドの余裕だった表情は消え唇を噛んだ。その瞬間シバが動いた。


 押さえつけている左手でレオポルドの頭をやや左に倒し右手で首をかき切る。


 しかし、その右手がレオポルドに触れることはなく空を切った。


 一瞬の隙を突きレオポルドは自身の頭を押さえつけているシバの腕を逆手で握り地面を蹴り下肢を持ち上げ後方に回転したのだ。その勢いのまま身体強化で鋼のごとく硬質化された膝がシバの背中に炸裂した。


「ゴハッ!」


 シバはその衝撃で地面に膝をついた。


「形成逆転、ですねぇ、」


「、、チッ!」


 レオポルドは空間に展開した魔法陣から例の剣を取り出しその剣先を立ち上がれないでいるシバに向けた。


 剣身を先端に向かって魔法陣が通過する。すると剣身が赤い光を纏い徐々に先端に集中していく。凝縮された光点は剣先で大きくなり魔弾となる。


「だから言ったでしょう?私は殺す側の人間であるとぉ!」


 自身の攻撃に対して目の前の男が何も抵抗できないでいると感じたレオポルドはニヤリと笑い剣先に溜めた燃え盛る炎のごとき魔弾を放出した。


 燃え盛る魔弾はシバに直撃しシバは爆発音とともに後方に吹き飛ばされた。しかし、爆発音は一つだけではなかった。


「落ちろ、」


 マーニがレオポルドの攻撃と同時に言った。


ドゴーーン!!


 

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